第476話 だんだん出来て来た西の庶民街

コンテナ用の馬車はディノスレイヤ領のロドリゲス商会に運搬を頼んだ。全部で5台。数日掛けて王都に運び込まれる予定だ。コンテナ1台はバルに置いておかないとな。そうバルでも海の幸を販売するのだ。アーノルド達も魚が食べたければここに来ればいい。ブリックの料理教室から育った人が何軒か店を出しているので差別化を図らないと高値で販売しにくくなるからな。



王都に戻ってからベントと相談する。


「もうすぐ卒業だろ?その後どうすんだ?」


「もう一年間ここで修行しようかと思ってるんだ。屋台も増えたからそれの管理の後継者を作らないとダメだからな」


ベントは今や5屋台の主だ。この1年を掛けて学生だけの商会を立ち上げるらしい。領主コースの生徒だけでなく、お金に困る学生達が社会勉強を兼ねて運営するシステムをやるのだと。


「いいじゃないか。この街の店もだいぶ出来てきたから人が益々増えるぞ」


「そうなるといいな」


「サラはどうする? お蔭で接客スタッフも育って自分たちで運営出来るようになってきたし、あの教室はもうすぐ取り壊しするからな」


「教室が無くなったら俺の手伝いをしてもらうよ」


「そうか、ならサラにお礼を言っておいてくれ。これは講師代金として渡しておいてくれるか?」


「うちの屋敷から給金出てるだろ?」


「それはベントのメイドとしての給金だからな。講師は俺から依頼した仕事だから別給料だ」


金貨3枚を渡しておく。


「こんなにいいのか?」


約半年ちょっとの講師代としてはまずまずだろう。普通の人の倍くらいあるからな。


「講師って難しいんだよ。みんな育ってくれたからこれくらいは当然だよ」


ベントが卒業した後の二人分のここの家賃と食事代も俺持ちと言うことで俺がいない間に手伝ってくれた礼とした。


次に元グズタフ領だった新領に行って小豆と家畜用のトウモロコシをここで生産するようにする。ここの作物もすべてロドリゲス商会に卸させるようにした。


もち米は西の街で作ろう。ほぼここの街で消費するだろうからな。


壁の外のマスの養殖場も順調にいってるみたいだ。ヨウナによるとコボルトが柵の向こう側にあらわれたが、コボイチ達があっという間に柵を飛び越えて退治したとのこと。牧羊犬兼用心棒として大活躍だ。今はシルバー達と走り回って遊んでいるけど嬉しい誤算だ。


しばらく日にちが経ってコンテナがやって来たのでエイブリックに預けるのと紋章屋にデザインを任せる。すでに役所そばに紋章屋が出来ていたので話が早い。


ソドムとフンボルトに劇場近くの一等地の店を確保するように依頼。女性向け店舗だ。近くのポットがやる高級カフェ兼ケーキショップはもうすぐ完成するらしい。仮店舗でパティシエの弟子達を何人も雇って訓練しているとのこと。


小熊亭に久しぶりに顔を出す。


「あー、ぼっちゃんだ。父さん、母さんぼっちゃんが来たよ」


ん?


どうやらジロンとセレスは結婚したらしい。おめでとう。


「だいぶ様変わりしてきましたね」


「もうすぐ、この辺も取り壊しするから迷惑掛けるね」


「いやぁ、ここに来てくれる客はそんな事気にしないから大丈夫だ」


「店の従業員増えたの?」


「他の店が出来るまでのアルバイトだ。ミーシャちゃん達が教育してくれた子ばっかりだから即戦力で助かるよ」


「ショールはどうするの?自分で店持つの?」


ショールは南の庶民街から料理がしたいとここに来た娘だ。父親の服屋もまるごともうこっちに来たらしい。


「うん、迷ってるんだよね。ここは居心地いいし、楽しいからこのままでもいいかなぁとか、でもやっぱり服も好きだなぁとか」


親父さんの服屋がここに来てから小熊亭の部屋を引き払ってそこに住んでいるらしい。カフェ向きの可愛いデザインの制服とかはショールがデザインしているようだ。


「料理人になりたかったんじゃないのか?」


「うん、そうなんだけどね、自分に新しい料理が作れるかといったら疑問なんだよね。ずっと同じメニューって訳にもいかないだろうし。服なら色々考えつくんだけど・・・」


「なら服のデザインでもするか? ディノスレイヤ領から装飾職人がここに店を出したいっていうから任せるつもりなんだよ。アクセサリーと化粧品の店なんだけどね。そこで庶民向けのオシャレな服を売りたいなとか思ってるんだ。そのうち劇団とかも出来てくるからその服とかも作って欲しいなとかね」


