第515話 いつものぼっちゃんだよな?

ぼっちゃん、どうしちまったんだろな・・・


ぼっちゃんはお金は使うが意味の無い使い方をしない。服はともかく、貴族街の宿や飯は見てくれだけだということをすでに知っているはずなんだがな。


ダンは今回のゲイルの行動が理解出来ていない。何をするか言わない事は昔からあったからあまり気にしてはいない。が、行動に違和感がある。


何を考えてるかさっぱりわからんな・・・



「さ、別世界も堪能したからどんな物が売ってるか見てみようか。何か掘り出し物があるかもしれんぞ」


何を買うわけでもなく、プラプラと見て回る。


「ダン、あのワイン旨かったんだろ? 買っていったらどうだ?」


「あれ、大瓶1本金貨1枚もしたんだぞ。だったら蒸留酒を樽で買うに決まってんだろ」


「でもあのワイン旨かったで」


そう、ミケもワインを飲んでいた。飲まない俺に払わせるのはさすがに悪いとダンがワイン代を払っていた。シルフィードは赤ワインをあまり飲まないので俺とジュースを飲んでいた。


「酒は飯食うところで飲んだら高いけど、街で買えば1/3くらいの値段で買えると思うぞ。銀貨30枚前後ってところじゃないか?」


「銀貨30枚か、なら買ってもいいか・・・」


だんだん金銭感覚が狂っていくゲイル達。ワイン1本で30万円が安いような錯覚をおこしていったのであった。



「へぇ、ここ調理器具とか売ってるんだな。ミンサーとか売ってるよ。だいぶ広まってきたね」


王都と同じくらいの値段設定だな。ここまで運んだ運を賃上乗せしてないとか良心的な値付けだな。


それとも別の商人がぶちょー商会から直接買い付け・・・ いや、ドワンは面倒だからとすべてロドリゲス商会に卸しているはず。ということはやっぱり良心的な値付けなのか。



「おい、これすぐに壊れたぞ。交換しろ」


「あ、はい誠に申し訳ございません」


使用人かコックかわからないがミンサーが壊れたからと持ってきた。


どんな使い方したら壊れんだよ・・・


「買ってから言うのもなんだが、全然使えない機械だったぞ。こんなもん勧めやがって。次に壊れたら返金しろよっ」


「い、いえ、王都では大変評判がいい商品でございまして・・・」


「王都のコックはレベルが低いんだろっ、ウチと一緒にするなっ」


ん? 使えない機械? 使い方間違ってるんじゃないの?


「コックさん」


「ん?なんだいぼうや?」


「ミンサー使いにくいの?」


「ミンサー? これのこと知ってるのか?買いに来たのならやめとけ。全然使えんぞ」


「いや、それ作ってるの知り合いの商会なんだけどね、そうそう壊れたりするはずないんだよ。使えないってのもおかしい。これ使ったら包丁でミンチにするより圧倒的に早いから。ちょっと見せてくれる? もしかしたらどこか変になってるかもしれないから」


「おいおい、これ結構高いんだぞ。下手に触って壊されたりでもしたら・・・」


「俺も持ってるから大丈夫。使いなれてるよ」


魔道バッグからミンサーを出して見せる。


「ど、どっから出したんだ?」


それはスルーしてこの店のミンサーを見ていく。


ん?


「ダン、この刃どう思う?」


「こりゃ、おやっさんの所で作ったやつじゃねーな」


「だよね? おやっさん所がこんな質の悪い刃物を作るはずないよね。偽物じゃないこれ?」


「なにぃー? お前偽物を売り付けやがったのかっ!」


「と、とんでもないっ。ぶちょー商会の商品として仕入れました」


「おじさん、これロドリゲス商会から仕入れた?」


「い、いえ、いつもは取引のない商会でしたが間違ってたくさん仕入れたから少し引き受けてくれないかと。その・・・少し安かったものですから」


「これさ、俺のミンサーと見比べてみて。まず全く違うのがこの刃だね。歪みの無さとか刃先の鋭さとかぜんぜん違うでしょ?俺のはもう何年か使ってるけどまだ一度も研ぎ直ししてなくてこれだよ」


「ほ、本当だ・・・」


「あと、ここを取り外して取り付けるアタッチメントがあるはずなんだよ。こういうやつ。それは付いてた?」


「これは何をするもんなんだ?」


「ここに羊の腸とかをはめて、ミンチを作る要領でハンドルを回すと腸詰め、ソーセージとかを作れるんだよ」


「ソーセージを自分でも作れるのか?」


「レシピ売ってるはずだからロドリゲス商会に聞いてみて。ここにロドリゲス商会が来てるかしらないけど、ミンサーを買ったということはハンバーグのレシピ買ったということだよね? 同じ所で買えるよ」


