第516話 旅の目的地と目的

「ぼっちゃん、なんで今さら俺が居た国に行く必要があるんだ? 滅んだって言ったろ? それにミケをなんで連れてきた? 危ねぇだろ、あそこはウエストランドの領土と違うんだぞ。もしかしたらセントラル王国の領土になってるかもしれねぇのに」


「それを見届ける為だ。ダンは心の中で気になってるだろ? それに決着を付ける必要があると俺は思ってる。エルフやドワーフが西の街に来たら俺はそれに掛かりきりになるし、その次は学校に行く予定にしてるから今しか機会がなかったんだよ。ミケを連れて来たのはダンの過去を詳しく知ってるメンバーで一緒に見届けたかったからだ。ミケは運動神経がいいから俺達で守れるだろ?」


これは本心でもあり、表向きの理由でもある。俺の勘が外れたのならこれだけの理由でも成り立つ。


「なら、なんで初めから言わなかったんだよ?」


「言ったらダンは嫌がるというか遠慮するだろ? 自分の為に俺を危険に晒すわけにはいかねぇとか言って。だから黙ってたんだよ。ここまで来て今さら嫌だとか言わないよな?」


「そりゃそうだけどよ・・・」


「それに俺も気になるんだよ。ダンがどんな所で生まれ育ったとかな。これは俺の興味本位というかわがままだと思って諦めてくれ」


「ったく、ぼっちゃんってやつはしょうがねーな。 ・・・ま、そのわがままってやつに今回は甘えさせて貰うわ。ぼっちゃんが感じてた通り、気になってたのは確かだからな。しかし、セントラル王国の軍が居たらソッコー撤退するからな。もしそいつらと揉めたら戦争の火種にされかねん」


「分かった」


戦争に巻き込まれるのも嫌だし、自分が火種になるなんて真っぴらだ。ダンが心配する通り、準とは言え王族の身分だからな。利用される可能性は十分にある。


「じゃあ、明日はどこかの村か宿場町で泊まって情報収集するか」


「そうだね」


という事でダンの生まれ故郷に行く事は皆に承認された。



「多分ここら辺がウエストランドの最東だろうな。町が砦みたいな感じだから最前線になってるんだろ」


そんなに大きくない町だが、鎧を着た兵士らしきもの達も多く、他の町や村とは雰囲気が違う。どことなくピリッとした緊張感もあるしな。


身分証明を見せるとまたぎょっとされるが、お忍びの視察だと言っておいた。


「最前線の警備、ご苦労である。たまには楽しんでくれたまえ」


と、蒸留酒を1瓶差し入れしておく。


めちゃくちゃ喜んでたな・・・。俺が敵のスパイだったらこの砦を簡単に落とせそうだ。



街中は外ほどの緊張感がないから住民達は慣れてしまってるのだろう。


普通の宿に泊まりそこで晩飯を食べる事に


「わっ、魚の定食あるやん。ウチこれにしよ」


「お前、さんざん魚食っただろ? それにここは海の魚なんて手に入らないだろうから思ってる味と違うと思うぞ」


俺が初めてディノスレイヤ領でマスを食った事を思い出して忠告する。


「ええやん別に。旨いのはゲイルが作ってくれるから、旅の思い出としてこういうのは食っとかなあかんねん」


なるほど。それは一理あるな。普通の物は記憶に残らないから、めっちゃ旨い、めっちゃ高い、めっちゃ不味いとか何でも良いので、日頃とは違う強い体験が思い出として残るのだ。


「じゃ、俺もチャレンジするわ。この何の肉かわからんやつにする」


といっても食べられない可能性があるので一番高いのを選ぶ。それでも銅貨20枚だ。パンとスープをセットして銅貨30枚。安いのか高いのかわからんがそれが最高峰みたいだ。食べられなかったらダンに食わせよう。


メニューには肉としか書いてなくて値段だけが違う。ひょっとしてこれは肉の種類ではなく、量で値段が違うのかもしれない。まぁ、巨大な肉が来たら来たで思い出だ。ダンに食わせればいい。


俺が選んだ物が旨いだろうと思ったのか、ダンもシルフィードも同じメニューを選ぶ。おい、マンガ肉みたいなのが出てきたらどうすんだよ? さすがにダンでも食いきれんだろが?


「へい、お待ちどう。嬢ちゃんが魚でよかったな?」


「そーそー、ウチが魚や。あっ、この魚当たりや!」


こいつの当たりは信用ならんからな。何でも当たりだ。お前は当て物やのオヤジか?


