第489話 ファイアボールッ
「あーーーーっ!やっぱりっ!」
女性陣の叫び声で目が覚める。
「わっ! ど、どうしたの?」
驚いて目が覚めるとか最悪だ。まだ心臓がばくばくしている。アーノルドがいるから完全に油断して熟睡していたのだ。
「やっぱりミーシャちゃんが好きなんですね」
シルフィードは光の無い目で俺に聞いてくる。
「やっぱりってなんだよ? いつもミーシャの事は好きだって言ってるだろ?」
アイナはそれを見てクスクスと笑っている。
「なぜお前はミーシャと寝ておるのじゃーっ!」
「え?いつもの事じゃん?」
俺がミーシャと寝るのは今に始まった事ではない。昔からだ。特に寒い日は毎回だ。
もう理由を聞くのも面倒臭いのでブリックと朝飯を作る。ブリックがいるから楽できるかと思ってたら大間違いだった。人数が多いからいつもと変わらん。
外に出ると雪はやんでるがやっぱり積もってる。今日もゲイルラッセル&ゼネコンだな・・・
雪は火魔法で溶かすより、突風で吹き飛ばす方が早い。下手に溶かすと水浸しになって凍りそうだ。吹き飛ばしては道を広げながらならしてを繰り返す。これ公共工事で請け負ったらめちゃくちゃ儲かるよな・・・
崖を固め、ガードレールを作り続けていると魔法の適正化も進みどんどん作業が早くなる。今では俺の後ろに馬車が付いて来ている状態だ。
ようやく山頂に来ると反対側は少し雪があるだけで緑が広がっている。まるで山を越えると異世界だ。
途中の宿場町はすべてやっていなかった。真冬は誰も通らないから利用客がいないのだろう。山に入ってから誰ともすれ違わないからな。
ここからは下りだけど、同じく道を整備しながら進む。降りるに連れて気温が上がって来た。南国万歳だ。
ミサ達の毛皮のコートは完成したけど、もう着る必要が無い。帰りには役に立つだろうけど。
雪が無い分少しスピードが上がったが、それでもゲイルゼネコンしながらなので時間が掛かる。
数日かけてようやく麓まで到着。門までもう少しだ。
やっと門までたどり着くと閉鎖されている。なんてこった・・・
年明け早々にお邪魔すると手紙を出したが、社交会があって出発が遅れ、雪と道路整備に時間が掛かり、すでに2月になってしまっている。もう春まで来ないと思われたのだろう。
「ぼっちゃん、どうする? 乗り越えて誰か呼んで来るか?」
「いや、なるべくなら不法侵入みたいな真似はしたくないね。ファイヤーボールを打ち上げてみるよ」
ということで、俺とシルフィード、ミグルにドワンも参加してファイヤーボールを空に向かって打ち上げる。
俺もやるぞとダンが魔銃でも撃つ。アーノルドもやりたいと言い出したが爆発させそうなのでやらせなかった。
しばらく撃つも反応が無い。
「気付いてないのかな?」
「どうだろうな?」
「じゃ、デカいの撃ってみるよ」
ドンドンドンっと特大のファイヤーボールを撃ってみると門の向こうに人の気配がした。
「あ、誰か来たよ。気配が・・・」
なんか想像以上の人数の気配がし始めて、なんと塀の上から一斉に矢を向けられてしまった。
「どこの国のものだっ!」
「ウェストランド。ごめん、門が閉鎖されてたから誰か呼ぶ為にファイヤボールを撃っただけだよ。俺はゲイル・ディノスレイヤ。リークウ領主の所に来ただけだ。ほらこれこれっ」
風魔法に声を乗せて叫び、コンテナの旭日旗紋章を見せた。まさかデカデカとした紋章がこんな所で役に立つとは思わなかった。
それを見て全員が弓を下げ、すぐに門が開く。
「大変失礼を致しましたっ!」
「こっちこそ驚かせてごめん」
先ほど弓を向けていた兵士達が跪いて出迎える中、馬車群が進んで行く。
「ゲイルは南の領地で何をやったのかしら? 他領の兵士が跪いて出迎えるなんて最上位の出迎えよ」
「今俺達に矢を向けたお詫びじゃないかな・・・」
兵士達に先導されて領主邸に到着。馬車とコンテナを預けて中に案内される。
