第499話 裏技

「よう、疲れてんな」


「うん、開店ラッシュ前でバタバタしててね。ポットの店も開店してから苦戦してたけど、なんとか上手く行きそうだよ」


ポットの店の経緯をエイブリックに説明する。


「なるほどな。タイカリン商会の娘か。そういやお前、入学式でやらかしたらしいな」


「喧嘩を売られたんだよ。というかあのタイカリンって酷いやつだよ。娘をけしかけて仕入れをなんとかしようとするなんて」


「まぁ、老舗の最大手商会だからなんでもやってくるだろう。それよりお前、ゴーリキー家を潰してやるとか言っただろ? 問題になってんぞ」


「あぁ、売り言葉に買い言葉ってやつだね。本気で言ったわけじゃないよ」


「いや、本気かどうとかの問題じゃない。お前の口から出た事が問題なんだ。苦情が来てんだよ」


また迷惑かけてたのか。


「ごめんなさい」


「まぁ、いいが、あいつは政治力があると言っておいただろ? なんか面倒臭い事に巻き込まれるぞ」


「もうたいがい面倒な事に巻き込まれてるから今さらだよ」


「そうか、いつもの事か。なんかあったら早めに言えよ。後で分かる方がややこしいからな」


「はい・・・」


「アルたちにダンを付けてくれたんだってな?」


「しばらく王都から離れられそうにないからね。アルもジョンも限られた時間しかないからこっちに付き合わせるのも悪いし、かといって3人だけでどっかに行かせるのも怖いからね」


「悪かったな。何も無いとは思うがダンがいない間は十分注意しておけよ。お前は味方も多いが敵も多いからな」


フラグみたいな事言うなよ。なんかあるような気がしてくるじゃないか。


「で、今回の用件はなんだ?」


「今回、ポットの店ですら開店から苦戦したから、他の店は先に手を打とうかと思って。特に高級宿のね」


「ははーん、俺を利用しようってんだな?」


「当たり! エイブリックさんを開店の来賓に招待するから来てくれないかな?」


「泊まりに行くだけでいいんだな?」


「うん」


「わかった。いつだ?」


「もういつでも開店出来る状態になってるから、エイブリックさんの都合に合わせるよ」


「なら、調整しておく。あとこの前貰った魚料理は出るのか?」


「確保済みだよ。冷凍のだけど」


「上等だ。デザートはチョコレートの奴を作れとポットに言っておいてくれ。店は違っても可能だろ?」


「わかった。手配しとくよ」


ということで話が付いた。開店日というより、開店前日に貸し切りにしてエイブリックを招待だ。その方が警備もやりやすいしな。


晩飯にドン爺が来ると言われていたが、あいにく来れなくなってしまい、エイブリックに南の領地でやって来た事とこれからやる予定の事を夜遅くまで話したのであった。エイブリックはニヤニヤしていたけど、まさかゲイル海釣り公園ハッケイパラダイスに連れて行けとか言い出さないよね?


お泊まりさせて貰って屋敷に戻り、高級宿屋と打ち合わせ。


宿の責任者や従業員達は殿下が来ると聞いて大騒ぎだ。今からそんなに緊張してたら身が持たんぞ


これで高級宿屋はなんとかなるだろう。次はイベントの仕掛けだ。取りあえず人が集まる工夫をせねばならんのだ。定期馬車を利用するような客。そうターゲットは小金持ちファミリーだ。馬車はそんなに高くはないので利用するきっかけを作ってやれは赤字は解消されるはず。



