第514話 自分でも訳が分からない

「ぼっちゃん、どこに冒険に行こうってんだ?」


「一度ディノスレイヤ領に戻る」


「用事があんのか?」


「おやっさんにちょっとね」


俺はダン、シルフィード、ミケを連れて旅に出た。行き先を言わないことと、ミケを連れて来た事にダンは怪訝な顔をしている。今言うとダンは嫌がるだろうから、言わない。おせっかいとか余計なお世話と言われるだろうがどうしても確かめないといけない気がするのだ。



ー旅の出発前ー


「だからどこに行くんじゃっ」


「風に聞いてくれ」


「いい加減にせぬかーっ!」


「ミーシャ、外に出られるようになったら、またザックの所に手伝いにいってくれるか?」


「いいですよ」


「ジョン、アル。出来れば新領の魔物退治をしててくれないか? あそこは柵を作ってあるから大丈夫だと思うけど、また魔物が沸いて進化されたら困るしな。もし、進化した魔物が居たらディノスレイヤ領のギルドに応援を頼んでくれ」


「王都のギルドではなくか?」


「王都ギルドにはどれくらい腕の立つヤツがいるか知らないんだよ。ディノスレイヤ領なら最悪父さん達がなんとかしてくれるから。絶対に二人で対応しようとかするなよ」


「わかった」


「目の前で人が襲われててもだぞ。あれが居たら他にもわんさかと強い魔物がいるからな。絶対だそ」


「くどいぞ」


いや、無闇に突っ込んでいくイメージしかないのだよ。君達には。


「ミグルはあの娘に魔法を教えてやってくれ。鑑定しながらでも魔力切れの感覚を覚えさせておいて。500の魔法水をいくつか置いていくからヤバそうなら0になる前に飲ませろよ」


「いちいち解ってることをくどくどいうでないっ」


俺はオカンみたいに注意をしてから出発したのであった。



ぶちょー商会に到着して、すぐに済むからと皆を外で待たす。


「おやっさーん!」


「おっ、作りに帰って来たのかっ?」


「いや、お願いがあって来た。ダンの魔剣頂戴」


「いきなり何を言いだすんじゃっ」


「出来てるんだよね?」


「理由を話せと行っておるんじゃ」


「帰って来たら話すよ」


「どこに行くんじゃ?」


「ダンの生まれたとこ」


「誰を連れていくんじゃ?」


「ミケ」


「確信はあるのか?」


「それを確かめに行きたいんだ」


「帰って来たら話せよ」



ドワンも何か感じ取ってたのだろう。これだけの会話で通じる。



「お? もういいのか?」


「急ぎの用はすんだよ。続きは帰って来てからだね。さ、食料を大量に仕入れて行くよ」


久しぶりに肉屋に寄ってあらゆる肉を大量買い。ホルモンやタン。鶏肝や軟骨、ぼんじり、せせりとかあるだけ購入。これは俺のお楽しみだ。


「ゲイル、魚はないんか?」


「それはもう持ってる。調味料と酒も用意済み。エールとワインは途中でも買えるかもしれないなからあまり買ってないよ」


「焼酎と日本酒はあるんだよな?」


「それはたっぷりあるよ」


「ならいいや。どこに向かうんだ? このまま西か?」


「いや、東だ。取りあえず東の辺境伯領都を目指すよ。あそこに行ったこと無いから」


「領都? マルグリットの家を目指すのか?」


「そうだね。訪ねはしないけど、農業がどこまで進んだか気になるから」


もっともらしい嘘を吐いて東へ出発。


王都にはよらずにそのまま東へ



「ぼっちゃん、風魔法まで使って急ぐ必要あるのか?」


「色々とやること残ってるからね。なるべく早く着きたいんだ。まぁ、冒険ってわけでもないから旅は楽しくね。ほら、鯖の塩焼きできたぞ。日本酒でいいよな?」


「ゲイル、ご飯こんなに炊いて食べきれるの? 鯖も多くない?」


「鯖のおにぎりにして明日のお昼ご飯にするんだよ」


「明日のお昼ご飯はそれなん?」


「そやで」


「やった。当たりや!」


お前、最近それ好きだな。


その後数日で東の辺境伯領都に到着。


「わ、ここ王都とちゃうよな?」


「うん、俺も入った事がないんだよ。凄いよねここ」


「マルグリットさんの家があるとこなんだよね?」


「そうだよ。見に行こう」


門で身分証明を出すと驚かれる。お忍びで来ているから内緒にしておいて欲しいと銀貨を渡しておいた。下手にスカーレット家に知らせが入ると面倒だからな。


「これが家か?」


スカーレット家の屋敷は城だった。すげぇなここ。世間知らずだったベントがここに来たのなら憧れても仕方がないな。小国の王城よりデカいんじゃないか? 小国の王城見たことないけど・・・


