第521話 峠の茶屋

なんやかんや忙しくて後回しになっていた事を確認する。


自分の魔力総量の事だ。


魔女っ娘になったリリカの為に魔法水を作る時に気付いた。正確に魔力を注ぐために自分を鑑定した時の事だ。


また魔力が伸びてたのだ。


以前、エルフの国の長老に見て貰った時に魔力が7000を越えていた。それからこの前に自分を見た時に魔力が7500を越えていたのだ。


【魔力】7503/7504


何が原因だろう?しかし、これで俺の魔力が8000まで伸びるのがほぼ確定した。


考えられるのは魔石確保の為にエイプを大量に狩った事だ。使える魔石が取れるくらいだからそこそこ強い魔獣なのかもしれない。


あの時、ダンとシルフィードは解体専門、討伐は俺だけでやっていた。だから集中的に俺に魔力アップの条件が集まったのかもしれない。


そうか、まだ伸びるか・・・


昔は毎晩やっていた魔石0→1をもう一度試してみる。魔力回復のタイミングにも慣れたので、昔みたいに0→1はスムーズに出来る。


しかし、何度やってもやっぱり増えないな。


ピコっ


ん?


今増えた?


さっきまでの数値なんだっけ?


今は【魔力】3/7505


よし覚えた。


再び0→1を繰り返してみる。


ピコっ


【魔力】2/7506


あ、やっぱり増えた。


これ、7000までは0→1で魔力が1増えるけど、7000越えたら何十回もしないと増えない条件に変わるのかもしれない。ということは面倒だけどひたすら繰り返してたら自分でまだ増やせるって事だ。


よし、どこまで伸びるかまたやっていこう。もう魔力が少なくて不便を感じる事はないけど、なんか世界最高峰の9000を越えてみたい気もするしな。


それからまた毎晩魔力アップを繰り返していくゲイルであった。



「そうか、8月の最終週に南の領地に行くのだな?」


今、エイブリックと話をしている。


「まさか一緒に来るつもり?」


「後はどうやって父上に知られずにここを出るかだな」


やっぱり来るつもりか。


「ドン爺にバレたらものすごく拗ねられると思うんだけど」


「だから、何か策はないかと聞いてるんだ」


いや、策を考えろとか初耳ですけど・・・


「俺がエイブリックさんの悪巧みに加担する訳にはいかないよ。言っておくけど、公務ってことでぞろぞろ護衛を引き連れて付いてくるのは勘弁してね。ジョンとアルの最後の旅行になるかもしれないから、遊びメインで行くつもりなんだから」


「仕事はするんだろ?」


「そりゃ少しはね。でもやることは決まってるからそれが済んだら遊びオンリーだよ」


「そうか、遊びメインか」


ニヤニヤするエイブリック。


もう知らん。あとはそっちでなんとかしてくれ。



その後、西の街に次々と店を作っていく。あんこやみたらし餡を使った甘味所、クレープ屋、煎餅屋、石の玉を使ったボーリングもどき等の食べ物屋やとレジャー施設。


この秋の終わりから冬にかけて、ドワーフやエルフ達が来るとの知らせも入ったから尚更バタバタし始めた。最終的に何人来るかわからないので、従業員宿舎を増設していかねばならないのだ。


もう間に合わないかも知れないので基礎工事は俺がやる。ゲイルゼネコン出動だ。俺は後日、西の街の大工達から棟梁と呼ばれるようになってしまった。今いる親方と区別をしないといけないからだそうだ。


そしていよいよ南の領地に向けて出発する時が来た。イナミンには手紙を出してある。表敬訪問はするが泊まらないと。


「よしっ!出発だ!」


懸念していたエイブリックは来なかった。それとミーシャもロドリゲス商会が大変そうだからと来なかったのだ。なんか寂しい。まるで子供が育って家族旅行に行かないと言われたような気分だ。

ベントも立ち上げた商会が忙しくて無理だって。ちゃんと前から予定を伝えてたのにスケジューリングの下手なやつだ。そんなことで来年ディノスレイヤ領に戻れんのか? 人に仕事を任せられるようになる事も必要だぞ。


