第495話 ダンの本音

なんとか頭にこびりついた曲をぬぐい去り、ダンにそれとなく聞いてみる。


「込み入った話を聞いていいかな?」


「なんだよ改まって?」


「ダンはミケの事が好きなんだろ?」


どこがそれとなくだ。火の玉ストレートじゃないか・・・


「は? 何んだよいきなり」


「いや、ちょっと聞いてみたくなってね」


「ぼっちゃんまでアーノルド様と同じことを言うのかよ? 親子だなやっぱり」


ん?アーノルドもなんか言ったのか?


「俺はそんなにミケとイチャイチャしてるように見えるのか?」


うん。とは返事しない方が良さそうだな。


「いや、そういうのじゃないんだけど、敵討ち終わった後からなんかダンの雰囲気変わっただろ? 踏ん切り付いたんじゃないのかな? と思って」


「まぁ、心に一つ区切りが付いたってのは確かにあるかもしれんな」


「ダンも良い歳だろ?結婚とか考えないのか?」


「俺にはそんな資格はねぇ。多少強さがあっても大事な者を守れなかった愚か者だからな」


・・・そんな事を言うなよ。


「俺の事は守ってくれたじゃないか。お陰でピンピンしてるぞ」


「あれは俺のヘマだ。トカゲが来ているのを寸前まで気付いていなかったからな。それに俺が居なくてもぼっちゃんならなんとかしただろ?」


そんな事はない。ダンが身代わりになってくれてなければやられていただろう。


「ダン、俺は守ってもらったと思っている。あの時だけでなくずっと昔からだ。俺がこうやって好き勝手出来てるのもダンのお陰だからな」


「どうしたんだ? 殊勝な事を言うじゃねーか。いつもは便利屋呼ばわりしてるくせによ」


「それは否定しないけど・・・」


「しろよっ!」


「あー、とにかく俺はダンに幸せになってもらいたいんだよ」


「うん? それは大丈夫だ。十分に楽しんで生きてるぞ」


俺のノーコン火の玉ストレートはボールになってしまったな。このままではファーボールを出してしまうかもしれん。


「ダン、茶化してるとかじゃなく真面目に聞くからな。お前、ミケの事をどう思ってる?」


・・・

・・・・

・・・・・


「言わなきゃダメか?」


「別に俺には言わなくていい。それをミケに伝えてやってくれないか?」


「なんでそんな事を言うんだ?」


「ミケは泣いている」


「は?」


「ダンに嫌われたかもしれないと泣いてるって言ってるんだよ。お前、ここに来る途中からミケを突き放したんだろ? 理由もわからず突き放されたりしたら辛いだろ? 本当は俺が口を出すような話じゃないけど、あんなミケを見てられなくてな」


「そうか、ミケはそう取っちまったか」


「あぁそうだ。ここで魚食ってる時もダンのそばに行ってないだろ?」


「分かった。合流したら話すわ」


「うん、お願いしとく」



その話をした後は旨いはずのヒラメの昆布〆は味がしなかった。



翌日からまたカカオ畑の拡張を行っていき、どんどん実らせて収穫してもらった。そしてまた植物魔法を注ぎ込む。これで初夏から通常の収穫が可能だろう。


「ゲイル、これも発酵とやらをさせて送ればいいんだな?」


「うん、雪解けして街道が使えるようになったらお願いね」


通常に収穫出来るようになったら製品を一部支払いの代わりにすることに。


カカオ畑が終わった後はパイナップル畑だ。こちらは木が少ないのでスピードが早い。開墾したあとはハッケイ家が馬用の農機具を購入し、農家に貸し出すとのこと。ナンゴウは俺がどうやって農民達に畑を任せているのか教えて欲しいと言われて教えた所、同じ方式を取るようだ。



夜の釣りはそこそこにしておく。魚屋ブリックがいないのでもう魚をさばくのが面倒臭いのだ。


翌朝からナンゴウと共にサトウキビの婆さんの所に行き、魚料理を振る舞う。婆さんは頑なに屋敷には戻らないと言っていた。


ナンゴウは嫁さんと婆さんが揉めた時に嫁さんの肩を持っているのが原因だった。まぁ、それは仕方がないよね・・・



イナミンの屋敷で全員集合して、帰還の予定を決める。俺はまだミンミンの所に行かねばならないのだ。


ドワン達は釣り公園で俺達を待つとのこと。他は俺達とまたミンミンのところに行くことになった。


俺はディノスレイヤ家の馬車に乗り、アーノルドと御者台で話す。


「父さん、ダンにミケの事でなんか言った?」


「おー、あいつらくっつくのか? ダンも吹っ切れたみたいで良かったよな。来るときにイチャイチャしてんなぁと言ったら真っ赤になってたぞ」


これが原因か・・・


アーノルドはダンが前に進み出した事を素直に喜んでいるだけだからタチが悪い。こんがらがってしまった今の関係には気付いてないのだろう。



ミンミンの所に来て色々と見学させてもらう。


「おぉー、養蚕してるのかぁ。」


名産の糸は絹糸だ。但し、蚕と違って親の蛾がデカイ。俺、虫の中で蛾とか蝶が苦手なんだよな・・・


「これさ、中のサナギはどうしてるの?」


「燃やしてるわよ」


「これ乾燥させて潰したら魚の餌にもなるし、肥料にもなるんだよ」


「何?肥料って?」


「木や野菜の栄養だよ。使わないなら欲しいくらいだよ」


「いくらでもあげるわよ。乾燥させとけばいいのね?」


「え?いいの?」


「燃やすのも結構手間なのよ」


ラッキー!


