第512話 創造神と使徒
おおぅ、少し収まったかと思っていたが、まだ魔女っ娘フィーバーが続いてるのか・・・
念の為、シルフィード達を置いてきて正解だったな。
「あ、ゲイル様っ」
ショールの親父さんも酷い顔してんな。俺も朝に自分の顔を鏡で見て驚いたけど。
「服を縫う機械を持ってきたんだ」
「服を縫う機械ですか?」
「慣れたら断然こっちの方が早いから使って。忙しい所悪いけど手を止めてみんな説明聞いてくれるかな?」
皆を集めて先に回復魔法を掛けてやると、おぉっと歓声が上がる。無理矢理働かせようとしてるわけじゃないからね。
昔、延々と残業が続いていた時に上司が栄養ドリンクを差し入れてくれたことがある。気を遣ってくれたんだろうけど、これを飲んでもっと働けと言われているようだったからな。
皆にミシンの使い方の説明をしていく。普通に縫えるだけで、刺繍やボタンホールを縫ったり出来る万能ミシンじゃないから手縫いがなくなるわけじゃないけど、量産品なら十分使えるだろう。
「こんな便利な機械があったのはしりませんでした。これなら格段にスピードが上がります」
「糸をボビンに巻くのはこれを使ってね。下糸はそのままじゃ使えないから」
糸を巻き替える機械はリールの技術を応用してあるのですぐに出来た。
「これはあったんじゃねーぞ。ぼっちゃんが徹夜を続けて作った機械だ。有り難く使え」
ダン、いらんことを言うな。
「えっ?」
「お前らの仕事が追い付いてないのを心配したぼっちゃんが作ったんだよ。これは他にどこにもねぇ」
「そ、そうなんですかっ?」
「あー、いや、まぁ。ここまで仕事が増えるのが誤算だったからね。これからもたくさん服作ってもらわないとダメだから投資だよ、投資。機械の代金とかいらないから、次からも宜しくね。ただ・・・」
「ただ・・なんでしょう」
「全員週に一度は休みを取ること。なんなら店の定休日を作ってくれ。このままだと倒れる人が出てくるぞ」
「あ、ありがとうございます」
従業員達も休みをあげてくれと言われたのが嬉しかったのかホロッと泣いてる人もいる。
「休めない日が延々と続くと体か心が壊れちゃうからね。機械は壊れたら直せるけど、心は壊れたら治せないからほどほどにね。納期が間に合わなさそうな仕事は断っていいから」
俺はそう言い残して紋章屋に向かう。ミーシャやシルフィード達の対策が必要なのだ。
「おい、ツモいるか?」
「ロ、ロンでございます・・・」
ここにも屍が出来ていた。
回復魔法を掛けて、水を飲ます。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか生きております」
ロンも特殊な男達もあちこちに転がっている。某アニメの制作現場みたいだ。しかも異様な臭いまで漂っている。
全員に回復魔法とクリーン魔法を掛けて窓を開ける。
「ダン、なんかすぐに食べられるもの買ってきて。パン屋が出来てるから適当にお願い」
回復魔法を掛けたことで特殊な男達が再起動して色塗りをし始める。
「ふふふ、ヴィオレたんは俺の嫁・・・」
なんか幸せそうだな。こいつらはこれでいいのかもしれん。
ふと、違う男が何をしてるのか気になって見に行くと人形を作っていやがった。なんかめっちゃリアルだ。しかもこいつ土魔法使ってやがる。無意識だろうけど。
俺がそばで見ててもずっとぶつぶつ言って薄ら笑いを浮かべながら見事に人形を作っていく。
「これ、売るのか?」
「こ、これは拙者の魂。売り物ではござらんぞっ」
あー、この喋り方は世界共通なのか、それとも俺の脳内で勝手に変換されてるのかわからんけど、テレビで見たことあるわ。
しかし、売り物にしないのはもったいないな。
「これさ、芸術作品だと思うんだよね。芸術は皆に認められて初めて価値が出るんだよ。この素晴らしさが世に出ないのはもったいないなー」
「おたくはこの素晴らしさが理解出来るのでありますか?」
「めちゃくちゃよく出来てるよ。この素晴らしさを布教してみたいと思わない?」
「布教とはなんですぞ?」
「君が作った世界に共感する人が大勢いると思うんだよね。その仲間達と思う存分語り合いたいと思わないか?」
「そんな事が可能なのでありますかっ?」
「俺に任せておけばね。ただ、これを売ることになると思うけど、同士と喜びを分かち合う為には必要なことなんだ。それは解ってくれるよね?」
「もちろんですともっ!」
「よし、フィギュア喫茶を作ろう。そこをお前に任せるからやってみるか?」
「せっ、拙者は人があまり・・・」
「わかるよ、わかる。俺には分かる。でも大丈夫だ。店に来る人達はみな同士だ。きっと分かり合える。そこは君に取ってパラダイスとなり、そして君は同士から神と崇められる存在になるんだ。ほら、想像してみろよ、君が作ったこの人形を持って神と崇められる自分を・・・」
「拙者が神・・・」
「そう。俺はヴィオレたん達を作りし者。言うなれば創造神だ。そしてお前はその使徒となり、皆からは神と崇められるのだ。やれっ! フィギュアの神よ!」
「ははーっ」
「なにやってんだぼっちゃん?」
「あぁ、今フィギュア神が誕生したんだ。その神にお告げをしたところ」
「なんだそりゃ? それよりパン買ってきたぞ」
一人一人にパンを分け与え、土魔法でカップを作ってそこに魔法で水を注いでいくことに。
先程のやり取りを見ていた者達がわらわらと集まり、ダンからパンを貰い、膝を付いてカップを受け取り、俺の水をありがたそうに注いでもらう。
俺はここで神になった。
「フィギュア神の誕生おめでとうでござる」
「お前は何が得意なのじゃ?」
「拙者はロン殿のアシスタントをしておりますぞ」
「では原画が描けるのじゃな?」
「もちろんでごさる」
「よし、お前は原画神と名乗るがよい。これからも素晴らしいキャラクターを描くのじゃぞ」
「ははっ、ありがたき幸せでござる」
それぞれの得意分野を決めて使徒を決めていく。これでロンは紋章屋に戻れるだろう。
「わ、私にも何かお役目を・・・」
ロン、お前までなにやってんだ?
