第525話 うねり
定置網設置から一週間経ったので一度網を上げてみる。
おー、大漁だ。色んな魚入ってんな。今回は鯛、ブリメインだ。これで効率よく魚を運んで貰えるな。
小さな魚は投網で捕ってもらうから定置網はこれでいい。
それから通年を通して鰯が捕れるらしいので何か売れる方法はないかと村長に相談される。
「オイルサーディン作って。瓶詰めにしたらいいし」
俺、好きなんだよねオイルサーディン。
作り方は簡単。オイルに塩入れてゆっくり煮るだけだ。ツナと共に名産になるだろう。
エイブリックがそろそろ帰らなければならないらしいので、イナミン屋敷経由で俺たちはミンミンの所に行くことに。
「ゲイル、王都に戻ったら顔を出してくれ。話がある」
と言い残してエイブリックは先に帰って行った。
ドワン達はジョージのラム酒の確認をしに、俺たちはシルクとコットンの染色の打ち合わせをしにいった。
「へぇ、こんなドレスを作ったの。素敵ね」
「この生地を使って寝巻き、パジャマって名付けたんだけどね、貴族向けに作ろうと思ってるんだ」
「なるほど。これは寝心地が良さそうね。あと下着とか作れないかしら?」
元の世界でもシルクの下着とかあったからいいかもしれない。洗うの大変だろうけど。それはミサ達と打ち合わせをしてもらうことにして俺はその場を離れた。ここにもミシンを売ればいいかもしれんな。
こうして、今回の仕事は終わり、王都に戻る事になった。峠の宿場町でうどんを食べるのは当然だ。持ち込んだエビでエビ天まで作ってもらった。
王都に到着して、雑務を数日掛けて処理してからエイブリック邸に向かう。
「さて、ゲイルよ。来年の社交会なのだが」
「手伝えばいいんでしょ。いつ頃するの?」
「来年は始まりの日の翌日に行う」
「ずいぶんと早いじゃん」
「アルの成人の祝いを兼ねるからな」
あー、なるほど。
「で、何か特別な料理が必要ってこと?」
「いや、お前は参加者になる。招待状を送るから準備をしておけ。まともな服を来てこいよ。そうでないと恥を掻くからな」
「俺は未成年だよ?」
「既に自分で貴族籍をもってるし、領地運営もしているから問題はない。成人と同様に扱う」
「なんで来年から出なくちゃならないの?面倒事が起こりそうで嫌なんだけど」
「グリムナとバンデスも招待してあるからだ。既に参加の返事も貰っている」
「エルフとドワーフの国のことを話すの?」
「そうだ」
「秘匿にしておくはずだったよね?」
「うむ、情勢が変わって来たのだ。セントラル王国の動きがきな臭くなってきてな。ドワーフ王国とうちが同盟を結んだ事を調べているらしい。バレるのは時間の問題だ」
「そうなの?」
「最悪、セントラル王国がドワーフ王国に攻め込む恐れが出てきたのでな、先に同盟を発表して、セントラル王国に対抗出来る力があるというところを見せねばならんのだ」
「これって、ウエストランド王国がドワーフ王国と同盟を結んだからこんな事態になってしまったの?」
「いや、以前からセントラル王国はドワーフ王国を取り込もうとしていたんだ。うちが同盟を結んだからではない。時間の問題だ。ドワーフ王国が強いと言っても数は圧倒的にセントラルのやつらの方が上だからな」
嫌な流れだ。戦争の前触れってこういうのだからな。
「で、正式に同盟を発表してドワーフ王国に手を出したらウエストランド王国が加勢すると牽制するわけだね」
「そうだ」
「わかった。グリムナさんとバンデスさんが出るなら仕方がないね」
「あと、リークウも参加する。アーノルド達にも参加させるからな」
「この状況なら父さん達も出ざるを得ないね。この話は父さん達やイナミンさんと既にしたってことだね?」
「そうだ。南の領地でするのがちょうど良かったからな」
抜け目ないよなこいつ。
「まだ他になんか隠してない?」
「お、そうだ。俺は王になるぞ」
は?
