第509話 ミグル襲われる

「ただいまぁ」


「あら、どうしたのゲイル。ダン達は?」


「ダンはジョン達に同行して貰ってる。今別行動してるんだ」


「そうなの。なんか皆疲れてるわね?」


アイナに板芝居の事を話して、王都にいられなくなったことを説明する


「あーはっはっはっ。それは凄いわね」


人の不幸を笑うアイナ。


「母さん、笑い事じゃないんだよ。もう凄いんだからね。しばらくしたら落ち着くと思うんだけど、しばらくここでゆっくりするよ」


皆もずっと働き詰めだったので休養するのも良いだろうと思うけど、ショールが心配だからドワンの所に行かなければ。


その日はゆっくりと休んでぶちょー商会に行く。


「坊主、全然手紙も寄越さんな」


それどころじゃなかったからね。


「急ぎで作って欲しい物があるんだよ」


「そんなこったろうな。手紙では無理な難儀なもんなんじゃろ?」


「当たり」


という訳でミシンの作成だ。


俺も仕組みをハッキリ覚えているわけではないので苦戦するだろうな。


「とまあ、こんな感じの機械なんだよ」


「これはどうなったらこうなるんじゃ?」


「わかんない」


は?


「お前がわからなんだら作れんじゃろが」


その通り。でもやらねば服の生産が間に合わないのだ。


「一緒に考えよ」


「ったく、お前ってやつは。今日は帰れると思うなよ」


これ、本当に過労死するかもしんない・・・


取りあえず、覚えているものから作成していき、足踏みで針が上下する所までは完成。


問題は上糸と下糸がどうやって縫われているのかだ。ボビンとかいうのを上と下にセットしたのは覚えている。下に入れるやつはなんか別のケースみたいなのにいれたよな?


「この下のがどうやるかなんだよね」


「こんな針が上下するだけで縫える訳がないじゃろが?普通はこう縫うもんじゃろ?」


ミーシャもうんうんと頷く。ミケは飽きてバルに行ってしまった。接客するつもりなのかもしれない。働き者だよなあいつ・・・


「ゲイル、機械で縫うと手で縫うのは同じ縫い方?」


いや、違ったはずだ。まず、上の針の糸を通すところが違う。

この糸が下に来て上に来て・・・


あ、何となく思い出して来た。


「下のを糸をセットするやつが重要なんだ。上の針が降りてきたら、その糸を輪っかにして、下の糸を巻き込むというのかな?こんな感じ。で、針が上がるときにきゅって縫い合わせるんだよ」


「なら、それを作れば解決するのじゃな?」


やってるうちに家にあった足踏み式ミシンをバラバラにして怒られた記憶が甦る。俺は小さい頃からなんかをばらしたりするのが好きだった。ばらしては元に戻せずを繰り返して、目覚まし時計はおとし玉で弁償させられたりしたよな。最高に怒られたのは親父の腕時計をばらした時だ。ちゃんとした工具がないのにマイナスドライバーで無理矢理こじ開けて修理にも出せなくなったのだ。今思うとあの腕時計高かったのかもしれない。あ、カメラばらした時もめちゃくちゃ怒られたな。そういや電動髭剃りもモーターまで分解したりとか・・・


「こらっ、坊主。聞いてんのかと言っておるんじゃっ」


「あ、ごめん。聞いてなかった」


「じゃから、これがこうなればよいのじゃな?」


ドワンが糸を使って説明する。


「うんうんそんな感じ」


「なら、飯じゃ。試作はそれからじゃっ」


バルに移動したらやっぱりミケが接客してた。


「何にするん?」


「チュールにお任せって言って。腹に貯まるやつ」


「何でもええねんな?」


「自信作出してと言っておいて」


と言ったら出てきたのは酢豚だった。しかし、豚肉は揚げておらず、とろとろに煮込んだ奴だ。そう豚の角煮を甘酢餡掛けにしてあるのだ。新しいな。酢豚の豚肉は揚げてあるものという固定観念がある俺には作れんな。


