第507話 ゲイルの勘

【魔女っ娘メイド ~領主に代わってお仕置きよ~】


これの中身を少し変更する。


緑魔女は植物魔法を使って悪者を拘束、紫魔女はファイアボールを使って悪者をやっつけて、黒魔女は猫獣人に変身して爪でシャッシャッと攻撃。これをお決まりパターンにしていた。


問題はファイアボールだ。


子供がこの物語にのめり込むと自分も魔法が使えると思い込んで真似をするだろう。魔法は強いイメージを持って魔力を注げば発動する。

これを見た子供が植物魔法や火魔法を使えるようになる可能性が高いのだ。子供が興味を持った物への集中力は半端ないからな。


植物魔法はまだいい。人を殺傷する能力は皆無といっていい。グリムナクラスまでいけばそれも可能だけど、そこまで到達するには魔力総量が足りない。それに植物魔法が使えるようになったら農業に役立てるから問題ない。


しかしファイアボールは危険だ。自立しかけているデーレンですら感情的になって俺に撃とうとしたぐらいだ。普通の子供なら喧嘩した時とかに撃ってしまうかもしれない。しかも無詠唱で。


「えっと・・・・」


「ロンでございます」


ばれてる・・・


「この紫魔女がファイアボールを使うのを無しにして、杖で攻撃するだけに変更してくれ」


「え?魔法で活躍する物語なんですよね?」


「あぁ、紫はドジっ娘設定だから慌ててしまって魔法が出ないように変更する」


「なるほど!それはいいですね。他のメイド達はどんな性格なんですか?」


緑:ヴェール/しっかりものの頑張り屋さん。いつもは大人しいが、紫のドジを叱るお姉さん役


紫:ヴィオレ/いつも騒がしくドジで失敗ばかりするダメメイド。略してダメイド。口癖は「~のじゃ」

本当は火魔法を使えるがいつも慌てて使えずに杖で悪者を殴って攻撃する。


黒:ノワール/ヴィオレの失敗をゲラゲラと笑いながらからかっていつも喧嘩をしている。

決めセリフ「ウチにかかればこんなもんや」


吟遊詩人も加わり、こうすればもっと面白いとか内容がどんどん変更されていく。


板の枚数もどんどん増えて、実演時間10分くらいだったのが30分くらいになってしまった。途中で休憩を挟もう。子供の集中力は15分くらいしか持たないからな。


まだもっと話を作りたいと二人が言い出してしまったので任せておく。こうして作品は原作者から離れていってしまうのだなとか思いながら紋章屋を出た。


昼飯にラーメン食べていこ。豚骨醤油だな。


俺のやることは終わってしまったので、屋敷に戻るとミケが帰って来た。


「どうした?しんどくなったのか?」


「いや、ウチがおったら余計に忙しくなるからって言われてしもてん」


ハハッと気まずそうに笑うミケ。


どうやら、売りに売りまくってもう勘弁してとなったらしい。


「ザックも贅沢な悩みだな。ミケは昼飯食ったのか?」


「まだやで」


「なんか食いたいものあるか?」


パリス達は自分達の賄いを食べてる時間だからなんか作ってやろう。


「魚やったらなんでもええで。作ってくれるん?」


「あぁ。じゃあアジフライでも揚げてやるよ。パンとご飯どっちがいい?」


「パンにタルタルソースと一緒に食べたいっ」


ということで、アジフライタルタルソースサンドイッチを作る。



「やっぱりゲイルが作るもんが一番旨いわ。他のとこのも旨いねんけどな、なんかちょっとちゃうねん」


「俺が作った奴を食べる事が多かったからな。俺の味に慣れてんだよ」


オフクロの味みたいなもんだろう。


「そやろか?一番食べたんはチュールのやと思うんやけどな。バルで賄い食べてたやろ?」


「チュールのは店の味だからな。毎回同じ味を提供しないとダメだからきっちり分量を計って作ってるだろ?俺のは感覚でやってるから微妙にムラがあるんだよ。それがまたいいのかもしれんけどな」


「そういうもんかな?あっ、もしかして愛情こもってるから旨いとか?ゲイル、ウチの事好きやろ?」


「あぁ、好きだぞ」


茶化して聞いて来たから真面目に答えてやると、顔が少し赤くなって耳の後ろをポリポリと掻くミケ。


「真面目な顔でそんなん言いなや。照れるやん」


「まぁ、みんな好きだけどな」


「そんなんわかってるわっ」


少し沈黙した後にミケが語りだした。


「ウチな、ダンから好き言われてん・・・。でもな、フランっちゅう人とウチと間違えてたかもしれへんねんて。ほんで謝られてん」


よくわからんけど、ミケをフランの代わりにしていたということかな?


