第519話 やっぱりダン次第

「王都に寄らねぇのか?」


「まずディノスレイヤ領に戻るよ。おやっさんの所に行かないと」


「どういうこった?」


「おやっさんも気になってたんだと思うよ、ダンの事。俺が詳しく話さなくてもすぐに理解してくれたから」


「おやっさんの所に寄ったのはそういう訳か」


「そういうこと。あと作って欲しいものがあるからね」



ということでディノスレイヤ領に到着し、ぶちょー商会へ。


「ダン、魔剣頂戴」


「ん、ほらよ。何に使うんだ?」


「おやっさんに返すんだよ」


は?


「ど、どういうこった・・・? これは俺にくれたんじゃないのか?」


「俺はおやっさんから預かって来たと言っただろ?」


は?


「どどどど、どういう意味だそりゃっ?」


「どうもこうもないよ。俺はおやっさんから預かって来ただけ。ダンにあげるかどうかを俺が決められる訳ないじゃん。それを決めるのはおやっさんなんだから」


は?


「俺に渡したじゃねーかっ!」


「だから今返してもらったんだよ。どゆあんだすたん?」


「何を言ってるのかさっぱりわからねーーーぞっ!!!」


「あっははははっ! ゲイルめっちゃイケズやなぁ」


イケズて・・・


「いや、俺が作った物ならあげるんだけどね、これはおやっさんが作ったやつだから。どうするかおやっさんが決めて」


「坊主、ダンはこいつを使えたんじゃな?」


「見事に炎を纏わせてたよ」


「炎の魔石は付けたのか?」


「付けてないよ。付けなくても使えると思ったから」


「ふむ、それが本当ならこのままくれてやるか。ダン、もう一度やってみろ」


「脅かすなよまったく・・・ おやっさん、よく見てやがれっ」


ぶおんっ


「どうだっ!」


「炎は出ておらんぞ」


「あれ? おかしいな。あんときゃ自然に出来たんだが・・・」


ぶおん


「とりゃっ」


ぶおん


「お預けじゃ」


「嘘だろっ! ちゃんと出来たってぼっちゃんも言ったじゃねーかっ!」


「なら、なぜワシの前ではできんのじゃ?」


「知るかよっ! そんなこと」


「なら、もう一度修行じゃな。坊主、小屋で話を聞くからなんか仕入れて来い。酒と炭はワシが持っていく。現地集合じゃ」


「お、おいっ、おやっさんっ!」


「父さんと母さん呼んでもいいかな?」


「おやっさんってばよっ!」


「勿論じゃ。あいつらもずっと気になってたろうじゃからな。結果を聞かせてやれ」


「ダン、屋敷に寄ってから肉仕入れに行くよ。鶏軟骨とかぼんじりとか買うからね」


「おい、おやっさんてば。いい加減魔剣くれてもいいじゃねーかっ!」


「お前しだいじゃ」


ドワンがそう言うとさっさと魔剣を持って中に入っていった。


ダン不憫・・・



ブツブツブツブツ・・・


小屋に集合してもダンはずっとブツブツ言っている。


「ダン、お前の生まれ故郷はどうなってたんじゃ?」


ダンはミケの事を伏せ、生まれ故郷がやはり滅んでいたこと、国民がアンデッドになってまで国を守る為にずっと戦っていたであろうこと。それが成仏したことを説明した。


「そうか、残念だったな」


「いや、自分の目で確認することが出来て良かったわ。フランの剣もあいつが好きだった場所に埋めてやれたしな・・・」


ダンが皆に話をしている間にぼんじり、心臓、セセリ、軟骨を焼いて先に食べていく。食い損なった恨みはここで晴らさねば。


「人がしんみり話してんのに、何一人で食ってるんだよ?」


「俺、内容知ってるし」


むぐむぐ。ぼんじりの脂っこさと炭で焦げた風味たまらんな。


「そーいう問題じゃねーだろ?」


「ダンにはミノタウロスの肉焼いてやったぞ」


「何で俺にはミノタウロスなんだよっ」


「お前ら、俺のお楽しみを全部食ったろ?だからだ。ミケ、バルからサバ貰ってきてやったぞ。シルフィ、今日はセセリたくさんあるからな」


やったと喜ぶ二人。


「ゲイル、ミノタウロスがあるのか?」


アーノルドがミノタウロスに反応する。


「いっぱいあるよ」


「じゃ、俺達にもミノタウロスを焼いてくれ。アイナもドワンも食うだろ?」


「あら、懐かしいわね」


「そうじゃな。ワシもそれじゃ。塩だけでいい」


ん?


