第522話 ミグルの大切なものが奪われ、ドワンに殺害予告

お、ドワンがなんか釣った。デカそうだ。


「おやっさん、なに釣ったの?」


「なんか、知らんがデカいやつじゃ。水面をバシャッと飛んでいいファイトじゃった」


おー、スズキだ。しかも120cmくらいあるじゃん。


「おやっさん、これ旨いよ。洗いにして食べよう」


「洗いとはなんじゃ?」


「氷水とかでさっと締めてやるんだよ。夏の名残りとしてバッチリだね」


俺がそういうとめちゃくちゃ満足そうだ。


「こっちも来たぞっ!」


おー、アルの竿先ゴンゴンしてんじゃん。


上がってきたのは立派なマゴチだ。コイツも薄造りだな。ん? そういやいつからお造りって言わなくなったんだろ?あれ、関西弁だっけな?


スズキの洗いはブリックにやらせる。マゴチはさばくのが難しいから俺がやろう。魔剣があるから骨を切断するのも簡単だしな。で、コイツの中骨と頭から出汁取ってお吸い物だな。人数分を作るには出汁足りないからこっそりと作らんと。



「わっ、変なのが釣れたっ」


シルフィードが声をあげる。見に行くとハリセンボンだ。こいつ、サビキで釣れるの初めて見たぞ。


「ゲイル、なにこれ?」


「ハリセンボンだよ。ちょっとペシペシして怒らせてみ」


シルフィードがペシペシするとトゲを立てて膨らみ威嚇する


「わっ!膨らんだ。スッゴいトゲだね。これ食べられる?」


「毒はなかったはずだけど、身体の割りに身が少なかったはずだよ。逃がしてやりなよ。自分で空気を吸って膨らんだからしばらく潜れなくて面白いから」


そういうとぽちゃっと水面に投げた。


フヨフヨフヨッと必死に泳ごうとするが潜れないハリセンボン


「本当だ。おもしろーい」


うん、なんとも愛らしいな。



さて、スズキもマゴチも出来てるし、少し遅くなったが飯にしよう。


サバは小さかったので全部サビキの撒き餌になり、コアジはフライと唐揚げ、南蛮漬けにした。俺は南蛮漬けは好きではないが女性陣には好評だ。特にアイナが絶賛していた。そのお腹に弟か妹いないよね? そのちょっと腹が・・・イデデデデデっ


ダンはタコの唐揚げに夢中だ。


「アイナ、太ったのではないのか?」


こらミグルっ!いらんこと言うな。また喧嘩になるだろっ


「最近、ブリックがあれやこれや作るから食べ過ぎて困ってるのよ。ミグルも服がキツそうじゃない?」


あれ?


「ワシも少し太ったのかもしれん。服がきついのじゃ」


あれ?


おかしい。なぜ喧嘩にならない? 俺がアイナの腹が出て・・・・イデデデデデっ


「ミグルちょっと大きなったんちゃう?」


ミケまで普通にしゃべってる。あれ?


「真かっ! ワシが服をきついと感じるのは成長したからなのかっ? どう思うゲイルっ?」


「太ったんじゃね? お前グラタンとかこってりしてるもんばっか食ってるからだよ」


「ぐぬぬぬぬぬっ」


と言ったものの、本当に少し大きくなった気がする。


「シルフィード、ちょっとミグルと並んで立ってみ」


「あ・・・」


ちょっとシュンとするシルフィード。


二人の身長は少しシルフィードの方が高かったのだが、今は同じぐらいだ。


「ふっふっふ、シルフィードよ。これでワシをチビとは言えぬぞ」


「ズルした?」


「しとらんわっ」


ということはミグルの身長が伸びたことになるな。俺は普通に成長してるからよくわからんかったがシルフィードは変わってない。ミーシャと違って同じ服をずっと着れてるからな。


栄養不足だったミグルがうちの飯で十分に栄養が取れてまた成長しだしたのか?それならシルフィードも少しくらい成長しても良さそうなのだが。


「ミグル、なんか最近変わったことなかったか?」


「いや、何もないぞ」


「ちょっと自分を鑑定してみなよ。何か変化あるかもしれんぞ」


「ずっと同じじゃったのに、変わってる訳が・・・あーーーーーっ!」


「どうしたっ?」


「ま、魔力が伸びとる・・・ ゲイル、間違いがないかワシを鑑定してみよっ」


どれどれ?


「本当だ。魔力が6541になってんじゃん」


それに【スキル】いらつかせが無くなってる。どういうことだ?


