第484話 ツン?それともデレ?

今日は俺の入学式だ。


なんか生意気そうな子供ばかりだな。どんな教育してんだ?


おっとりした子供もいるが、なんかくそ生意気そうな子供が多い。ここの学校に通ったら子供相手でも手が出てしまいそうだ。顔立ちは整っているがちっとも可愛げがない。ちやほやされて育って来てるんだろうな。


同伴してる親はファッションショーかよ? てな親だらけだ。特にあのデップリと太った親父とオカン趣味悪ぃなぁ。痩せたら美形なんだろうけど、あのチグハグのアクセサリーなんとかならんかね? あるだけ着けて来ましたみたいな感じが酷い。


その点うちの両親は異質だな。アイナのダウンジャケットはじろじろ見られてるけど奇異の目ではない。なんだこの服はという目だ。もしかしたら最新のファッションとして注目されてんのか?


そして始まる入学式。あー、この世界の校長の話しも長い。これはテンプレか?  会議だったら簡潔に要点を述べよとか言ってしまいそうだ。ダラダラと意味のない言葉を話して悦に入ってやがる。


昔からこの手の式典が嫌いだった俺は心底ウンザリしていた。見たことも聞いたこともない議員からの定型文の祝電読み上げがないだけマシか・・・


ここで新入生の名前が呼ばれて、クラスを言い渡される。クラスと言っても身分階級とかではなく、ただ1組とか2組とかのやつだ。


「ゲイル・ディノスレイヤくん、1組」


俺の名前が呼ばれるとざわめきが起こる。なんだよ?


親達がひそひそ話を始めた。だからなんだよ?


ひそひそが収まらないまま次々と名前が呼ばれて組を振り分けられていく。1組に20人~25人。全部で6組だ。1学年130人くらいか。まぁ、俺には関係ないけど。


そして教室に入りオリエンテーション。子供向けというより親向けだな。学校には身分の違いを持ち込まないこと、専属の従者や護衛は連れて来ないこととか結構まともな事を言っている。警備兵は学校にいるらしい。あと驚いた事に留年制度があるらしい。出席日数とかは関係無くテストで判断されるようだ。


ここでもひそひそ話をされているが気にしないでおこう。俺の人生には関係の無い人達だ。


説明も終わり、卒業試験はいつにするか担任に聞こうとしたら一人の女の子が俺にツカツカと寄ってきた。


「あなたが西の街を管理しているゲイル・ディノスレイヤねっ?」


「そうだけど何?」


「あなた横暴なのよっ!」


仁王立ちしながらビシッと俺を指差しそう叫ぶ。気が強そうだけどキリッとした顔立ちの整った女の子だ。高そうだけど趣味の悪い服を着ているな。


「なんだよいきなり。お前なんて初めて会うぞ」


「私の名前はお前じゃないっ! 王都最大手の商会、タイカリン商会の娘、デーレンよっ!」


「その商会の娘がなんだよ? うちと取引なんてしてないだろ?」


「西の街の仕入れを独り占めするなんて酷いじゃないっ」


「は? 独り占めなんてしてないだろ?ちゃんと適正価格で卸すようにしただけだろうが。だいたい今まで買い叩き過ぎてたのが悪いんだろ? タイカリン商会だっけ? お前の親に言っとけ。文句あるならもっと値上げするとな。嫌なら他所から仕入れろ」


「て、てきせいかかく?」


「あのな、俺の言う言葉の意味すらわからんのなら口出しするな。義務教育受け終わってから話し掛けて来い。時間の無駄だ」


「うっ、うるさいわねっ! うちはゴーリキー伯爵様と仲がいい商会なのよっ! あんたみたいなやつなんかどうとでも出来るんだからっ」


「じゃ、なんとかしてもらえ。俺には関係ない」


「伯爵様よっ! 伯爵様! あんた分かってんの?とっても偉い人なんだからねっ」


「お前が伯爵なのか?」


「違うわよっ! 人の話を聞いてたのっ」


「なら、お前は偉くともなんともないじゃないか。人の身分を自分の事のように威張るな、みっともない。それにさっき先生が身分を持ち込むなって言ってただろ? もう忘れたのか? それとも馬鹿なのか?」


子供相手にイラついたゲイルは煽る。


「ば、馬鹿っですってぇぇぇぇ」


「馬鹿だろお前? 俺の言葉も理解出来てないし、先生の言葉も理解出来てない。こういうのを馬鹿って言うんだ。アホでもいいけどな」


「なにそのアホって、馬鹿よりムカつくわっ。良いわよっ私と勝負しなさいっ!」


「お前、面倒臭いな」


煽っておいて面倒臭がるゲイル。


「誰が面倒臭い女なのよっ」


「勝負って、お前が俺に勝てる物なんてないだろ?面倒臭さ勝負なら負けるかもしれんけどな」


「キィィィィィッ」


こいつ、この歳でヒス持ちか。関わりたくねぇ。


「わっ、私はもうかけ算が出来るのよっ!」


「それがなに?」


「かけ算よかけ算っ! あなた知ってるの?」


「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」


「先生、かけ算の問題出してっ! 早く答えた方が勝ちよっ」


巻き込まれる先生。親達のざわめきが収まらない。こいつの親はどいつだ?


