第497話 販促活動その2

「なぜ、スカーレット家のお嬢様が庶民街のものなんかを・・・」


「この国で一番美味しいお菓子だからですわ」


「え?」


「ゲイル、たくさん買ってきたでしょ。この娘の分くらいはあるわよね?」


「食べきれないくらい買ってきたからね」


「ではビトー、お茶の準備をお願いね」


お茶の準備?


ビトーは馬車からティーセットを持ってきた。こんなの積んであるんだ・・・


マルグリットがお茶を淹れてくれるらしい。


「お、お待ち下さいっ。お嬢様にそのような事をさせるわけには・・・」


「あら?私、お茶を淹れるの上手ですのよ。それとも私の淹れたお茶なんて飲めないかしら?」


「い、いえ、そのようなことは・・・」


「なら、早くお座りなさい」


俺の隣に座ってたシルフィードがずれて席を譲る。おいっ、なんで俺の隣に座らせるんだよっ


「ゲイル、お湯をお願い出来るかしら?」


マルグリットの指示通りにお湯でポットを温め、茶葉を入れじょぼじょほっとお湯を入れる。


「あんた今なにやったのよ?」


「お湯入れたんじゃないか」


「どこから出したのよ?」


「魔法に決まってんだろ」


「なんでそんな事まで出来るのよっ」


「うるさいなぁ、俺は天才だって言っただろ。お前の使えない魔法と違ってなんでも出来るんだよっ」


「そんなのズルいじゃないっ!詠唱教えなさいよっ」


「詠唱なんて知らないって言っただろっ」


「なんで詠唱も無しにそんな事が出来るのよっ」


あー、面倒臭ぇ。


「お前の頭が悪いから理解出来ないんだよっ。いい加減面倒臭いぞお前っ」


「誰が面倒臭い女なのよっ」


マルグリットはなんでこいつを誘ったんだよ・・・


「ゲイル、もうお茶淹れるわよ。お菓子をお願いね」


マルグリットに促されて魔道バッグからバスケットを出してケーキやシュークリームを並べていく。


「なっ、何よこれ?それに何処から出したのよ?」


面倒臭いので無視だ。


「みんなどれにする?」


「教えなさいよーっ!」


きゅう~


「首絞めんなっ! 死んだ親の顔が見えたじゃねーかっ!!」


「ぼっちゃま、アーノルド様もアイナ様も生きてますよ?」


ミーシャに死んだ親は元の世界の親だとは言えない。


「とにかくっ、早くお前も選べ。食って行くんだろ?」


「だからこれが何か教えなさいって言ってるのよーっ!」


また首を絞めるからデコピンしてやった。


「痛っあ~! 何すんのよっ」


「お前が首を絞めるからだろうがっ! どんな教育受けてんだてめぇはっ」


クスクスクスッ


「仲が宜しいわね。羨ましいですわ」


「どこがっ!」×2


いかん、声が揃ってしまった。


「いいから、早く選べ。これが南国フルーツを使ったケーキ、こっちの黒いのがチョコレートソースが掛かったケーキで中にはイチゴが入ってる。これがシュークリーム、生クリームとカスタードクリーム入りだ。他のはクレープ。中身は食べてからのお楽しみだ」


