第477話 拗ねる

ディノスレイヤ領に戻ってからすっかりサボってた果樹園作りに精を出す。毎年梨、栗、柿は豊作みたいで、領内では流通が始まっているらしい。俺も何箱か保存魔法をかけて確保する。やっぱり梨は旨いな。栗はぶちょー商会の人達に手伝ってもらって全て甘露煮にしておいた。そう、瓶詰め加工に成功したのだ。これで瓶詰めのツナとかいけるな。南の領地でも瓶は作れるだろうから輸出しよう。


「坊主、ようやく出来たぞ」


「何が?」


「お前が顕微鏡ってのを作れと言ったんじゃろうがっ! どれだけ苦労したと思っておるんじゃっ!」


ドワン激オコ。


すっかり忘れてたよ。


出来た顕微鏡を覗いてみる。おおー、面白い。


「おやっさん、ありがとう。これをエルフの里と王室の研究所に渡すからもう1つ作って」


「まったくお前はいつも面倒臭い仕事をやらせおって」


もう機嫌が悪くなったドワンはぶつぶつが止まらない。


「あとさ、水中メガネとシュノーケル作って」


「なんじゃそれは?」


何に使うものか説明する。


「ほう、それがあれば水の中で息も出来るし、見えるようになるのじゃな?」


「そう。俺達も潜って貝とか採れるよ」


「よし、作ってやる。次はいつ行くんじゃ?」


「もうすぐ出るよ」


「何っ? 闘技会が終わってからでも良いじゃろうが?」


「それまでここに居たら手伝わされるからそれまでに出るよ」


「ダメじゃっ! ワシは今回の闘技会を手伝う約束になってるんじゃからなっ!」


「いや、こっちも仕事があるから先に行くよ。ジョージ達と行けばいいじゃん」


「誰が魚の調理するんじゃっ」


「おやっさんも冒険者時代に飯作ったりしてたんでしょ? 自分でやりなよ」


「きっさま~っ!」


ダメだ。一度機嫌を損ねたドワンはすぐにスイッチが入ってしまう。退散しよ・・・


怒り狂うドワンを放置して、羽布団とダウンジャケットを取りに行った。


「こんな感じでよろしいですか?」


おおー、羽布団だ。生地は日本で使ってたのよりごついけどやっぱり軽い。ダウンジャケットもいい感じだ。


「はい、これはミーシャとシルフィ、ミケの分だよ」


「わぁ、いいんですかぁ?フワフワで暖かいですぅ」


「ゲイル、ありがとう」


「めっちゃぬくいやん。ウチまでええのん?」


三人とも大喜びだ。


「ぼっちゃん、俺のはねぇのか?」


お前毛皮着てんじゃん


「もう羽が足りないからね。ダンは寒さに強いだろ? 布団はあるからそれで我慢してくれ」


「シルフィードも寒さに強いじゃねーか?」


「女の子は別だ」


これは差別ではない区別だ。


ちょっと拗ねるダンだか仕方がない。布団を中心に作ってもらったからな。また次の冬で羽が貯まるだろうからそれからでもいいだろう。


「まぁ、俺はいいけどよ、アイナ様やミグルのは作ってやらなかったのか?」


あっ・・・


「ほら、ミグルも母さんも寒さに強いから」


「ミグルはマント着てっからよ、まだ言い訳利くだろうけど、アイナ様はどうかね? アクセサリーをあげた時にあんなに喜んでたろ? ミーシャやシルフィードが着てるのを見て自分には無いって知ったらどうなるのかね?」


嫌な事を言うなよ・・・


「まずいかな?」


「ぼっちゃんの頭が潰れなきゃいいな」


ダンにそう言われてアイナクローが炸裂したことを想像する。


ぷちゃっ


おぉ、なんて恐ろしい・・.


