第536話 楽器作成開始

翌日からようやくドワーフ達と合流。シルフィードとダンは暇だろうからイナミン達に同行してもらった。


ドワーフ達に待たせてしまったと詫びると、ゆっくり出来て良かったとのこと。馴れない長旅は結構辛かったらしい。あの馬車遅そうだしな。


早速どんなものを作りたいか説明していく。まずは打楽器系。特に太鼓、いわゆるドラム関係を作ってもらおう。


ペレンに様々な皮を取り寄せてもらってあるから試していく。


最終的には木と皮を組み合わせて作るようになるだろうけど、今はすぐに作り直せる土魔法で作っていく。


「こんなにたくさんの物を一人が叩くのか?」


「両手、両足を使っていくんだよ。リズム感と手足をバラバラに動かせる人じゃないと無理だよ。大勢いるなら別々に叩いてもいいんだけどね」


「足で叩くとはどうやるのじゃ?」


あ、ペダル作らないとな。


こうやって踏むとこれがこう動いてとか説明していく。


他のドワーフにはシンバルを作っていってもらう。


簡単な説明だけでなんとなくそれっぽい物が出来ていくから面白い。


問題は俺が詳しくないことだ。ドラム用の楽譜とかあったと思うんだけど、中身は1ミリも知らない。このマークはドンっ、これはカッとか書けばいいのだろうか?  0から作っていくことの難しさを改めて知る。うん、マンドリン達に任せよう。


で、演奏出来るかと言えばそれも無理だ。ツッタンツカタンの繰り返し程度なら出来る。あとは箸で茶碗をチャカポコ叩くくらいか。ネクタイを頭に巻いてやろうかな?


「なんでもいいから、一度やって見せてくれ。まったくどうなるのか想像が付かんことには正解がわからん」


そうだよね・・・


「俺は同時に叩けないから、あくまでも参考ね」


ということで覚えているリズムで一番簡単そうなのを叩いてみる。


足はドン ドン うん、いい感じだ。で、このドラムはパン パンって感じの音だな


「じゃやるよ」


ドン ドン パン パン ドン パン パン よしよし、これをもう少し速く・・・



ドンドパッパドンドパッパドンパンパン


「うーちの親父はぁふふふふん♪」


「なんじゃその歌は?」


「どちらもけががないんだよ」


「さっぱりわからんぞ」


ごめん・・・


次はこれか?


ドンドンパン ドンドンパン

ドンドンパン ドンドンパン


「うぃー いー うぃー いー ふんふんっ♪」


この後は歌えない。英語は苦手なのだ。


「うむ、何となく分かってきたぞ」


わかったんだ。すげぇな・・・


「この枠は本来、木で作ればいいのじゃな?」


「そうだよ」


「ディノスレイヤ領に行けばミゲルがおるじゃろ? あいつを連れて来てくれ」


そうしよう。


それまでは鉄琴とか様々な大きさのシンバルを作ってて貰うことにした。音階は吟遊詩人達に聞いて調整してもらおう。


俺はトランペットとかを吹く口、あれなんていうんだろ?


取りあえずそれを錬金魔法で作ってみる。口をぶるぶるさせて行くのを高速にすると吹けるんだったよな。中学生の時に吹奏楽部の奴に教えて貰ったことがあるのだ。ちゃんと音が出た時は嬉しかったな。


ぶひゅるる


あれ?


ぶひゅる・・


おかしい、唇をぶるぶるさせるのが出来ない。こんな事ってあるのか? 肉体が変わると出来なくなってしまうのだろうか?


自分でぶーと発声しながら指で唇をぶるぶるさせて感覚を取り戻していく。


ドワーフ達は俺が飽きて遊んでいるように思ってるのかも知れないが、必死なのだよ私は。


何十回と繰り返しているとやっと普通にぶるぶる出来るようになった。そこから更に高速ぶるぶるぶへーー


難しいなぁ・・・


俺は夕暮れまでずっとそれをやっていた。



屋敷に戻るとカンリムからドサッと招待状を渡される。


「何これ?」


「社交会の招待状でございます」


マジかよ・・・


「これ、どうやって断ったらいいの?」


「全てお断りになられるおつもりですか?」


「ダメかな?」


「お断りになられるなら、ある程度正当な理由がなければなりません」


忙しいってのは理由にならないかな?

