第517話 愛の行方

「おっちゃん、俺達、冒険者でさ、あちこちに旅してんだけど、次にセントラル王国まで行こうかなと思ってるんだよね。ウエストランド王国とまだ戦ってるの?」


店の親父に聞いてみる。


「いや、ずっと小康状態が続いてるぞ。ちまちまとした小競り合いはあるけど、大規模なのはここんところねぇな。ただ、冒険者でもウエストランドから行くとしつこく調べられるから気を付けな。特に嬢ちゃんみたいなべっぴんさん達がいると嫌な思いをするかもしれんぞ」


あー、身体検査とかされるのか。


「どこら辺まで行ったらセントラル王国のやつらがいるか知ってる?」


「今は向こうの辺境伯領土に入るときに調べられるぞ」


なら大丈夫そうだな。


「ありがとうおっちゃん。これ、教えてくれた報酬にあげるよ。めちゃくちゃ強い酒だから一気に飲まずに水で薄めるか氷いれたりしてチビチビ飲んでね」


「これは酒なのか?」


「そうだよ。まだこの辺りじゃあまり手に入らないと思うからお金よりいいでしょ」


「お、おぉ悪いな」


宿は風呂なしだったけどまぁ清潔だったから良かった。


朝食はどこでも食べられるあれだ。


「おっちゃん、お世話になったね。昨日の鮎美味しかったよ」


「おぉ、昨日もらった酒すげぇな。あんなの初めて飲んだぞ」


「あと1~2年したらここでも買えるようになるかなぁ。それか王都まで来ることあったら西の街で売ってるから」


「そうかい。ありがとうよ。あー、これからまだ東に行くんだよな?その後はこっちに帰ってくるか?」


「どうだろね。向こうまで行ってこの娘達に嫌な目合わせるのも嫌だから途中で引き返してくるかも」


「そうか。ここから出るのは何にもねぇが東から入ってくる時はセントラル王国から来たとみられるから気を付けな。それが嫌ならこの町を避けて森を抜けるといいぞ。魔物が出るが冒険者なら大丈夫だろ?」


「俺達強いから大丈夫だよ。貴重な情報ありがとね」


「いや、あの酒の礼だ。旨かったからな」


という事で宿を出てダンの故郷を目指す。



ーゲイル達が出発したあとの宿ー


「おい、あいつら何者だ?」


「あぁ、ただの冒険者じゃねぇな。俺の事も気付いてたからな」


「あの子供がか?」


「この酒、セントラルの情報を教えてくれた<報酬>にって言ってただろ」


「それがどうした?」


「普通はお礼とか言うもんだ」


「あっ」


「それにわざわざ王都の事まで話して言っただろ? 自分は王都の人間だと暗に言ったんだ。セントラルのスパイじゃない。それにこの酒は王家の社交会で出されるやつだからな」


「そんなもんをなぜ持ってやがる?」


「さぁな。初めに出した小樽の酒とこいつ。どっから出してきた?」


「あっ」


「あんな魔道バッグ見たことねぇ。あいつは王家の関係者だろう。ごつい男もあの子供も全く隙が無かったし相当やるぞ」


「そんなやつらがなぜこんなとこに・・・」


「うちの領主様達の事が王家に筒抜けってこったろ。わかったら早く知らせにいけ」


「わ、分かった」


しかし、なぜわざわざ俺が気付くような事を言ったのかが理解出来ん。まだ何か裏があるのか・・・


これは仕える奴を考える時かもしれんな。ここは何かヤバそうだ。



「ダン、あとどれくらいだ?」


「この調子で走れば3日というところだとは思うんだがな。街道じゃなしに森を走ったからいまいち距離感が掴めねぇ。もしかしたらもう近い可能性もある」


(もうすぐよ)


え?


「ミケなんか言った?」


「なんも言うてへんで」


空耳か・・・


「この辺りって草原なんだな。農地や牧場とかに最適なのにもったいない」


「うちの国もこんな感じだったわ。なーんもねぇ所だ」


「争いがなければいいところだよね。トウモロコシとか育て放題だ」


「そうだな。国は一面麦畑だったわ。それしか知らんかったからどこもそうだと思ってた。あの時の俺が今の西の街を見たら腰を抜かすんじゃねーか? 人もうじゃうじゃ居やがるしよ」


「私もボロン村からいきなり今の西の街に来たら腰抜かしちゃうかもしれないな」


「建物もガラッと変わってきたし、魔女っ娘のお陰で一気に人が増えたからね」


そして特殊なやつらもな・・・。あいつら今までどこにいたんだろ? 特殊な奴が沸く池とかあるんじゃないだろうな?



