第504話 職人探し
翌朝、ドン爺は俺が握った小さくてぎこちない寿司を美味しそうに食べ、帰ることに。
見送りの為に外に出ると護衛達はまた俺に臣下の礼をし、騎士団と衛兵団は俺に敬礼をしていた。使用人達も頭を下げていく。おにぎりの威力だな。
「ゲイル・ディノスレイヤ、並びに皆のもの。大儀であった」
俺は笑いをこらえてドン爺達を見送った。
隊列が見えなくなると皆やりきった安堵感とお褒めの言葉を貰ったことで歓喜の渦に包まれる。
「ゲイル様っ、ありがとうございますっ ありがとうございますっ」
支配人、人前で泣くなよみっともない。
住民達がもういいかな? という感じで近付いて来る。
「ぼっちゃん、王様とかどうだったんだよ? ちょっと教えてくれよ」
俺にはおっさん達が群がり、ミーシャ達にはおばさま達が群がる。どんなのだったか知りたいのと、この宿の料金はいくら位するんだとか興味津々だ。
ミーシャ達はこのドレスの事を根掘り葉掘り聞かれていた。
どこでどう話が変わっていったのか不明だが、結婚するときは白いドレスを着るという風習が西の街から広まって行くことになるのはもう少し後の話である。
宿の皆を労い、俺達も屋敷に戻ることに。
歩きにくいんだから着替えりゃ良いのに、せっかくだからと皆ドレス姿のまま、俺もタキシードのまま歩いて屋敷に戻った。王様の視察の帰りだったせいか、まだ観衆が多く残っておりめちゃくちゃ見られていた。
「どうだったのゲイル?」
「無事終わったよ。ありがとうねマリさん。お陰様でみんなちゃんと出来たよ」
ミケ以外。
「皆が着ているのが新しいドレス? 素敵ねぇ。私も作って欲しかったですわ」
仲間ハズレみたいになってしまったマルグリッドは少々お拗ねモードみたいだ。
「これ着てみたいん?」
ミケはそういうが、ミケやミーシャのだと胸元がブカブカだろうし、シルフィードやミサのは入らないだろう。
マルグリッドはミーシャとミケの胸元を見て恥をかくと判断したようで断っていた。
「そろそろ、ドレスから着替えろ。その生地洗うのは大変というかドレスは洗えんかもしれんからな。俺がクリーン魔法掛けてやるから早く脱げ」
「女の子に脱げとか平気で言いなや」
そんな意味ちゃうわっ
「早く着替えて来いって言ってんだよ。ショールが気にして待ってるだろ?」
皆を着替えさせたあと、マルグリッドも引き連れてショールの家に向かう。
そこに居たのは目が真っ赤でギンギンのショール
「お疲れ。無事に終わったし、ドレスも好評だったぞ。王様と王子様もサテン織りの生地に興味しめしてたからな。今度それを使った寝巻きを作ることになったから宜しくな」
「えっ? 王様と王子様の寝巻きを私が作るんですか?」
「そうだよ。献上品って事になるだろうから請求は俺にしてくれ。あと俺のというか皆のも後からでいいから作って」
王様と王子様の寝巻きを作れと言われて卒倒しかけるショール。
「サイズはどうしましょ・・・う」
「だいたい解るから適当でいいよ。寝巻きなんて多少大きく作ってあれば問題ないだろ?」
「そ、そういうわけにはっ」
「なら、エイブリックさんの所に連れてってやるから一緒に来い」
「で、殿下の私邸にですか? ムリムリムリムリっムリィィィィ」
ショールは卒倒してしまったのでこのまま寝かせておこう。全然寝てなかったみたいだからな。
急ぐ話ではないのでショールのお父さんに2日間は休みにしてやって欲しいと言って後は任せた。
「ほな、ウチらはザックのとこ手伝いに行ってくるわ」
ミケとミーシャはロドリゲス商会に向かっていった。休みでも良かったのに元気だな・・・
「ミサ、俺達はどうする?」
今日は仕事を入れていないから特に予定が無いのだ。
「ポットの店に行ってみませんこと?」
「じゃあ、そうするか」
4人でポットカフェに向かうと行列が出来ていた。
「これ、ダメだね」
「残念ですわ。クレープ食べたかったのに」
いや、あれからポットが毎日お菓子持ってきてるよね? 太ってもしらねぇぞ。
「定期馬車に乗って南の街に行ってみようか? 革製品の店を見てみたいんだよね。ミサの店にもバッグとか置きたいだろ?あと新しい靴とか」
「靴ー?」
「そう。背が高くなる靴とか欲しくないか?」
「えっ? そんなのあるのー?」
シルフィードも背が高くなると聞いて耳がピクンと動く。
この世界にはまだヒールが無い。ドレスもヒールがあればもっと映えるだろうからな。お洒落の基本は足元からとも言うし、靴は重要だろう。
ということで定期馬車に乗って南の街へ。しかし、整備された道でもそこそこ衝撃が来る。ゴトゴトとお尻に伝わる振動がむず痒いのだ。皆は平気そうだけど。
馬車から降りてもまだ誰かに尻を触られているようだ。今度ロドリゲス商会に椅子にクッション敷くように言っておこう。
プラプラと店を見て回る
「お買い物なら貴族街か東の街の方が宜しくなくて?」
「いや、実際に作ってるのは南の街だと思うんだよね。ショール達の店も元々南の街にあったんだよ。貴族街は知らないけど、東の街はそれを売ってるだけだと思うんだよね」
