第531話 巻き込まれるゲイル
ザワザワが収まらない貴族達。
「エイブリック殿下・・・ 陛下っ、お気は確かですか?そのような亜人と同盟などと・・・」
軍人らしき人がグリムナ達を亜人呼ばわりしたことに激昂するエイブリック。
「貴様っ! 不敬罪で斬首にされたいのかっ! 他国の王にむかって何様のつもりだっ!」
バンデスはフンッと鼻息を鳴らしはしたが怒りはしない。こう言われたりすることを折り込み済みなのだろう。
「ま、誠に申し訳ございません・・・」
ギリっと唇を噛み締める軍人らしき人。王家と軍部はあまり関係が良くなかったんだっけ?
その後、改めてバンデス、タバサ、グリムナ、シルフィードを紹介していくエイブリック。
グリムナの時にはご婦人方が、シルフィードの紹介の時には若い男性から歓声が上がる。
バンデスの時にはアーノルドをキラキラした目で見ていたオッサンがキラキラと見ていた。見るからに強そうだからなバンデス。
どこからか、本当にドワーフの国とエルフの国と同盟が成り立つのか疑問の声が上がる。
「皆の心配はもっともだ。もう一人紹介しよう。ゲイル、こっちに来い」
なんで俺にだけいつものエイブリックなんだよ?
エイブリックに呼ばれて隣まで行く。
「知っている者もいるだろうが、改めて紹介する。ゲイル・ディノスレイヤだ。家名から分かる通り、西の辺境伯、アーノルド・ディノスレイヤの息子であり、西の庶民街の権限を持っている。身分は準王家、王位継承権はないが王家と身分は同じだ」
知らなかった貴族がザワザワする。それにエイブリック、素の口調に戻ってんぞ。
「今回の同盟はゲイルがいなければ成り立たなかった関係というか、ゲイルが架け橋となりドワーフ、エルフ、人族と人種を越えた同盟となった。この同盟が新たな世界を作り出す一歩となろう」
「まさか、そんな事が可能になるはずが・・・」
軍人が驚く。ドワーフの国は中立、エルフの国は存在すら曖昧だったからな。
「ゲイルは我が国の王族であると共に、バンデス王国、グローリア王国の王族でもある。ゲイル・ディノスレイヤが我が国にいる限り、この同盟が崩れる事はないだろう」
ちょっとちょっとあんた、なんちゅう紹介してくれてんだよっ!
(エイブリックさん、俺がいる限りってなんだよっ! 成人したら旅に出るって言っただろっ)
(知ってるぞ。好きにしろと言っただろ?)
嵌められた・・・ こいつ、同盟を楯にして俺を縛るつもりかよ。
「この同盟はどちらかが上に立つものではなく、3ヵ国が同位の同盟である。これを対外的にも発表し、セントラル王国からの脅威に備えるものとする。これは互いの国が攻撃を受けた時は3ヵ国が同時に相手になるということを意味する。発表は以上である」
最後は王らしい口調に戻り、戴冠式と同盟の発表が終わった。しばらくの休憩のあと、社交会が行われる予定だ。
グリムナ達と控え室に戻る。
「あー、エイブリックさん、なんちゅう発表の仕方をするんだよ」
「事実だからいいじゃろ。ここが嫌になったらうちに来るがいい。お前が来たら毎日が宴会で楽しいぞ。ガーハッハッハ」
「こっちでも構わんぞ。じっちゃん達もお前が来るのを楽しみにしているからな」
いや、そういうことではないのだよ。君達・・・
まぁ、実際は俺がいなくなってもエイブリックが王なら同盟が崩れる事は無いのだろうけど。
「立ってるだけだったけど疲れたよねゲイル」
うん、君は立ってるだけだったよね・・・でも俺は違うんだよ・・・
「もう、これでぼっちゃんの代わりはしてやれねぇなぁ。あー、残念だ」
こいつ・・・
はぁーっとため息を付いていると社交会の会場へと移動を促される。俺、厨房に行こうかな。絶対面倒臭いことになるのが決まってる。
それぞれの馬車に乗ろうとすると、グリムナがこっちに乗ってきた。シルフィードと一緒に居たいらしい。それならばとバンデス達も乗ってきた。6人乗りだけど狭いじゃんかよ。
空の馬車2台とぎゅうぎゅう詰めの馬車1台で移動。空の馬車の御者してる人虚しいだろうな・・・
会場に着くと主催者側の方へと促される。これ、他の王族からなんか言われそうで嫌だな。
会場へ入ると一人の女の人がツカツカと寄ってきた。案の定だ。
「始めまして。グリムナ陛下、並びにバンデス陛下。私はアランティーヌ・ブランクスと申します」
グリムナ達も挨拶を返す。誰だろうこの女の人。なんか見たことがあるような気がするけど初めて会うはずだよな?
