第498話 販促活動その3
「ゲイル・ディノスレイヤ、なんで西の庶民街に殿下の料理人が店を出したのよ。庶民街に出すなら東の街に出すのが当然でしょっ。まさかあんたがズルいことしたんじゃないでしょうねっ?」
さんざん
「ズルってなんだよ? ポットにケーキを教えたのは俺だからな。店を出すなら俺が管轄する街に出すに決まってるじゃないか」
「あんたが教えたとか嘘つくんじゃないわよっ!」
「デーレン、ゲイルの言ってる事は本当よ。西の街はこれから流行の最先端の街になって行くのよ。ゲイルが作った料理とか道具とかあなたが見たことも聞いたこともないものばかりになるわよ」
「お、お嬢様・・・そんな事があり得る訳が・・・」
「さっきの果物・・・ パイナップルもチョコレートも西の街ではいつでも食べられるようになるはずよ、ねぇゲイル」
「そうだね。初めは店だけでしか食べられないけど、そのうちパイナップルは流通に乗せられるかな」
「なんであんたがそんな事を知ってるのよ?」
「そう手配したからに決まってんだろ? 他にもまったく今までとは違うお菓子や食べ物が続々と出てくるぞ。温泉付きの宿屋もどんどん出来て来るしな。酒や調味料の種類も飛躍的に増えたからお前が食べたことないものだらけになる」
「どっからそんなもの仕入れてくるのよ?」
「お前、商売人の娘だろ? 仕入れ先は自分で調べろ。なんでそこまで教えなきゃなんないんだよ」
調べてもロドリゲス商会からしか仕入れられないけどな。
「なんてケチなのっ? ちょっとくらい教えなさいよーーっ!」
「だから首絞めんなっていってるだろっ! 今度やったらデコピンじゃなしに電撃食らわすからなっ」
「何よ電撃って?」
「ビリっと痺れるやつだよ」
「やってみなさいよ」
は?
「何言ってんだお前?下手したら死ぬんだぞ電撃は」
「いいからやってみなさいよっ」
Mかこいつは?
仕方がないので極々弱めの電撃を食らわしてやる
「アババババババっ」
電撃を食らったデーレンは髪の毛が逆立ちアバアバと痺れている。めっちゃおもろい。
「これを強くしたら死ぬんだぞ。わかったか?」
「な、何よ今の? 私にも教えなさいよーーーっ!」
また首を絞めやがるのでさっきより強めの電撃を食らわしてやる。
「アババババババっ」×2
首を掴まれたまま電撃を食らわすと自分まで痺れてしまった。盲点だったな・・・
「ギャッハハハハっ! ゲイルあんたの髪の毛も逆立ってんで! なんちゅう頭や!」
二人のコント劇にミケが突っ込むと観衆からどっと笑いが起きる。まったく、泥棒口のデーレンと違って俺は芸人じゃないぞっ
笑われた俺は髪の毛を元に戻し、デーレンの口元を拭ってやる。もうコントは終わりだ
「なっ! 何すんのよっ!」
俺に口を拭われたデーレンは真っ赤になる。
「口をチョコまみれにしてるからだろうが。そのまま帰ったら恥かくだろ」
「よっ、余計なお世話よっ。貴方のハンカチが汚れちゃったじゃないっ」
尚、真っ赤な顔のデーレン。
「あぁ、これか?こんなのはほらこの通り」
クリーン魔法で驚きの白さに。
「なっ、何よ今のっ?」
「洗浄魔法ってやつだ。便利だろ?」
「洗浄魔法? 何よそれ? 私にも教えなさいよーーーっ!」
こうして俺とデーレンのコントは続くのであった。
「まったく、マリさんはなんであんなやつを誘ったんだよ?」
ようやくデーレンをあっちいけしっしっとした後に馬車に乗り込む。もう疲れたから帰る事にしたのだ。
「あら? 店の宣伝に役に立ったでしょ」
どうやら、マルグリットはデーレンの事をしっかり知っていたらしく、声が大きい事や、驚いたら言われた事を繰り返して言う癖も掴んでいたようだ。王都の屋敷に出入りしているのは事実らしいな。
俺がわざわざ庶民街でも裕福な東の街の公園でお昼とデザートを食べようと言い出したのは
そんな話をマルグリットとしているとシルフィードが、
「ゲイル、わざわざあの娘の口をハンカチで拭うんじゃなくて直接クリーン魔法を掛ければ良かったんじゃないの?」
と、ちょっと拗ねたような口振りで言う。
