第479話 チョコと上目遣い

社交会の事をナルディックから聞いて慌ててディノスレイヤ領に戻ることに。チュールと新メニューを相談しよう。そう思ってるとザックがうちに商品が届いたとやってきた。


「お前自ら配達してんの?」


「とても貴重な物と言われましたもので・・・」


厳重に封をされた箱を開けると発酵→乾燥済みのカカオ豆が入っていた。


「でかした! グッドタイミングだザックよ。こいつを持ってきた商人はまだ王都にいるか?」


「はい、他にも仕入れがあるからと言ってましたので」


「じゃあ、そいつに手紙を届けてもらってくれ。今からすぐに書くから」


送り主はイナミンだった。お礼と年初に大勢で南の領地に向かう事を書いておく。もう何人行くかわからないから大勢としか書けていない。


これはお菓子作りも一緒にやらねばな。ということでポットと弟子を引き連れてディノスレイヤ領に。



「えっ? ゲイルさんも料理作られるのですか?」


「知らない間にそうなってるみたいなんだよ。だからチュールに色々と教えるからそれを新メニューにしよう。ポットはちょっと新しい物があるから一緒に作ってくれ」


一度試しに作ったチョコレートはいまいちだったが、今回のは正式な手順を踏んでいるからまともに出来そうだ。


ドワンを呼んで来て作業工程を見せる。機械を作ってもらわねばならないからだ。


焙煎から始まって作業を続けていく。途中で味見するとめっちゃ苦い。当たり前だ。


ココアバターとココアパウダーに分けて砂糖、生クリームを入れてまた混ぜてと。ここからが難しい。テンパリングというやつだ。ポットにもやらせてみる。


ダマになったり、油が浮いて来たりとなかなか上手くいかない。弟子達も挑戦してやっていく。湯煎の温度は指で確認。肌で覚えるのがこの世界の常識だ。俺は鑑定するけどね。


「お、これはきれいだな」


弟子の一人が作ったヤツは見たことあるチョコレートだ。


試しに皆で食べてみると美味しいじゃん!


「ゲイルさん、これはお菓子の種類が飛躍的に増えますよ」


「生クリームとか多くすると固まらなかったりするから、ソースとしても使えるぞ。イチゴとかバナナとかにも合うし、パイナップルもいいぞ」


「あー、南国の果物ですか。あれほとんど手に入らないんですよ」


ポットは知っているようだ。


「南の領地と取引増やすから手に入るようになるよ。ここでは南国フルーツは作れないけど買い付けは増やすから。社交会用には俺が作ってやるからそれを使おう。クレープとかいいな」


お土産に出来るほどチョコレートが作れないから今回はチョコソースでやることに。しかし、パフェはエイブリックからリクエストが入っているらしいのでそれも作らないといけない。俺はまたアイスクリームマシンと化すのか・・・


イナミンへのお土産のチョコレートは確保しておく。カカオがこれになると教えてやらないといけないからな。


ドワンも今の工程を見て機械を作るとのこと。チョコを気に入ったらしい。



さて、次は中華メニューだ。ギョウザはもちろん、酢豚、肉団子、焼売を作る。この辺はチュールに作り方を教えるだけで十分だ。酢は南の領地の物を使った。ワインビネガーだとなんかイメージが違うのだ。


