第486話 バトル

客車ではキャッキャと騒がしい。マルグリッドも貴族の腹の読み合いなくこうして話せるのが嬉しいようでよく笑っていた。


休憩の度に乗る馬車を変えたりしながらの楽しい旅だ。修学旅行を思い出すな。アイナとミグルが同じ馬車にならないようにだけは気を付けてと。


「せっかく気配の修行をしたのに、魔物も盗賊も出ないのが残念だ」


「ジョン、いいことじゃないか。この馬車群なら盗賊はもう襲ってこれないんじゃないかな。まだ骨も晒されているだろうし、イナミンさんも警備を強化すると言ってたから」


「ジョン様、気配の修行とはなんですの?」


「それがな・・・」


ジョンは気配修行の話を身振り手振りをしながら話していく。真面目なジョンは話を盛ったりしないから実にリアイリティ溢れる内容だ。アルが説明してたらアクション映画の解説みたいになっていただろう。


「まぁ、なんて過酷な修行を・・・」


マルグリッドは俺達と護衛訓練をやっていたので戦いの想像が付く。ジョンの話をじっと見つめながら聞いていた。


「と、まぁこんな感じだ」


話し終えたジョンはマルグリッドに見つめられているのに気付き、赤くなって目線を逸らす。


おー、なんか青春してんなぁ。マルグリッドにはそんな気で見てた訳ではないのだろうが、マルグリットは計算か天然かわからんけどドキっとさせられる仕草をするからな。マルグリッドが本気でからかったらジョンなんてイチコロだろうな。


「ゲイルっ」


マルグリットがこちらに視線を移す。いらんことを考えてたのを読まれたのか?


「ビトーにもその修行お願い出来ないかしら?」


やめてやれ・・・ ビトーが死ぬぞ。



次はアルとミグルがこっちに乗ってきた。


「ゲイルよ、こやつと決着を付ける何か良い勝負はないかっ」


またなんか言い争ってるのか?


「じゃんけんでもしろよ」


「じゃんけんってなんだ?」


あれ? この世界にじゃんけんはないのか。


じゃんけんのシステムを説明してやる。


「ふっふっふっ、これは単純な勝負に見えて高度な心理戦というやつなのじゃな。さすがはゲイルだ。えげつない勝負を考え付くのぅ」


どこがえげつないんだよ?


「では、アルよ。3回先に勝った方がデコピンするで良いな?」


「はっはーん、ミグルのデコをぶち抜いてやるぞ」


じゃんけん ホイっ


「わーはっはっは。ワシの勝ちじゃ。アルの単純思考なんぞ手に取るように読めるわっ」


「くっそー、3回勝負だからまだ負けではないっ! 次だっ」


そしてアル3連敗。


ビシッとデコピンを食らう。


アル、じゃんけんって出す前から手の形作っておくものじゃないぞ・・・


「ど、どうして勝てぬのだ・・・」


当たり前だ。


「ゲイルよ、ちと簡単過ぎるぞ。もう少し工夫は出来ぬのか?」


「じゃあ、あっち向いてホイでもやれよ」


ということであっちむいてホイをやらせる。


ビシッ


アル3連敗。


まずじゃんけんに勝てないから何をやっても無駄だ。


「はぁ、アル、お前は張り合いがなさすぎるぞ。よし、ゲイルよ、お主とも決着を付けねばならんかったのぅ」


なんの決着だよ・・・


仕方がないので付き合ってやる。


「じゃんけんほいっ、あっち向いてぇぇぇぇ」


ゲイルはホイを焦らして指先に集中させる。


「ホイッ」


「ぬおぉぉぉっ  ま、負けたのじゃっ」


ミグルも単純だ。指先に釣られるように向きやがる。トンボかお前は。


何度かやってるうちにミグルの癖が見えてきた。ほとんどグーとパーしか出さないのだ。しかもグーパーグーパーの順だ。スピードをあげてやるとそれが顕著になってチョキの事忘れてんじゃないかと思うくらいだ。


俺に延々と負け続けるミグル。


初めは面白かったがだんだん飽きてきた。


「も、もう一回じゃ!」


「最後だぞ。じゃんけんホイっあっち向いてビシッ」


いだっ! まだホイしとらんじゃろうがっ!」


しつこいからホイの代わりにデコピンしてやった。


「ミグル、お前も弱すぎて勝負にならん。アルとやっとけ。アル、お前が勝てないのはホイってする前に手の形を作ってるからだ。出す寸前に形を作らないと勝てるわけないだろ」


