第513話 小さな魔法使い

おう、問題発生だ。


数日ほど様子を見て旅に出る準備をしていたら、吐いて倒れた子供がいると報告が入る。


西門の治療院に慌てて駆け付けるとやっぱりヴェール、所謂シルフィードモデルの魔女っ娘衣装を着ていた。おろおろする母親と落ち着いている治療院スタッフ。


「お母さん、大丈夫ですよ。この娘は魔力切れで倒れただけですから」


「魔力切れ・・・とは?」


「知らない間に魔法を使ったんでしょうね」


まだ目を覚まさないようなので、一応鑑定する。


【名前】リリカ

【年齢】5歳

【魔力】0/410


やっぱり魔力切れだな。しかし、この歳にしては魔力が多いな。自分を基準にしたら5歳で120~130くらいのはずなんだけど。


治癒魔法を掛けるフリをして魔力を補充。過剰にならないように自分も鑑定して・・・おろ? まぁ後で考えよう。取りあえず400補充っと


するとすぐにパチクリと目を覚ますリリカ。


「あれ? ここどこ?」


「リリカっ! 大丈夫。また吐いて倒れたのよっ。先生っ、この娘どこかおかしいんじゃないんでしょうかっ?」


「お母さん、先程も申し上げた通り、魔力切れです。異常はないと思いますよ。前にもこういうことあったんですよね?」


あー、何回もやってるのかこれ。それに今回使った事がない植物魔法が発動して一気に魔力持ってかれたんだな。


「お母さん、自分はゲイル・ディノスレイヤと申します」


「えっ?」


「この街の領主をしている者です。治療院のスタッフが申し上げた事は本当です。もう大丈夫ですよ」


「えっ、領主様・・・ あらあらあらあらどうしましょ」


可愛いなこのお母さん。オロオロする姿がハムスターみたいだ。


「少し、娘さんと話がしたいんですけどいいかな?」


「えっ、あっ、はい」


なんかヒマワリの種与えたくなる顔だ。カカオポッド持たしたらガジガジしないかな?


うん、次の板芝居は動物物でもいいな。ハムスターはネズミと思われてしまうかもしれないから、黄色い熊とかパンダがお父さんで息子が娘に変身するやつとかいいかなぁ。猫とネズミが喧嘩するやつとか色々とあるな・・・。いややっぱり黄色い熊か。ぬいぐるみ作ったら売れるな。そうだぬいぐるみだよ。ミシンがあれば数作れるじゃん。子供が生まれたら可愛い熊のぬいぐるみをプレゼントする習慣を作ってやれば確実に数が出るしな・・・


「ぼっちゃん、ぼっちゃん、ほれ、お母さんが良いって言ってんだろ。何ボーッとしてんだよっ」


「あ、あぁ、ごめん。なんだっけ?」


「何また寝ぼけてんだよ。この娘と話ししたいと言ったのぼっちゃんだろ?」


そうだった。ついキャラクターグッズに発想が飛んでしまっていた。


「あー、リリカちゃん。お兄ちゃんと少しお話ししてくれるかな?」


「リリカじゃないもんっ、ヴェールだもん」


「じゃあ、ヴェールちゃんて呼べばいいかな?」


「うんっ」


という事で二人で話をさせてもらう。


「ヴェールちゃん、他にどんな魔法を使えるの?」


「えっ? なんで・・・」


「お兄ちゃんね、魔法使いなんだよ。リリ・・ヴェールちゃんも使えるよね?」


「しっ、知らないっ」


「大丈夫。誰にも言わないから。本当に植物が生えてびっくりしたろ?」


「なんで分かるの・・・?」


「お兄ちゃんは大魔法使いだからだよ。ヴェールの魔法も使えるんだよ」


「嘘だっ」


「本当だよ。ヴェールはお兄ちゃんの仲間だしね。嘘だと思うなら会わせてあげようか? ヴィオレもノワールもいるよ」


「本当っ!?」


「あぁ、本当だよ。でも会わせてあげるのにはお母さんが一緒じゃないと無理だけどどうする?」


「そんなことしたらバレちゃう・・・」


「お兄ちゃんはお母さんにバレた方がいいと思うなぁ。ずっと黙ってるのしんどいだろ?」


コクン


「大丈夫。お兄ちゃんがお母さんにちゃんと話してあげるから。それならいいかな?」


コクン


「ダン、もういいぞ。お母さん連れて来て」


「あ、あの領主様、これはいったい・・・」


「お母さん、今から時間あるかな?」


「え、あっはい」


「じゃ、ダン、お母さんと馬に乗って。俺はこの娘と馬で屋敷に戻るから」


ということで、親子を連れて屋敷に。


めっちゃ恐縮する母親。



「ぼっちゃまお帰りなさい」


「あっ! 働き者のメイドさんだっ!」


「ミーシャですよ」


「ミーシャ、シルフィ達を呼んで来てくれないか?」


ということで全員集合。


「わー、本当だ! 本物だっ! お母さん。本物の魔女っ娘だよ!」


「あらあらあらあらあら、どうしましょ」


「ゲイル、なんじゃこのコワッパは?」


「魔女っ娘ヴェールだ。植物魔法が発動して倒れたんだよ。今からお母さんにその説明をするから、この娘と遊んでてくれ。シルフィ。教えていいのは植物魔法だけだ。実演してやってくれ」



