第492話 サクサク仕事を進める

晩飯はタチウオ三昧だ。刺身、塩焼き、バター醤油炒め、唐揚げ。カサゴは刺身と唐揚げ。


「ゲイル殿達は珍しい釣り道具やら釣り方をされるのですな」


「釣って楽しく、食べて美味しいがモットーだからね」


「あの釣り道具はディノスレイヤ領や王都では当たり前なのですかな?」


「いや、竿はおやっさん。リールって糸を巻く道具とルアーとかの細々したものは俺が作ったんだよ」


「それは量産は可能ですかな?」


「あれ試したんだけど、ネジという止める為の金具っていうのかな、それの小さいのは安定して同じ形の物が作れないから無理なんだよ」


「そうですか・・・ それは残念です」


「ナンゴウさんの分は作ってあげられるけど?」


「いえいえ、何か他にもここの特産があればと思っただけでございまして」


「魚だけじゃダメなの?」


「はい、母親がやっている農家等はあまり豊かではないのです」


「じゃあ、薬草畑とかやったら?」


「薬草ですか?あれは森の中で点在するものでして」


「いや、近くに群生している場所があるから可能なんじゃないかな? 偽物だけ抜いてやればいいと思うし」


「は?」


「うちの馬達が見つけて来たんだよ。放しておいたらなんか食ってるから見に行ったらたくさん生えてたよ。それを他に植えて育つかどうかわからないけど」


「ど、どこでございますかっ?」


「明日案内するよ」


ということで朝から魔法草の場所に案内して漁村に向かうことになった。


朝は当然釣りだ。


暗いうちからエギを投げ始めるとめっちゃデカいイカが釣れた。タルイカかと思うくらいに。ここまでデカくなると身が硬いだろうから冷凍して火を通す料理に使おう。


釣れたのはその1ハイだけ。やはりこの時期の釣りは難しい。メタルジグも不発に終わってしまったドワンは不機嫌だった。まだ釣りをしてるからお前らだけで行けだと? まぁ、ぞろぞろ行くのもなんなので、行きたい人だけ付いて来ることに。ダン、ミグル、ジョン、アル、マルグリッド、シルフィード、俺。いわゆるパーティーメンバー+マルグリッドだ。ダンとビトーが御者台に乗ってぴったり定員だ。



「ミグル、どう思う?」


「ゲイルの魔力が濃い所から魔物が生まれるという仮説が正しいとすると、ここの魔法草をたくさん摘んでしまうとまずいかもしれんの」


今は魔法草の群生地に来ている。魔法草とニセ魔法草は冬でも枯れないみたいで、小さいがたくさん生えていた。周りの背の高い草は枯れているので群生地はわかりやすかったのだが、小さな魔法草は普通の草にも見える。


「どういうことでしょうか?」


「いや、魔物が大量に発生する森があってね、千匹単位で討伐しても全然減らないんだよ。それが不思議で原因を探ったら魔物が生まれてくる池があって、その池の魔力が濃かったんだよね。だから魔力が濃い所は魔物を生むのかな? と」


「魔法草は魔力が濃い所に生えると言われておるからな、草がその魔力を吸収していると仮定すると、魔法草を取り付くしてしまうと魔物が出るかもしれんのじゃ」


「そ、それは困ります」


「まぁ、必要な分だけ摘むには問題なかろうが、根から採るのは止めておいた方がいいじゃろな」


「そうですか。それは残念です」


「空いてる農地はあるの?」


「はい、たくさんございます」


「なら、パイナップルを植える?」


「他にも植えている所がありますが」


「外にたくさん流通するほど作ってないでしょ?」


「えぇ、領内で消費されるくらいです」


「なら、ここで作ってくれたらロドリゲス商会に全部仕入れてもらうよ。うちなら全部売り切る事が出来ると思うから」


「本当ですかっ」


「ここでは当たり前の果物でも王都やディノスレイヤ領では珍しいんだよ。バナナも欲しいけど、あれは日持ちさせるの難しいしね。パイナップルなら日持ちもするから流通向きだと思うよ。採れ過ぎたらシロップ漬けにして瓶に入れればもっともつから」


「わ、わかりました。さっそくそれに取りかかります」


魔法草の畑は諦めてパイナップルを増産してもらうことに。屋台で棒付きのパイナップルとか売っても売れるから大丈夫だろ。

缶詰作れたらいいんだけど、缶に使える素材からやらないとダメなんだよなぁ。錬金釜か俺がやらないとダメだから黙っておこう。


漁村に到着して村長とロドリゲス商会と打ち合わせる。


時期にもよるがこのコンテナが満載されるまで魚が貯まるのは2ヶ月近く掛かるんじゃないかとのこと。今までの漁のやり方で外に販売する分を捕ろうとするなら人を増やすか漁のやり方を変える必要がある。大型船が完成すればマシにはなるだろうけど、現状は投網とのべ竿釣り、銛での漁だからなぁ。いくら魚影が濃いといっても無理もないか。誤算だな。