ぞろぞろと応接室に案内されてしばし待つとリンダが現れた。
「お帰りなさいゲイル」
すでにリークウ家の子供になったかのような出迎えだ。
「知らせてた時期より大幅に遅くなってごめんね。ちょっとゴタゴタしてたのと、雪が酷くてさ」
「山の向こう側はそうでしょ。よく辿り着けたわね。大変だったでしょ? 帰りは春までいるのかしら?」
「うん、でも魔法でなんとかなるし、道も整備してきたから普通に帰れるよ」
と会話をしてから皆を紹介していく。
「初めまして。ぞろぞろと押し掛けて申し訳ない。息子が世話になったみたいで礼を申し上げたい」
「こちらこそ、アーノルド・ディノスレイヤ様、アイナ・ディノスレイヤ様。それに東の辺境伯のご令嬢までお越し頂けるとは驚きましたわ」
マルグリッドはカーテシーで挨拶をする。
「突然の訪問をお詫び申し上げます。マルグリッド・スカーレットと申します」
さすが名門のお嬢。気品溢れる挨拶だ。うちの両親とは違うよな。
「お美しいお嬢様ね。ディノスレイヤ家のどなたかと婚約でもされているのかしら? もしかしてゲイルのお嫁さんとか?」
「残念ながら違いますわ、リンダ・リークウ様。社会勉強をさせて貰うのに無理矢理付いて来ましたの。ゲイルが貰ってくれるならいいのですけれども」
そう言ってチラっとこちらを見るマルグリッド。またからかってやがる。
その後、しばらく歓談してお昼時になってイナミンが現れた。
「よう、ゲイル。遅かったな。もう春まで来ないと思ってたぞ」
そんな挨拶から始まりまた皆を紹介していく。
イナミンはアーノルドとアイナに会えたことに興奮して喜び、明日、親善立ち合いをすることになった。イナミンも見た目通り腕に自信があるらしい。すぐに海釣り公園に行こうと思ってたのに・・・
それにこの領の貴族というか親族を明日に集めるから泊まっていけだと。別に紹介してくれなくてもいいんだけど・・・
この領は大きく4つに別れていて、イナミンの弟2人がそれぞれ管轄し、妹が婿養子を貰って1つ、リンダの実家が1つを管轄しているらしい。
そして、俺に弓を向けた事をしつこくお詫びしてくれた。兵士を統括しているのが親族らしく、その人が土下座をしに来た。
やめて・・・
「しかし、どこの国が攻めて来たのかと震えました。あの威力の攻撃魔法を我が領に向けられたら太刀打ち出来ません」
「ゲイル、何をやったのだ?」
「門が閉鎖されてたからいくつかファイアボールを空に撃ったら誰か出てくるかなぁって・・・」
「はい、見たこともない数のファイアボールが撃たれており、その後世の中を焼き付くすがごとく大きなファイアボールが・・・」
大袈裟な・・・
「特大のはゲイルだな。他は誰が撃てるんだ?」
「おやっさん、シルフィード、ミグル、ダンだよ。一応父さんも撃てるけど爆発させたりするから今回は無し」
「ディノスレイヤ領は領軍をお持ちではないと聞いておりますが・・・」
「うちには軍はないぞ。他国と面してるわけではないからな。その代わり冒険者は多いから他にも撃てるやつはいるがな」
「それだと他国に簡単に攻め込めそうですな。あっはっはっは!」
そうか、普通は攻撃魔法を軍事力として見るのだな。あまり軍事に関係ないディノスレイヤ領の感覚とは違う。
「それに今回、スカーレット家のお嬢様が一緒とは驚いたぞ。東と西は友好関係とは知らなかったな。たまには王都に行かんと情報に取り残されてしまうな」
「イナミン・リークウ殿、別に東と友好関係って訳でもないな。敵対しているわけでもないが、仲がいいってこともない。日頃関わり合うことも無いからな。マルグリッドがうちの次男と同級生だった縁ってやつだ」
「ほう、それだけで東の領主は娘を旅に同行させるのをよく許可を出したな。人数が多いとはいえ同年代の男がいる旅に許可なんて普通出さないだろう? 誰かと婚約でもしてるのか?」