ぶちょー商会と俺の馬車で出発した。


今回は山の宿場町にも泊まる。山菜を食べないとダメなのだ。おそらくディノスレイヤ領の近くでも山菜は採れるのだろうが、旅のお楽しみということで採取はしていない。何でもかんでもすぐに手に入るようにしてしまっては旅の楽しみが無くなってしまうからな。


「おっちゃん。ちょっと食べたい物があるんだけど、持ち込みしてもいいかな?」


「どんなものですかい?」


「うどん」


ということで、うどんをここで作る。麺の生地は作って来たのだ。快く持ち込みを受けてくれたお礼にうどんのレシピとキツネうどん用のアゲ、天ぷらのレシピをあげることに。これでここに来たら様々なうどんを食べる事が出来るのだ。峠のうどん屋として繁盛するだろう。ここなら南の領地からも王都からも食材を手に入れる事が出来るだろうからな。


旨っ、山菜うどん旨っ。ササミの大葉包みの天ぷらも旨い。


それと峠の茶屋と言えばだんごだ。ついでにみたらし団子も教えておく。


「ミーシャ、みたらし団子食べ・・・」


って、今回一緒じゃなかったな。やっぱり寂しい。一緒に来てればおいひいでふが聞けたのに。


口いっぱいほうばるミーシャを思い浮かべながらみたらし団子をデザートに食べた。


山の頂上ではオオキクイ虫を狩っていく。竿の素材はたくさん持っていた方がいいし、ミサ達の店の素材にも必要だ。


アーノルドのやり方は豪快だ。ものすごくわかりにくい虫の気配を探り木を蹴り飛ばしてどんどん虫を落としていきやがる。魔法を使わなくてもなんの問題もない。凄いな。


アイナも木を殴ろうとしたのは止めておいた。木が可哀想だ。


虫の素材をたくさん仕入れて南の領地に到着。


何も言わずとも迎えが登場し、イナミン・リークウの屋敷に連れて行かれる。


「やっと来たか」


は?


「何でここにいるの?」


「来たからに決まってるだろうが」


イナミンの屋敷にはすでにエイブリックが居た。なにやってんだあんたは?


「ドン爺は?」


「まいた」


なんて事をしやがる・・・

山の中に捨てて来たんじゃないだろうな?


「どこでまいたの?」


「東に宰相と行ってもらった」


ほっ、山の中に捨てて来たじゃなくて良かった。


「なんで東の領地に?」


「まぁ、ちょっとな。公務って奴だ。気にするな」


まぁ山に捨てられたんじゃなかったら気にはしないけど。


「こっちの用は済んだからさっさと移動するぞ。リークウ、俺の馬を預かっておいてくれ」


エイブリックは馬で一人で来たらしい。あんた第一王子だよね?


イナミンは両手を上げてやれやれといった顔で俺を見ていた。俺のせいじゃないからね。



泳ぐにはちょっと遅い季節かも知れんけど、まだ十分日差しが強い。泳げなくはないけど、まぁ海水浴はやめておこう。釣り公園に到着し、食材と酒、釣り道具を出していく。定置網はイナミンの所で貰ってきたので後は船だ。馬で行けばギリギリ夜になるまでに船大工の所に到着するだろう。船の進捗具合によって、ここのスケジュールが大きく変わってしまうのだ。


「俺は船が出来ているかどうか確認してくるから、勝手に食べてて」


ダンから明日の午前中でいいじゃねーかと言われたけど気になる事はさっさと片付けてしまおう。


「ゲイル、どこにいくのだ?」


「船作ってもらってるんだけど、それの確認をしに行くんだ。仕事は先に終わらせておきたいからね」


「そうか、なら俺が付いていってやろう」


ダンが早く釣りをしたそうにしていたのに気付いたのかエイブリックが同行すると言い出した。俺が何をやってるのかの確認もあるのだろう。


「ダン、エイブリックさんが来てくれるみたいだからタコ釣ってて。唐揚げ食いたいだろ?」


こういうと、じゃ頼みますとエイブリックに俺の護衛を託した。なんか意味不明だ。王子が護衛って・・・



アーノルドもアイナもまったくそんな事には気兼ねすることなく、釣りの用意を始めやがった。



「ゲイル、お前に聞いてた以上にリークウ達に信用されてるな。あいつがあんなに楽しそうにお前がここでやってることを話すとは思わなかったぞ」


「なんの話をしていたの?」


「砂糖だ。あれはここがウエストランドになるときの契約だからな、本当に大丈夫か筋を通さねばならんかったのだ」


やっぱり大事だったのか。


元々俺に砂糖の生産販売をくれた時はディノスレイヤ領だけのつもりだったけど、王都にまで広がってしまうことになったからな。当初の予定とは大幅に変わってしまった状況に筋を通すためにわざわざ自ら出向いたってことか。


