第500話 大事に
また問題か・・・
南の領地のものが入り始めると同時に、ディノスレイヤ領、西の町、新領とあちこちから物が集中してくる。ロドリゲス商会の手が回らなくなる可能性が出て来た。大番頭の手腕で流通には支障が出てないが、ザックの担当する販売の方がパンクしそうだ。
「ザック、乗り切れそうか?」
「肉の販売の方がヤバイです」
「カルヴィンがやってるんじゃないのか?」
「ソーセージやハム、ベーコンの製造が追い付いてなくて、そっちに掛かりっきりなんです」
「人は増やしてないのか?」
「増やしてますけど追い付かないんですよ。大番頭が貴族街からのソーセージとかの大量注文を受けてしまってまして」
とうとう貴族街にも飛び火したか。これ他の商品もそのうち同じ事になるな。
「販売員がいればなんとかなるんだな?」
「はい、他の事は人を増やしながらなんとかします」
「ミーシャ、ミケ。悪いけど手伝ってやってくれるか?」
「いいですよぉ」
「ウチもかまへんで。売りに売ったらええんやろ?」
「ぼっちゃん、助かります」
「ちゃんと給料払ってやれよ。割り増しでな」
「わかりましたっ! ミーシャちゃん、ミケさん、仕事内容を説明しますのでこっちへ来て下さい」
ザックのやつ、軽くパニック状態だな。信用出来る商会があればもう1つお抱え商会持ってもいいんだけど、そんな所なかなか無いしなぁ。
ロドリゲス商会は信用第一で来ているし、俺の意向を汲み取って色々と先回りしてやってくれる。買い付け価格も売値も適正だ。任せておいてなんの心配もない。こんな商会他にはないだろうしな。
私の所にまかせなさいよっ!
なんか声が聞こえた気がするけど、あいつの所は親のやり方が気に食わないから除外。デーレンだけなら少し任せても良さそうな気はするんだけどね。
あの歳でしっかりしてるし商売熱心だ。俺に対してはあんなんだけど、ちゃんと教育してやればいい商売人になりそうなのに実にもったいない話だ。
さて、ミサ達は自分達の仕事に取り組み出したし、シルフィードもそこを手伝わせている。ミーシャとミケはザックの所にヘルプを出してしまった。残りの事は俺一人でやらないとダメか・・・ まさかこの歳で過労死するんじゃないだろうな?
えっと、次はラーメン屋達の麺の改善だ。南の領地で仕入れたにがりで豆腐を作ってみたけど不評だったのだ。これからもにがりはどんどんと入荷してくるから他で消費しないといけないからラーメンの麺に流用しよう。
ラーメン屋をやる人達を集めて麺の改良をすると伝えると目が点になった。今更? といった顔だ。けどやる。
にがりを少しずつ加え麺を作っていく。これは豚骨用かな? とか味噌用かな、鶏ガラ醤油はこれでとか。
もうやりだしたらキリが無いのだ。これ、完璧なのはオープンまでには無理だな。
仕方が無いのでスタート時は細麺、中麺、太麺だけ分ける事にする。縮れとか平打ちとかはそのうち進化させていこう。昨日よりは今日、今日よりは明日だ。常に進化を続けていくのが勝利の秘訣なのだ、と言い聞かせて妥協する。
ただ、重曹よりにがりの方がよりラーメンの麺らしくなったので進歩はした。しかしにがりは科学的に作られた物ではなく塩を作った副産物だ。入荷してくる毎にばらつきがある。それは職人魂で克服してくれ。職人とはそういうものだともっともらしい事を言って後は任せた。いくらラーメンが好きだといっても連日ラーメンばかり食べてるともうしばらく食べたくない。これ、少し口直しするための具があったほうがいいな。誰かにモヤシを作らせよう。温泉の熱を利用したら年中作れるしな。
屋敷に戻るとエイブリックから一週間後に宿屋に行くと伝言があった。それにドン爺も来るだと?