「いつ?」
「今度の社交会というか、戴冠式にだ」
あんた、それめっちゃ重要じゃないか。社交会じゃねーっ!
「ずいぶんと急だね」
「いや、もう結構前から決まってはいたんだがな。極秘事項だ。戴冠式を済ませてから3年ほど掛けて実権を父上から俺に移行させる。あと、お前に頼みがある」
「まだあるの?」
「北の庶民街のことなんだがな」
きたっ
「無理だよもう」
「いや、アルにやらせるからお前にはサポートを頼みたい」
「どういうこと?」
「本来ならば、学校卒業後に王家の実務見習いをさせるのだが、今回は冒険者生活をしただろ?」
「そうだね」
「まぁ、あれは国内各地の状況を自分の目で確認し、どういう手を打つべきか考えさせる期間でもあったのだ」
そんな事だとは思ってたけど。
「で、どうしてアルに北の庶民街を担当させるのさ?」
「内乱を扇動するにはあそこが一番利用されやすいからだ。先にその目を潰しておかねばならん。それには信頼出来る奴に任せるしかないだろ?」
「アルに出来るの? 実務経験ないでしょ?」
「だからサポートを頼むと言ったのだ。俺はそこまで手が回らんからな」
「優秀な文官とか、エイブリックさんの所の執事さんとか付ければいいんじゃないの?」
「あいつは宰相になる」
執事から宰相か・・・。まぁ、あの人切れ者だろうからな。最初からその予定でエイブリックの執事という立場で確保してあったのかもしれないな。
はっ!?
「もしかして、アルが王になるときに俺を宰相にしようとか考えてないよね?」
「ん? なんの事だ?」
怖ぇぇ、こいつ怖いぇぇ。絶対、アルのサポートとかいいながら何か企んでるだろ。
「エイブリックさん、俺の人生設計を話しておくけど、魔法学校に行って、その後は魔道具の開発、成人したら旅に出るからね」
「あぁ、好きにしろ」
なんか信用できないんだよね。エイブリックが言う、この好きにしろって言葉。
「アルが北の街の建て直しをするのはわかった。ジョンは騎士団見習いになって離れるってことだね?」
「いや、ジョンはこのままアル付きの護衛にするつもりだ。騎士団ではなく護衛団だな。本人が騎士団を望むならまた考えなおす」
なるほど。
「ミグルはどうすんの? あの3人はパーティー組んでたんだけど」
「ミグルには研究所に来いと言ってある。これも本人の意思を確認するがな」
魔物を研究してもらうには良いかもしれん。鑑定持ちだし、魔物にも詳しいからな。ひょっとしたらアーノルドが研究所に協力したらもっと捗るんじゃないかな? 実績経験で右に出るものいないだろうし。
「ちなみにこれは極秘事項だよね?」
「当たり前だ。戴冠式の後に発表するからな」
エルフとドワーフとの同盟発表。これはなんか大きなうねりの前触れみたいな気がする。
平和が一番なのになぜ人はなぜ争おうとするのだろうか?どこの世界でもこういうのは変わらんものだ。
今回の事はアルやジョン、ミグルには近々打診するみたいなので知らん顔していよう。
今日はお泊まりせずに戻った。
「ぼっちゃん、嫌な話だったのか?」
俺は応接室でエイブリックと二人で話をしていたのだ。
「社交会に出ろだって」
「嫌な話だな」
「まったくだよ」
ダンにもまだ話せないので濁しておいた。
翌日からはメイド喫茶と吟遊詩人達の歌うレストランの打ち合わせだ。コックはフンボルトが手配してくれているので問題は無さそう。あいつもここで飯食ってるから舌が肥えただろうから任せておいても安心だ。
次に新しい建物をフンボルトに依頼する。泣きそうな顔をしていたけど、お前には期待をしているのだ。頑張ってくれたまえ。師匠にあたるソドムには将来の構想を伝えてあるから、横で奴を支えて貰おう。
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