「そうか・・・、領主様から買わないとダメなのか」


「どういうこと?」


「王都で買い付けたレシピは領主様経由でしか買えないんだよ。値段は言えないが高額でね。でもお前よくハンバーグとか知ってるな」


「俺がレシピ売ってるからね。ミンサーも俺が考えたんだよ。作ってるのはぶちょー商会だけど」


「ほ、本当なのかっ?」


「じゃないと、コックさん達が知らない機械の事とかハンバーグとかソーセージの事知ってるわけないだろ? そういう訳で、このミンサーがおかしいのは確かだよ」


あちこち見ていくとよく似せてあるけど作りが雑だ。偽物確定だな。


ん? このロゴも少しちがうな・・・。あっ、なんだよこれ?


「おじさん。これ、ぶちょー商会の物と違うよ。ぶちゅー商会になってるよ。ぶちょー商会は武器屋が作るちょーすごい道具を扱う商会の略だからね。ぶちゅー商会だと意味が変わってくる。ロゴもこれと違うでしょ」


「ほ、本当だ・・・」


「これぶちょー商会の商品だと言ってた?」


「いや、仕入れ過ぎた商品とだけ・・・」


なるほど。それでは詐欺罪に問えないな。類似品を作ってるのを止めさせるのがせいぜいだ。しかも作ってる所もわからないし、しらない商人と来たもんだ。実に悪質だ。


「おじさんは騙されたんだよ。というか勘違いさせる悪質なやり方に嵌められたって所だね。これぶちょー商会の商品として売ったらおじさんが詐欺罪に問われるよ。ぶちゅー商会の商品として売っても、類似品として販売停止命令が出ると思う」


「そんな・・・」


「取りあえず、俺が1台買ってあげるから他の店にも気を付けろと言っておいて」


「偽物だと解ってて買っていただけるんですか・・・?」


「偽物の証拠として持っておく必要もあるしね。おじさんも丸損だとやってられないでしょ。後は仕入値が安いからと信用もないところから迂闊に仕入れた勉強代だと思って」


「あ、ありがとうございます」


「コックさん、もし領主以外からレシピ買っても問題ないのならこのおじさんに発注するといいよ。ロドリゲス商会から買えるから」


「そ、そんな事が出来るのか?」


「前まで王家がレシピの売り先を限定してたから領主からしか買えなかったんだよ。もうそれ解禁されてるから買えるよ。ただそれで領主ともめるかどうかはわからないからどうするかは任せるね」


「お前は一体・・・」


「まぁ、それはどうでもいいじゃない。美味しい料理頑張ってね。この領都の飯はいまいちだから。おじさんはこれからは信用のない商人から買うときは細かく確認した方がいいよ。じゃーねー!」


もう用件はすんだのでさっさとその場を離れた。もうすぐ何らかの形でスカーレット家に俺が来ているのが伝わってもおかしくない。確実に面倒臭くなる。マルグリットがうちに住んでるの知ってるだろうからな。


「ダン、ここを出よう。もうすぐ面倒臭くなると思うから」


「そうだな。じゃ急ごう。ぼっちゃんが面倒ごとに巻き込まれるのはいつものことだ。これくらいで済んでるうちに出るか」


やっぱりいつものぼっちゃんだ。変な事に巻き込まれて解決していきやがる。


ダンはシルフィードと馬に乗りながらゲイル達の後を付いていく。これからどこへ行くのか聞いてないので後ろを走っているのだ。


「ミケ、お前が逃げて来た道はこっちか?」


「そんなん覚えてへんわ。でも方角はおうてるで。ゲイル、まさかウチが逃げて来たとこに行くつもりか?」


「そんなとこまで行かないよ。いや、ミケが望むならお前の母親を奴隷にしてた奴を潰しに行ってやろうか? 恨んでんだろ?」


「そんなんせんでええわ。あれでも一応オトンやしな。飯も食わしてくれてたし、寝るとこもあったから恨んでなんかないで」


「そうか、ならいいか。俺が行くつもりの所は多分あと数日で着くと思うんだけど、後はダンに聞くわ。そろそろ夜営の準備をしよう」



そしてその夜、俺は今回の旅の行き先を皆に告げた。






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