「イナミン・リークウ様。成人するまでの私のわがままを押し通しただけですの。人生のうちで2年間くらい自由な時間を下さいなと」
イナミンはリンダにどんっと肘打ちをされる。
「お、おぉ。そうか。踏み込んだ言葉だったな。すまん」
あれを聞くだけで踏み込んだ言葉なんだ。へぇ。
次はお土産タイムだ。
調味料や酒、調理器具はご挨拶。イナミンには刀だ。
「これは・・・」
「刀っていって、ドワーフの職人が打った武器だよ。邪気とか悪いものを近付けない意味もあるから、使わないなら飾っておいて」
「いや、見事だ。あとで試し斬りをさせてもらおう」
「リンダさんにはミサが作ったアクセサリー」
「まぁ、なんて素敵な模様なのかしら。こんな細やかな細工を施してあるものなんて初めて見るわ」
大きな赤い花を中心に、細やかな黄色やオレンジの花がちりばめられたデザインだ。健康的な肌の色によく似合っている。
「あとねー、まだ試作品なんだけど化粧品も持って来たんだ。良かったら使ってね」
ということで、晩飯は人数が多いのでパーティー形式となり、女性陣は化粧して来ることになった。ブリックには厨房を手伝わせ、俺は何故かヘアメイク担当に・・・ と言っても初めにイメージを伝えて、こういう髪型があるよとか教えただけなんだけど。
「おぉ、リンダ。いつも美しいが、今日はまた一段と美しい」
皆の前でも臆面なく妻を褒めるイナミン。アーノルド、お前もアイナになんか言ってやれ。しかし、アーノルドはアイナを見て頭をポリポリ掻いて照れるだけだ。
「どうや?」
ミケはダンにうっふんポーズをするがダンも素っ気ない。いや、褒めてやれよ。
ミグルは七五三みたいだが、アルはちゃんと褒めていた。
マルグリッドは化粧映えする顔立ちなのでとても綺麗だ。ジョンはポーっと見て顔を赤くしたあと目線を反らした。
意外だったのはサラだ。こいつこんなに美人だったんだな。ベントも驚いている。いつも険しい表情をしているイメージしかなかったが、皆と一緒に化粧をさせられて照れ臭そうにしている姿が新鮮だ。
「ど、どうかな?」
シルフィードはリアルドールだ。フィギュアにしたら売れるだろう。ミーシャはヒマワリ畑で写真を撮りたくなるような可愛らしさ。ミサはうん、なんかキャラクター人形みたいだ。
「みんな良く似合ってるよ」
と、差し障りのない褒め方をしておいた。
食事はブリックが作ったであろう食べなれたものと南の領地の特産料理が並び、バイキング形式でそれぞれを堪能した。
デザートに出されたのはフルーツとチョコレートだ。
「イナミンさん、これは送って貰ったカカオを加工したお菓子だよ。これを使ったお菓子は王家の社交会でも大評判でね、エイブリックさんからも絶対にもっと量産しろと言われて来たんだよ」
「あの苦い薬がこんな菓子になるなんて驚きだ。これはここでも作れるか?」
「作れなくはないけど、加工が難しいんだよね。俺も上手く作れなくてエイブリックさんの所の菓子専門コック、パティシエっていうんだけどね、その弟子が唯一これだけ上手く作れるようになったんだよ」
「そうか、殿下専属の料理人しかうまく作れんのか・・・」
「そのパティシエもうちの街で店をやるんだけどね」
「なにっ? 殿下の所を辞めてゲイルの配下に付いたのか?」
配下に付くとか人聞きの悪い・・・
「自分の作ったお菓子がどれだけ喜ばれるか大勢の人向けに試したいらしいよ。この春には店が出来てるんじゃないかな」
こうしてカカオは量産することが決まり、明日そこの管轄の弟と打ち合わせる事に。
ちなみに漁村・サトウキビ畑の婆さん・船大工のいる地域はリンダの実家が担当しているらしい。どうりで海慣れしているはずだ。
それから酒談義が始まったので俺は先に休ませてもらうことにしたのであった。
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