第534話 またはめられる

「それとのちほど通達は出すが、今王都に来ているエルフとドワーフには手をだすな」


「ドワーフはわかりますがエルフも来ているのですか・・・?」


「交流の意味も含めて試験的に移住を許可しているからもう何人か来ている。そうだなゲイル」


「うん、ディノスレイヤ領と西の街に来てるよ」


「その者達はすべてゲイルとアーノルドに任せてある」


「なぜ、貴族街ではなくディノスレイヤ領と西の街に?」


「うちの者達は世間知らずだ。ゲイルとアーノルドが管理している所でないと安心出来ん」


グリムナが補足する。


「ディノスレイヤ領にはワシの息子達もおるでな。それにゲイルはエルフとドワーフの王族でもある。当然じゃ」


ざわざわする王族と貴族。今しゃべってた人も誰かすでにわからん。それに王族も全員いるわけでもなさそうだ。あのこめかみに青筋立てたお姉さんがいないしな。



メイドがデザートをお盆にのせて持ってくる。エイブリックの所にはフルーツチョコパフェが用意された。


「おぉ、去年初めて出されたチョコレートの菓子がこんなにたくさん」


疲れた俺はチョコの塊を一つの貰って口に入れる。結構ビターだな。酒に合わせる用かな? どちらかと言うと俺はミルクチョコ派だ。アイスに掛けるのはビターチョコの方が良いけど。


「このチョコレートはどこで作られているのか謎でございますな。いやはや、陛下の元には珍しい物が集まってくるようでさすがでございます」


「これはゲイル達が作っているものだ。俺達も薬の実がこんな菓子になるとは驚いたがな」


そう言ってイナミンはチョコを口に入れて蒸留酒を飲む。


ナッツをチョコ掛けにしてやったら好きそうだな。今度作らせて南に送っておこう。スルメのチョコ掛けとか土産で貰ったことあるけど、あれはやめておこう。


「なんと、これもそうなのですかっ」


「これも交渉しにきても無駄だぞ。原料はうちのだが製法までは知らんからな。俺達もゲイルが作って製品になった物を送って貰ってるくらいだ」


それを聞いて唖然とする人達。これ、西の街ではもう普通に食べられるんだけどね。貴族街から外に出なければ知らないだろうけど。


貴族達の唖然とした顔をクックックと笑うエイブリック。おい、口の周りがチョコだらけだぞ。何がクックックだ。お前がクックックだ。


王ともあろうものがみっともないので、ポケットチーフで拭ってやる。


それを見てどっと笑う貴族達。


「いやぁ、陛下もゲイル様にとっては赤子の様なものですな」


いらん事を言った貴族に威圧を放つエイブリック。やめろっ


和やかな雰囲気が一気に静まり返ってしまった。


「あー、エイブリックさ・・・陛下。落ち着かれたら西の街や南の領地に視察とか如何でしょう? 西の街ではエルフやドワーフ達の状況をご確認頂きたいですし、南の領地では新しい物の産地を間近で視察されるのも新王として必要かと存じます。そうですよねイナミン・リークウ様」


「あ、あぁそうですな、ゲイル様。陛下が我が領地に視察にお越し頂ければ私も至極恭悦にございます。ゲイル様にお任せする領もどのようなところかご確認頂ければと」


「うむ、良き提案である。ではそのように予定を組んでおこう。爺、予定を確認しておけ」


「畏まりました陛下」


執事さん改め宰相さんは俺があげた万年筆でさらさらと手帳のような物に書き込んでいった。


エイブリックは俺が遊びにいけるように提案したことで機嫌が直ったようだった。しかしあんなことで威圧を放つなよな、まさか「恐怖政治をするんじゃないだろうな? 誰か止め役必要なんじゃないか?」と思ってしまう。


「そう思うならお前がやれ」


は?


「ゲイル、エイブリックに恐怖政治するとか言うなよ。さすがに無礼だぞ」


アーノルドにそう注意をされる。もしかして声に出したのか俺?


