第487話 ゲイルゼネコン
山道に入ると問題が出て来た。大型コンテナ馬車が進むには危険な箇所や曲がり切れない道があるのだ。
これがあるから南の領地からの大量輸送が成り立たなかったのか。どうりで珍しい物が入って来なかったり数が少なかったりするわけだ。
ここはゲイルゼネコン出動だ。道幅を広げたり、カーブを緩やかにしたりして、大型馬車が通りやすいように道を整備していく。ついでにガタガタをならして固める。ほんの少し傾斜を付けて水がたまらないようにと。
大型車が休憩出来るポイントもあちこちに作りながら進む。人間用の小屋もそのままにしておき、それに看板を立て、ゲイル・ディノスレイヤ所有物件と記し、未使用時は誰でも使用可。但し汚した者は処罰する。
こんな感じで良いだろう。馬小屋と水飲み場とかも作っておこう。これで他の商人達もこの道を使いやすくなるはずだ。
山頂に近付くにつれ、気温が下がり雪が降ってきた。上を見るすでに積もっているだろう。
「夏の時とは違って寒いの・・・って、なんじゃお前らが着ているお揃いの服は?」
ミグルが皆の服を見て聞いてくる。そうお揃いの服とはダウンジャケットだ。女性陣の中でミグルとマルグリッド、ミサには無いのだ・・・
「ゲイルに買って貰ったの。ミグルさんはマント着てるからいらないよね?」
シルフィードがミグルに自慢する。ミグル相手には時々意地悪になるよな・・・
「ず、ズルいではないかっ。ゲイルワシのは?」
「あー、ごめん。素材が足りなかったんだよ。これは特別に作ってもらったんだけどね、その時ミグル居なかったし・・・」
「えー、ゲイルくん、私もさむーい」
ミグルもミサも拗ねてしまった。マルグリッドは自分の高そうなコートを着ているから文句言わないけど・・・
「ミサ、これで毛皮のコートを作れ。これからこういうのが流行ると思うからな」
エイプの毛皮が山ほどあるからそれを使ってコートを作らせよう。
流行をお前が作れと言われたミサは機嫌を直してコートを作る事に。ミーシャも手伝い、コートを作っていく。マルグリッドも興味があるらしく、こうすれば可愛いとか参戦した。
「坊主、どうする?この雪の中をこのコンテナを進ませるのは危険じゃぞ」
ドワンの心配はもっともだ。ボロン村の馬は雪をものともしないがこの先はますます道が細くなるところがある。シルバー達のスパイク蹄鉄も無いし・・・
「今日は早いけどここで夜営しよう。俺は先に雪を溶かして道を作って来るよ」
ダン、ジョン、アルを引き連れて道を作りにいく。
アーノルド達は万が一の為に護衛として待機して貰った。マルグリッドやロドリゲス商会がいるからな。
木を伐り倒し、3人は薪を作っていく。俺はラッセル車よろしく、雪を吹き飛ばしては道を広げてならして固める。これ、めっちゃ時間かかるわ・・・
大量に出来た薪を魔法で乾かしては休憩ポイントに薪小屋を作って収納する。
【誰でも使用可。但し持ち帰り厳禁! ゲイル・ディノスレイヤ】
薪はいつでも使用するだろうからな。使いたい奴が使ってくれ。
なんか土砂崩れが発生しそうなポイントは土の杭を打ち込んで固めておく。気になり出したら物凄く気になるのだ。どんどんやることが増えていく。
カーブになっていて、反対側が崖になるポイントにはガードレールだ。下りの時に思わずスピードが出てしまったら落ちるからな。
こうして道が整備されては進み、整備されては進みを続ける。
「これは時間がかかるのぅ」
ドワンがそう言う。
「まぁ、仕方がないよね。大番頭さん、予定より大幅に帰る日過ぎるけど大丈夫?」
「はい、問題ございません。この時期の移動に遅れは付き物ですから、そういう予定を組んでおります。それより、こんなに安全に旅が出来るのはさすがでございます。とても快適です」
そうニコニコと返事をしてくれる。さすがだよなぁ。
ミサ達は真剣に毛皮のコートを作っているが完成にはまだ時間がかかるだろう。冒険慣れしていないミサは寒そうだな。ミグルは文句を言ってた割には平気そうだ。エルフの血は寒さに強いのだろう。
「ミサ、これ着とけ」
女の子が震えているのに、自分だけダウンジャケットを着ているのが後ろめたくなり、ミサにダウンジャケットを渡す。自分の成長を見越して大きめに作ってもらったのでミサにぴったりだろう。
「え? いいの?」
「サイズ的にミサかミグルしか俺のを着れないだろ?ミグルはマントがあるから平気そうだしな」
「えへへへ。やっぱりゲイルくん、私を選んでくれたんだー」
選んでねぇ。
「毛皮のコートが出来たら返せよ。今だけ貸してやるけど」
「わー、軽くてあったかーい。ゲイルくんの匂いがするー」
そう言われて自分をくんくんする。俺、臭くないよね?