「ダン、ミグル達に付いて冒険に行ってた時になんかなかったか?」


「いや、特に変わった・・・あ、一つだけあるな」


「何があったんだ?」


「いや、北の方に行ってたんだがな、冒険者殺しの洞窟ってのがあってよ。そこの調査に行ったんだが、アンデットらしき奴が出たんだよ」


「それで?」


「斬っても何も手応えがなくてよ。ミグルがそいつにふわっと撫でられたように触られて終わりだ。すぐに消えちまったんだ」


「なんだそれ?」


「そいつはファントムだな。そいつに襲われたら死にはしねぇが何かを奪われる。そいつらしさっていうのかな。ま、だいたい冒険者は強さが失われる。今まで出来てた事が出来なくなったりするんだ。だから冒険者殺しと呼ばれる。あいつは魔法でしか倒せんからダンは近付くな」


アーノルドは知っているのか。これ、もしかして強さを奪うっていうかその人らしさ、つまりアイデンティティーを食う魔物なんじゃないか? で、ミグルはいらつかせスキル・成長しない・魔力があとちょっとでハイエルフになれるのに残念なやつだというアイデンティティーを食われたのかもしれん。


「わ、ワシはなんともなかったぞ」


「ミグル、お前のスキルなくなってんぞ」


「なっ!・・・・・ 本当じゃ・・・」


「ゲイル、どういうこと? 母さんにも説明して」


「いや、今父さんが言った何かを奪うってやつだけど、ミグルのスキルを奪ったみたいなんだ。ミグルと話をしててもイラっと来なかっただろ?」


「そう言えばそうね」


「ホンマや、腹立たへんな」


「ということは・・・。ゲイル、ワシは普通に生きられるのじゃな・・・?」


「そうなるだろうな。成長しだしたのも魔力が伸び出したのもそのせいかもしれん」


「そうなのか?」


「他にも原因あったかもしれないけど、俺にはそこまで鑑定できたわけじゃないからね。ファントムって奴が食ってくれたんじゃないの?」


「おおーっ!これでワシもハイエルフになれるのじゃなっっ!」


「だといいな」


なんか魔力6999とかで止まりそうな気がしないでもないが。というか止まって欲しい。一つくらいはミグルらしさを残しておいて欲しいものだ。


しかし、残念ながらミグルのアイデンティティーは失われてしまったのだ。これで普通のハーフエルフになってしまうのかもしれない。


面白くねぇ・・・



ミグルが成長した祝いということで一気に宴会モードになり、飲むスピードが加速していく。


あれ?エイブリックはどこ行った?と思ってると、まだエギングをやっていた。すっかりはまってしまったらしい。もうイケスからイカ溢れてんぞ。


ブリックがイカを取りにいったついでにエイブリックを呼んで来てもらう。


俺はこっそり、マゴチのお吸い物にマゴチの薄造りをしゃぶしゃぶして食べていた。めっちゃ旨い。


あ、あれ作っちゃお。大根に唐辛子をセットして一緒にすりおろすと紅葉おろしの完成だ。スズキの洗いにこれを乗せてポン酢をちょいとね。うっま。次はマゴチの薄造りに白髪ネギを巻いてと。うん、スズキとマゴチ、究極と至高の戦いというか思わずパァンと柏手を打ってしまいそうだ。ブリックが居てくれたらこんなにゆっくりと食えるんだな。やっぱり料理は人にやってもらうに限る。


「坊主はさっきから何をこっそり食っておるんじゃ?」


「え? 紅葉おろし。いる?」


「違う。お前が飲んでるスープのほうじゃ」


ちっ、バレたか。


仕方がないのでお碗に入れようとすると貸せっと鍋ごと奪われ、オタマから直でいかれた。全部飲むなよ。


「むっ・・・」


ドワンの方眉がピクッと動く。おぉ、識味あじしるの眉が上がるのか。


「薄味じゃの」


そう言ってジャバジャバと醤油を入れるドワン。


なんて事をしてくれるんだこのくそ親父。最後に雑炊で〆ようと思ってたのに。


「ほれ返すぞ」


「もういらない」


直オタマに醤油味しかしなくなった汁なんぞいらん。



〆の雑炊を諦めて、薄造りに大葉をくっつけてさっと天ぷらにしていく。これで天婦羅茶づけ食べよ。


せっせと天婦羅を揚げても揚げても誰かが取りにくる。あんたらブリックが作った飯があるだろうがっ!


もう刺身がなくなってしまいそうなので、最後の天婦羅を自分のご飯の上に乗せていく。


塩をぺっぺっと掛けてお茶掛けて完成だ。ワサビ乗せちゃお。紅葉おろしで食ってた俺の所にワサビがなかったので取りにいって席に戻るとお茶漬けがない。あれ? ここに置いたよね?


「薄味じゃの」


ジャバジャバっ


ドワン殺すっ。




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