遊びに来たかったのもあるだろうけど。



「ここだよ。おーい親方!船出来てる?」


「おぅ、ほとんど出来てるぞ。あとはコイツを仕上げたら完成だ。2船は出来てる。お前が言ってた装置はそっちで付けるってことで良かったな?」


「持ってきてあるからこっちでやるよ」


「ん、いつもの熊みてぇなやつと違うやつ連れて来たのか?」


「俺はエイブリック・ウエストランド。ゲイルとお前達の仕事を見に来た。迅速な作業は見事だな」


「は?」


「この人は第一王子のエイブリックさんだよ。ほとんど遊びに来ただけだから」


「王子?」


「そう」


「なんでそんな人がここにいるんだ?」


状況を飲み込めない親方。


「仕事って嘘ついて遊びに来たんだよ」


「お前、人聞きの悪いことを言うなっ」


「本当じゃん。仕事だけなら、明日イナミンさんの所に送るけど?」


「いや、たまには息抜きというものがだな・・・」


ほら嘘じゃん。


「残りの船ももうすぐなんだよね? 先に出来てる船を漁港に運んでくれる?」


「わ、わかった・・・。明日運んでおく」


親方が状況を飲み込めないまま釣り公園に戻った。


釣れてはいるが小さいみたいだな。まぁ、この時期はこんなもんだ。大型は夜にでる。


日が暮れて魔道ライトを点けてエギング開始。


うひゃひゃひゃ 大きさは500gあるかないかだが、入れ食いだ。ワラワラとイカがライトの下に寄って来る。


ちゃんとブリックも連れて来てるので気がねなく釣ろう。あ、イカ飯作っちゃおかな。このサイズは食べ頃だから何にでも出来る。食べきれなくても全部スルメにすればいい。


エイブリックもやりたいみたいなので、エギを結んでやる。


何にもしなくてもエギを落とすだけで釣れるし、見える所でエギを抱くから素人でも簡単だ。



しかし、こう簡単にパカスカ釣れると飽きてくるな。人間とは複雑なものだ。釣れないと文句をいい、釣れ過ぎても不満を感じる。


ダンはカニを捕まえて来てタコを順調に釣っているみたいだ。


サビキ組は鰯が連発しだした。


まだ不調のドワンに鰯を付けて投げておけとアドバイス。フィッシュイーター達は鰯が大好物なのだ。



「マリさんは釣りやらないの?」


「見てるだけで十分よ。ゲイルはもういいの?」


「そうだね。皆が釣り飽きた頃に大物を狙うよ」


沖向きの大物を狙えるポイントはドワンが占領しているのだ。そこにジョンとアルが並んでやってるしな。


「ねぇ、ゲイル。あなたはこれからどうしていくのかしら?」


「そうだね。取りあえず義務教育中に西の街と新領を豊かにして、それからは自分のやりたい事をやるかな」


「やりたいこと ?今はそうじゃなくって?」


「今は半分義理みたいなところがあるからね。まさか西の街と新領を任されるとは思ってなかったから」


「何をやるのかしら?」


「魔法学校に行って魔法陣の勉強をしたいんだよね。魔法陣の事はまったく知らないし、あれを扱うにはライセンスが必要なんだよ」


「魔法陣を何に使うのかしら?魔法で何でも出来るでしょ?」


「自分で魔道具を作りたいんだよ。もっと冷える冷凍庫とか、自動で洗濯するやつとかね」


「全部魔法で出来るでしょ?」


「それがあればみんな便利になるじゃん」


「なら、今やってることと変わらないんじゃないかしら?」


「それも出来るようになったら遺跡探検するよ。やりたいことはやらないといけないことをやってから。だから成人してしばらくしたら自由の身を勝ち取るつもり」


「自由を勝ち取るか。羨ましいですわね」


マルグリッドはそう言ってクスクスと笑ったのだった。


















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