第518話 あとはダンが決めること
「なぁ、ぼっちゃん。今回の事を教えてくんねぇか。何が起こったか良くわからねぇ。ぼっちゃんもここに来るまで変だったしよ」
「そうかもしんないね。俺も自分で何やってんだかよくわかんなかったんだよ。ダンとミケをここに連れて来なきゃいけないと思っただけで」
「ぼっちゃん・・・ ミケはフランなの・・・か?」
「ミケはミケだ。フランじゃない」
「ならあの状態はなんだったんだ? 今でも信じられん・・・」
「ダンはあのトカゲにやられた時の話を覚えてるか? 俺が話した神様のめぐみのことを」
「あぁ。ぼっちゃんは神様と話しが出来るんだったな」
「あいつが言ってたんだけど、生き物には魂っていうものがあってね。死ぬとそれがめぐみの所に戻り、またこっちに来るんだ。つまり何度も生まれ変わるんだよ」
「意味がわからんぞ?」
「うん、俺のイメージではこの身体は魂の入れ物みたいなもんだ。入れ物が壊れたら魂はまた違う入れ物に入る。こんな感じだよ」
「ってことは?」
「俺は魂が見えるわけじゃないから絶対とは言えないけど、フランとミケの魂は同じだと思う。フランが死んだ時とミケが生まれた時期からしてもそうなんじゃないかと思うんだ。綺麗な魂はすぐに生まれ変わるみたいだから。ダンも毒にやられて死にかけた時、身体から魂が離れかけてたみたいなんだよ。めぐみが綺麗な魂だからすぐに生まれ変わるって言いやがったからな」
「フランとミケの魂が同じ・・・」
「多分だよ、多分。でもそうだと思う。ダンはミケにフランの本名まで教えたのか?」
「いや、フランとしか教えてねぇ・・・」
「なら本名を知ってるのはおかしいだろ?」
「そうだな・・・」
「生まれ変わる時に魂が汚れてたら綺麗にしたり記憶を消して生まれ変わらせるらしいんだけど、あいつテキトーだからさ、面倒臭かったりすると汚れたまま生まれ変わらせたり、ちゃんと記憶を消してなかったりするみたいなんだよね。鰹節を作ったタゴサがいるだろ?あいつもそうみたいなんだよ。前世か前々世かわかんないけど一部記憶が残ってるんだ」
「ミケもフランの時の記憶が残ってるのか?」
「そうかもしれないけど、ミケの場合は記憶というより、フランの強い思いがそうさせたような気がする。アンデッドのフランが消える時に聞こえた <また会えるから> って声もそうだし、さっき、<ここに連れて来てくれてありがとう> と聞こえたんだ。瘴気の所のアンデッドの時はミケはいなかったろ?」
「また聞こえたのか?」
「俺にしか聞こえないみたいだね。だからフランは俺に二人を連れて来て欲しかったのかもしれない。二人とも生まれ故郷の事がずっと気になってたんだろ? フランはダンと故郷とか家族の事に強い思いを残していったんだよ。俺はそれに導かれただけなんじゃないかな」
「ぼっちゃんはフランの声が聞こえて導かれた・・・なるほど・・・な。ありがとうなぼっちゃん。なんか引っ掛かってた物が取れた気がするわ」
「そうか。だったらここに来た甲斐があったよ。しばらくここに居てもいいし、すぐに帰ってもいいぞ」
「いや、明日の朝、ミケが眼を覚ましたら戻ろう。ここに残ってた国の奴等の魂は神様の所に帰ったんだろ?」
「多分な」
「ならもうここには用はねぇ。皆がいないなら復興させる意味もねぇからな」
「そっか」
俺達は炭と化した肉を片付け、改めて肉を焼いていった。焼けた肉をミケの鼻の前でプラプラさせてやると鼻をひくひくさせるのが面白かった。
「なぁ、ぼっちゃん。領都でさんざん金使ったろ?」
「それがどうした?」
「あれ、俺に払わせちゃくんねぇかな」
「あれは仕事として経費にするから別に気にしなくていいよ」
「いや、あれはフランがぼっちゃんにやらせたんだろうよ。本当は俺達が払うべきもんなんだよ」
「どういうこと?」
「さっき、ぼっちゃんがフランに導かれたって言ったろ?」
「うん」
「俺達が冒険者時代に国を復興させるために金を貯めてた話はしたろ?」
「うん」
