第493話 ミケの憂鬱
「ミケ、どうした?」
「え? いや夕陽が綺麗やなと思て」
「そっか、今日釣れたやつはどんな料理にして欲しいかリクエストあるか?」
「何食べても旨いからなんでもええで」
元気なさそうに見えたのは気のせいか?
サバミンチのコマセでアジフィーバーが訪れているようでサビキ組はきゃっきゃとはしゃいでいる。ミケは俺に声を掛けられた後にその様子を見に行った。
ダンは大きなタコを釣り上げてご満悦そうだ。
ドワンは不機嫌そうだから近寄らないようにしよう。
俺はアジを付けて泳がせておこう。切られたらタチウオ狙いに変更だな。
ドワンから離れて外向きにアジを遠投しておく。当たりが無いまま日が沈み、魔道ライトを点けていくとミサがなんか騒ぎだした。
「ゲイルくーん、なんか変なの泳いできたー!」
どれどれと見に行くと
おっ、
「ミサ、これ掬うぞ!」
「なんなのこれー?」
「カニだよ、カニ。旨いぞ」
明かりに寄ってきたのか水面を泳ぐカニ。元の世界のよりデカいから嬉しい。タモで掬って確保。
これは罠を仕掛けておかねば。
カゴ罠を用意しようとしてるとアーミンがこちらにくる。
「なんだ、そいつなら河口に行けばいくらでもいるぞ。何するんだ?」
「食べるに決まってるじゃん!」
「食えるのか? それ」
えっ?
「ここでは食べないの?」
「あぁ、そんなの食うやつおらんぞ」
マジで?ウソだろ?
「アーミンが食べないんじゃなくて、皆が食べないの?」
「食ったら全身痒くなると言われてるからな」
なるほど、昔甲殻類アレルギーの人が出たことがあってそのまま食べちゃダメだとなったのかもしれん。でもエビは食ってたよね?
「エビは?」
「食うぞ」
不思議だ・・・
「カニとかエビ、サバとか食べるとそうなる人がいるけど、全員じゃないよ。一度なった事がある人は食べない方がいいけど」
「そうなのか。じゃ一度食ってみるか。お前らが作る飯には興味があるからな。今から河口に行ってみるか?」
行く行くということで馬車のライトを点けながらレッツゴー!
海面を魔道ライトを点けるとうじゃうじゃ寄ってきた。なんじゃこれ?
「アーミン、めっちゃ捕れたよ」
「どうやって食うんだ?」
「これだけあるから色々作れるよ。早く帰ろう」
釣り公園に戻るとドワンがめっちゃ上機嫌になってる。何が釣れたんだろ?
「がーはっはっはっ!」
「おやっさん、何が釣れたの?」
「こいつじゃ。坊主の竿に掛かっておったわ」
ヒラメじゃん・・・ しかもめっちゃデカい。俺でもそんなサイズ釣った事がないのに。
ヤエンしようと思ってアジを泳がせてた奴に食って来たんだな。
「ブリック、こいつを使って料理するよ」
捕ったカニは氷水に浸けて来たのでもう絞まってるだろう。
味噌汁、蒸しカニ、焼きガニ、パスタもいきたいところだけど麺を作ってる時間がないからトマトソース煮でいいか。ブリックがパンを焼いてくれてあるみたいだからな。それとヒラメのさばき方も教えなくては。
土魔法で蒸し器を作ってバーベキューコンロにオン!カニをひっくり返して蓋をして蒸す。
焼きガニはそのまま炭火に乗せてと。
こいつは大鍋にカニをぶちこんで味噌汁に。
次はオリーブオイルにニンニク入れてカニを炒めてトマトソースを入れてグツグツと。ちょっと唐辛子いれるか。
ヒラメの5枚おろしをブリックにやらせて刺身にしていく。アジはすでに刺身用とフライ用にしてくれてある。イケスにまだいるみたいなので、食べ終わったら干物にしよう。
カニが焼けたみたいなので蒸し器からもカニを出す。
「ここをこうやってパカッて開いて。こことここは食べられないから捨てて」
こいつには日本酒、トマトソース煮は焼酎でも白ワインでもなんでも好きに飲んでくれ。
「うおっ!旨ぇじゃねぇか」
アーミンも驚き、皆無口になって身をほじって食べ出す。おー、焼きガニに日本酒が実に旨そうだ。俺は蒸しガニを食べながら味噌汁を飲み、カニのトマトソースをパンに絡めて食べる。めちゃくちゃな組合せだがどれも食べたいから仕方がない。次はヒラメだ。この時期のヒラメの刺身って旨いよなぁ。こっそりエンガワ食べちゃお。ヒラメの半分は昆布〆にしておいて明日食べよう。うん、アジも旨い。もう至福の時だな。
皆も一心不乱で食べている。
「おやっさん、そのオレンジ色の所も旨いんだよ」
「こいつも食えるのか?」
「熱燗でやってみなよ」
そう言われた酒飲み達は一斉に試し始める。俺はすでに腹がはち切れてしまった。
おや? いつもならミケがダンに一口ちょうだいをしてるはずなのに離れて刺身をポツポツと食べてるな。ケンカでもしたのかな?
