第524話 鯛Lover

しばらく仕事は関係ないので、朝から晩まで釣りを楽しむことにする。


今日は船釣りだ。大型船を出して深場を狙うのだ。狙いは鯛。


タゴサ達が鯛を釣る時には手釣りでやるらしい。活きエビを付けて沈ませて釣るというシンプルな釣りだ。


このエビはなんだろうか?車エビより小さいけど食べられそうだな?


俺は今回2種類用意した。鯛ラバと一つテンヤ。どちらにしようかと悩んだあげくにテンヤをチョイス。鯛ラバは当たりがあったら反射的に合わせてしまうためにちょっと苦手なのだ。ドワン達にも向いていない気がするけど、好きに選ばせる。


エビをこう付けてぽいっとな。


おっと、せっかく作った偏光サングラスを掛けてと。


おぉ、見やすい。これはラインの動きで当たりを取ったりもするから見やすい方がいいのだ。


皆もサングラスを掛けておおと驚く。


これ紫外線カットされてなかったら目に悪いよな・・・ 眩しさを軽減してくれるサングラス。しかし、裸眼で紫外線を目に浴びるより、サングラスを掛けて紫外線を浴びる方が目に悪いのだ。


ま、目にダメージ受けるようなら治癒魔法を掛ければいいかと思い直し、気にしないことにする。



ヒョイヒョイっとしゃくって落とす、ヒョイヒョイとしゃくって落と・・


ゴンゴンっキターーッ


でかいぞこれ。


うしゃしゃしゃ。こんな簡単に釣れるとは異世界さいこーっ


「これはなんていう魚ですの?」

 

マルグリットは鯛を見たことがないようだ。


「鯛だよ、鯛。魚の王様だよ。マリさんも仕掛けすぐにいれてやるからここで釣りな。もう一匹釣れる可能性が高いんだ」


いつも見ているだけのマルグリッドに竿を渡して釣らせてみる。


仕掛けを落とすとすぐに竿先がゴンゴンとしている。


「合わせて!」


「どうするんですのっ?」


「こうやって竿を大きくてあげて」


手解きしながら釣らせていく。キャーとかワーとか言いながら鯛に翻弄されるマルグリッド。


「ビトー助けてっ」


ビトーがマルグリッドの応援に入り、なんとか釣り上げた。俺がこっそりと竿と糸を強化したのは内緒だ。


「ゲイル、本当に釣れましてよ。なぜもう一匹釣れるとわかったのかしら?」


「鯛はね、つがいでいる事が多いんだよ」


「つがい?」


「夫婦ってことだよ。魚にしては珍しく、夫婦になると一緒にいるんだよこの魚」


「これは魚の王様でしたわよね」


「そうだよ」


「そう・・・ 王様であっても結婚相手は自分で選べるのですわね」


「まぁ、見合いとかないし、気に入った相手と一緒にいるんだろうね」


「羨ましいですわ・・・」


初めて鯛を釣ったマルグリッドはそう呟いた。


鯛ラバ組はチックショーとか叫んでいる。そいつの釣りかたは独特で合わせてはいけないのだよ君たち。歯軋りしたまへ。



タゴサも釣り、ドワンはタイラバでブリを釣っていた。


アイナとダン、エイブリックはエビで鯛を釣り、鯛ラバで押し通したシルフィード、ジョン、アルは坊主だった。ミグルとミサは船に酔ってダウン。



さて、帰って昼飯だな。


漁港に帰ってダンがサングラスを外すと大笑いが起きる。


「なんや、その顔っ。ギャッハハハハッ」


ダンは逆パンダになっていた。サングラスはちゃんと紫外線をカットしてくれていたみたいだ。


「ミケ、お前も面白ぇ顔してんぞ」


というか全員逆パンダだ。ここはハッケイパラダイスから南のアドベンチャーワールドになってしまったようだ。しかし、こんなに早くに猫熊パンダを見れるとは・・・ 逆パンダだけど。


色白のシルフィードとマリさんは真っ赤だな。後で大変な事になるから治癒魔法を掛けておく。


「ぎ、ぎもぢ悪いのじゃ~」


「私もだめ~」


ミグルとミサは船から降りても気持ち悪いらしい。仕方がない。


「二人とも俺に背中を向けて並べ」


「これに効く魔法があるのか・・・?」


「そうだ」


ビシャッ


「ふんぎゃぁぁぁぁっ! な、何をするのじゃ貴様はっ」


「ひどいよー! つめたーい」


「でも治ったろ?」


「え? あ、本当じゃ・・・」


「うん、なんかもう大丈夫になってる・・・」


二人を温風で乾かしていく。船酔いには背中や股間に氷水をぶっかけると治るのだ。女の子の股間をびしょ濡れにしたら何を言われるかわからんから背中だけにしておいたが効き目はあったようだな。



夕方からはキス釣りだ。タゴサがゴカイを捕ってきてくれた。こいつがいる砂泥地が有るらしい。ゴカイがデカいのが気になるが・・・


女性陣は触るのが嫌なようだが、餌を付けてやるつもりはない。釣りたければ自分で付ければいいのだ。


その中、シルフィードは思いきって挑戦する。鯛坊主だったからリベンジするらしい。いやーっ! 噛んだっ! とか言いながら頑張っている。


この時期なら差ほど遠投しなくても釣れるだろうと身体強化しないで投げる。


ブルルルっと特有の当たりだ!


