第494話 リフレイン
泣いたまま寝てしまったミケに毛布をかけ直して部屋を出るとまだおっさん連中は飲んでいる。あーあー、あれだけ捕ってきたカニを全部食いやがった。ちょっとカニの茶碗蒸しとかもしたかったのに。
しかし、ダンには変わりはないように見えるけど・・・ どっちにしろ皆がいるから話をするのは無理だな。明日どこかで話そう。
朝飯を食べた後にアーミンは屋敷に戻り、俺達は漁村に向かう。ドワン達は酒作り、ミサ達はビトーが御者をしてミンミンの所へ行くとのことで別行動になった。次の集合はイナミン屋敷でと打ち合わせ、それぞれの仕事に向かう。
漁村に到着するとナンゴウと親方がすでに来ていた。
「親方がわざわざ来てくれたの?」
「てめぇが来いって言ったんだろがっ」
「いや、親方が直々に来てくれるとは思わなかったんだよ。じゃ、どこにするか教えて」
ったくこの小僧はっ! とかぶつぶつ言いながら場所に案内してくれる。すでに村長達とも話を付けていてくれたらしい。口と態度は悪いが仕事の出来る親方だ。
「ここからこれぐらいの長さの船着き場が必要だ。ちと潮が当たるがここしか条件に合う場所がねぇ」
「こういう形の船着き場にしたら潮の問題無くなるよね?」
地面に港をイメージして描いてみる。さんざん足場のいい港や防波堤を見てきたからだいたいの仕組みは分かっている。
「そりゃあ、こんなのが出来たら良いに決まってるだろうが」
ということなので漁港を作っていく。
「おいおいおい、なんだてめぇはよ?」
「魔法使いだよ。こうやって土魔法でなんか作ること多いから慣れてんだよ」
「慣れてるとかそんな問題じゃねぇだろうがっ」
怒鳴られながら出来たての防波堤を確認しに行くと先端部分に渦が出来ている。
「ここに渦が巻くと危ねぇな。船の操作が難しくなるぞ」
そうだよなぁ。でも漁港の事を考えるとこの形がベストなんだよね。
消波ブロック入れてみるか。
見慣れたブロックを作って沈めていく。渦の出方を確認しながらじゃぼじゃぼ沈めていくと渦が穏やかになって消えた。
「ありゃなんだ?」
「波消しブロック。潮の流れを抑えたり波を小さくしたりするものだよ」
そのあと、漁港に屋根を作り、コンテナもここに置こうというので土台を作り直して皆で運んだ。空荷だからなんとかなるもんだね。
うん、朝市をやってもおかしく無いような漁港になったな。
「小僧、お前便利だな」
便利言うな。
「親方、これで大丈夫だよね?」
あとは船を繋いでおくところを作れと言われたので見たことがあるやつをいくつか作っていく。あれなんて名前だっけな?昔の映画スターが足を置いてるやつだ。
大型船が定置網漁で魚を捕って収納。それをここに持って来て降ろすのにクレーンみたいな物があった方がいいな。これはドワンと相談だな。
あと船にもクレーンみたいな物必要だよなぁ。
親方が作ってる船にこういうものを取り付けたいと相談する。クレーンの根元はかなりの強度が必要だろうということで一部設計変更となってしまった。親方は文句を言いながらも初めて見る船を作るのに燃えてくれたようだった。
昼飯を漁村でご馳走になり、またカカオ畑を作り、海釣り公園に戻った。
俺達だけになった海釣り公園は静けさを取り戻したというか寂しく感じる。こんな時はパーティーだな。
「晩飯はタコ焼きにしようか?」
「なんだそれ?」
「前回作ろうと思って鉄板を作ったんだけどね、薄力粉が無くて作れなかったんだよ。今回はあるからやってみよう」
炭火の上にタコ焼きの鉄板を置いてまず空焼きをしてやり、冷まして油を塗り、また加熱。今度は多めの油を入れて加熱。次にネギとかを炒めて下準備完了。
「炒めたネギは捨てるの?」
「鉄板は初めにこれをしてやらないとくっつくし、鉄の味がしたりするからね。だからはこれは食べるもんじゃないんだ」
次に生地作り、粉1に対して出汁3。だいたいこんな割合だったよな。これに玉子と塩少々。刻みネギと・・・、天カス作らないとな。そう揚げ玉ではなく天カスだ。
色々と準備している間にダンはマヨ作り。シルフィードはご飯を炊いている・・・。いや、タコ焼きでご飯食う奴がいるというのは嘘だぞ。お好み焼きやヤキソバは食ったりするけど。それとも家でタコ焼きしてる時にはご飯食べてるのだろうか?タコ焼き屋には白飯置いてないからな。
