第527話 歌劇団到着

12月に入り、吟遊詩人達と音階の決まりを作っていた。今まではそれぞれにやっていたものを統一する重要性を話し、独奏から合奏へと進化していくために必要なのだ。


初めは渋っていた吟遊詩人達だが、合奏することで音の深みがでるのと、協奏するのが思いの外楽しかったらしく、乗り気でやってくれている。


俺には絶対音感が無いので、こんな感じだよとドレミの歌を歌って音階を説明。それを元に作っているところだ。ト音記号とかなんたら音符とか細かいのは知らないので、うろ覚えで短い音とか長い音とか説明して記号を作っていく。なので元の世界のとはまったく違うだろう。俺が楽譜を作るわけではないので問題はない。


こんな事をやっている間にグリムナがエルフ達を連れてやってきた。ロドリゲス商会の大型馬車に乗って来たらしい。


女性16人、男性6人か。以外と人数が来たな。5~6人くらいかと思ってたよ。宿舎を大きめで作っておいて良かった。


「ここでは何をやっているのだ?」


まだ開店していない歌劇レストラン、マンドリンパレスに居るとカンリムから聞いて直接ここに来たのようだ。


「ここは演奏を聞きながらご飯を食べるところなんだけど、その演奏をするための決まりを作ってたんだよ」


ほう、と返事をして楽譜をみるグリムナ。


「ちょうどいい、ここに連れてきたやつらは演奏をしたいやつらと飯を作りたいやつらだ。全員笛は吹けるぞ」


どうやら、まだ他にもエルフが来ていて、植物魔法を使った畑作りとかをするものはディノスレイヤ領にいるらしい。


「皆さん、俺はゲイル・ディノスレイヤ。宜しくね」


「はい、存じ上げておりますゲイル様。あなた様の劇を見て私どもは感激を致しました。是非その仲間に加えて下さいませ」


そうだった。エルフ達には俺が王族になったと紹介されてたんだっけ。あんな寸劇で感激とか申し訳ない。


取りあえず吟遊詩人達とエルフの紹介をする。


「グリムナさん、もうすぐ板芝居の今日の最終公演が始まるから見に行く? おなか空いてるならご飯食べに行ってもいいけど」


「なんだ板芝居というのは?」


ということでステージに移動する。見て貰う方が早いからな。相変わらず人がたくさんいるところに突如として現れた美男美女集団にみんな目が釘付けだ。


急遽、板芝居をやる吟遊詩人をマンドリンに変わって貰う。みんな上手いけどマンドリンは別格に上手いのだ。


板芝居に引き込まれていくエルフ達。ここの住民達よりもっと刺激の少ない生活をしていたので相当のめり込んでいく。


板芝居が終わった後にフンフンと鼻息を荒くし、興奮してみなと話している。


「あれはシルフィード達がモデルなのだな?」


「そうだよ。始めた時はシルフィード達が皆に囲まれて外に出ることが出来なくなったくらいだからね」


「なるほどな。それで皆がシルフィードを見ているのか」


「そうだよ。物語に出てくる人がここに実在するんだからね」


「お前はエルフやハーフエルフをこうやって根付かせるつもりだったのか?」


「それもあるよ。他のエルフ達も憧れの目で見られてるだろ?」


「うむ、さすがだな。本音を言うと本当に受け入れられるか心配していたのだ。ヨウナはどうしている?」


「マスの養殖を頑張ってくれているよ。ほかの住民達も一緒にやってるから、エルフがどうこうとかそんな感じじゃないね。まだ小さいけど、マスの出荷も始まったからこれからもっと忙しくなっていくと思うよ」



その後、皆の宿舎へと案内する。各部屋の設備は整っている。自炊も出来るし、どこにでも食べにいける。西の街は以前とは比較にならないぐらい様々な食べ物屋が出来ているのだ。


「こんなに設備が整っているのですね。てっきり集団で同じ部屋かと思ってました」


「個室の方がいいでしょ? 皆で集まれる部屋もあるからね」


風呂は温泉だけ。個室にはなくて大きいお風呂だ。掃除もクリーン魔法の使い手がいるだろうから自分達でしてくれ。


「みんなお金は持ってるのかな?」


「あぁ、エイブリックから支度金を貰ってあるからな。それぞれ金貨2枚相当の銀貨と銅貨で持たせてある。ただ金の使い方を知らんから、すぐに使ってしまうかもしれん」


「まぁ、この街で生活するにはそこまで高くないから。ちなみにリーダー的な人はいる?」


「女はファード、男はハツナだ」


なるほど、二人とも一番背が高いから覚えやすいな。もしかしてリーダーって背の順に決めるのだろうか?