お、旨い。角煮に甘酢餡を掛けたらこんな風になるのか。これ、角煮を揚げたら更に旨くなるかもしれん。


「どうですかゲイルさん?」


チュールが挨拶に来た。


「旨いよ。また腕を上げたね」


「ありがとうございます。自分なりにゲイルさんから教えて貰った料理をアレンジしてみました」


「これ、この豚肉を揚げたらもっと旨いかもしれんよ」


「えっ?」


「いや、この餡と豚肉の絡み具合をもう少し強調できるんじゃないかなって。餡の味が来てから角煮の味がくるだろ?同時に来たらどうなるかなって思ってね」


「たっ、試してみます」


ということで作り直して来たバージョン


お、更に旨くなった。


「ゲイルさん、こっちの方が旨いです・・・」


いや、落ち込むなよ。


「チュール、明日新しい食材渡すからそれで作って欲しい物があるんだ」


そういうとパッと明るくなるチュール。


「大豆を水に浸けておいて、それを使うから」


そう、作って欲しいのは麻婆豆腐だ。あれ好きなんだよね。


「坊主、食ったら戻るぞ」


あぁ、せわしない。自分のせいだけど・・・


ミーシャとシルフィードもバルの部屋に泊まらせ、俺は徹夜でドワンとミシン作りに勤しみ、その日以降ぶちょー商会で泊まり込みながらあーだこーだとやっていた。アーノルドが手伝ってやろうかと見に来たが、君では役に立たないのだよ。



ー王都に戻ってきたダン達ー


「やっと王都にたどり着いたな」


東門から帰って来て、ヘロヘロしながら歩くジョン達。


「つ、疲れたのじゃ。昔はこんなの平気だったのじゃがのう」


「ミグルは歳なんじゃないか?」


ジョンの悪気ない突っ込み。


「違うわっ!まだピッチピチじゃ。ゲイルがおらんから飯も不味いし、寝床も硬いから疲れたのじゃ」


「ぼっちゃんがいると冒険も旅行みたいなもんだからな。ぼっちゃんの便利さが改めてよくわかったわ」


ゲイルはダンを便利屋呼ばわりしていたが、ダンもまたゲイルを便利屋扱いしていた。



「なんだこれ?」


西の街まで到着するとワラワラと人がいる。しかも同じような服を着た女の子達が小さな杖を振り回して何かを叫んでいるのだ。


「あっ、ヴィオレちゃんだ」


ミグルに寄ってくる男連中。


本物だっ 本物だと周りを囲まれていく


「な、なんじゃお主らは? ヴィオレとはなんじゃ?」


「あ、握手してください」


「何を言うとるのじゃお前らは?」


「ダン、なんだこいつらは?」


「わからん」


握手してくれっ 握手してくれっ


「これ、よさんかっ、やめろと言うておるのじゃっ。ギャーーー誰じゃ! いまワシの尻を触ったやつはーっ!」


どんどん揉みくちゃにされるミグル。それに巻き込まれるダン達。


「お前らやめろって言ってんだろっ離せっ」


ドジっ娘ヴィオレには特殊なファン層が出来ていた。


その騒ぎにつられて集まってくる子供達が着ぐるみに攻撃するがのごとくミグルにアタック。


ぶっ


「誰じゃ今ワシを殴ったやつ・・・」


ドカドカドカッ


「ふんぎゃぁぁぁ!」


「あーっ!本当にふんぎゃぁぁぁって言うんだ。おもしれぇっ。もっとやれー!」


悪ガキどもに殴られ、特殊なファンからは握手してくれ握手してくれ攻撃が衛兵が来るまで続いたのであった。



やっとの事で屋敷に戻ったミグル達。


「なんなのじゃあいつらはっ」


王都に帰って来るなり襲われたミグル。


「ヴィオレちゃん、ヴィオレちゃんなどとぬかして襲ってきたのじゃー。これはゲイルのせいか? あやつが何かやらかしたに決まってるのじゃ。ゲイルー!ゲイルはどこじゃー!!」


そこへミサ達が帰って来た。


「ミサっ! ゲイルはどこじゃっ」


「あっ、お帰りー! どーだったー?」


「それどころじゃないわっ! ゲイルはどこじゃっ」


「どーしたのー?」


「住民に襲われたのじゃ! ヴィオレちゃん、ヴィオレちゃんと言われてなっ」


「あー、さっきの騒ぎはそれだったんだー」


「何か知っておるのか?」


実はかくかくしかじかと説明するミサ。


「何をしてくれるんじゃあやつはーーっ!」


「もうビックリだよねー。ゲイルくん達はディノスレイヤ領に逃げたよ」


「なんじゃとーっ!」


「おい、俺達もディノスレイヤ領に行こう。このままだとミグルを追ってあいつらがここに来るかもしれん」


「よし、これからディノスレイヤ領に行くのじゃっ」


「馬車ないよー。ゲイルが乗って行ったから」


という訳で、ダン達は疲れを取らぬまま徒歩でディノスレイヤ領に向かったのであった。




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