「えっ?何それ?」


「ほら、ここの服ってどこも似たり寄ったりじゃない? ブランドっていうのを作りたいんだよね。例えばぶちょー商会の紋章が入った調理器具とかいまや高品質の代名詞みたいになっただろ? あんな感じでアクセサリーや服とかにも店の紋章入れて売ろうと思ってるんだよね」


「へぇ、それいいなぁ」


「この前まで南の領地に行ってたんだけど、ここには無い色使いの生地とかあったぞ。もうすぐ頻繁に南の領地と取引するから生地も仕入れる事が出来るだろうし、服のバリエーションが増えるんじゃないかな? 後は魔獣の毛皮とかで冬の服とか作ったりとか」


試しにエイプの敷物を見せて説明する。


「これは簡単に縫い合わせてあるだけなんだけど、服にも出来そうだろ?コートとかにも出来るんじゃないか?」


「うわ、こんなのもあるの?」


魔物の毛皮なんてバンバン手に入るはずなのに誰もそれを着ようとしないこの世界。敷物にしか使わないし、ウサギの毛皮とか小さくて金にならないから捨てられているのが現状だ。コボルトも冬毛の時は商品になるだろう。


「ショール、小熊亭の事は気にしなくていいぞ。料理人志望の奴が増えてるからすぐに雇えるし、アルバイトでも構わんからな」


「ありがとうジロンさん。少し考えてみる」


餅は餅屋か、ショールは料理人より家業の服屋の方に才能があるのかもしれないな。やりたい仕事をやればいいさ。


このままここにいると焼き鳥を焼くはめになるので退散する。ミーシャ達の仕事ぶりを見に行くと、すでに生徒だった者達が講師を務め、ミーシャとミケは見ているだけになっていた。サラは鬼教官として君臨していたが。


次に南の領地に行く時にミーシャとミケを連れて行ってやるか。



西の街の開発は順調だ。あとはエルフやドワーフ達が来て劇団や楽器が出来てきたらほぼ完成だな。それと海の幸料理はどうやって広めるかだな。ブリックも南の領地に連れて行ってそこで覚えさせてしばらくここで料理教室をしてもらうか。うん、そうしよう。ブリックなら魚屋も喜んでやってくれるだろう。


さて、ここでやるべき事はやったし、ディノスレイヤ領に戻るか。アーノルド達もそろそろ帰って来てるかな。というか帰って来てくれないと闘技会の仕切りを俺がやらないといけないはめになる。それは勘弁だ。


コンテナの件はロドリゲス商会に任せてディノスレイヤ領に戻る事にした。


「ぼっちゃん、慌ただしいな。こんなにあっち行ったりこっち行ったりしないといけないもんなのか?」


「しょうがないだろ。やることがたくさんあるんだから。あと2年で俺が居なくても大丈夫なようにしておかないと」


「なんかあるのか?」


「学校だよ、学校。義務教育は試験だけで済むようにしてくれたけど、魔法学校はそうはいかないだろ? 俺は魔法陣の勉強をしたいんだよ。俺が魔法陣組めるようになったらもっといい冷凍庫とか乗り物とか作れるかもしれないんだぞ」


「今でも十分じゃねぇのか?」


「保存魔法の魔法陣とかあれば生の魚がここでも食べられるし、クリーン魔法の魔法陣があれば汚れた服とか防具とか綺麗に出来るし、アイスクリームの機械とかも作れるんだぞ。飛躍的に便利になるに決まってるじゃないか」


「ぼっちゃんがいれば全部出来るじゃねーか」


「また俺を便利な機械にしようとするなよ。稼いだら誰でも手に出来る幸せを作っておけばそれが欲しくて働くだろ? 俺しか出来ない事だらけなのはダメなんだよ」


「なぁ、それが出来たらいつでも新鮮な海の魚が食べられるん?」


「金出しゃ手に入るようにするよ。冷凍品でも旨い魚は手に入るけど、釣りたてのには敵わないからな。次に南の領地に行くときに一緒に来るか?」


「えっ?連れてってくれるん?」


「ミーシャも行くだろ?」


「はいっ!もちろんです」


「ダン、コンテナが出来たらロドリゲス商会と一緒にもう一度行くからな。今度は冬の魚を食うぞ」


「ヘイヘイ、ジョージ達はいつ行くんだ?」


「あっちはおやっさんに任せるよ。そこまで手が回らないからね」


「と言う事はおやっさんは連れていかないのか?」


「行けるなら一緒に行けばいいけど、こっちの都合で動くからおやっさん次第だね」


「行けなかったら怒るぞー」


「嫌な事言うなよダン。こっちは仕事で行くんだから」


「でも釣りすんだろ?」


「当たり前じゃん」



こんな会話をして翌日にはディノスレイヤ領に戻った。


出張三昧の日々を思い出すな。毎週新幹線や飛行機に乗ってた時と同じだな。生まれ変わって異世界に来てもやることが同じとは因果なもんだ・・・




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