社交界シーズンの貴族はそれがメインだから社交会が仕事をみたいなもんだろうけど、俺は違うからな。下手な言い訳で行かないより、キチッと理由を述べて行かないと宣言した方が今後の為になるのではなかろうか?


社交会に出ないアーノルドやイナミンに相談しても無駄だろうな。こういう時はエイブリックがいると便利なんだけどなぁ・・・



皆がどやどやと帰ってくる。イナミン夫妻もここが気に入ってしまったようで当然のように帰ってくる。この屋敷はだんだんとたまり場と化してきたな。



「ゲイル、あの温泉ってのはうちにも出るのか?」


「どうだろう? あれは掘ってみないとわからないんだよ。この辺はたまたま出たけどね。出るか出ないかわからない所に金貨200枚とか出せる?」


俺がやれば無料だけど、実際の工事ならそれくらい必要だ。この世界だとその金額払っても技術的に無理だけどね


「風呂に金貨200枚、しかも出ない可能性があるのか・・・ 無理だな。ゲイルはそれを街中に掘ったのか?」


「俺は魔法で掘れるからね。というか俺にしか出来ないと思う。物凄く深く掘ってるから」


「む、そうか魔法で掘ったのか? それならば・・・」


「お金は取るよ」


「どれくらいだ?」


んー、金より他の物が欲しいな。あっ!


「南の領地で養殖やって欲しいんだよね」


「養殖?」


「魚やエビを育てるんだよ」


「海で捕ればいいだろ?」


「今はね。まだ心配ないかもしれないけど、海の生態系に人間って含まれてないんだよね。だからいずれ海にいる魚とかエビとか少なくなっていく可能性があるんだよ」


「生態系とはなんだ?」


「そこにいる生き物同士で成り立ってる関係だよ。人間は陸地に住んでるだろ?陸地には人間が居て、魔獣やら野菜やらがそれぞれが食べて食べられてって関係じゃない? で、人が増えて自然にあるものだけじゃ食べるもの足りないから、野菜や小麦を育てて、牛や豚とか飼って増やしてるよね。海も同じなんだよ。魚も牛や豚とかと同じで育てて増やさないとダメになってくる可能性があるかなって」


「ダメになるのはどれくらい先だ?」


「100年とか200年先だと思うけどね」


「なら、今は捕るだけでいいのではないか?」


「少なくなった時は手遅れだよ。今からやっていけば豊かな海のまま、これから生まれてくる子供とか孫とかずっと先に生まれてくる人達にそのまま残しておける。どうやったら増やせるかもわからないから、今のうちに少しずつ試して行くのがいいんだよ」


「ふむ、これからの人達の為にか・・・」


「人はこれからも増えていくだろうからね。俺はまずエビが減るんじゃないかと思ってる。旨いし、冷凍してもほとんど品質が落ちないから人気が出て欲しがる人が必ず増えてくる。養殖に成功すれば安定して捕れるから領の安定収入にも繋がるよ」


「わかった。温泉を掘ってくれるならそれに投資しよう。何が必要だ?」


「土地と人、それとミンミンさんのところで網を作って欲しい。研究は俺も一緒にやるよ」


「わかった。それで手を打とう」


「掘ってみて温泉出なかったら、まぁ、網とかのお金は自分で出すよ」


「いや、出ても出なくてもうちが投資するぞ。領の未来に繋がる仕事なんだろ?」


「そうだよ」


「なら構わん。よろしく頼む」


次に南に行くときはこの仕事がらみだな。急ぐ仕事ではないので、じっくり取り組むか。


それからも続々と皆が帰って来たので社交会の相談してみることにしよう。マルグリッドは良い案を持ってるかもしれん。




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