物の生産加工は南の街の特徴だ。
「買い物ならどちらでも宜しくなくて?」
「買い物じゃなくて、作ってる人に用事があるんだよ。新しい物を作らないといけないからね。それが出来る職人を探したいんだ」
「相変わらず貪欲ね。他の街から根こそぎ引き抜くつもりかしら?」
人聞きの悪いことを言うなよ。ショールの所も勝手に来ただけだ。
「発注依頼をかけるだけだよ。ミサも靴とか作れないだろ?」
「簡単なのは作れるとは思うけどー」
作れるのかよ・・・
「アクセサリーとか靴とか全部一人でやるつもりか?」
「無理ー!」
「だろ? だから発注受けてくれるところを探すぞ」
ということで何軒か革製品の店を回ってみる。どこも実用的なものばかりだな。個人的には好きだけど、オシャレとはちょっと違う。
マルグリッドは実用的な製品にはあまり興味がないようで暇そうにしている。
歩き疲れたので御飯にする。飯屋には期待出来ないので屋台で串肉を買って広場で食べる。
「串から直接食べるのは難しいですわね」
食べなれない串肉を下手くそに食べるマルグリッド。今日はビトーを連れて来なかったからな。たまには休ませてやれと俺が言ったのだ。
焼き鳥の脂で口元ベタベタじゃねーか。
食べ終わったマルグリッドの口を拭ってやる。
「あら、ありがとうゲイル」
照れることもなく礼を言うマルグリッド。世話焼かれ慣れしてるよな。
「ゲイルも付いてるよ」
そう言ったシルフィードに口を拭われる。やられると恥ずかしいもんだなコレ。
少しお腹が落ち着いた後に裏通りの店を見ていく。こっちは工房持ちの所が多いらしい。色々とあるな。ちょっと食器とか調理器具屋とか見てみる。
「お皿とかも売るのー?」
「いや、ちょっと見てみたかっただけ」
と言いつつ深皿をいくつか購入。旅先では俺が作る土魔法の皿だから味気ないのだ。ついでに店の人に器用な革職人を知らないか聞いてみることに。
「あー、いるけど・・・」
「いるけど、何?」
「そこの店の主人は気難しいんだ。娘と工房やってるとこなんだがな。おやっさんと娘がしょっちゅう喧嘩してるんだよ。下手な事を言うとお客さんまでどなられちまうぞ」
腕は良いらしいからそこを教えて貰って訪ねる事に。
ドワンガラガッシャーーーーン
「死ねよっ! クソ親父っ!」
「親に向かってなんだとてめぇーっ!」
どうやらあそこらしい。ドワンがいるんじゃないだろうな?
「おーい、靴とか見せてもらいたいんだけどー」
こぢんまりとした店に入り、工房と思われる中に声を掛けてみるも喧嘩の真っ最中で出てこない。
仕方がないので大声&風魔法でもう一度
「客だぞーーっ」
「なんだてめぇはっ! 勝手に店に入ってきやがってっ!」
いや、こういう店って勝手に入るもんだよね?
「靴を見せてもらいたいんだけど」
「勝手に見ていきやがれっ。ペレンっ許さんぞてめぇっ」
あ、また喧嘩しに行きやがった。仕方がないので勝手に店の商品を見ていく。
うん、縫い目とか丁寧だな。歪みも無いし、左右のバランスも良い。この男物のショートブーツとかアーノルドが好きそうだな。お、これは足先に保護板入れてあるのか。安全靴ってやつだな。ミゲルとか大工にもいいし、冒険者がバトルに使ったりするのにもいいよな。アイナがこれで蹴ったらオーガでもイチコロだろうな・・・ イデデデデッ・・・ おっ、これなんてスパイク付きじゃん。磯とか凍った道とかに重宝しそうだ。アイナが・・・ やめておこう。
より実用的に作られた靴を興味深く見ている俺とは違って、マルグリッドが隅っこにおいてある靴に興味を示した。
「これはどうやって履くのかしら?」
マルグリットが手にしているのはロングブーツだ。この世界に来て初めて見たな。ブーツは全部ショートブーツしか見たことがない。ロングスカートが当たり前だし、靴自体がオシャレではないので見せる必要もないからな。
「これはこの紐を緩めてから履くんだよ」
「どうしてこんなに長いのかしら?」
「オシャレに見せるためだよ」
「オシャレ?」
「ちょっとっ! あんた達何勝手に見てんのよっ、あたしの作った靴を気安く触らないでっ!どうせそれの価値なんてわからない癖にっ」
これを作った娘か。キリッとした目をしたチャキチャキの女の娘だ。袖まくりをした腕も威勢がよさそうだ。
ドタドタっとさっきの親父がやって来て女の子の頭をごつんと殴った。
「勝手に店に出るなって言ってあるだろうがっ」
「痛ってぇぇぇ、いきなり殴ることないだろこのクソ親父っ!」
あーあー、また始まったよ・・・
ゴスンゴスンッ
「いい加減におしっ! お客さんが来てるじゃないかっ!」
その奥から娘によく似た女性が出てきて、木槌で二人の頭をごつんと殴る。豪快だが中々に色っぽい感じの女性だ。
「ゲイルー、ドワンのオッサンの家に来たみたいだねー」
ミサよ同感だ。
こんなのに慣れている俺達。慣れていないマルグリッドは怯えていた。
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