第496話 販促活動その1
翌日もお土産にする魚、カニ、貝類を確保した後、塩を作っているというところに訪問していた。にがりの事を聞きたいのだ。海水から取れるのは間違いないのだが、どうやったら抽出出来るのかわからない。元の世界で売っていたのは液体だったからな。
漁村からずっと反対側までいくと塩を作ってる村がある。
「ここはこうやって塩を作ってんだな」
目の前に広がる塩田は圧巻だ。ここで領内の塩を一手に作っているらしい。アルは初めてみる光景に感動している。
塩を作ってる人に話を聞いてみると塩を取った後の海水が苦いという。塩を取った後の海水がにがりなんだな。
使い道がないから捨てているとのことで、大量に壺を作り、ここに貯めておいて欲しいとお願いすると引き受けてくれた。10リットルほど入る壺1つに付き銅貨1枚で買い取ることに。次からは運搬しやすように樽を用意しよう。ただ同然の買い取り価格だが捨てるか壺に入れるかの違いだから構わないとのこと。取り敢えずお礼代わりに海塩を大量に買っておいた。
漁村に戻ってから貝の採取をお願いする。ここの砂浜でも干潮の時に捕れるらしいので、今後はコンテナを取りに来た時に捕って生きたまま輸送する事に。冷蔵しながらなら生きたまま持ってこれるだろう。ダメなら冷凍でもいいんだけど。あとカニもお願いしておいた。
お土産の魚介類を確保したので帰る事に。
アジのスモーク干物を婆さんにお裾分けして、イナミン屋敷で一泊してから王都に戻った。
帰り道は整備してきたおかけで揺れも少なくスムーズだ。山を越えた後は暖かさに慣れた身体に寒さが堪える。ダウンジャケット組、毛皮組に別れて着込んで耐える。少し残ってる雪を吹き飛ばしながらようやく王都に到着したのであった。ちなみに酒作りのジョージはそのまま南の領地に残った。ラム酒を完成させたいらしい。しばらくこっちには戻って来ないだろうな。
「じゃ、またな」
アーノルド達はディノスレイヤ領に戻って行き、俺達は王都の屋敷へと戻る。
その夜は屋敷に来る皆と海の幸パーティーをし、翌日はエイブリックの所へ海の幸を届けておいた。
王都に戻ってからダンとミケは以前と変わりないように振る舞ってるが、どこかギクシャクしている。しばらく距離をおいてやった方がいいかもしれん。
「ジョン、俺はしばらく死ぬほど忙しくなると思うんだ。もうすぐ開店ラッシュが始まるから」
「そうみたいだな」
「俺はここを離れられないからジョン達だけで冒険者活動をしてくれないか?」
「いいぞ」
「ダン、3人に付いてやってくれないか? 俺は王都にいるから特に護衛も必要ないしな」
「もう3人でも大丈夫じゃねーか?」
「慣れて来たときが一番危ないんだよ。エイブリックさんに頼まれてるし、なんかあったらとか思ってるとこっちも集中出来ないし」
「慣れか・・・ それはあるかもしれんな。ぼっちゃんは大丈夫か?」
「ここで俺が誰かにやられると思う?」
「そりゃそうだな。しかし、俺がいない間に南の領に行くなよ」
「この忙しさで行けると思う?」
「・・・無理だな」
「だろ? じゃ頼んだよ」
「了解。じゃ、明日ギルドに行って依頼受けるか」
「よし、討伐依頼を中心に受けよう」
アルも乗り気だ。
「ミーシャとシルフィード、ミケは俺を手伝ってくれ。マリさんはミサの商品開発を手伝ってもらえるかな?」
「良いわよ。化粧品とアクセサリーと服でしょ。私もそれをやりたいわ」
「僕とサラは手伝わなくていいのか?」
「ベントはやらなきゃならん事があるだろ?気持ちだけ貰っておくよ。1年なんてあっという間に過ぎるぞ」
「わかった。僕は僕のやらないといけないことに集中する」
うん、ベントよ、ありがとう。
翌日からダンは3人を引き連れて冒険に旅立って行った。俺が外出出来るようになってからダンと離れるの初めてだな。
ダンが休みの時とか別行動をすることはあったけど、こうしてしばらく離れるとなるとなんか不安感がある。自分でも気付かないうちにダンに依存してたんだな・・・
ダン達が居なくなったあとの数日後になごり雪が降った。そこから一気に春へと季節が移り変わろうとしている。しかし、それに気付けないほど働かされた。ブラック領地じゃねーか・・・
先日ポットの店がオープンしたが苦戦しているようだ。庶民達にケーキとかパフェとか見た事も食べた事もないものがとても高いと感じてしまうようだ。ケーキが銅貨10枚前後でお茶とセットにすると銅貨15枚。庶民街で昼飯を食うより高いのだ。
「ゲイルさん、値下げしたほうがいいんでしょうか?」
売れ残ったケーキは俺が買い取り、屋敷の皆のデザートにしている。それがポットにとっては申し訳ないようだ。
「値段下げちゃダメだよ。これでも利益薄いんだから」
貴族街なら5倍の値段でも飛ぶように売れるであろう商品。まだ金を使う観光客を呼び込めていないのが原因だ。品質や値段設定の問題ではない。
地元の庶民でも払えない金額ではないのだが、高級っぽい雰囲気のカフェにしたのも原因だ。少し敷居が高いのだろう。それに元々西の街に来る客はあまり金を持ってないからな。よし、
「ミーシャ、明日皆で中央公園に行こうか。季節も良くなって来たし、外でお弁当とデザートを食べよう。ちょっとここらで休みを入れないと身体が持たないわ」