あとは春巻を作りたいのだが、タケノコが無い、春雨も無いとないない尽くしなのだ。春雨は作れるとおもうけど・・・


仕方がないので生春巻にする。中身はなんでもいいや。野菜中心に甘辛く味付けした鶏肉でいいか。


「これは中身が透けてキレイですね。ちょっと具は工夫します」


とのことなのでチュールにお任せしよう。


これはどっちに作って貰おうかと迷ったのがゴマだんごだ。チュールがやると言ったのでそれも任せる。


ぜんざいとかみたらしだんごとかはまた今度でいいか。


新メニューはこんなもんでいいかな。後は二人に任せておこう。ヨルドやシュミレと打ち合わせするらしいから。


数日を料理に費やしてからアイナのダウンジャケットを取りにいく。ミーシャ達もアイナのが出来るまで我慢してもらったのだ。



屋敷に戻ってアイナにダウンジャケットをプレゼントするとめちゃくちゃ喜んでくれた。ミーシャ達も一緒に着てみる。


ダンの忠告は正解だ。犠牲になれとかすまんかったな。


ブリックはちょっと拗ねている。チュール達に新メニューを教える時に自分は呼んで貰えなかったからだ。


「ブリック、拗ねんなよ。南の領地で海の幸料理を教えてやるから」


そう言うと機嫌を直してくれた。そう、君は料理人兼魚屋になるんだからな。覚悟しておいてくれたまへ。


晩御飯を食べ終え、部屋に戻ってミーシャ達としゃべってると


「ゲイル、チョコレート食べたいな」


シルフィードが上目遣いでチョコをおねだりしてくる。ふと見るとミーシャもミケも同じポーズだ。


「何やってんの?」


「ゲイル、こういうの好きなんでしょ?」


ゲッ、マルグリッドとのやり取りをしっかり見られてたのか・・・


3人が上目遣いで同じポーズでチョコをおねだりしてくる


・・・・・・・こりゃ、これからもやられるな。不味い所を見られてしまった・・・


カカオは社交会用に確保してしまったのでばくばく食べられる程数が作れてない。


1個だけねと言って順番に口に入れてやった。


たしか犬や猫ってチョコダメだったけど、ミケは食っても大丈夫なのだろうか?まぁ、ネギとかも普通に食ってるし大丈夫だろう。



闘技会までもうすぐというところでやっとアーノルド達が帰って来た。


3人ともボロボロだ。


「どうだった?」


「まぁ、及第点って所だな」


完璧ではないらしいけど、アーノルドの及第点ってことはかなり良い線まで出来るようになったのだろう。3人は挨拶もそこそこに晩飯を泣きながら旨いと言って食べていた。遭難してボロン村で飯を食ってた時と同じだな。



「なるほど、エイブリックのとこの社交会が終わったら南の領地に行くのだな。分かった。土産はなんか用意してあるのか?」


「種とか調味料、酒、刀、奥さん用のアクセサリーとかは準備したよ」


「上等だな。費用はこっちで持とう。後で請求しといてくれ。ディノスレイヤ領からということにするからな」


ほとんど費用掛かってないけどそれなら請求して皆に払っておこうか。皆、俺から金取らないから払ってないんだよね。アーノルドからということなら受けとるだろう。


「あとね、マリさんも一緒に行くことになったのと、王都の屋敷に2年間住む事になった」


「はっ?スカーレット家がよく許したな?」


「成人までの2年間はワガママを通したんだって。何をするのにも一切口出ししないって事らしいよ」


「そう、成人までのワガママね・・・」


アイナはなんか納得していた。


「そうだ! ゲイル、お前年明けたら学校始まるだろ?大丈夫なのか?」


「卒業試験受けて合格なら通わなくていいんだよね?」


「入学式とかは出ないとダメだぞ。それから試験だからな」


そうなんだ。


「じゃぁ、西の街の学校でいいか。それともここかな?」


「何言ってんだ。貴族街の学校に決まってんだろ?」


「なんで? ジョンもベントもここの学校だったよね?」


別に貴族だから貴族街の学校に行かないとダメって事はないだろう。


「お前は貴族街に住んでるだろうが」


王都の貴族は王都の貴族街にある学校に行くらしい。貴族だけでなく、貴族街に住む大手商人の子供とかも。


「まぁ、入学式出てテスト受けるだけなら別にどこでもいいや」


「入学式に何を着ていこうかしら?」


「え?母さん来るの?」


「当たり前でしょ?」


「ベントの卒業式出なかったじゃん」


「ベントが来なくていいって言うから・・・」


アイナは寂しそうにそう言う。


ベントの奴、反抗期なのだろうか? 昔はあんなにアイナにベッタリだったのに・・・


「せっかくゲイルに貰ったこれがあるから、これ着ていこっと。アクセサリーは前にお土産に貰った奴でいいわよね」


ん? アーノルド、あんたまさかまだアイナに何もあげてないじゃなかろうな? あのアクセサリーは綺麗だけど、普段使いするやつだぞ。まぁ、ロングとはいえダウンジャケットも普段着だけど・・・


アーノルドはダウンジャケットを見て、おっ軽そうだなとか言うだけで、アイナがアクセサリーは土産の奴で良いわねと言いながらチラッとアーノルドを見たのには気付いていなかった。





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