「こいつはな、俺達のご馳走だったんだ。あちこち行ってると色んな魔物や魔獣を食うだろ? 昔はその中でこいつが一番旨かったんだ」


思い出の味ってやつか。


「じゃ、塊でおいておくから後は自分達の好きな焼き方で食べて。ダンはあっち組ね。俺達にはミノタウロスは硬いから」


「ぼっちゃん達は何を食うんだ?」


「俺達は普通の焼肉だよ」


「お、俺もそっちが・・・」


「ダン、お前にはまだ聞かんといかんことがあるからこっちへ来い」


ダンは元英雄パーティーに拐われていった。ミケとフランの事で濁した部分をしつこく追及されたまへ。


「なぁ、ダンは今から何されるん?」


「尋問かな?」


あー、夜は長そうだな。


俺達は先に寝るか。



翌朝、アーノルドに言っておく。

茶化してやるなよと。これからの事は二人が決めることで周りがどうこういうことではない。ただダンが腹を決めたら応援してやりたいと思う。


そう、俺はこの世界でも猫熊パンダを見たいのだ。


今度、笹を探しておこう。



翌日ぶちょー商会でドワンに偏向サングラスの事を相談する。仕組みは知っているのだが、この世界の技術でどうやって作るのかさっぱりわからないのだ。


「水の中が見えるじゃと?」


「正しくは水がキラキラしなくなるっていった方が正しいかな」


イメージ図を描いて説明していく。


「で、水の中が見えたら何の役に立つのじゃ?」


「魚がいるのが見えたら、そこに投げ込めばいいじゃないか。釣れる可能性が上がると思わない?」


「そういうことかっ!」


「そういうこと」


「このガラスとガラスの間にそういうのが入ればいいのじゃな?」


「心当たりあるの?」


「虫の目じゃ。魚を食う虫がおる。あいつらは水の中の魚が居るのが見えとるんじゃないかと思うがどうじゃ?」


魚を水の外から狙う虫なんて知らない。しかもそいつの目がどうなってるのかとかも。が、ドワンの物を見る目というか勘は優れている。可能性はあるかもしれないな。


「そんなのどこにいるの?」


「マスを釣りに行く湖じゃ。この時期ならおるじゃろ」


そんなのがあそこにいたのか・・・


「じゃ、捕まえに行こう。いつ行く?」


「今からじゃ」


は?


まぁ、今回は予定より大幅に早く帰って来たからまだ王都に戻らなくていいか。


「どうする? 今からおやっさんと湖に行くけど、目的は釣りじゃなくて虫の捕獲なんだけど」


勿論行くという事でぶちょー商会の馬車で向かった。



おぅ、この時期はこんなに人がいるのか。宿泊施設も開いてるし、貸しボートとかも出ている。


「自分らで舟動かせるん?」


「ミケ、乗ってみたいのか?」


「いや、べつにええけど。ウチ動かせへんし」


「ダンは舟漕げるか?」


「多分な。あんなの簡単だろ?」


やったことないやつには以外と難しいと思うけどね。


「おやっさん。虫はどこにいるの?」


「この時間帯は隠れておるから見つけるのが面倒じゃ。夕暮れ時に出てくるからそれまで好きにしとれ。ワシは寝る」


マットを出せとのことなので、木陰に土のベッドを作ってやるとさっさと寝るドワン。


「シルフィも舟乗ってみたい?」


「ゲイルは舟動かせるの?」


「あったりまえだろ」


という事で2つ借りていざ出航!


さて、ボートに乗るの久しぶりだな。嫁さんとデートした時に漕いだ以来かな? 子供が生まれた後に乗ったのはスワンボートだったし。まぁ、なんとかなるだろ。


さて、オールを持ってと・・・  持ってと・・・


と、届かん・・・ 誤算だ。この身体でオールを持っても水面まで届かない。軽く立ち上がる必要あんじゃねーかよ。


ボートの上で中腰をしながら目一杯手を伸ばす・・・ 嫌な予感しかしない。


「ゲイル、ダン達いっちゃったよ?」


仕方がないから風でボートを押していく。うむ、楽だけど何にも楽しくない。シルフィードも俺がボートを颯爽と漕ぐのを期待していたのだろう。魔法で淡々と進むボートに無反応だ。


俺は、わー、すごーいとか些細なことで褒められたかったのだ。魔法の方が凄いはずだけど・・・


ダン達に近付くとバッチャバッチャやってスピードを出そうとしている。


「わっ、ちょっとやめーな。水かかってるって」


「ミケがスピード出してあそこの舟を抜かせっていったんだろが。ちょっとくらい我慢しろよっ」


バチャバチャバチャ


「べっ べっ 口に水入ったやんかー!」


「口開けてっからだろっ」


「ダンがバチャバチャするからやんかっ」



あーあー、バカップル丸出しだ。

離れよ・・・・



音も無くスーっと動くボートに無言の俺達は倦怠期カップルのようだった。











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