えらいこっちゃ。まぁ、当日に 来ちゃった てへ をされるよりましか。
翌日、高級宿屋に王様が来ちゃう事を伝えると大パニック。殿下でも眠れない日々が続いてたのに王様まで来るとかありえないからな。
料理長と晩飯のメニューを打ち合わせていく。支配人、料理長、仲居長が泣いて俺に当日来てくれと頼む。それは頼まれる前からの決定事項なのだよ・・・
全ての従業員と何度も予行演習をしていく。はいはい、そこの仲居さん、泣き出さない。まだ練習なんだから。練習でもこんなに緊張してたら当日どうすんだよ?
警備態勢もホーリックが居るからバッチリだ。勝手に護衛騎士団と打ち合わせをしてくれている。屋敷で飯を食いながら・・・
「ゲイル、宿屋の客寄せに陛下を使うのは貴方くらいよ。うちの父が知ったら腰を抜かすわよ」
「勝手に来るって言って来たんだよ。呼んだわけじゃないっ」
「でもエイブリック殿下はお招きしたのでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
「王様と第一王子が庶民街に泊まるなんて前代未聞よ」
俺もそう思う。
「マルグリット嬢よ、陛下は庶民街の視察ということになっておる。庶民の事をちゃんと見ているとのアピールを兼ねておられるのだ」
「どういうこと? ナルさん」
「朝から庶民街を馬車で見て回られるのです。最終的に今回の宿屋が終着点となり、我々だけでなく、騎士団も護衛につくことになっておるんですよ。当然私も護衛騎士団として同行いたしますぞ」
すんげぇ大事になってる・・・
当初の目論みは王子がお忍びで泊まった高級お宿をコンセプトにするつもりだったのに・・・
えらいこっちゃ えらいこっちゃと関係者各位に王様と王子が公式にこの街に訪れる事を通達する。なんてことしてくれるんだエイブリック。街全体がパニックになってるじゃないか。
俺は公式行事をしているドン爺とエイブリックを見たことがないんだよね。高級お宿の出迎えは俺がやらないとダメだろうしなぁ。正式な作法とか知らんぞ。
ということでベテラン文官のソドムにこんな時はどうすれば良いか屋敷で教えて貰う。
面倒臭い所作をぎこちなく予行演習してるとマルグリットがクスクスと笑って見ている。
「ゲイルは一人で陛下と殿下をお迎えするつもりなのかしら?」
「どういうこと?」
「こういう時は当主とその妻が揃ってお出迎えするものでしてよ。ゲイルは独身だからその代役、婚約者か母親とかかしらね」
おーぅ、アイナを呼ぶには間に合わない・・・
シルフィードと出迎えたら表だって婚約者だと紹介することになってしまう。シルフィードの将来を考えたらそれはまずい。ミーシャと出迎えるのもなんかおかしいし、うちの皆は俺がこうだから正式な所作なんてしらない。困ったな・・・
「お困りなら私が代役しましょうか?」
なるほど、マルグリットならなんの心配も無く任せておけるじゃん
「いいのっ?」
渡りに船との思いでお願いしようとするとビトーが、
「お嬢様っ! それではゲイル様と婚約したということになってしまいますっ!」
あっ! そうだよ。だからシルフィードと出迎えるのを躊躇してたんじゃないかっ
「あら、ビトー。余計な事を言うわね。ゲイルが気付いちゃったじゃない」
クスクスクスクス。
あっぶねぇ、マルグリットに嵌められるとこだった。油断も隙もねぇ。
「誰と出迎えるか考えておくよ」
「いつでも代役を引き受けましてよゲイル当主様」
完全にからかって遊んでやがる。こっちは大変だっていうのに・・・
いくら考えても答えは出ないので、もう女性陣全員で出迎えることにした。シルフィード、ミーシャ、ミケ、ミサだ。ショールは絶対無理と泣く。
南の領地からシルクのサテン生地のサンプルが届いているらしいので、皆のドレスを超特急で作って貰う。ショールはそれをするから挨拶はどうしても勘弁して欲しいと言うのでそれで手を打った。ショールの実家総動員でドレス作りが始まる。俺の服も必要だというので任せておいた。
先日エイブリックに言われた <変な事に巻き込まれるぞ気を付けておけ> という言葉がよぎる。
嫌な予感がしたのはこの事だったのかもしれない。
ダンがいたら、エイブリックを利用する事に異を唱えてたかもしれないな。大事になるから止めとけと。
ダンをジョン達に付いて行かせたのは失敗だったなぁ・・・
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