「ミケとフランは似てるのか?」


「いや、似てへんって言うてた。ウチの仕草が似てるとこあるみたいでな、それでダンも気付かんうちにそう思てたらしい」


ダンも罪なことするな・・・

仕方がないけど。


「初めは代わりや言われてショックやってんけどな、なんか嬉しかってん」


「ん?どういうことだ?」


「ウチにもようわからへん。ダンがフランっちゅう人の事を好きやとハッキリ言うた時になんていうんやろ?なんか心のどっかが嬉しい言うてん。気持ちは悲しかったんやけどな。なんなんやろなこれ?」


これもしかして・・・


「なぁ、ミケって逃げてきただろ?」


「そやで」


「なんで西に逃げたんだ?他にも逃げられる所あっただろ?」


「なんでて言われても西に行かなあかんと思たからやで」


東は奴隷制度があるから単純に西へ逃げてきたと思ってたけど違うかもしれない。


「南の方にとかも逃げられただろ?」


「そんなん考えへんかったわ」


ミケはセントラル王国より東から来た。セントラル王国領土か違う国かわからないけど、ウエストランド王国に来るにはセントラル王国を通過しないといけない。これってリスク高いよな?地理がわからないから確信はないけど、それでも本能的に西へ来たのだろう。


「ミケ、お前、ダンの事をいつから好きだったんだ?」


「なっ、なんでそんな恥ずかしいこと言わなあかんねな。デリカシー無さすぎやでっ」


「あ、ごめん。ちょっと気になる事があってな・・・」


「は、初めっからや」


ボソッとミケが何かを呟く


「え?」


「な、なんでもないわっ!それよりコレお代わりやっ!」


へいへい。そういうと思って予備作ってありますよっと。


しかし、これ以上聞くのもなんだな。デリカシーが無いと言われてしまったからな。


俺もラーメンを食べたのにミケの食いっぷりを見ててアジフライをつまみ食いした。これ、ベントが作ったソースで食べた方が旨いだろうな。そう思いながら、お代わりをミケに持っていったのであった。



翌日以降、ミケは俺と行動を共にして、仕事をしていく。相変わらず全員休み無しだ。


南の街にミケとシルバーに乗って向かう。こら、ミケ、はしゃぐな。男のロマンを背中に感じてしまうだろうが。



「どうするか決まった?」


「おぅ、西の街に移転したい。ペレンは雇ってもらえるんだよな坊主様。」


「ディノスレイヤ領で無くていいの?」


「そっちも考えたんだが、革がどんなのが入って来るかわからんからな。王都なら伝がたくさんあるから、こっちでやりたいんだ」


なるほど。革の仕入れまで考えてなかったな。


「革ってどこから仕入れてるの?」


「だいたい北の街だ。あそこは色々な革をなめしたりしてるからな。魔獣や魔物の革も手に入りやすい」


北はギルド本部もあるからか。孤児達も手伝っているのかもしれん。


「わかった。工房と住居付き物件でいいよね?道具は自分達で用意してね。ペレンはどこに住む?」


「親父達の家があるならそこでいいよ」


「了解。少し広めの所を手配しておくよ」


「坊主様、その・・・あんまり広いと・・家賃がその・・・」


「それは心配しなくていいよ。売上の一部を家賃に貰うから。売上が多かったら高いけど、少なかったら少ないよ」


「そ、そりゃ助かる」


すぐに高額な家賃になると思うけどね。ペレンがデザインした靴の下請けもやらせるつもりだから。ペレンの給料はミサと相談となり、5月に引っ越して来ることが決まった。



それから2週間ほど経ち、板芝居が完成したので夜に屋敷で御披露目する。


「めっちゃおもろいやん。これウチらがモデルやろ?」


「そうやで」


と関西弁で返しておく。


「わ、私がお姉さん役・・・」


シルフィードも自分がモデルと分かり赤面する。


「紫魔女はミグルやろ。帰って来たら怒んで。ウチにやられてふんぎゃぁぁぁ言うとるとことかな」


ミケは楽しそうにそう言う。


「ゲイルくん、この魔女っ娘の衣装を作るんだよね?」


「そう。子供用のね。あと、シルフィ、ミケ、ミグルはまだ帰って来てないからミサが代役として3人の衣装を先に作って」


「えっ?」×3


「わ、私達がこの衣装を着るの?」


「そうだよ。中央公園で宣伝しないとダメじゃん。他の街から人を呼ばないとダメなんだから」


「えーーーっ」×3


「えへっ、楽しそうで羨ましいですね」


「ミーシャ、何他人事みたいに言ってるんだ?この悪者に絡まれる役はミーシャだぞ」


「えっ?」


マルグリッドはさすがに寸劇の仲間に入れる訳にはいかなかったので配役しなかったら少し拗ねていた。



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