着いたその日に自炊というのもなんなので、マンドリンパレスの叩き台になって貰おう。演奏付きの試作料理だ。試作といってももうオープンしても問題ないくらいになってるけどね。


吟遊詩人達がそれぞれの楽器で合奏を始めると料理が運ばれてくる。ここでは簡単なコース料理が提供される。元の世界のディナーショーってやつだ。


特等席以外は1人銀貨2枚。特等席は4人テーブルで4席。ここは1人銀貨5枚。客席の途中まで花道を作ってあるので、特等席は演者が目の前まで来てくれるのだ。飯はメインを肉か魚を選んでもらって、他は同じでみなフリードリンク。トータルで100席ほどある。


今日は全員魚で出してもらう。海の魚を食ってもらいたいのだ。メインはスズキのムニエルレモンソースだった。


旨いなこれ・・・  今回の演奏は歌は無しで合奏だけだ。金管楽器やドラムが出来てくればジャズとか演奏してほしい。


「うわぁぁぁ、料理も美味しいし、あの音色も素晴らしいですね。私達もここで笛を吹かせて頂けるのですか?」


リーダーのファードが話しかけてくる。キリッとした美人だな・・・。


「演奏も良いけど、役者もやってもらいたいなと思ってるんだよ。こんな感じの演奏に劇を合わせるんだ」


「役者ですか?」


「そう、今日見てもらった板芝居は本来子供向けなんだよ。劇は大人向けの物を考えてて、恋愛物とかね。こう、なんて言うのかな、愛し合ってるのに様々な障害があって結ばれない二人がそれを乗り越えていくとか」


ベタだけど、きっとこういうのが受けるのだ。


「結ばれない恋・・・」


「そう。見ている人が感情移入して泣いてしまったり一緒に喜んだりとかね。そんな内容の物をやってみて欲しいんだよね」


「誰がどの役をやるとか決まっているのですか?」


「それはこれからだよ。男役を女の人がやってもいいし」


「女が男役ですか?」


「女の人の方が理想の男性を演じられたりするからね。あぁ、こんな男の人がいれば良いのになぁという理想は女同士の方が共感出来るだろ?」


「確かにそれはあるかもしれません。こんな男の人がいれば結婚したいと思う理想がありますから」


どうやら皆独身のようだ。寿命が長いから焦りは無い。だからこそ理想を追い求め続けているのかもしれない。


俺とファードの話を聞いてキャッキャと話し出す女性陣。男性陣はそんな事より飯と酒に夢中になっている。


どうやら、女性陣は役者へ、男性陣は料理の方へと別れていくのかもしれない。職はなんでもあるから好きなものをやってくれればいいよ。



翌日、隣のメイド喫茶に連れて行くと、1人の女性エルフと男性エルフがドはまりしてしまった。魔女っ娘のコスプレをしたメイドがやりたいそうだ。男性の方はなんでもいいから働きたいと言うことで厨房に入ることに。


実はこのメイド喫茶。スタッフ募集中をかけたら魔女っ娘メイドになりたいものが殺到したのだ。なので容姿うんぬんより、サービス精神旺盛な娘を採用している。綺麗や可愛いけどツンな人は不要なのだ。どんなお客さんでも最初っからデレる人だけを厳選してある。


その翌日は他のお客さんには申し訳ないけど、ポットカフェを開店からエルフ達の席を予約してもらった。領主の視察ということで権限発動だ。通常は貴族から依頼があっても予約は受けていない。ここは庶民向けの店だからな。俺の視察という理由だったので、特に他の客からはクレームが来なかった。エルフ達をあちこち連れ回してたから、何かまた新しい事が始まるという期待の方が大きいみたいだ。


エルフ達が街を一通り見て、どこで働きたいか聞いてみると、メイド喫茶を希望したもの以外は女性は役者、男性はマンドリンパレスで働く事を希望した。


これからマンドリンを中心にして物語の作成と作曲が始まっていく。こんな感じがいいんじゃないかと設定だけを話したらどんどん肉付けされていくから後は任せよう。内容が決まり出したら、マルグリッドかショールに衣装担当として参加してもらえばいいな。


早ければ来年の夏には公演が始められるだろうか? 楽しみだな。


後はそろそろバンデス達も到着するかな。何人ドワーフを連れて来るんだろうか? 20人とか来ちゃったら宿舎足りなくなるけど大丈夫かな?


とか心配しつつ、後は任せてグリムナとこれまでの話とこれからの話をするのであった。



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