ん? この魚の塩焼き・・・


「おっちゃん、これ鮎かな?」


「お、良く知ってんな。出始めだから小さいがな。こいつは旨いぞ」


おー、本当に当たりだ。てっきりフナとか出てくるのかと思ってたよ。


「ミケ、それ一口ちょうだい」


「珍しいやん、ゲイルが一口欲しがるなんて」


「走りの奴は食べてみたいだろ? ミケはこの魚知ってたのか?」


「こっちに来るときに何回か食べたことあんねん。こうシャシャッって捕まえてな」


「そいつは旨ぇのか?」


「好き嫌いあるかもしれないけどね。旨い魚の部類に入ると思う。ダンなら内臓ごと食えるんじゃないか?」


「は? 魚のはらわたを食えって言うのか?」


「こいつはこれくらいの大きさになってくると、岩に付いた苔を食うようになるんだよ。虫とか食ってるわけじゃないからね。日本酒と一緒にやってみろよ」


と酒の用意をしていると、


「おいおい、お客さん。持ち込みは勘弁してくれよ」


あ、そうか。


「ここ酒は何置いてる?」


「赤ワインとエールだ」


鮎の塩焼きに赤ワインは合わない。エールも悪くはないがダンの好みで言えば日本酒か泡盛もどきだろう。


「持ち込み代払ってもダメかな? 鮎の塩焼きをより美味しく食べたいんだよね。ここにある酒だとちょっと合わないから」


「どんな酒だ?」


「飲んでみる?」


というとこで店の人に日本酒を飲ませてみる


「うぉっ、なんじゃこりゃ・・・」


「まだ王都ぐらいまでしか流通してないからね。こっちの方が鮎の塩焼きにあうだろ?」


「わかった。ただし、この酒を分けてくれんか? 金は払う」


これいくらで売ってるんだろうか?値段知らないんだよな・・・


「これ、結構高いんだよ。それでも大丈夫?」


「いくらだ?」


「大瓶1本で銀貨2枚。ここの代金と人数分の鮎追加と持ち込み料と引き換えでもいいよ」


「よしっ、それでいこう」


次々と運ばれてくる鮎。


「ミケ、食べ方教えてやろうか?」


ナイフとフォークで鮎を食っても旨そうに見えない。


「食べ方とかあるん?」


「まずな、こう箸でぐっぐっぐと身を押さえるだろ。で、しっぽとヒレをちぎる。で、こうやって頭をちょっとよじってゆっくりと引っ張てやると・・・。ほら、取れた。細かい骨は残ってるけど、これくらいのサイズなら骨ごといけるぞ。はらわたが嫌なら出してからかぶりつけ」


俺が鮎の骨を外して見せると、他の客からおぉーと声が上がる。


「ホンマや。ウチにも出来たで。うわっ!めっちゃ旨いっ! この腹んとこ苦いけど、酒とめっちゃ合うわ。ダンもはよ食べてみぃや」


「おぉ、こいつは旨ぇ。酒とめちゃくちゃ合うじゃねーか」


その様子をごくっと唾を飲んで見ている他の客。


「なんやあんたらも飲みたいんか?」


コクコク


「ゲイル、まだ酒あんねやろ? 皆に飲ましたりーな。皆で楽しんだ方がええやろ」


ったく、そんな笑顔で言うなよな。ダメって言えないじゃん


「はい。日本酒はこの小樽で終わりだからね」


ミケがその酒を振る舞っているのをダンは懐かしそうに見ていた。


・・・・・・・・・・・


「ダン、この蛇の肉美味しいねぇ。持って帰って来て正解だったね」


「食えるかどうかわからん奴をいきなり食おうとするなよな。持って帰ってきてギルドで確認したから良かったけどよ」


「だって、皮だけ剥いで捨てるのもったいないじゃない。こんなに美味しい肉なんだから」


ダンはフランとギルドに併設されていた酒場で珍しい蛇の肉を食べていた。旨そうに蛇の肉を食うフランを皆が見ている。


「何? あんた達も食べたいの?」


コクコク


「ダン、残りの肉を出しなさい。まだあるでしょ? 皆で食べた方が美味しいじゃない」


「やったぜ! 食いたい奴でわけようぜっ!」


・・・・・・・・・・・・・


やっぱり似てやがんな・・・





「はい、肉お待たせ」


げっ!忘れてた。


縦か横かわからんようなステーキ・・・。カチカチになるまで焼いてないのが幸いだ。熱々の鉄板で自分で焼かせるスタイルなのか。


うむ、硬いっ。レアで食べてもしっかりした歯ごたえ。赤身の旨味はしっかりとあるから結構旨い。顎と歯に強化魔法をかけて食べよう。


・・・旨いけど飽きてくるな。こっそりバター乗せちゃお。お、また旨く食べられる。次はこそっと醤油を・・・


ショワワワワっ


やっべ、まだこんなに音と匂いがでちゃったよ


「あ、きったねぇ、自分だけバター醤油にしただろ? こっちにもくれっ」


「わ、私も」


「ミケも食うか? 俺、絶対食べきれないから」


「ほなら食べるからちょっと切ってぇや」


ホラよと切り分けて別の皿に乗せる。


「硬いけど結構旨いな。おっちゃん、これ何の肉なん?」


「こいつぁ、ミノタウロスの肉だ。嬢ちゃん達旨そうな匂いさせてやがんな。何掛けたんだ?」


「バター醤油や。めちゃくちゃ旨なったで」


「ダン、ミノタウロスってなんだ?」


「牛みたいな魔物だ。オークの牛版みたいなもんだな。うちの国の近くにも居たわ」


実際に解剖してるところ見てなくて良かった。しかし、食べても食べても減らんな・・・


シルフィードも限界そうだ。ダンは俺とシルフィードの分を食べられるだろうか? ミケも今のでお腹いっぱみたいだし、ダンも肉が来るまでに鮎と日本酒をやってたからな。


焦げた醤油の香ばしい匂いが漂う肉に他の客が釘付けになってる。


「おっちゃん、食べ掛けで悪いんだけど残り食べてくんない? こんなに大きいと思ってなくてさ、食べきれないと思うんだよ」


「いいのかっ?」


「お願い、こっちのパンとスープも」


「ズルぃぞてめえだけっ」


「わ、私のもお願いしますっ」


「やった!皆で分けようぜっ!」


防衛最前線の砦の町は平和だった。











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