第526話 高いところからジャンプ
「うわっ」
はぁ、またか・・・
最近、高いところから飛び降りる夢をよく見る。
飛んではいけない、飛んではいけないと分かっているのに飛んでしまうのだ。うわっとなって目が覚める事が増えた。
これは自ら大きなうねりに飛び込んでしまうことを示唆しているのだろうか?
先日、エイブリックはジョンとアルに予定を伝えて、意思確認をされたらしい。
アルは北の街の立て直しを引き受け、ジョンもアル付きの護衛になることを承諾した。ミグルは研究所に行くかどうかを迷っているらしい。
「ゲイル、申し訳ないがここにこのまましばらく住んでても良いか?」
アルがまだ住んでいて良いか聞いてくる。
「私邸作るんじゃないの?」
「そうなんだが、まだしばらく必要ないかと思っている。北の街を立て直せてからそこに移るつもりだ」
「別にいいよ。好きなだけ居てくれて。そうするとジョンもこのままってことだね?」
「すまんが世話になる」
「今と変わらないから別に大丈夫だよ」
「なぬっ? お主らはこのままここに住むのじゃな?」
「今許可を貰ったからな」
「ふははははっ、それならば問題はない。ワシも研究所の話を受けるのだ」
「何を悩んでたんだ?」
「ワシはまた独りぼっちになるのかと思っておったのじゃ。研究所に行けば見知らぬやつらばかりじゃろ?」
しょーもな・・・
「で、お前もこのままここに住むんだな?」
「ゲイルは話が早いのう」
「で、お前の家はどうすんだ?」
「うむ、あれはアルにくれてやろう」
「そんなもんいらんだろ?」
「お前は北の街の建て直しをするのじゃろ? 孤児院にでも使えば良い」
なるほど。
「本当にいいのか?」
「魔物の研究は研究所でやるし、住むのはここがあるからの。構わんぞ」
ずっとここに住む気なのか・・・
「ぼっちゃん、次の社交会って本当に社交会だけか?」
アル達に今回の話をした時に3人には何があるか知らされている。もうダンとシルフィードには話してもいいか。
「今回のは社交会じゃなくて、戴冠式らしい。エイブリックさんが王になるんだって。だから俺も出ないといけないらしい」
「そういうことか。アルが成人するタイミングに合わせたってわけだな」
「そうらしいよ。実権はしばらくドン爺が持つみたいだけど。それを数年掛けてエイブリックさんに引き継いで、それからエイブリックさんがやってた事をアルに引き継ぐんじゃない? だからアルが北の街を立て直すのは結構急務になるだろうね」
「で、ぼっちゃんがそれに巻き込まれていくってこったな?」
「まぁ、アドバイス程度だよ。アルが実際にやらないと意味がないからね。西と連携してやっていけばそう難しくもないだろうし」
「そうなのか?」
「実際にアルがやりだしたら協力はするよ。初めから俺がこうしろとかああしろとか言うつもりはないからそのつもりでいてね」
「わかった」
「ジョンは騎士団に入りたかったのに護衛団で本当に良かったの?」
「あぁ。アルが国を守れる者になるのであれば、俺がアルを守る事によって国を守ることになるからな。それには異存はない。俺一人ではなく他にも護衛が付くようになるがな」
そりゃそうだろうね。そうなるとそいつらもここを詰所に使う事になるだろう。これは専用宿舎作った方がいいかもしれん。俺のお客さんや仲間と違って業務として来るのだから。費用はエイブリックに請求しよう。後、家賃も。ついでにこの屋敷の護衛みたいな感じで働いて貰えば一石二鳥だな。ただで護衛を雇ったと思っておこう。
「当日ダンは俺の護衛として付き添いだからな」
「マジかよ」
「当たり前だろ? 鎧とか作るか?」
「要らねぇ」
「なら、この前東で買った服を着ろよ。俺もちゃんとした服で来いと言われているから、宿でドン爺達を迎えた服か東で買った服を着るから」
「ぼっちゃん、あの服で参加するつもりか?」
「あれでいいだろ?」
「いや、もう一度着てみろよ」
と言われて着替えてみる。
うそん・・・
もう服のサイズが小さくなっている。
「な、ぼっちゃんデカくなってきたと思ったんだよ。それ作り直さねぇと当日もっとチンチクリンの服になっちまうぞ」
どうやら俺の身体は成長期に入ってるようですくすくと育っているみたいだ。