楽しく夜営をして、朝に出発しようとすると欲しかった物が生えている。


「これ探してたんだよねぇ」


「なんだこれ?」


「山椒だよ。香辛料のひとつだね。シルフィは嫌いかもしれないけど、ダンは好きだと思うぞ」


育てて種にして収穫。その後ゴボウまで見つけてしまった。ちゃんと鑑定して食用可となっていたから大丈夫だ。


もうこれだけで来た甲斐があったというものだ。ゴボウは木の根を食べさせられたとか言われるかもしれないから社交会には出さないでおこう。



ホクホクした顔をして移動し、翌日ついに今はなきダンの故郷らしきところに到着した。




少し丘になった所から平地になっているところを見下ろして休憩していると


(何にもなくなっちゃったね)


「ん、ミケどうした?」


「え? ウチなんか言うた?」


「いや、お前泣いてんじゃん」


「えっ? ウソや泣いてへん・・あれ? ウチ泣いてるん? 風が強いからめぇにゴミでも入ったんやろか?」


両手で目をコシコシするミケ。


「ぼっちゃん、多分あそこだわ。草だらけになってるが、あの建物の残骸は屋敷というか城だったところだな。他は見事に何にもねぇ。あいつら全部焼き払いやがったんだな・・・ひでぇことしやがる・・・」


あの草むらがそうだったのか・・・ ダンの方を見ると涙を堪えているようだった


「ダン、残念だったな・・・」


「あぁ、噂は本当だったと確認出来て良かったわ。ここまで連れて来てくれた事に礼を言うぜ」


俺はダンの言葉になんて返事をすればいいか分からなかった。もしかしたら、誰か細々と暮らしているんじゃないかという淡い期待は見事に打ち砕かれてしまったのだ。ここまで徹底的にやられたということは国民達は皆殺しにされているだろう。



「ぼっちゃん、悪いがちょっと一人にしてくれねぇか・・・」


俺達はダンを残してその場を離れた。


「ゲイル、記憶が無い方が幸せってこともあるんだね」


シルフィードの住んでた村も滅びていたがその記憶が無いためにダンのような気持ちを味合わずに済んだ。その事を言いたいのだろう。


ミケはただ黙っている。ずっと朽ち果てて残骸となっている城を見つめて。



昼時だが飯にしようかとも言えず、ただ、時間が過ぎて行った。


日が暮れ出した頃、ダンがこっちにやって来た。


「あそこまで見に行こうかと思ったがもういいわ。草だらけで行く気がしねぇ」


「あの城の周りだけでも草を枯らそうか?そうしたらあそこまで行けるぞ」


「いや、行っても仕方がねぇ。ここで確認出来ただけで十分だ。それにこの丘はフランが好きだった場所だ。秋になるとこの辺り一帯に花が咲くんだ。秋になると無理やり城を抜け出すのをやらされてな、いつも俺だけが怒られるんだよ。俺にとっちゃ嫌な思い出だけどよ・・・ 秋は本当に綺麗なんだぜ・・・」


「そうか。コレどうする?」


俺はフランの剣を魔道バッグから出してダンに渡した。


「ここに埋めてやるか。あいつも国が気になってただろうし、好きだった場所だからちょうどいいわ」


俺が穴掘ってやろうかと言ったら自分で掘ると言ったダンは手を強化して素手で穴を掘って剣を埋めた。


「これであいつも満足するだろうよ。さ、ぼっちゃん、飯にしてくれ。焼き肉が食いてぇ」


「焼き肉? さんせー!」×2


「そっか。なら俺は焼き鳥だな。好きな部位をミートの所で貰って温存してたんだ。ここで食べちゃおっと」


「ずりぃぞ。軟骨とかセセリとかあんだろ? 皆に分けろよ」


「えー、あんまり数がないんだぞ。ダン達は焼き肉を食べればいいじゃないか」


「何言ってやがる。旨いもんはみなで食った方が旨いんだろ?」


「しょーがないなぁ。でもぼんじりと心臓は俺のだからねっ」


それも分けろとうるさいダンをスルーしてバーベキューコンロを作って準備をしていった。


肉やら鶏肉やらごちゃ混ぜに焼いていくと煙がもうもうと空に昇っていく。その煙はまるで亡くなっていったダンの故郷の人たちが天に昇って行くようだ。


「あいつらこの匂いを嗅いで悔し涙流してやがるんじゃねーか?  ぼっちゃん、風魔法であっちにこの煙と匂いを流してやってくれ。化けて出て来やがるかもしれんぞ。カッカッカ」