それから定置網の相談をしてみる。


「かなり大掛かりな仕事ね」


「そうなんだよ。でもこれがあると飛躍的に魚が捕れるようになるんだよね」


「分かったわ。高くなるけどいいかしら?」


「どれくらい?」


「金貨50枚ってところね」


5千万円か。想定より安いな。金貨100~150枚くらいかなと思ってたからな。


「じゃ、それでお願い」


「え? 金貨50枚よ。それを魚なんかの為に使うの?」


俺にとっては宝石の金貨30枚より価値がある。


「そうだよ。ここではわからないかもしれないけど、それだけの価値はあると思うんだよね。輸送や船にも投資してるし、これが無いとそれが回収できないんだよ」


「あんた、なんか凄いわね。分かったわ。いつまでに出来てたらいいの?」


「船が出来る頃と同じくらいだから秋には欲しいな」


「分かったわ。作らせておくわね」


次にミサが服のアイデアが欲しいとのことで生地を織っている所に案内される。


このシルクっぽい糸の光沢を生かした服を作りたいそうだ。


「これ、何織りしてんの?」


「何織りって?」


「生地を作る時の織り方だよ」


「そんなの交互に織るのに決まってるじゃない」


平織りか。


「これ、サテン織にしたらもっと光沢出るよ。生地の強度は落ちるけど、ドレスとかチーフとかにはその方が良いと思う」


「何それ?」


知らないみたいなのでサテン織りの説明をしていく。織り機の仕組みはよく知らないからそれはそっちでやってね。


それも試してみるとのことで、シルクっぽいのと綿の両方で試すようだ。


後は豚だ。やはりここの豚は黒豚だった。雌の子豚を20頭程売ってもらうことになったので、王都とディノスレイヤ領の豚と掛け合わせてみよう。



ミンミンの所との打ち合わせも終わり、また皆で海釣り公園に行くことになった。ロドリゲス商会は南の領内の鮮魚(冷凍含)と王都との輸送を引き受け、王都経由の品物は卸すのみとなったようだ。ロドリゲス商会が繁華街に商店を出すと影響が大きすぎるとホーチミンが難色を示した為である。細々した打ち合わせが長引くようで釣り公園には来ないとのこと。


ディノスレイヤ家と俺の馬車で釣り公園に向かう。仕事は終わったので後は遊んで帰るだけ。



釣り公園に着くとドワンは不機嫌だった。


サビキ組は好調に釣れ出す。良型のアジ連発だ。刺身にもフライにも干物にも出来るからどんどん釣って貰ってブリックが処理していく。


ふと気が付くとダンとミケの姿が無かった。



「なんなん?話って」


「あぁ、ぼっちゃんからミケの事を聞いた。悪かったな、突き放したつもりじゃなかったんだが、お前はそう取ったみたいだな」


ぐすっ


「いきなり目ぇも合わせてくれへんようになるし、近付いても離れたやん。ほんなんされたら誰かてそう思うわっ ウチ、なんか悪いことしたんっ?」


ぐすっ ぐすっ


「いや、すまん。アーノルド様にイチャイチャしてると言われて照れ臭かったのもあるんだが・・・  それ以外にお前に悪いことをしたなと思ってしまってな」


「悪いことことて何なん? ウチ、悪いことされたなんて思ってへん・・・」


「いや、俺の気持ちの問題だ」


ダンはミケに自分の過去とフランの事を話した。


「正直に言う。俺はお前の事が好きだ。だが、それはミケを好きなのかフランの影を追ってるのかが俺には分からねぇ」


「影? ウチとフランっていう人は似て・・るん?」


「いや、見た目は違う、雰囲気も違う。ただ何となくお前のする仕草がフランと重なる時があるんだ。俺はお前をフランの代わりに思ってたのかもしれん。すまん。ミケはミケなのに・・・」


「そう・・ やったんやね・・・・」


「すまん・・・」


「謝ることないで。しゃーないやん、ダンの心の中にフランちゅう人・・・が・・まだ居てはる・・・んやから・・・」


「すまん・・・」


「だから謝る必要ないって言うてんねんっ。謝まんなっ!」


ミケは苦しそうなダンの顔を見てどうしていいかわからずに怒鳴ってしまった。


・・・

・・・・

・・・・・


「こうして正直に話してくれただけで十分や。堪忍な・・・ 辛い思いさせてしもて。ウチは嫌われてないと分かっただけで良かったわ。ウチの事、嫌いになったわけとちゃうんよな?」


「当たり前だ」


「ほなら、もうええわ。この話は終わり。また友達として仲良くしたってぇな」


「もちろんだ」


そう言って二人はぎこちない微笑みを浮かべて握手をした。



「ダン、カニ居なかっただろ?」


「あぁ、この時期はいねぇのかも知れねぇな」


「テンヤにサバくくりつけておいたぞ。タコ釣ってくれ。お土産にしないとダメだからな」


「お、任せとけ。今釣るから唐揚げも頼む」


「ミケ、この前作ったアジの干物を軽くスモークしてみたんだ。今焼けたから早く食え」


「何これ?めっちゃ旨いやん。ゲイル天才ちゃうか。これ発明やで発明!」


「ミケさん泣くほど美味しいの? ご飯と一緒に食べたら号泣しちゃうんじゃない? はい、ご飯も炊けたよ」


「シルフィード、あんためっちゃ気が利くやん。うわっ、この魚に白飯サイコーやん。もう涙が止まらんくらいに旨いわっ!」



そうか、ダンはそういう結論を出したのか・・・


お似合いだと思ってたけど残念だな。




ゲイルは猫熊パンダを見たかったなと思いながらミケの為にアジのスモーク干物をどんどん焼いていったのであった。




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