俺が説明するもなんの事を言ってるのか理解出来ないデーレン。


「デーレン、お好きなのを先に選びなさい。私達は毎日ゲイルの屋敷で頂いているからどれでもいいのよ」


「ゲイルの屋敷で毎日? どういう事ゲイル・ディノスレイヤっ! 教えなさいよーーーっ!」


もうこいつイヤ・・・


「うるさいなぁ、お前はお子ちゃまなんだからフルーツケーキでも食えっ」


面倒臭いのでパイナップルたっぷりのフルーツケーキを勝手に選んでやる。


それを合図にそれぞれが食べたいものを選んでいく。シルフィードは真っ先にチョコレートケーキを選んだ。まだあるから慌てなくていいぞ。


「では頂きましょう」


ミーシャはシュークリーム、ミケとミサはクレープをチョイス。


「ミーシャ、クリームが口についてんぞ」


子供みたいに口の周りをベタベタにするのでハンカチで口を拭ってやる。


「食べ方教えただろ?」


「えへへ、こうやってかぶりつく方が美味しいんですよ」


それは認めるけど、みんな見てんだぞ。


「やった! チョコパインや! 当たりやで」


「こっちはオレンジとカスタードー! これも当たりだーっ!」


ポットの作るクレープにハズレなんてないぞ。それに人前で手掴みで食うなよ。


「何をボーッと見ているのかしら?早くお食べなさい」


うちの皆が楽しく美味しそうに食べてるのをボーッと見ているデーレンにマルグリットが食べろと促す。


「あ、あ、はい」


マルグリットもフルーツケーキを選び先に食べて見せる。さりげなくお手本を見せてやっているようだ。


デーレンはマルグリットを真似て一口サイズに切って口に入れる。


「な、何これ・・・」


面倒なので無視だ。俺もクレープをかじる。もちろん手掴みだ。ミサ達が手掴みでかじってる横でナイフとフォークなんて今さらだ。


「あっ! ゲイルの生クリームとイチゴやん。当たりやな。ちょっと頂戴!」


俺はダンと違うぞっと言い掛けてやめる。これは禁句だな。


「お前、チョコパインの食ってるだろうが。まだあるからどれか選んでみろよ」


「えー、さっきのサンドイッチでお腹いっぱいやねん。でも色々食べたいやろ?はい、これあんたが食べ。うちがそれ貰ったるわ」


ミケに食べかけのチョコパインとイチゴ生クリームを交換されてしまった。


「おいっ、これもう中身が無くなってるじゃないかっ!」


「そやで。でも味はするやろ?」


なんてやつだ。中身だけ食って俺のと交換しやがった。


「何これ・・・ こんなの初めて食べた・・・」


ぎゃーぎゃー騒いでる横でデーレンが呆然としている。


「どう?美味しいでしょ?」


「こっ、こんな物が西の街で売ってるんですか?」


「最近オープンしたお店よ。本来はそのお店で頂くものですけど、バスケットを持って行けばこうやって持ち帰れますわ」


「でも、凄く高いんですよね?」


「このケーキは銅貨10枚だったかしら?お茶とセットで銅貨15枚程度ですわ」


「えーーーっ! たった銅貨10枚っ?これ白砂糖を使ってますよねっ? こんなに甘くて美味しいお菓子がたったの銅貨10枚っ?」


いきなり大声をあげるデーレン。遠巻きに見ている観衆もその声にビックリする。


「驚きでしょう? 貴族街ならお茶すら飲めない値段でこんな美味しいお菓子もお茶も頂けるんですから」


「それに、この黄色い果物・・・は何ですか? 凄く甘くて爽やかな酸っぱさ・・・」


「それはパイナップルという果物よ。時々貴族街で手に入る珍しいものね」


「そんな希少な果物と白砂糖を使って銅貨10枚っ! それにこんなフワフワなお菓子なんてどこにも無い。なんて素晴らしいのかしらっ!」


どんどんボルテージが上がって声が大きくなるデーレン。観衆もそれを食い入るように見ている。


「当たり前でしょ。これは王家の社交会で出されるお菓子なんですもの」


「えーーーっ? 王家の社交会に出されるお菓子ですって? そんな選ばれし方々しか口に出来ないお菓子がたった銅貨10枚なんですかっ? なぜ、そんな特別なお菓子が西の庶民街で売ってるんですかっ?」


「エイブリック殿下の料理人が店を出したからよ。庶民にも是非食べて貰いたいと」


「なんとエイブリック殿下お抱え料理人が西の庶民街に店を出したのですかっ? 貴族街ではなく、西の庶民街にっ?」


「そうよ。気に入ったのなら行ってみると良いわよ」


「なんていうお店ですかっ?」


「ポットカフェよ。綺麗なお店だからすぐに分かるわよ」


「西の庶民街に出来たポットカフェに行けばこれがたった銅貨10枚で食べられるんですね? しかもお茶を飲んでも銅貨15枚。あり得ません。貴族街なら銀貨2~3枚してもおかしくないものがたった銅貨15枚なんてっ!」


素晴らしい、二人のやり取りは深夜のショップチャンネルを見ているようだ。


「これも召し上がってご覧なさい。このチョコレートというものは今年の社交会で出された新作ですのよ」


「なんですかこのほろ苦さと甘さが渾然一体となった美味しさはっ? 生まれて初めて食べる味ですっ。しかも今年の王家の社交会の新作ですって? それもたった銅貨10枚で西の庶民街のポットカフェで食べられるんですねっ?」


さすが最大手商会の娘だ。素晴らしい宣伝をしてくれる。こちらを見ていた観衆が走って行く姿が見えたから早速ポットのお店に向かったのだろう。



こうしてポットのお店は本日より満員御礼で毎日早々に売り切れる繁盛店となって行くのであった。





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