「ミケ、カニのオレンジの奴一口貰ってこいよ。酒も飲むんだろ?」
「いや、ええわ。この刺身旨いし」
やっぱりなんかあったんだな。あんなにここに来て魚食うの楽しみにしてたのに。
もう釣りより酒になってしまったので俺は風呂に入りに行く。ミーシャ達も飲んでるみたいだし、ベントはサラを皆の所に連れていってるな。よしよし。よく気が付いた。
風呂に湯を張ってるとミケがトテトテとやって来た。
「こっちにもお湯入れてぇな」
「皆と飲まないのか?」
「うん」
男湯と女湯にお湯を貯めて浸かる。壁で仕切ってあるけど話は出来る。
「ダンとなんかあったのか?」
「・・・ウチ嫌われたんやろか?」
「なんか言われたのか?」
「別になんも言われてへん」
「じゃあどうしたんだよ?」
「なんかな、目ぇも合わせてくれへんし、ウチが近付いたら離れんねん。初めは気のせいかなと思たんやけど、この領に来てからずっとやねん・・・」
そういや、初めは御者台に一緒に乗ってたりしたのにな。俺がゼネコンしてる間になんかあったのだろうか?
「心当たりあるのか?」
「・・・ない」
「ミケはダンの事好きなんだろ?」
「・・・・・そうやと思う。ようわからへんねんけど・・・」
「ダンに聞いといてやるよ。何か理由があるかもしれんからな」
「ウ、ウチ、嫌われてた・・ら・・どないしよ・・・」
グスグスと鼻をすする音がする。
何やってんだよダン・・・
しばらく落ち着くのを待ってから風呂を出て頭やしっぽを乾かしてやる。
「ゲイルはやっぱり優しいなぁ。モテるのわかるわ」
「アホか。そんなんちゃうわ。皆の世話焼かされてるだけや」
あかん、ミケとしゃべってると関西弁になってまう。
「もう今日は寝ろ。酒飲むなよ。そんな落ち込んでる時に飲んだら悪酔いするからな」
「分かった ・・・・ なぁ、寝るまでそばにおってくれへん?」
ゲイル海釣り公園は始めに作った個室だけでは部屋が足りなくなったので雑魚寝用の大部屋も作ってあるのだ。
まだ騒いでる皆をスルーして大部屋に向かった。
別に一緒の布団に入るわけではないがそばに居てくれるだけで良いと言うミケ。
毛布にくるまってグスグス泣いている。
こいつのこんな所を見たことがないからどうしていいか俺もわからない。ダンに何があったかわからないから下手に大丈夫だと言ってやれないのがもどかしい。
ダンは意味無くミケを突き放したりしないはずだ。俺が見た所、ダンは敵討ちが終わったあとから変わって来ている。気持ちの踏ん切りが付いたのだと思う。それまで男盛りの年齢のはずなのに全く女性に興味を示さなかったのはフランの事があったからだ。それに区切りが付いてミケと仲良くなってきたのにどうしてだ?
知らない事はいくら考えてもわからない。
いつまでもグスグスしているミケは親に捨てられた子猫みたいに丸くなっている。心が痛い。
俺は掛けてやる言葉が見付からず、グスグスするミケの横に座って頭を撫でてやる。
ミケはそれが切っ掛けになったのか、俺の膝元に顔を埋めて声を殺しながらも激しく泣いていたのだった。
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