「ゲイル・ディノスレイヤ様とお呼びした方が宜しいしら? 同じ王族らしいから、ゲイルと呼んでも宜しいのかしらね?」
「えっと、初めましてで良かったかな?アランティーヌさん」
「そうね、エイブリックの姉と言えばお分かり頂けるかしら?」
あー、見たことがあるような気がしたのはエイブリックと似ているからか。
「あ、そうだったんですね。エイブリックさんにはいつもお世話になっています。ゲイル・ディノスレイヤです」
「あら、エイブリックは王になったのよ、人前では呼び方に気を付けた方が宜しくなくて? 準王家のゲイル・ディノスレイヤ様」
それもそうか。しかし、貴族の物言いってイヤミだよな。普通に忠告してくれてるのかもしれないけどなんかイラっとする言い方だ。
「そうでしたね。次からはちゃんと陛下とお呼びします。しかし、姉弟でも人前では陛下とお呼びしないといけないのは寂しいですね。アランティーヌ様」
暗にそういうならお前も呼び捨てせずに陛下と呼べと言い返してやる。
「あら、そうですわね。ご忠告ありがとうございますわ」
ザマーみろ。こめかみピクピクしてんぞ。
そこへ、エイブリックに意見をしていた軍人が寄ってきた。ジョンぐらいの年齢の子供を連れている。一緒にいるということは成人しているのだな。
「アランティーヌ、勝手な行動を取るな・・・む、貴様、ゲイル・ディノスレイヤだな?」
そうだけど、いきなり貴様呼ばわりか。軍人とはこんなものなのだろうか?
「えー、俺の事より先に、グリムナさんとバンデスさんに挨拶をされた方が宜しいのではないでしょうか?」
「これは失礼した。初めまして。我輩はダッセル・ブランクス。この国の軍部を統括するものである。先程の失言、深くお詫び申し上げたい」
言葉使いはアレだけど、ちゃんと頭下げられるんだ。
「気にしとらんから頭を上げろ。人族からそう言われるのは慣れとるわい」
そういってフンッと鼻息を鳴らすバンデス。やっぱドワンとそっくりだな。
「こちらも気にしていない。人は人、エルフはエルフで間違いはないからな」
エルフは人族を下に見ていた文化があるから、なんの気にも止めていない。人間が猿から、お前らは猿じゃねぇと言われているような感覚なのだろうか?
グリムナ達と挨拶が済んだらどっか行ってくれないかな。こいつの息子のシルフィードを見る目がとても嫌なのだ。上から下まで値踏みするような嫌な目付き。
シルフィードもそんな見られ方をしているのに気付き、俺の後ろに隠れる。
「こいつはお前の息子か?」
グリムナもムッとしたのかこいつ呼ばわりだ。
「息子のドズル・ブランクスだ。いずれ軍部の中枢に入ることになる。その節はまた・・・」
バンデスとグリムナは知らん顔をして返事はしなかった。
結局俺は挨拶をしないままダッセル家はこの場を去った。
「あの人なんか嫌・・・」
うん、同感だね。俺もああいう男は嫌いだ。女性を品定めするような見方をするやつがね。
エイブリックの姉さん一家か。なんか癖あるよな。王族って血の繋がりがあっても腹の探り合いしてるようでしんどいんだろな。今回の王位継承の話もしてなかったみたいだし。ドン爺やエイブリックの奥さんも恋愛結婚じゃないだろうから家族愛とか薄いのかもしれん。
ドン爺やエイブリックが俺達に癒しを求めて来るのはこういう環境だからかもしれんな。
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