「あ、それもそうだよね。ついきちゃない口元だったので拭いてしまった」
ちょっとぷくっと膨れたシルフィードのほっぺたにもチョコが付いている。またわざと付けたのか・・・
ミーシャとデーレンの口元だけ拭って、自分の事には気付いてもらえなかったシルフィードは拗ねていたようだ。
「シルフィもほっぺたにチョコ付いてんぞ」
と言うとパアッと顔が明るくなったので、意地悪して拭うのではなくクリーン魔法を掛けると、あっ、としょんぼりするシルフィード。
いかん、アイナのSっ気が出てしまった。
「あんたイケズやなぁ」
とミケに突っ込まれながら屋敷に戻ったのであった。
その夜、ポットが上機嫌で売上報告に来てくれる。
「ゲイルさん、完売しましたっ! いきなりお客さんが増えて、てんてこ舞いでしたよっ」
「そりゃ良かった」
「しかし、急にどうしたんでしょうか?」
ポットはオープンから今朝まで閑古鳥が鳴いてたのが一転し、客が詰め寄せた事を不思議に思っているようだ。
「それはポット様のお作りになるお菓子が美味しいからですわ。でもこれでケーキがこの屋敷で食べられなくなるのが残念ですわ」
マルグリットにそう言われてポッと赤くなるポット。
「あ、あの・・・、マルグリットさんにはちゃんと作って持ってきますからっ」
マルグリットさんには? には?
「まぁ、嬉しいですわ。楽しみにしていますわね」
「は、はいっ! 喜んでっ!」
男だらけの厨房で料理とお菓子作りだけをしてきたポット。弟子に女性がいるとはいえ、女性に対しての免疫がないのだろう。マルグリットに掛かれば赤子の手を捻るようなもんだな。
こうしてポットは今後、マルグリットの
しかし、これからオープンする飯屋や飲み屋はなんとかなるだろうけど、高級宿が問題だな。一度使ってみてくれるとリピーター間違い無しなんだろうけど、安物のイメージが強い西の街で高級宿に泊まろうとするだろうか? ロドリゲス商会が運行し始めた定期馬車も利用客がさっぱりで大赤字だからな。
ポットの店ですらこうして販促活動をしてやらんと客が来なかったし。ちょっと読みが甘かったな。これは早急になんとかせねば。
始めに料金を安くして客を呼ぶやり方もあるんだが、高級店でそれをしたら逆効果になる可能性がある。安い客が来て安いイメージが付いてしまうのだ。そうなるとターゲットの富裕層を呼び込めなくなってしまうし、元の料金に戻した時に割高な感じがする。
これはちょっと裏技を使うか・・・
その夜、俺は招待状を作る。そうエイブリックを開店記念の来賓として招くのだ。街の視察を兼ねて来て貰えば箔が付くしな。
翌日、エイブリック邸に行って執事にエイブリックの予定を確認する。行けそうな日をピックアップしてもらってその日を開店日とするのだ。
「ゲイル様、ダン様とご一緒ではありませんのですか?」
「しばらく俺が王都から離れられないからアルの冒険に同行してもらってるんだよ。3人だけじゃちょっと心配だったから」
「さようでございましたか。ゲイル様の護衛でもあるダン様を申し訳ございません。先程のお話ですがエイブリック様に直接お話頂いた方が良いかもしれません」
「問題ありそうかな?」
「いえ、しばらくゲイル様がこちらにお越しにならなかったので陛下の機嫌が悪く・・・ その、エイブリック様に八つ当たりを・・・」
あー、ドン爺の事をほったらかしだったからな。
「わかった。じゃあ、直接エイブリックさんに話すよ。いつに来たらいいかな?」
「もし、ご都合が宜しければこのままお待ち頂ければと」
ということで、エイブリック邸の部屋に通される。もうこの部屋は俺の部屋みたいなもんだな。エイブリックが帰って来るまで厨房にでも顔を出そうかな・・・
と思いながら寝てしまった。まともに休みが無かった上に、息抜きを兼ねた販促活動でデーレンとのコントだ。心身ともに疲れていたらしい。気が付くと俺は執事に起こされているのであった。
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