「ゲイル様、いかがなさいますか?」


大番頭も計算が狂ってしまったようだ。うちだけでなく南の領内でも新鮮な魚を流通させるつもりで小型コンテナまで作ったのに。


「よし、漁のやり方を考えるよ。ここの人達は釣りを楽しんでいるわけじゃないよね?」


「えっ?あっ、はい」


楽しむ? とか変な顔をする村長。


「じゃあ、ミンミンさんの所で作れるか聞いてみる。それが可能なら飛躍的に魚の捕れる数が増えるから」


「何を作るのですか?」


「網だよ。それも定置網ってやつ。タゴサ、ここの、海の魚の通り道は知ってるよね?」


「あぁ、だいたいいつも同じだからな」


「なら大丈夫だ。網が出来るなら大型船の使い方を変えるわ。それが可能になるなら魚はたくさん捕れるから」


俺が何を言っているかさっぱりわからない人々は、はぁとしか答えなかった。大番頭達は次にホーチミンと打ち合わせに行くとの事。俺達は船大工の所に向かった。



「まだまだ出来てねぇぞ」


「分かってるよそんなこと。この船さ、どれくらいの深さまで使えるの?船着き場とか必要だよね?」


「当たり前だ。空荷でここの河を渡れるぐらいだが満載すると倍くらいの深さがいるぞ。どうすんだそれ?」


船大工の親方はぶっきらぼうだ。ナンゴウはハラハラしているみたいだが俺は慣れているので気にしない。


「悪いんだけど、明日誰か漁村に来て場所指定してくれない?そこに作るから」


「は?何言ってんだ小僧、そんなすぐに出来るもんじゃねぇだろうが」


「いや、すぐに出来るから宜しくね」


あ、待ててめぇとか言われたが次があるので朝には来てねと言い残して去ることに。



「げ、ゲイル殿申し訳ございませんっ」


「いや、大工とか職人ってあんなもんだから気にしてないよ。せっせと船作ってくれてるじゃん」


「そ、そう言って頂けると助かります」



ナンゴウにアリナミンの屋敷に案内してもらって一旦別れる。


「よー、ゲイル。待ってたぜ」


すっかり馴れ馴れしいアリナミン。


「じゃ、宜しくねアリナミンさん」


「なんだよ水臭ぇな。アーミンでいいし、敬語もいらん。儲けさせてくれんだろ?」


アーミン・・・なんかガラじゃねぇ。


馬車はここに預けて徒歩で向かう。結構近いのだ。歩きがてら世間話をしていく。兄弟同士で話をするときは、イー兄ホー兄と呼ぶらしい。子供みたいだから止めろと言われてるみたいだが。仲の良い友達はアーミンと呼ぶとのこと。


「で、どうやって畑を広げんだ?」


「剣と魔法だよ。その後にカカオを育てるから」


は?


百聞は一見にしかず


指定された所の木をダン達が伐っていき、切り株は俺が枯らして掘り起こす。


出来た畑にシルフィードとミグルがカカオを育てていってくれる。


「ぼっちゃん、伐った木を避けてくれ」


「アーミン、この木はなんかに使うよね?それとも薪にする?」


「あ・・・いや、利用する・・・」


ということなので伐った木は一ヶ所に積んで行く。


さすがに1日では無理か・・・


「アーミン、今日はここまでだね。あと2日くらいで出来るかな?」


「お、おお・・・、今日は泊まっていくだろ?」


「ごめん、父さん達を置いて来てるから帰るよ」


「どこに泊まってんだ?」


「海だよ」


「海?」


信じられんということでアーミンは付いて来ることになってしまった。



夕暮れに戻るとアーノルド、アイナ、ベントがサバを釣っていた。前よりは少し大きいが撒き餌だな。一生懸命にさばいてたブリックには申し訳ないけど。


ドワンは不機嫌だな・・・



「なんじゃあこれは?」


驚くアリナミンことアーミン。


「俺のパラダイス。海釣り公園だよ」


タコを食いたいダンはカニを探しに行こうとしたのでサバでも釣れる事を教えてやる。


ベントはシルフィードが釣りたそうに見ているのに気付いて代わってやっていた。シルフィードの満面の笑顔にポッとしてんじゃねーよ。


ふと気が付くと、魚大好きのミケはぽつんと一人で座って夕日を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る