「そ、そうだったのか・・・」


「なぜばらすのじゃーーーっ」


「高度な心理戦なんだろ。ズルせずにやれ」


「ズルなんてしとらーーんっ! こやつが勝手にやってただけじゃ」


「アル、これを剣の勝負と思え。そうすれば相手が何をやってくるか読めるんじゃないか?」


「なるほどっ! ふっふっふっ、ミグルよ、覚悟しろ」


「ぐぬぬぬぬぬっ」


それからミグルは一度も勝てなくなり、死ぬほどデコピンを食らっていた。治癒魔石無駄遣いすんなよ・・・


夜営して晩飯の準備の時にジョンとアルがあっちむいてホイで戦っている。いい勝負だ。


晩飯は寒いので豚汁だ。ダン達は肉というので勝手に焼いて食べてくれ。


「ジョンとアルはさっきから何やってんだ?」


「あっち向いてホイというゲームだよ」


アーノルドにルールを説明してやるとジョン達と勝負に行った。


アーノルド圧勝。さすがだな。


「張り合いねぇな」


「あら、じゃあ私とやってみる?」


アイナが参戦を表明するもアーノルドは辞退。そこへミグルが参戦だ。


「アイナよ、今日こそ決着を付けてやるのじゃ」


だからなんの決着だよ・・・


「いいわよミグル。かかってらっしゃい」


「覚悟するのじゃ、アイナっ!じゃんけんホイ」


じゃんけんはアイナの勝ち。


「あっち向いてぇ」


ドゴンッ


「ふんぎゃぁぁぁぁっ」


酷ぇ・・・


「アイナ様、ゲイルとやることが同じ・・・」


アイナはホイじゃなくて、俺がやったデコピンを食らわしやがった。


「あら?違うの?」


アイナのデコピンはミグルのデコを凹ませていた。死んだんじゃなかろうな?


腕輪からピンクの光がシュワシュワ出てるから大丈夫か・・・アーノルドはこの危険を察知してたんだな。さすがだ。


治癒が終わっても伸びたままのミグルをアルが運び馬車の中で寝かせておく。



「ゲイル、俺と勝負しろ。おまえ強いんだろ?」


ダンはやらないと言ったみたいでアーノルドが俺に勝負を挑んで来た。


「やだよ、父さん子供みたいにムキになるだろ?」


「逃げるのか?」


「絶対、ズルするだろ?」


「するわけないだろ?」


ニヤニヤ笑ってやがるから何かする気なのだろう。


「じゃぁ、何賭ける?」


「なんでも良いぞ」


「負けたら今晩一人で見張りね」


「よし、その勝負受けたっ!」


俺とアーノルドのあっち向いてホイの真剣勝負だ。まぁ、俺が負けても土魔法で壁作ってやれば見張りなんていらないからノーリスクの賭けだ。


「じゃんけんっ ホイっ」


初めはスローに始まるが次第にスピードアップをしていくあっち向いてホイ。


ホイッ ホイッ ホイッ


あいこが何度も続く。俺とアーノルドの読みは似ているのだろうか?


「父さんとゲイル凄いな・・・」


だんだん高速になっている二人の勝負に感心するジョンとアル。


ここまで1勝1敗、次負けたら見張りだ。途中で壁作っても見張りしろよと言われたので負ける訳には行かなくなってしまったので俺も必死になる。アーノルドも本気だ。


延々と続くあいこに仕切り直しだ


「あいこで・・・しょっ!」


アーノルドはチョキの形を出そうとしているので俺はグーで出す、それを見たアーノルドは途中で金色に光ってパーに変えようとしている。汚ぇ、やっぱりズルするじゃねぇか。


俺は瞬時にアーノルドの親指、中指、小指を魔法で固定。


「あっ」


アーノルドはそのままチョキになり、俺の勝ち。


「き、汚いぞっ!」


「ホイッ」


慌てたアーノルドは俺の指先に釣られて上を向いた。


「はいっ!俺の勝ちぃ」


「お前、今魔法使っただろっ、こんな勝負は無効だっ!」


「父さんが先に身体強化してズルしようとしただろっ」


「しししししてないっっ」


「誤魔化しても無駄だよ。金色に光ってたからねっ」


「ぐぬぬぬぬぬっ」


ということで見張りはアーノルドになった。



「親子で仲が宜しいのね」


マルグリッドは俺たちのやり取りを見て羨ましそうにクスクスと笑っていた。







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