「勝ったらどうするんだ?」


「うちの商会に元の値段で卸しなさいっ」


「負けたら?」


「私が負ける訳ないじゃないっ! 商会の帳簿も計算してるのよっ」


ほう、この歳で帳簿計算してるのか。それは凄いな。元の世界でも天才キッズとか居たからな。もしかしたら侮れないかもしれない。


しかしこの世界のかけ算は足し算の連続だ。計算の早いフンボルトですらそうだったからな。負ける事はないだろう。


ふとアーノルド達を見ると呆れている。他はざわついているけど・・・ あ、入学式でみた趣味の悪い夫婦がニヤニヤしてやがる。あれが両親で子供をけしかけて仕入れ値を戻させようとしてるのか。なんて親だ。


「えー、とデレンデレンだっけ?」


「何よっ、へんな呼び方しないでっ! 私はデーレンよっ」


「俺が負けたら仕入れ値を元の半分まで下げてやる。お前が負けたら今の5倍にするからな」


「半分と5倍? こっちが損じゃない?」


「半分ってのは0.5倍ってことだ。同じ5だろ?」


「そ、そうなの?分かったわ」


やっぱりアホだ。ちょっと天才かもと思った俺もアホだな。


「先生、悪いけど問題出してもらえるかな?すぐに終わらせるから」


可哀想な先生は問題を出すはめになってしまった。


「では行きますね。2×5」


「10」


「えっ?」


先生も今計算してやがる・・・


「はい次出して」


「わ、分かったわ。もう少し難しいのを・・・8×8」


「64」


一桁のかけ算なんて計算とは言わない。瞬殺だ。


いっそうざわつく親達、青ざめるデーレン。


「先生、一桁のかけ算なんて計算する必要もないからせめて2桁にしてよ」


「じゃ、じゃあ 6×12」


「72」


「12×12」


「144。おいデーレン。もういいか? お前もう付いて来れてないだろ? これ以上やっても無駄だ。俺は中央で一番計算が早かった文官に計算方法教えてるからな。お前と勝負になるわけないだろ?」


「なっ、何よっ! そんなのズルいじゃないっ! 同じ歳の癖にっ」


何がズルいんだ?


「見てなさいっ」


ぶつぶつ・・・


こいつ魔法使えるのか?詠唱始めやがった


「ばっ、馬鹿っ! やめなさいっ」


太った親父が慌てて止めにはいろうと走ってくるというか転がって来そうになる。


うっすらと赤く光だすデーレン


こいつこんな所で火魔法使うつもりか?


「やめろっ」


ベシッとデコピンして詠唱を止めさせる。


「あうっ」


デコピンされてのけぞるデーレン。怪我するほど強くはデコピンしてないけど痛そうだ。


「なっ、何すんのよっ! お父さんにも叩かれたことないのにっ」


なんかよく似たセリフを聞いたことあるな。ちょっと面白い。二度ぶってやろうか?


「こんな所で火魔法使おうとするからだろ? 他の人を巻き込んだり、火事になったりしたらどうするつもりなんだよ。後先考えずに魔法使おうとするな」


「な、なんで私が火魔法を使うってわかったのよっ」


「うちは冒険者の家系だからな。攻撃魔法なんて見飽きてんだよ。それにそんな遅い詠唱をしないと出せない攻撃魔法なんてなんの役にも立たん。忘れろ」


「忘れろなんて良く言うわねっ! どれだけこの詠唱覚えるのに苦労したと思ってるのよっ」


「使えん魔法なんて無駄だ。それよりお前自身が危ないからだ。自分の命も人の命も奪うんだぞ。わかってんのか?」


「魔法が使えないからっていい加減な事をいわないでっ!」


「火魔法ってこれだろ?」


ボウっと野球ボールくらいの火の玉を出してやる。


大きくざわつく教室内。


「な、これくらいコントロール出来ないと意味無いんだよ」


「詠唱はどうやって覚えたのよっ」


「知らんよ詠唱なんて。俺は天才だから詠唱なんていらないんだよ。」


「そんなのズルいじゃないっ!」


「しょうがないだろ? いらないものはいらないんだから。おい、タイカリン!お前だろこいつの親は?」


「は、はいっ」


「お前なぁ、娘にこんな事をやらせるなよ。どうせ娘に勝負させて仕入れ値をなんとかしようと企んだんだろ? 商売人なら商売人らしくちゃんと交渉しに来い。それにロドリゲス商会にも嫌がらせしただろ?次なんかやったら潰すからな」


「いえ・・・ そんな事は・・・」


「なら、ゴーリキー伯爵の差し金か?それでもいいぞ。学校で身分を持ち出したのはそっちが先だからな。伯爵家ごと潰してやる」


「お、お待ち下さいっ。伯爵様はなんの関係もございません」


「ならこの落とし前どう付けるんだ?」


「いや・・・その・・・」


「ゲイル、もうやめとけ。気がすんだろ?」


止めに入るアーノルド。


「そう?父さんがそう言うならもういいわ。先生、俺の卒業試験の事、エイブリック殿下から連絡来てない?」


「は、はい。頂いております」


「いつしてくれる?」


「あの・・・、もうその必要は・・」


「なら合格でいいね?」


「は、はい」


「何よそれ・・・」


デーレンがボソッと呟く。


「何って、俺みたいなのが生徒に居たら先生もやりにくいだろうが。教えてもらうこともないから俺はもう卒業なんだよ」


「あの・・・ 卒業式には」


「それは出ないとダメなの?」


「は、はい」


「じゃ、次は卒業式でね」


「待ちなさいよっ。なんの為に私が西の学校まで来たと思ってるのよっ」


「そんなの知らんよ。頑張って留年しないようにしろよ」


「するわけないでしょっ!」



もう面倒臭いので無視だ。卒業式まで会うことはないだろう。


「待ちなさいよっ!」



デーレンは俺の姿が見えなくなるまで叫んでいた。


名前はデレだけど、ツンな奴だったな。アディオスっ!俺の人生に関係無い女の子よ。

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