集客の仕掛けの為に紋章屋に絵を描けるか聞きに行く。劇をする準備はまだ整っていないので、簡単に出来そうな紙芝居ならぬ板芝居をやりたいのだ。


「どんな絵でしょうか?」


漫画チックな絵を説明していく。こいつは中々器用で俺の説明だけでイメージに近い下描を描いてくれる。


「ミサ、こんなイメージの服とか作れるか?」


「どうかなー? ショールを連れて来ようかー?」


そう、小熊亭で料理人見習いをしていたショールは結局ミサ達とブランド服を作る事を選んだのであった。


ミサがショールを呼びに行ってくれている間に紋章屋に物語を話していく。


【魔女っ子メイド  ~領主に代わってお仕置きよ~ 】


店で働く接客メイドが魔法使いに変身してタチの悪い客にお仕置きする話だ。所謂、勧善懲悪のお決まり物語。


「ゲイル様っ! これ面白いですよっ!」


紋章屋はストーリーを聞いてノリノリだ。


決めセリフ《悪いお客は領主に代わってお仕置きよ!》


うん、いける。なんせ大ヒットもののオマージュだからな。


後は緑魔女 紫魔女 黒魔女の色違いのコスチュームが作れるかどうかで売上が変わってくる。紙芝居の見学料はほぼただ同然にして、グッズ販売で儲けるのだ。魔法の杖とかは作れるから問題はコスチューム。ショールの返答次第でデザインを変えなければならないのだ。



「連れて来たよー」


「ミサありがとう。ショール、こんな感じの子供服を1枚銀貨1枚くらいで販売できないかな?」


「うーん、結構手が込んでるねぇ。あつらえなら時間も手間もかかるから無理かも」


「あつらえじゃないよ。サイズは3種類で既製品。服の上から着れるようなへらへらのでいいんだよ。問題はデザインだ」


「それならいけるかも。でもそんな服が銀貨1枚で売れるかな?」


「どうせ子供服なんてすぐにサイズが変わって着れなくなるんだから、そんなに丈夫に作らなくていいんだよ。それにこんな服見たことないだろ?」


「確かにこんな服見たことがない。これは同じデザインでこことここの色を変えたらいいんだよね?」


「そうだよ。なんなら、こうやってスカーフと腰の所を別布にしてやれば服は1つのパターンだけでいけるんじゃないか?」


「なるほど、それなら凄く安く作れるかもしれない。わぁ、やってみたい。創作意欲が沸いて来たわ」


あとは誰が実演してくれるかだな。紋章屋に聞いてみよう。


「お前、吟遊詩人の知り合いはいないか? この板芝居を演奏しながらやってもらいたいんだけど」


「いますいますっ! 自分に任せて下さいっ」


よし、こいつに任せよう。


すぐに板芝居用の絵を描いてくれるとの事で任せておいた。


「ミサ、お前はカチューシャと杖を作ってくれ」


「カチューシャってなーにー?」


「こんな感じの髪止めだよ」


「子供用だよね。素材は何にしたらいいかなー?」


プラスチックが無いからな。金属製だとこけた時に危ないかもしれん。子供はどんな使い方するかわからんからな。


「ショール、なんか良い素材知らないか?」


「革とか使えないかな?」


革を硬くすると脆くて割れそうだよな。それに加工賃も含めると原価率が上がってしまいそうだ。


「子供向けだからなるべく安い素材がいいな」


「それなら防具に使う虫の素材はー? 私加工出来るよー」


「そうなの? どんなやつ?」


「ゲイル君が使ってる竿の虫。あれの羽だよ」


あ、持ってるわ。南の領地のギルドに売るつもりで忘れてた。


「じゃ、それ渡すからお願いね。緑と紫と黒で。黒はミケみたいな猫耳付けて」


「ん? ウチの耳付けるん?」


「そうだよ。猫耳仲間が増えたら嬉しいだろ?」


「普通の人間がそんなん付けたがるかな? ウチが言うのもなんやけど」


「どうだろね、俺は可愛いと思うぞ」


「ほんま? てへへへっ」


俺に可愛いと言われて照れながらポリポリと耳の後ろを描くミケ。


「み、緑のは耳付かないのかな・・・?」


シルフィードが言う耳はエルフ耳の事だろう。すでに付いてる耳のところにエルフ耳・・・


ちょっとホラーかもしれない。しかし、そんな返答は出来ない。シルフィードは耳にコンプレックスがあるのだ。


「エルフの耳は美少女しか似合わないからね。色んな子供がいるだろ? だから付けない方がいいと思うんだ。似合わない子供が可愛そうじゃないか?」


「そ、そうなのかな?」


美少女と言われて照れるシルフィード。


「ゲイル、次はミケが拗ねましてよ」


「ウチの耳は不細工でもなんでもええいうこっちゃな」


あー、面倒臭ぇ・・・


こんな時にダンがいてくれたらそれとなくフォローしてくれるのに。俺一人で女の子ばっかりを相手にするのは無理だ。


ゲイルは改めて女の子は難しいとひしひしと思うのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る