やった大ギスだ。


海水氷にぽちゃっと入れては釣り、入れては釣りを繰り返す。全部尺サイズだから、ここでは小ギスなのだろう。小物でも喜んで釣る女性陣とは違って、大物を釣りたい男連中は早々にサイズが上がらないのに嫌気がさしてしまったようだ。


大物・小物の基準が違うんだよな、俺だけ・・・ 尺キスなんて本当に釣れないんだぞ、元の世界は。


でも絶対食ったら死ぬほど食うだろうからな。数は確保しておかねばならない。また全部食われてしまう。


もっと連針にしとけば良かったなとか思いつつ俺はシルフィードと釣り続けた。



釣りには来なかったブリックが待つ釣り公園に戻った。


「たくさん釣れたぞ」


そういうと苦笑いするブリック。ちょっと魚屋に嫌気がさしてるのかな? それに釣りに来なかったのも味付けにダメ出しされた影響があるかもしれない。こいつはちょいとメンタルが弱いところあるからな。


「ブリック、新しい料理を作るぞ」


これで復活するから面白いやつだ


鯛を処理してから海藻で包み、卵白と塩を混ぜて包んでいく。


「こんなに塩を使うんですかっ?」


「そうだよ。塩釜焼きっていうんだ。塩を全部食べるわけじゃないから安心しろ。これ、鶏や豚でも出来るから覚えておけよ」


次は鯛飯だ。シルフィードが用意してくれたご飯に焼いた鯛を乗せて、刺身にした鯛の中骨も軽く炙って出汁を取る。 こいつで炊き上げていくのだ。ちょいと醤油も入れておこう。


「ぼっちゃん、タコ飯も作ってくれ」


ダンはタコ好きだな・・・


キスは少しだけ刺身にして残りは天ぷらだ。揚げながら食べていこう。


残った鯛の頭はアラ炊きだね。ちょいとこってり気味に味付け。


ということで晩飯開始。今回の料理はほとんど俺の味付けだ。刺身は塩と柑橘の汁、それかポン酢で食べさせる。醤油より鯛の旨味がよくわかるだろう。


寝かせた刺身もいいけど、鮮度を感じる刺身の方が俺は好きなのだ。寿司にするなら熟成させた方がいいとは思うけどね。


「キスの天婦羅 うまっ!」


ミケが絶賛すると他の皆も我も我もと食べ出す。こうなると思ったよ。キスの天婦羅って他の物に代えられない旨さがあるんだよね。先に食べておいて良かったとつくづく思う。


「ぼっちゃん、この天婦羅めちゃくちゃ美味しいですね」


「こんなに身がふわっとする魚が他に思い付かないくらい旨いだろ」


魚屋ブリックも今日は食べる方に専念させてやる。後は作りながら食べるというものはないからな。


キスがなくなったので天婦羅は打ち止め。俺も食う方に専念しよう。


「おやっさん、キスの刺身と鯛の刺身はこうやって食べると風味が違うのわかるだろ?」


「本当じゃな・・・」


「醤油べったりで食ってたらどんどんこういうのが分からなくなっていくんだよ。そしたら何を食べても同じになるから楽しくないだろ?」


「坊主の言うことはわかった。気を付けるワイ」


次は鯛飯だ。炊き上がったご飯の上で鯛をほぐしながら骨を取って混ぜる。ほんのりオコゲも出来ててバッチリだ。


自分の分は先に確保したのであとは食べたい人が食べてくれ。


塩釜焼きもアラ炊きも出来たので、それをつまみながら鯛飯を頬張る。うまぁいっ!思わずパァンと柏手を打ってしまった。自画自賛にも程があるな。


「美味しいですけど、夫婦揃って食べられてしまうのかと思うと複雑ですわ」


そんな事言うなよマルグリッド。食べられなくなるじゃないか・・・


「うっへぇぇ、ミグルは目玉なんて食うのかよ。気持ち悪いから食うなよ」


「何を言っておるのじゃ、目玉回りのとろとろしたところと硬いコリコリとしたコンビネーションが旨いじゃろ。これを気持ち悪いと言うとはお子ちゃまじゃなアルは」


「旨いのか?」


「おー、このちゅるちゅるしたとこたまらんのぅ」


「よし、思いきって食って・・・。うげぇ、やっぱり気持ち悪いじゃないかっ」


「そう思うなら食うなっ! ちょっとしかないのじゃぞっ」


ミグルのスキルがあろうとなかろうとあの二人は変わらんな。俺も目玉食べない派だからアルの気持ちはよく分かるが。


「ゲイル、なぜ魚の頭を炊いたのだ?食うところないだろ?」


「目の下のとこに肉があるんだよ。そこ食ってみ」


「あっ、旨い・・・」


「だろ? 一匹の鯛からそれしか取れない希少部位なんだよ。捨てるのもったいないじゃん。それにこの煮汁を鯛飯にかけるとだな・・・」


味変させて食うのもたまらんのだ


「旨いっ」


うむ、宜しい。頭からも出汁がよく出るのだ。



今日もここはお魚天国だった。





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