「フランが言ってたんだよ。もし国が何にも無くなってたらこのお金はパーっと使ってしまおうって。気の合う仲間達に派手な服を買ったりとかして豪遊しようってな。フランは国が無くなってたのをもう知ってたんだろ。ったく、それをぼっちゃんにやらせやがって」
そうだったのか・・・
「というわけで俺に払わせてくれ」
「なら、ダン。その金はもう少し後に使ってくれ。気の合う仲間はここにいる俺達だけじゃないだろ?」
「そりゃそうだけどよ。またあんな事をするのか?」
「いや、多分フランが望んだ事は別にある。それはそのうち来ると思うからそれまで取っとけ」
「またフランの声が聞こえたのか?」
「いや、聞こえてないよ。というかもう聞こえないんじゃないかな。今回の事で強い思いは叶っただろうし」
「わかったよ。今度は俺が払うからな」
「了解。あと、俺がもう口出すことじゃないけど最後に言っておくわ」
「なんだ?」
「魂は同じかもしれないけど、ミケはミケ、フランはフランだ。後はどうするかダンが決めてくれ。もう俺はしらん」
「ミケはミケ、フランはフランか・・・そんな事はわかってるよ」
「そっか。なら後は任せたよ」
もうすぐ夏だという夜の風を感じながら、小屋も作らずに俺達はそこで朝まで過ごした。
案の定、朝になって目を覚ましたミケは昨晩の事を何も覚えていなかった。
「さ、王都に戻るぞ」
「え? もう用事済んだん?」
「あぁ、ダンの故郷を確認出来たからな。あとは帰るだけだ」
「ミケ、俺の後ろに乗れ。シルフィードはぼっちゃんの後ろだ」
「ダンの後ろに乗ってええのん?」
「来るときはぼっちゃんの後ろにずっとミケが乗ってただろ? シルフィードが拗ねてんだ」
「拗ねてないっ」
「カッカッカ。馬に乗ってる時ずっと機嫌悪かったじゃねーか」
「そんなことないっ! ダンの意地悪っ」
真っ赤になってぷくっと膨れるシルフィード。おお、ついにシルフィードもダンさんからダン呼びか。 だんだんシルフィードも自分というものを出せるようになってきたんだな。
さて、帰りますか。ダンと帰り道を打ち合わせる。
砦の町が見えるまえよりずっと手前から森を抜けるようにする。魔物より人間の方が面倒臭いのだ。ミケのことはダンが守ってりゃいい。よっぽど特殊な魔物でない限り俺とシルフィードでなんとかなるからな。
ー砦の宿屋の親父ー
ゲイル・ディノスレイヤか。
身分は準王家?なんだこの身分は? 特に自分の存在を隠してこの領に来たわけではないのか・・・
スカーレット家御用達の店で服を買い、あの一番高い宿に泊まった。領都の門番には内密ということで銀貨を握らせ、ここの門番にはあの酒を渡している。これにどんな意図があるのか・・・
しかし、俺の事にも気付いても表情ひとつ変えずにあの惚けた態度だ。あの歳で肝っ玉も座ってやがるし、かなりの切れ者だ。この俺に何もわからせないのだからな。獣人にハーフエルフ、あの男はハーフ獣人か。王族なのに面白い奴等を連れてやがる。
これはもう少し調べてみる必要があるか。うん、なんか面白くなって来やがった。
「こいつ、父さん達は食うかな?」
俺達は森の中でミノタウロス3匹を倒していた。オークより強いが苦戦するほどではない。
食べなくても焼いて処分すると煙が上がってしまうから、解剖して持ち帰るか、食べないならこのまま箱に入れて持ち帰るかの違いだ。
「誰も食わないなら孤児達にやればいいんじゃねぇか?こいつらの肉はそこそこの値段で売れるからな」
味は悪くはないからな。もしかしたらビーフシチューとかには向いてるかもしれん。
という訳で解剖してから保存魔法をかけて魔道バッグにしまう。火を使えないので飯は干し肉とかそんなのだ。侘しいなぁ。おにぎりとかもっと作っておくんだったな。
夜に移動、昼は気配を消して仮眠。これが結構疲れる。ミノタウロス狩りに来ているような冒険者がちらほらといるから気が抜けないのだ。ダンとフラン、ミケは逃げる為にこんな移動をしてたんだなと思う。
ゲイル達はようやく砦の町の横の森を抜け、そのまま東の領地に何事もなく入ってから王都に帰ったのであった。
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