「よし、もっと焼いてくれ。盛大にあっちに流してやる」


豚バラも焼いて更に煙を出してから風魔法で流していく。ご馳走してあげられなくてごめんね。ダンは俺達と楽しく暮らしているから安心してくれ。



「あーーーっ! 人に風魔法で煙送らせている間に何ぼんじり全部食ってんだよっ」


「いいじゃねーか。心臓はまだ残ってんだろ?」


「もう一個しか残ってないだろっ」


「これ旨いやん。も一つ食うたろ。パクっ」


「ミケっ! お前それ最後の一個だろうがっ! 何食ってんだよ。お前ら焼き肉って言っただろうがっ!」


「早いもん勝ちやっ! ぐずぐずしてるから無くなんねん。ゲイルはこれ食ったらええやろ」


「焦がして真っ黒になってんだろうがっ!お前がそれを食えっ!」


「セセリも美味しいね」


「シルフィード、それも最後の奴だぞ。せめてそれは残しておいてやれよ」


シルフィード、お前もか・・・


くそっ、楽しみにしていた希少部位が全部食べられてしまった。残ってた肝は焼きすぎてパサパサで旨くない。なんてこった。でも、皆楽しそうだからいいか。



焼き肉に手を伸ばそうとした時、魔物の気配が一気に立ち上がる。ヤバいまた油断していた。


なんだよこの数!?


「ミケ、俺の後ろに回れっ!」


ダンも剣を抜いて構えるが渋い顔をしている。そう、この気配はアンデッドだ。数も相当多い。この国の人達がアンデッドになってしまったのか・・・


ダンはアンデッドとはいえ、元の仲間を倒さねばならない。その中には両親や兄弟、フランの家族もいるかもしれない。ここは俺が一気に魔法でやるしかない。ダンにこれ以上辛い思いをさせてはダメだ。


「ダン、ミケを連れて逃げろっ! 俺が魔法で一気にカタをつけるっ!って、おいミケっ!下がれっ! もう目の前まで魔物が来てんだぞっ!ダンもぼさっとすんな。ミケを連れて逃げろってば」


ミケがフラフラと前に出てくる。ダメだ、ダンとミケの様子がおかしい。シルフィードもこっちの声が聞こえてない。何か特殊な魔法攻撃をされたのか? アンデッドにしては感じた事のない強烈な気配が近くに・・・


近くにというかこの気配はミケから・・・?


そう思った瞬間、ミケの身体が真っ白に光り輝いていく。


「皆の者っ!」


何を言ってるんだミケは・・・


「我が名、フランネル・エレオノローレの名において命ずる。天に帰りなさい」


そう言ってミケから出たまばゆい光が辺り一帯を包み込む


「もういいのよ。私もダンも幸せだから。安心してお逝きなさい」


辺りを包み込んでいた光が空に向かって昇っていく。そう先程の煙のように。


光が次々と天に昇るなか、ミケはドサッとその場に倒れたので慌ててミケを鑑定する。


【状態】睡眠


良かった寝ただけだ。


あっ


そうか・・・


そういうことだったのか・・・



「大丈夫かフランっ! お前はフランなんだなっ!」


倒れたミケを抱き抱えてそう叫ぶダン。


「ダン、それはミケだ。眠ってるだけだから安心しろ。それとこいつをおやっさんから預かって来た。エレオノローレの国民達の魂が今神の所に帰っていってる。その剣で見送ってやれ」


ダンは炎の魔剣を手渡されても俺の言うことが理解出来ていない。


「早く炎を纏わせて皆を安心させてやれってば」


その言葉にダンは我に返り、剣に炎を纏わせた。


「良く見えるようにそれを振ってやれよ」


ダンはミケを抱き抱えながら片手で大きく炎の剣を振ると廃墟となった城からひときわ大きな光がいくつか天に昇っていった。きっとダンの家族とフランの家族の魂なのだろう。


(ここまで連れて来てくれてありがとう)


そんな声が聞こえた。あぁ、俺は導かれてたのか・・・フランの魂に。


「ぼっちゃん、これはいったいどういうこと・・・だ?」


「後で話すよ。今は皆を見送ってやれよ。皆、ダンとフランの事が心配で死んでもここでずっと戦っていたんだからな」


俺がそう言うとダンは天に昇る光が無くなるまでずっと炎の剣を振り続けた。


ダンとミケの事は二人に任せておこう。もう俺が何もしなくても大丈夫だ。


そう、ゲイルがさっき鑑定みたもの









【名前】ミケ・ダンクローネ


後は二人でなんとかしてくれ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る