俺はお母さんにリリカが魔法の才能があることを話す


「えっ?本当でございますかっ?」


「もっと小さな頃からおかしな事なかった? 勝手に物が動いたり、水浸しになってたり、火事になりかけたりとか?」


「ご、ございましたっ。水浸しになって娘が倒れてて・・・」


俺と同じだな。


「娘さんは魔法使いだね。誰にも教わらないで魔法使えるのは極一部なんだよ。家の仕事は何をしてるの?」


「この街で畑をしております。領主様には大変よくして頂き、お陰様であの娘が欲しがった服も買ってやれるくらいに・・・」


「それは良かった。娘さんが吐いて倒れたのは何回くらいあるの?」


「今回を入れて3回目です。去年1度家で、2度目は畑で。それで今回・・・」


「畑で倒れたのは水やりかなんかしてた?」


「そ、そうです」


まだガチャポンプ付いてなかった場所かな? 順番に付けていってたからな


「多分、お母さんが水やり大変だからなんとかしてあげたいと強く願って魔法が使えるようになったんだね。優しい娘だ」


「そ、そうなんですかっ?」


「うん、魔法って本当は誰でも使えるんだよ。使い方がわからないだけで。だからあの娘は魔法の才能あるよ。自分でも魔法を使えるのをわかってるけど、倒れた時にすごい心配掛けたことを理解して黙ってたんだと思うよ」


「そうだったんですか・・・」


「良かったらちゃんと魔法教えるけど」


え?


「どういうことでございましょうか?」


「今回使いなれてない植物魔法を使って倒れたんだよ。使った事がない魔法を使うと一気に魔力が減るからね。同じ魔法を使い続けてるとそれもマシになる。ただ、使い方を間違うと危険だから使うならちゃんと教わった方がいいと思うんだ」


「そ、それを教えて下さるのですか・・・」


「うん。毎日は無理だけどね。どうする?」


「お、お願いしますっ」


ということでミグルを連れて親子の家に案内してもらう。


リリカがみんなに懐いてしまったので、全員でぞろぞろと向かう。それを見付けた奴らが当然集まってくる。


「ダン、出番だ。皆を威圧しろ」


「はぁ? こいつらに殺気を放てというのか?」


「そうそう。行けっ熊怪人っ!」


「なんだよそりゃ?」


「いいから早く。もみくちゃにされんぞっ」


君は間もなく熊怪人として恐れられるようになる予定なのだ。早く実演したまえ。


ダンが身体強化した上でカッと威圧するとひぇぇぇぇっと腰を抜かす特殊な人々。あ、あの悪ガキそうなやつチビってやがる。今夜、熊怪人に襲われる夢を見てお漏らしするかもしれんな。


これで歩きやすくなった。


「ダンよ。なぜワシが襲われてた時にそれをやらなんだのじゃ?」


「今回はシルフィードもミケもいるだろうが」


「今、居るのがワシだけじゃったら?」


「やらん」


「なんじゃとーっ! 貴様っっっあ。差別ではないかぁぁぁっ」


「区別だ」


ダンもたいがい酷ぇな。



親子の家に到着すると、オッサンが出て来た。名前しらないけど小熊亭の常連だ。今から飲みに行くつもりだったんじゃないだろうな?


「なんでぇ、ぼっちゃんが一緒じゃねえかよ。どうしたんだ?」


「子供が吐いて倒れたんだよ。詳しくは奥さんから聞いてくれ。まさか今から飲みに行くつもりだったんじゃないだろうね?」


「そ、そそそそそそんな訳ねぇだろうが。やめてくれよぼっちゃん」


「こんな可愛い奥さんと子供ほったらかして飲みに行ってばっかりしちゃダメだよ。行くならたまには一緒に連れてってやれよ。ポットカフェとかに」


可愛い奥さんと言われてポッとする母親。ちょっと意味が違うからね。


「あんな高ぇ店に連れて行けるかよっ。親子3人で言ったら銅貨50枚くらいとられんだろ?」


「2回飲みに行くの我慢したら行けるだろ?」


「あんた、いつもそんなに使ってのかいっ!」


「そ、そそそそそそんな使ってねえよっ。1回で銅貨15枚くらいだ」


嘘つけ。


「なら3回飲みに行くのを我慢だね。奥さん、3回飲みに行くの止めさせたらケーキセット親子で食べられるから」


「あら、本当? 一度行ってみたかったんです。あんた、今月はもう飲みに行くのなしよ」


「今月って、お前まだ月の途中じゃ・・・」


諦めろ。その方がお前の為だ。そのうちこの娘が大活躍するようになったら捨てられるぞ。


「ミグル、時間を作って植物魔法と水魔法を教えてやってくれ」


「なぜワシだけがやるのじゃ。シルフィードもおるではないか」


「もうすぐシルフィードは俺達と旅に出る。だからお前しかおらん。帰って来たら南の領地に行くからその時は連れてってやる」


「どこに行くのじゃ?」


「それは風に聞いてくれ」


「なんじゃぁぁぁそれはっ」


「じゃ頼んだからなっ」


「お兄ちゃんは魔法見せてくれないの?」


そっか、植物魔法使えるって言ったな俺。


「お母さん、ここ何植えてあるの?」


「今はキュウリです」


「明日から収穫になるけどいい?」


「えっ?あっはい・・・」


「リリ・・・ヴェール、いいか?よく見てろよ」


「うん!」


「土魔法!フェンスっ!」


スドドドっとキュウリのツルが絡み付く為のフェンスを作る。


「うわぁぁぁぁっ!すごーい」


「植物魔法! 収穫っ!」


うにょにょにょにょとキュウリのツルがフェンスに巻き付いていく。


「お母さん、これ、種取るキュウリならこのままで良いけど、食べるやつなら雄花全部とってね。そうすれば種のないキュウリになるから。あと、収穫終わった後にこのフェンスが邪魔になったら解除しにくるよ」


「お兄ちゃんすっごーい! 本当に大魔法使いなんだー!」


唖然とするリリカの両親はスルーしてリリカに手を振って俺達は帰ったのであった。




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