「わぁ、そんな事をするの久しぶりですねぇ。ぼっちゃまがもっと小さい頃はダンさんがたくさん串肉を買ってくれて、はちみつの巣とか食べてましたよねぇ」
うん、俺もまるで昨日の事の様に俺も覚えている。
ミサ達も行きたいというので連れて行くことに。
「ゲイル、うちの馬車で行きましょう」
ビトーに御者をさせるからとマルグリットが言ってきた。まぁ、うちの威圧的な馬車より上品なマルグリットの馬車の方がいいかもしれん。
「馬車ってこんなに揺れたっけ?」
ガタゴトと動きだしたマルグリットの馬車に乗っているシルフィードがそう言う。
「これでも上等な馬車ですのよ。ゲイル達の馬車が揺れなさ過ぎるのよ」
上等な馬車とはいえ、ノーサス、ノーゴムの馬車だ。クッションがある以外は荷車と仕組みは変わらない。
パリス達にサンドイッチを作ってもらい、ポットの
「あそこのベンチがいいですわ」
人が多い公園の目立つ所のベンチが空いていた。
日差しは暖かくなっているがまだ肌寒いので猿の敷物を椅子に乗せ、ビトーがテーブルに布をかけてくれる。なんか上流階級の人間になったみたいだ。
高級な馬車を近くに止め、優雅なテーブルに様変わりしたことで周りがざわざわしだす。ここは東側にある大通りの公園とはいえ庶民街。貴族が来ることなんてほとんどないのだ。
見られてひそひそされるのはいつもの事だ。気にしないでおこう。それに今日は
「うわっ、このサンドイッチ、魚のフライが入ってるやん。めっちゃ旨いわ!」
上流階級の雰囲気をぶち壊すミケの関西弁。そのイントネーションは破壊力抜群で更に人目を集める。
「この卵のサンドイッチも美味しいですわよ」
それを上品に上書きするマルグリット。
「わー、甘いサンドイッチもあるー、これジャムだよねー?」
「ふぁい、おいひでふ」
一旦上流階級に戻った雰囲気を一気に遠足チックに持っていくミサとミーシャ。
もうなんの集まりかわからなくなる俺達のテーブル。遠巻きに見ている観衆からざわざわが収まらない。
サンドイッチを食べ終わり、次にケーキとお茶を用意していると誰か近付いて来た。ん? あの趣味の悪い服を着ているのは・・・
「ごきげんよう、マルグリット・スカーレット様」
従者と共に現れ、カーテシーで挨拶をする少女。そう、デ、デレ・・・なんだっけ? あっ、タイカレー商会のデレンだっけな。
「あら、どちら様かしら?」
「タイカリン商会の娘、デーレンにございます。いつもご贔屓ありがとうございます」
「デーレン?」
「はいデーレンです」
そんな名前だっけ? デーレン? デーレン・・・
デーレン デーレン デンデンデンデンデンデン♪
いかん、脳内で大きなサメが泳ぎ出した。あの映画を初めて見た時は衝撃だったな。
「あーーーーっ! ゲイル・ディノスレイヤっ。なんであなたがマルグリット・スカーレット様と一緒にいるのよっ」
「お前誰だっけ?」
「キーーーッ デーレンよっ! 忘れたのっ? 記憶力ないのっ」
覚えてるわアホ。
「そのデレンが何の用だよ?」
「デーレンよっ! デレンじゃないわっ」
「デレンデレン?」
「何よそれ?」
「いや、ちょっと言ってみたかっただけ。それより何だよ。お前学校サボったのか?」
「今日は休みよっ。あんた学校に来ないからボケてんじゃないのっ」
誰がボケじゃ。
「あー、うるさい。俺達は今からデザート食べるんだからあっち行けよ。マリさんも迷惑してんだろが」
「マ、マ、マ、マリさん!? まさかマルグリット・スカーレット様の事じゃないでしょうねっ。あんた何スカーレット家のお嬢様を愛称で呼んでるのよ。失礼じゃないっ」
「タイカリン商会の娘さん、貴方の方が失礼よ。ゲイルは私より身分も上なのよ。それに大手商会の娘とはいえ、庶民が貴族に対してその口の利き方は無礼討ちされても文句言えないわよ。控えなさい」
「し、失礼致しました。も、申し訳ありません、ゲッ ゲッ ゲッ」
なに悔しそうにどもってるんだよ。俺は夜に墓場で運動会とかしてないぞ。
「お嬢様っ」
従者に窘められるデーレン。
「申し訳ありませんでした。ゲイル様」
おーおー、涙を浮かべて俺の事を様付けしやがった。悔しいのう。ねぇ ねぇ どんな気持ち? とか言ってやろうか?
ちょっとSっ気が出てしまった俺。アイナの血がそうさせるのだろうか?
「マリさん、別にいいよ。学校を離れてるとはいえ、一応同級生だからね。デレン、別に謝らなくていいぞ」
「デーレンよっ」
「で、タイカレー商会がなんの用だ?」
「タイカリン商会よっ!」
「それがなんか用か? さっきも言ったけど今からデザート食べるんだよ。用が無いならどっか行ってくれ。うるさくて敵わん」
「誰がうるさい女なのよっ」
相変わらずめんど臭ぇ・・・
「ゲイルの同級生だったのね。なら一緒に食べて行きなさい。西の街で買ってきた美味しいお菓子よ」
「西の街のお菓子・・・ ですか? 貴族街の?」
「いえ、庶民街ですわ」
「えっ?」
デーレンはマルグリットの言葉が信じられないようだった。
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