「お前は本職があるだろ?」
「こ、これもやりたいのですっ」
マンドリンも話を作るのが好きだったよな。それにキャラデザインするのは複数いた方がいいな。
「じゃあ、ロンは原作神ね。アイデアが必要なら俺も考えるけど、後は好きに作っていってくれ」
「ありがたき幸せっ」
こいつも毒されてんな・・・
そこにマンドリンが帰って来た。外には女性達がキャーキャー言っている。
「お疲れ。あの女の人達は?」
「はい、私のファンでございます」
もうそんなのがいるのか・・・。
そのうち、歌劇とか演奏とか始まったらこんなのがわんさかと増えるんだな。いっそのことこの辺り一帯をそういう層向けの通りにするか。役所側は何にするか決めてなかったから空いてるし・・・
あと気になることがある。
「マンダリン」
「マンドリンでございます」
ダメだ。一度マンダリンでインプットしてしまったから抜けない。
「あー、その楽器って誰が作ってるの?」
「吟遊詩人は自分で使う楽器は自分で作るもの・・・ それだけでございます」
こいつ、楽器作れんのか。やった。
「マン・・・ドリン!?」
「当たりでございます」
「マンドリン、今度色々な楽器を作ろうと思ってるんだよ。それに協力してくれないか? ドワーフの職人が来る予定にしているんだよ」
「ほう・・・ 様々な楽器でございますか? 例えばどのような?」
俺は絵に色々と描いて、こんなものとかを説明していく
「まるで想像が付かない楽器の数々。素晴らしいです。ぜひ私にお手伝いさせて下さいませ。あと知り合いの吟遊詩人を誘っても宜しいですか?」
「もちろん! 願ってもないよ。あと演者にエルフも来ると思うんだ。歌劇をやりたいんだよね。演奏と歌、劇。それを組合せた物だよ」
「なんと夢のような・・・ 吟遊詩人は何人でも宜しいのでしょうか? 勿論私が認めた腕のあるものだけですけど」
「バンバン連れて来て。もしかしたら王家の社交会で演奏したりすることになるかもしれないけど大丈夫かな?」
「なんとっ! 王家の社交会で演奏をさせて頂ける可能性があるのですか。今まで演奏など一部の人にしか理解してもらえなかったのが、夢のようでございます。本当にこちらに来て良かった・・・」
いや、こちらこそ本当に良かったよ。これで色々とやりたいことが進むな。
その後、ロンとマンドリンに新作のお願いをした。魔女っ娘にしつこく握手を求めたり乱暴したりする子供に熊の怪人がお仕置きをするストーリーだ。あと最後のセリフに「しつこいのと不潔な人は大っ嫌い!!」というのも追加しておいた。これで特殊な人達も風呂に入るだろう。初夏でこの臭いなら夏とかとんでもないことになるからな。
次はミサ達の店だ。
「あっ、ゲイルくーん。ペレンももう来てるよ」
「ちっす!」
軽いなぁ。
「どうだ? デザイン進んでるか?」
「うーん、なかなかこれっていうのがねぇ」
ん?今夏服デザインしてんのか?
「これ、来年の夏向けか? それまで店に服を置かないのか?」
「今年の夏のです」
目がギンギンのショールが答える。
「お前らアホか。今、夏服デザインしてて間に合う分けないだろ。今年の夏服は今店頭に並べておくものだ。今から準備するなら冬服に決まってんだろっ。9月半ばから末に冬服を売り出すんだよ。今やるのは冬服だ」
「えっ?」
「あのなぁ、服ってのは逆の季節のを作るんだよ。生産に時間掛かるからもう少し早くに取り組まないとダメなんだよ。今から冬服やってギリギリだ。取りあえず今年の冬はエイプの毛皮のコートを考えろ。ブーツはロングとショート。でだな・・・」
サッサッサッと冬に女性社員が着てたような服を描いていく。あとはもう少し年齢層下の娘達が着てたのはこんな感じか。
「靴にも毛皮使うのー?」
「こんな風になってたら可愛いだろ。紐の所にもこんなボンボリ付けたりとかな」
「わー、さっすがゲイルくん。ネイルもこれと同じデザインとかにしたら売れるかもー」
「ネイルって何かしら?」
「爪をこうやってねー」
女性同士の話がはじまったからおいとましよう。もう付き合ってるのしんどい。
その後、役所に寄って、フィギュア喫茶と演奏ステージ付きのレストランをフンボルト達に作るように指示をしておいた。あと魔道ライトを組み込んだショーケースとかも。
これで、数日様子を見てから出発だな。片道1か月として、往復2か月。予備日含めて3ヶ月あれば大丈夫だろうから、南の領地に行くのに間に合うだろう。
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