最近、膝とか痛いなと思ってたんだよね。これは成長痛ってやつだな。軟骨がすり減ってグルコサミンとか飲む年齢でもないからなこの身体は。
最近よく見るあの高いところから飛び降りる夢もこれのせいだったのかもしれない。前世でも成長期の頃に階段の上からジャンプする夢を見てたっけ。すっかり忘れてたよ。
しかし、銀貨80枚も出して買った服が一度着ただけでパァになるとはな・・・ 子供服に金をかけるもんじゃないな。
もったいないから取っておくけどさ。
そんな事を思っているとシルフィードがシュンとしていた。成長してないのはシルフィードだけだからな。高い服をずっと着られていいじゃないかと慰めたらもっと拗ねられた。
拗ねるシルフィードを連れてミサの所で服を作って貰いにいくことに。
「どうだ売れてるか?」
「魔女っ娘の衣装は一段落付いたよー。でも大人サイズの別注が入り出したんだけどねー。あとシルクのパジャマ? だっけ。あれを今作って貰ってるのー」
次々と仕事が入って順調だな。
「エイプのコートとロングブーツはまだ売れてないなー、アクセサリー類は売れてるんだけどねー」
「もうすぐしたら売れ出すよ。まだあれを着るには気温が高いからね。見てる人はいるだろ?」
「うーん、チラチラ見てるだけだねー」
なるほどな。これはマネキンを作ってやるか。服だけ飾ってあるよりイメージが沸きやすいだろ。
土魔法でトルソー、いわゆる顔無しの人形を作ってやる。
「ミサ、これにコートを着せてブーツも一緒に展示しておけ、首にもアクセサリー付けておけよ」
「わっ、いいねーこれ。スッゴク分かりやすいよー」
「だろ? 後で手だけとかのやつも作るから、フィギュアを作ってるやつらに色を塗らせるよ」
「ありがとー! で、今日はそれだけの為に来たのー?」
「いや、正装の服を作って貰いたいんだ」
「この前のはー?」
「着れなくなった」
「えっ? あ、本当だ。ゲイルくんおっきくなってるぅー!」
変な言い方やめてくれる?
「じゃあさ、どんなのにするー? 生地がたくさん出来てきてるんだよー、ほら」
おー、本当だ。
ミサとショール、マルグリッドが色々と提案してくれる。
「でね、こんな風に服にキラキラ付けたら目立ってカッコいいと思うのー」
ヒロミゴーみたいだから嫌だ・・・
「主賓じゃないから派手にする必要ないよ」
「じゃあさ、この赤色生地にこの金色の大きなボタンを付けたらカッコよくないー?」
闇を裂いてスーパーシティが舞い上がってしまいそうじゃないか・・・
「だから地味でいいんだって」
「この生地はどう? 違う色の糸を組み合わせて織ったんだって」
青とシルバーっぽい光沢を持たせた糸で柄が出るように織ったのか。この世界では斬新だな。でもこれで服を作るとサバみたいになるから却下だ。
「黒でいいよ黒で。で、ベストはグレーで付けて、上着はこんな感じで、シャツはこんなやつ。ネクタイはこれ。タイピンはこんな感じでね」
と服のデザインを指定していく。お任せにすると嫌な予感しかしないからな。上着はフロックコートを少し短めにした物だ。ネクタイも決まりはないとのことなのでアスコットタイプのグレーにしておく。
「色は地味なのになんかカッコいいね」
俺は結婚式ぐらいでしか見たことがないけど、これは正装なのだ。戴冠式は午前中だからタキシードよりこちらの方が良いだろうし、モーニングを着る年齢でもないような気がする。こっちの世界にはそんな決まりは無いけどね。
「ではゲイルさん、サイズを計りますね」
後はサスペンダーを作ってもらうことにした。あれがあればズボン丈が多少変わっても融通が聞く。金具類はミサが、バンド部分はペレンが革で作ってくれるらしい。
靴は前のがまだなんとか履けるからあれでいいか。
費用は銀貨10枚くらいで済むみたいだけど、販売価格にしたら金貨1枚くらいの値付けになるな。相変わらず、子供服に恐ろしい値段だ。
俺が親なら清水寺から飛び降りたつもりでも買ってやれん。いずれ庶民達にもこういう服を着る時代が来たら貸し衣装の店を作るといいかもな。
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