第532話 様々な貴族がやって来る

やっと社交会だ。何人かグリムナ達に挨拶に来たけどもう俺は覚えていない。名刺があってもパーティー会場で出会った人なんて覚えられる訳がないのだ。


せめて名札を付けておいてくれ。


エイブリックとドン爺が現れて挨拶を済ませると社交会が始まった。


ずらっとエイブリック達の前に並ぶ貴族達。そうやって挨拶をしに行くのが普通なんだろうな。


俺は挨拶をするの後でいいや。お腹空いたから食べに行こうとするとアーノルド達とイナミン達がやって来た。アーノルド達もエイブリックの所に挨拶をしにいく気はさらさら無いらしい。


イナミン夫妻にグリムナとバンデス夫妻を紹介する。


エイブリックと挨拶が終わった貴族達はこちらに話し掛ける隙を窺っているようだが無視だ。食べ物コーナーが空いてる間に飯を食うのだ。ヨルドが作った新作はどれだろうかと思いながら唐揚げをパクつく。お、ガーリック醤油味じゃん。ビュッフェ形式の飯は揚げ物から行くのが王道だ。冷めてしまう前に食うのだ。


アーノルド達はまだ歓談しているので、シルフィードとダンを連れて食べる物を取っていく。


飲み物を二つ持って、チラチラとこちらを見ている男連中。女性が食べ物を食べているときは声を掛けないのがマナーだっけ?


「ゲイル、ここの食事美味しいね」


「今はヨルドさんが指導してるからね、家で出てくる物とよく似ているだろ?」


「ぼっちゃん、肉の所に行こうぜ」


ダンは護衛だから普通は食べないはずなんだけど、俺達は気にしない。ダンもいい服を着ているから誰にも貴族じゃないことはわからんだろ。


ダンが希望した所は肉の塊を焼いては削ぎ落としてくれるシュラスコスタイルだ。これが新作かもしれん。俺を見たコックが微笑んで頭を下げる。俺の事を知ってる人だろう。俺は知らない。


「俺はそのチーズソース無しで」


削ぎ落とした肉にトロトロチーズを掛けてくれるみたいだ。旨そうだけど、これを食べたらもう終わりになってしまうから塩胡椒のみにする。ダンとシルフィードはガッツり掛けて貰っていた。


ウェイターにジュース2つとワインを貰って飲んで休憩。


「もうお腹いっぱいになっちゃった」


当たり前だシルフィード。


ダンはまだまだ。俺はまだって所だな。次は魚に行こう。ちょっとムニエル系を食べたいのだ。


シルフィードが食べ終わった肉の皿を置いた瞬間ワラワラと寄ってくる男ども。ビクッとして俺の後ろに隠れるシルフィード。


そんな事はお構い無しに自己紹介を次から次へと始める男連中。これはいかん・・・


「ダン、威圧放って。その隙に父さん達のところへ避難するから」


熊を生け贄にさっさとその場をトンズラする俺達。シルフィードにしがみつかれていると走りづらいので手を繋いでアーノルド達の元へ。


キャーとなんか若い女の子達の歓声が上がる。初めはダンの威圧に悲鳴を上げたのかと思ったけど、違うようだ。花嫁を連れて逃げるように妄想されたのかもしれん。


いや、俺の勝手な想像だけれども。


ダンも威圧を放ってからトコトコと俺達の後に付いてきた。


お待ちなさいお嬢さんとか言って欲しくなる。シルフィードは白色の貝殻の小さなイヤリングとか落としてないけど。


「人気者だな」


そう言って笑うアーノルド。


「貴族は遠慮って言葉を知らないよね」


まぁ、他国の美しい姫が目の前で飯を食ってんだから、チャンスというのもわからんでも無いが。


ちらほらとアーノルド達にも話し掛けてくる貴族もいるなか、ちょっと雰囲気の違う貴族がこちらに近付いて来た。後ろにもぞろぞろと他の貴族が付いてくる。


「アーノルド・ディノスレイヤ殿、その節はお気遣い頂き感謝を申し上げる」


誰だろう?


「いや、お礼には及びません。お気になさらずに」


アーノルドも知っているようだ。


「イナミン・リークウ殿もお久しぶりですな」


「そうですな、ジョルジオ・スカーレット殿」


あー、マルグリッドの父さんか。さすがに大貴族。品あるよな。


「ゲイル・ディノスレイヤ殿ですな? うちの娘が世話になり申し訳ない」


「いえ、いえ、マリ・・・、マルグリッドさんにはこちらこそお世話になっています。毎日、洋服のデザインとかお手伝いをしてもらってますので」


「マリが仕事を・・・?」


「新しい洋服のデザインとかですけどね。実際に作るのは職人達ですよ」


「そうでしたか。本当であればご挨拶に伺うべきなのですが、何故我が領地は王都からは距離があるので、このような場所での挨拶となったことをお詫び申し上げる」


物凄く丁寧だな、マルグリッドのお父さん・・・


「ところで、先日、我が領にお越し頂いたようですが、何用でございましたかな? まだ未成年とは言え、すでに領地をお持ちの当主であられる方が他領に出向かわれるのは理由があるはず・・・」