「おっちゃん、悪いんだけど、この布団一度ばらして服に作り替えてくれないかな」


「わ、分かりました。お急ぎですか?」


「なるべく早くでお願い」


「ぼっちゃん、あの布団誰のだ?」


「ダンの」


「酷ぇっ!」


「仕方がないだろ。羽がもう無いんだから」


「俺だけ服も布団も無ぇのかよ」


「来年楽しみにしててね」


これでドワンの布団を出したら1年くらい拗ねそうだからな。犠牲者はダンになってもらおうと思ったら、いつまでもぶつぶつ言うダン。仕方がないから服屋にちょっと待って貰って、羽を仕入れに鴨の養殖場にいき、アイナの服に必要な分だけ鴨をさばいて貰った。こんなに大量の鴨肉どうすんだよ・・・


ダンの布団はそのままに、新しく仕入れた羽でアイナの服を発注しておいた。


それと双子用のインナーベストは皆にバレないようにこっそりと受け取った。



大量の鴨肉はイナミンへのお土産にするか。


次に肉屋に行って肉を大量に仕入れておく。


「お、ぼっちゃん。ずいぶんと久しぶりじゃないか」


「あちこちに行ってるからね。あ、新しい豚肉を仕入れたらここで取り扱う? 遠くからもってくるから高くなるけど」


「新しい豚肉?」


肉屋のミートに食べさせようとタイベの豚肉を少し残してあるのだ。もし取り扱いするなら魚と一緒に仕入れてもいい。


南の領地の豚の旨さは脂にある。シンプルにバラ肉を焼いて食べさせる。


「おっ、こりゃ旨いな。どれくらいの値段になりそうだ?」


ざっと計算して金額を提示する。


「こんな値段になりやがるのか。ちとここで売るのは難しいな。この値段なら王都でしか売れねぇだろうな」


俺の利益抜き、輸送費だけ乗せた金額でも無理か。


「なら仕方がないね。残りのお肉はお土産にあげるから家族で食べて」


「いつも悪いな。ほれ、こいつはサービスだ持っていってくれ」


そういって鶏のホルモンと軟骨をたくさんくれた。やった! 今日は焼き鳥にしよう。


そろそろドワンの頭が冷えたかな? と商会に戻る。


「おやっさん、これプレゼント」


「なんじゃこれは?」


「羽毛布団だよ。軽くて暖かいから寝心地抜群だよ」


「ほう、鴨の羽を布団に加工したのか。こいつはいいわい」


良かった。機嫌が直ったようだ。ドワーフは物で釣るのに限る。


その後、アイナとブリックを屋敷に迎えに行き、小屋で焼き鳥パーティーをした。


「それで南に行くのは決まったのか?」


「父さん達が戻ってきたら出るよ。コンテナを持っていかないとダメだからロドリゲス商会と一緒に行く事になるよ」


「アーノルドは成果が出ようと出まいと闘技会ギリギリに戻ってくるじゃろう。坊主が先に出て向こうで待っておけ」


「あら、母さん達も行くわよ」


へ?


「もう行くの?」


「セバスに聞いたわよ。ゲイルが業務改善? っていうのをしてくれたお蔭でずいぶんと余裕が出来たみたいだからアーノルドが居なくても大丈夫だって」


「じゃあ・・・」


「アーノルドも行くって言うに決まってるじゃない。だからドワン達も一緒に出ればいいわ」


「そんなぞろぞろと押し掛けたら迷惑じゃん」


「挨拶だけして海釣り公園って所に泊まればいいでしょ?」


いったい何人で行くことになるんだよ・・・ 今度は少人数でまったりとやろうと思ってたのに。


結局、闘技会が終わってから出発となってしまった。冬の海は何が釣れるのだろうか? 夏よりは釣果が落ちるのは間違いないけど。


その後はいつもの宴会となり、夜中にこっそりと隠密の双子に羽毛ベストを渡した。中に着るものなら隠密行動にも支障は出ないだろう。


予定が狂ってしまったので、まだやってなかった王都ーディノスレイヤ領の街道から新領へと延びる道を整備していく。木々は後日ミゲルに運び出して貰おう。


ついでに新領からボロン村へと続く道、王都に繋がる道も整備だ。これで新領も近くなるから便利になるし、馬車も暴れる事なくスムーズに通れるだろう。


そうこうしているうちにベントが学校を卒業したので屋敷でパーティーだ。ポットが来てくれてスイーツバイキングをして貰った。弟子達も腕をあげているようでどれも美味しかった。


しかし、アーノルド達はまだ帰って来ない。もうすぐ闘技会だぞ・・・










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る