タコを軽く下茹でしてぶつ切りにして準備終了。
鉄板を温め、油を入れて生地投入。続いてタコ、ネギ、天カスを入れて焼けてきたフチを切って中に入れてくるくるっとな
「わー、面白いっ! 私もやりたいっ」
「いいけど、簡単そうに見えて意外と難しいぞ」
一部の場所をシルフィード用にしてやるも、あれっ? あれっ? とか言いながらぐちゃぐちゃになっている。タコ飛び出てんぞ。
他の奴をくるくる回して形を整えたあと、シルフィードのぐちゃぐちゃになってしまったのを整えてやり、少し回しやすいように油を足してやる。揚げ気味にカリカリしたやつも旨いのだ。
「難しいねこれ」
「コツをつかんだらそうでもないんだけどね」
焼けたやつを皆の皿に乗せてソース、マヨ、鰹節を掛ける。
「ぬおっ!こやつまだ生きておるぞっ」
タコ焼きの上で踊る鰹節をみてミグルがそう叫ぶ。そんなわけあるか。
「熱いから気を付けろよ、一気に口に頬張るな。火傷すんぞ・・・」
「ふんぎゃぁぁぁぁっ!」
ブッ
べちょっ
「熱っつ! 吐き出すなよっミグル。俺まで火傷するだろがっ」
熱々タコ焼きで口の中を火傷したミグルはそれをアルにブッとぶつけてしまったのだ。
「ふ、ふまぬ・・・」
「まったく、気を付けろよっ! モグ あっづぅぅぅぅ ブッ」
「ふんぎゃぁぁぁぁっ! なっ 何をするのじゃっ!」
まったく何やってんだよあいつらは。治癒魔石を無駄遣いすんなよ。
「ぼっちゃん、これで終わりか?」
「いや、まだまだ焼くよ」
ホフホフしながらも食べるスピードが速いのでどんどん焼いていく。途中から皆もやりたいという事で交代した。もう後は好きに焼いて食べてくれ。俺はこの一皿で満腹だからな。最後はポン酢マヨにネギ掛けちゃお。
いつまでタコ焼き焼いてるのだろう? まだまだ食えるとか言ってるけど、知らんぞ後から膨れてくるからな。
あーあー、思った通りみんな腹パンパンじゃねーか。ミグルとシルフィードはより幼児体型になり、ミーシャは妊婦みたいだ。
「ダンももういいのか?」
「あぁ、こんな物でも腹が膨れるもんなんだな」
「これが粉もんの恐ろしさだよ。後から一気に来るからね」
もう今日は釣りをせずにみな大部屋へとむかった。個室空いてるのに・・・
「ダン、飲み足りないだろ?風呂でいっぱいやるか? タコを少し残してあるし、ヒラメの昆布〆ってのを作ってあるんだよ」
「おっ、いいねぇ。そうしてくれ」
他の酒飲み連中がいないのでタコ焼きの時もダンはあまり飲んでいなかったからちょうど良いだろう。
屋根の上の風呂に湯を貯める。南国とはいえ、真冬の夜はそこそこ気温が下がる。が、ここは冷酒だな。徳利に日本酒を入れてキリッと冷やして、ヒラメの昆布〆の刺身、タコの刺身、ワサビ、醤油、ポン酢と。ここにテーブル作っておけばいいな。
「準備出来たぞー」
そう叫ぶとダンが上がってきた。
「おっ、これ旨ぇな」
昆布〆の旨さがわかるのか。どんどん日本人舌になってきてるよな。
さて、ミケの事をどう切り出そうか。ダンには触れられたくない部分の話かもしれないしな。そもそも男女間の事には口出しする必要がないんだけど、ミケのあの姿見ちゃうとなぁ・・・
せっかくミケが楽しみにしていた南の領地。というか海釣り公園がこのままでは失意の場所となってしまう。お魚大好きのミケにとっては魚食べ放題のお魚天国。それはあまりにも可哀想だ。次に一緒に行こうと誘っても来なくなってしまうだろう。このお魚天国に。
お魚天国・・・?
サ◯ナ ◯カナ サカ◯~♪
いかん、勝手に曲が脳内に流れ出してしまう。
今はダンにどうやって話を切り出すか考えないと・・
何度も頭の中でリフレインするおサカナ。
ぶるぶると頭を振ってそれを振り払おうとする
「どうしたんだよ? ぼっちゃん。アタマでもおかしくなったのか?」
アタマ?
ア◯マ アタ◯ ア◯マ~♪
サカナは振り切れたが次のフレーズがゲイルの頭を支配していた。
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