さて、寝る時の布団だな。自分達だけ羽布団で寝るのが申し訳無くて出してなかったけど、今日はさすがに冷えるのでこれで寝たい。スプリングマットはドワンが余分に作って持って来てくれたのと馬車のクッションでなんとかなってるが・・・
こそこそとダンに相談する。
「ダン、羽布団の数が足りないんだよ。でもこれで寝たいんだけど、どうすればいいと思う?」
「雑魚寝にすりゃいいだろ?」
「俺達だけならね。マリさんがいるんだよ?」
「2年間一緒に過ごすんだろ? 慣れて貰った方がいいんじゃねえのか?」
なるほど、それもそうかもしれん。
ということで大部屋の小屋を作る。新領で作ったかまくらみたいな奴の大型版だ。煙突も付けて暖炉も設置。ロドリゲス商会の人達はさすがに俺達と一緒に布団に入る訳にはと辞退した。自分達の毛布で寝るらしい。暖炉があるから大丈夫とのこと。
シルバー達には別のかまくらを作ってやる。馬達でくっついて寝るから暖炉は不要だろう。
大人達は宴会を始め、そこにはロドリゲス商会も混ざっている。ミサ達は完成間近の毛皮のコートを試着したりしながらキャッキャとはしゃいでいる。町内会でツアーに来ているおばちゃんのようだ。
「ゲイル、風呂を作ってくれないか?雪を見ながら風呂に入ってみたいんだ」
ジョン、ナイスだ。グッドアイデアだ。
かまくらの中から外に出て風呂を作る。いつの間にかめっちゃ雪が降ってるな。かまくらを挟んで両側に風呂を作る。男風呂と女風呂だ。ミグルがいれば冷めても温め直しするだろう。
出来た風呂をかまくらから直接入れるように加工し直して、中が見えないようにこう壁を作ってと。
「風呂作ったから、入りたい人は入って。ミグル、女湯が冷めたらお前が温め直してくれ」
「わかったのじゃ」
「お、風呂か。坊主、風呂で飲めるようになっとるか?」
「いや。風呂であんまり飲むと危ないから作ってないよ」
「少しなら構わんじゃろ」
雪見酒か。羨ましい。
土魔法で徳利、盃。それを浮かべる船を作ってやる。中心には熱燗が作れるようにこうやってと。
「これをどうするんじゃ」
「徳利に日本酒をいれてこのおちょこで飲む。冷たいままが良かったら外に出せばいいし、熱いのが良かったら徳利をここに浸けておけば熱燗になるよ」
「おぉー、素晴らしいです。これは売り出されますか?」
「こんなの誰でも作れるでしょ。今は土魔法で作ったけど木で作れば良いだけだし」
「いえいえ、こういう物を考え付かれるのが凄いのです。今熱燗とおっしゃいましたが、ここに氷を入れれば冷たいワインでも宜しいでしょう?」
「そうだね」
「では、こちらで作って販売致します。勿論ゲイル様には取り分をお支払い致しますので」
大番頭は抜け目が無い。俺がこんなもの売れないだろうと思ってても売れる商品があるのだろう。それを見付けるのも同行した理由なのかもしれんな。
あー、雪を見ながらの露天風呂は最高だ。
「あ、あのっ、ゲイル様。自分がここに居てお嬢様は大丈夫でしょうか・・・」
「ビトー、お前エッチだな。女性陣が風呂に入ってるのを護衛するつもりか?」
「なっ・・・! 自分はそんなつもりではありませっっん」
「冗談だよ。母さん、ミグル、シルフィードが居てるんだ。なんの問題も無いよ。母さんに軽くデコピンされたミグルを見ただろ? 一般人なら死んでるぞあれ。なんせ怪・・・・ いでででででっ」
「どっ、どうされました?」
「い、いやなんでもない。まぁ、心配する必要無いってことだよ。魔物や盗賊の気配もないし。なんかあるようならまず父さんやダンが反応するよ」
「そ、そうですか」
「マリさんが、ビトーにも気配の稽古付けて貰えないか聞いてきたぞ」
「おっ! ビトーもあの修行するのか?」
アルはビトーが気配の修行をするかもと聞いてノリノリだ。
「気配の修行とはなんでしょうか?」
「俺達、この前な・・・」
アルは虎の穴大スペクタクルを身振り手振りでビトーに話し出した。これはこれで面白い。
アーノルドは熱燗を飲みながらクックックッと笑っている。かなり盛られているのだろう。
一方女風呂
シルフィード・ミグル・ミサ
VS
アイナ・ミーシャ・ミケ
男性陣達には聞かせられない、ひんぬーVSきょぬーの戦いが繰り広げられていた。マルグリッドはどちらにも属していないがそのうちアイナ組に入るだろう。
男性はどちらが好みだとか、それは人それぞれだとか、ゲイルはどっちもいける派だとか分析をされているのであった。
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