「こんな所に住んでたらお金がいくらあっても足りないだろうね。警備兵もあちこちにいるし・・・」


こうやって現実を見るとビトーってエリートだったんだなと改めて思う。あれだけ警備兵がいるなかで直属の護衛に選ばれてんだからな。

それにこんな所に住むお嬢様によくあんな護衛訓練させたよな俺達。知らないって恐ろしい。


「ちょっと貴族街の高い宿に泊まってみようか?」


「高ぇだけだろそんなもん」


「うちの高級宿とどれくらいの差があるかみたいんだよね。ミケは悪いけど耳としっぽを隠してくれるか?シルフィは耳を」


「かまへんけどなんでなん?」


「嫌な思いをする可能性が高いからだよ。あと服を買いにいくぞ。この格好じゃ泊めてくれないかもしれないからな」


というわけで貴族街の服屋へ。


「めっちゃ高いやん・・・」


ここは既製服の店だ。仕立て服でないのにこの値段・・・ ざっとみたところ銀貨50枚からか。全員分で最低金貨3枚は必要だな。


「シルフィもミケも好きなの選んでいいぞ。値段は見るな。気に入った物を選べ」


「本当にいいの?」


「その代わり帰ったらショール達に見せてやってくれ。参考にさせるから商品資料として購入する」


「仕事の為なんか。ほなら遠慮せずに選ぶわ」


「ということだからシルフィも好きなの選んでおいで。俺達も買うから。ダン、俺達も選ぶぞ」


「おいおい、正気かよ?」


「当たり前だろ。ダンもたまにはちゃんとした服を買えよ。この街の宿にも食堂にも入れんぞ。この服屋に入るのだって嫌な顔をしてただろ?」


「あの・・・、お客様。大変失礼かとぞんじますが、こちらはご貴族様がお越し頂くお店でございまして・・その、お支払いが庶民の方にはとても・・・」


「あぁ、大丈夫。俺達はこういうものだ。いまお忍びの旅の最中だから、普段着を買いに来ただけだ。俺は自分で見るからこっちのやつの服を選んでやってくれ」


「た、大変失礼しました」


「いいから早くしろ。あまりゆっくりしている時間はない。あちらの小柄な女性はとある国の姫だからそそうをするなよ」


「かっ、かしこまりましたっ」


「おい、ぼっちゃん。俺は服なんて・・・」


「俺が払うから好きなの選んでねー!」


とか言ったけど高ぇぇえよここ。子供服でこんなにするのかよ。上下とシャツセットで銀貨80枚って・・・ 80万円だぞ。


しばらくして皆が服を選び終わり、そのままここで着替えた。裾直しをすぐにしてくれたのは良かった。身分を盾に威圧的な態度で出ると破格にサービス良くなるよな、この手の店。


女性陣はドレスだ。マルグリットが着てるようなやつだ。これなら歩けるな。


「いかがでございましょう?」


「うん、二人が気に入ってるならこれでいいや。あとこの服に合う靴は置いてる?」


「はい、ご用意いたします」


持ってきたのはパンプス。これもマルグリットが履いているようなやつだな。

ダンのと俺は紐の革靴。サラリーマン時代を思い出す。


「全部でいくらだ?」


「金貨11枚でございます」


「はい、11枚」


「ありがとうございます。こちらの服はどちらにお運び致しましょうか?」


「まだ宿を決めてないから持って行くよ」


「お持ち頂くには少々不便かと・・・」


「魔道バッグに入れるから大丈夫だ。あと、お勧めの宿はあるか?」


魔道バッグを持ってるものなどほぼいない。あっさり金貨11枚を払ったこと。魔道バッグを持っていることで俺達が本物のセレブだと理解する店員は領都で一番高い宿を紹介してくれた。


「ぼっちゃん、いいのか?」


「ダン、良く似合ってんじゃないか。男前が上がったぞ」


「何でこんな服を着なきゃダメなんだよ?」


「ん? こういう世界も知っておいた方がいいだろ? 俺達とは常識の異なる世界だからな。西の街の高級宿に貴族達が来てるみたいだから勉強だよ勉強」


俺も何でこんなことをしているのか分からない。


宿はとても綺麗で風呂も付いていた。が、それだけだ。飯もとても見た目は綺麗。でもそれだけだ。ダンによるとワインは旨かったらしい。


上から2番目の部屋で2食付き、金貨4枚・・・


1日で1500万円も使ってしまった。貴族って本当にこんな生活してんのか?


どんだけ庶民から搾取したらこんな生活ができるのだろうか?


というか俺は何をしているのだろう?





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