あぁ、本題はこっちか。後ろの貴族も少し敵意を持ってこちらを見ている気がする。あの男爵の事とか色々と伝わってるんだろうな。他にも一つの村全部がディノスレイヤ領に来たり、他の所も住民がこっちに流れて来てるからな。


「旅の途中の見学ですよ。うちの兄のベントが以前どんな所で勉強させてもらったのかなぁって。東の辺境伯領ってすごいですね。まるで王都みたいでしたよ」


「旅ですか。なかなか自由な生活をされているようで羨ましい限りですな。我が領地はこの国の発祥地でもありますから他の領地と比べて大きいのは事実ですが。ただそれだけです」


へー、東って国の発祥地なんだ。


「あ、グリムナ王とバンデス王を紹介しますね」


と、話を変える。普通は同盟国の王に挨拶を先にするんじゃないかなと思うんだけど、俺メインで来たような気がする。マルグリッドの事があったからかな?


グリムナとバンデスとの挨拶はそこそこに、今後はイナミンと流通の話を始めるマルグリッドの父。


「あぁ、うちで取れる物はゲイルに任せてある。必要ならそこから仕入れてくれ」


「それはどういう意味ですかな?」


「いや、こいつが全部やってくれた事だからな。うちの領地で消費する以外に外に出せるように増産してくれたのは全てゲイルの投資と力によるものだ。道の整備も含めてな。だから魚や果物とか外に出すものは全部ゲイルに任せてある。他のやつらが仕入れに来てもうちのやつらは売らんだろ。うちの領主達も同じ事を言うから交渉しても無駄だと思うぞ」


「なるほど。全て押さえられているということですな?」


「押さえているというか、ゲイルがうちの領地と住民を使って生産していると言った方が正しいな。同じ事が出来るならうちの領地でそれぞれの領主達と交渉してみてくれ。別に反対はせん」


「いやはや、驚きましたな。いつの間にそのような手腕を発揮されていたとは。エイブリック殿下、いや失礼。エイブリック陛下に可愛がられているのもよくわかります。アーノルド殿は良いご子息に恵まれ羨ましい限りですな。はっはっは」


それだけを言い残して去って行った。本心が全く見えん・・・ さすがマルグリッドの父親だ。


イヤミなのか普通の言葉かどうかすらの判断もつかんな。


「父さん、あの人どんな人?」


「プライドの高い人だ」


それは分かってるわっ。



次に来たのはなんかまた貴族ですって感じの人だ。今度は直接俺かよっ


「初めましてゲイル・ディノスレイヤ様。私はイバーク・ゴーリキーと申します」


あ、俺がぶっ潰してやるとか言ってしまった人だ。


「初めまして、イバーク・ゴーリキー様。以前、売り言葉に買い言葉とはいえ、無礼な言動をしてしまったことをお詫び申し上げます」


先に謝っておこう。


「いえいえ、タイカリン商会の娘が先に失礼な事を言ったみたいですのでお詫びしなければならないのはこちらのほうでございます。懇意にしている商会とはいえ、まさか私の名前を使ってゲイル様を脅すような事を言ったとは存じあげませんでした。こちらの責任として処分いたしましたのでお許しを」


えっ?


「処分? えっ? まさかデーレンを殺したとか・・・」


「さすがにそこまではしておりませんが、お望みならば・・・」


「いやいやいやいや、そんな事を望んでないし、処分すら望んでないよっ。たかが子供同士の口喧嘩だからね。それに学校での出来事だから身分とか関係ないしっ。どんな処分をしたかしらないけど解除してあげて。怒ってもいないし、デーレンの事を嫌いにもなってないから」


「いえ、私どもの調査によると、中央公園でも無礼な振る舞いをしていたと聞いております。その場にはスカーレット家のご令嬢もいらしたとか・・・」


それは事実だ。俺は自分が知らないだけで色々な奴に調べられてんだな。


「あれはマリ・・マルグリッドさんも楽しんで一緒にお茶しただけだから無礼とかじゃないよ。とにかく処分は撤回してあげてね。まだ子供なんだから。それに処分するなら親のほうでしょ? 監督不行き届きとかで」


「ゲイル様はお噂通りお優しいですね。では処分を解除するように致します。代わりにと言ってはなんですが・・・」


あっ、これもしかして嵌められたのか?


「ぜひ、西の街の発展について他の街にもご教授を頂ければと・・・ アルファランメル様も北の街にご尽力頂けるとの事で庶民街を管轄しているゴーリキー家に取って大変喜ばしいことでございます。ぜひ、力を合わせて良き街にして参りましょう。今後とも宜しくお願い申し上げますね。ゲイル・ディノスレイヤ様」



ゴーリキーは去っていった。


こういうやり方もあるのか・・・


エイブリックによると政治力もあるというのが頷ける。関わるんじゃなかったな。


「ぼっちゃん、一本負けだな」


うるさいなっ、わかってるよそんなことっ!



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