「俺、なんか言った?」


「俺が恐怖政治をするとか言っただろがっ」


そう言ってギロリンと俺を睨むエイブリック。やべっ 声に出てたのか。


「ゲイル様、ご心配であれば是非陛下が公務をされておられる場にお越し下さいませ。いつでも王城にお越し頂けるように手配を致しておきますので」


執事さん改め、宰相さんからいらぬ提案。


「ということだゲイル。用があるならいつでも来い」


俺はなんて事を口走ってしまったのだ。政治に関わるような発言をしてしまうなんて・・・


威圧を放ったエイブリックの機嫌を俺がすぐに直した事、口が裂けても言えない心の中に思っていたであろう心配事を代弁した事で貴族達は俺の事をエイブリックからの盾にする事に決めたようだ。


「それは良き事でございますなぁ。同盟の要でもあられるゲイル様が公務に携われるとはいや、めでたい」


「そ、そうでございます。流石は陛下のお決めになることでございます。是非ゲイル様にはお国の為にお力を貸して頂かなければ。なぁ、皆様。そうでございますな」


「さよう、さよう、実にめでたい。アッハッハッハ」


おい、あんたら・・・


「いや、政治とか公務に携わるつもりは・・・」


ポンっ


「自分で蒔いた種だ。昔からやり過ぎるなと言ってあったのを守らんゲイルが悪い。諦めろ」


うそん・・・


皆から期待の目で見られる俺。国の運営とか発展を期待しているのではない。エイブリックから守って欲しいとの目だ。


「と、時々遊びに行かせて頂きます・・・」


こう答えるのが精一杯だった。


ニヤニヤと笑うエイブリック。あー、また嵌められたのか俺は・・・


エイブリックはきっとわざと口にチョコレートを付けたに違いない。今思うと、そんな事になったら使用人かメイドがそっとハンカチを渡したはずだ。俺が人の口を拭ったりするのを知っててやりやがったな・・・


なぜ俺はオッサンの口なんて拭ってしまったのだろう・・・


アーノルドの言ったやり過ぎるなよという言葉が今さらながらに身に染みていた。



デザートも出たということで、ここでの話は解散となった。


エイブリック派閥の貴族達からチヤホヤされる俺。エイブリックは今までも強引に色々と進めて来ただろうからな。ズケズケとエイブリックに物を言う俺は盾役にぴったりだと思ったのだろう。もし俺に陳情してきてもエイブリックが正しいと思ったら同じ事をするからね。



「ぼっちゃん、また一本取られたのか?」


「うるさいなっ!そうだよっ。嵌め技を食らったんだよ」


そうぶつぶつ言う俺。


「ゲイル、まぁ、そう言ってやるな。エイブリックが王になったからには今までみたいに話せる機会が無くなる」


「私邸に行けばいいじゃん」


「多分、あそこから引っ越すだろ」


「そうなの? なんで?」


「王邸は王邸で別にあるからだ。お前今まで王邸に行った事があるか?」


そういや、ドン爺と会う時もエイブリック邸だったな。


「王邸は私邸であって、私邸ではない。いかに可愛がられているお前でも入れんのじゃないか? だから、城に来れるように仕向けたんだと思うぞ」


「そうなの?」


「王の権限でお前を城に呼ぶ事も出来るだろうが、他の貴族達からの反発が予想されるからな。貴族達がお前を盾役にするように仕向けたんだろうよ。あいつなりの配慮だ」


そうだったのか。難しいな貴族社会って・・・



こうして社交会も終わり、グリムナとバンデス達はもう2日程王宮で接待されるみたいだ。発表が終わったことで正式な国賓としての接待だ。俺も巻き込まれそうだったがなんとか逃げ延びた。シルフィードも辞退が許可された。


実は貴族達にグリムナが皆に俺とシルフィードが婚約する予定と言ったのもシルフィードと俺を守る為だったらしい。エイブリックからの助言で二人に他の貴族から婚約の申し込みが殺到するだろうから、先に手を打っておけと言われたみたいだ。今回の正式な接待の辞退を許可されたのもそれが理由らしい。第二、第三夫人やめかけの申し込みもあるだろうと。


そういや、貴族にとって結婚は政治だからな。俺の立場なんて喉から手が出るほど欲しいだろう。成人する頃にはハニートラップに気を付けなければ。


イナミン夫妻は今夜は王都邸に泊まるが、翌日、屋敷に招待した。西の街も見てもらおう。イナミンは萌え萌えキュンをするだろうか?


リンダが歌えるならマンドリンパレスで歌って踊ってもらえないかな? 狙い撃ちを吟遊詩人達に教えておけばよかったと思うゲイルであった。


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