第475話 業務改善とメイク

取りあえずコンテナを作り終えた頃にアーノルド達は修行に旅立った。修行場までは俺が行った時より早くたどり着けるだろう。今は秋だから雪も無いし獲物も豊富だ。皆には治癒の魔法水をたくさん渡しておいたのでまぁ大丈夫だろう。



さて、今日からはディノスレイヤ領の役所仕事だ。アーノルドは確認作業をしていたらしいが、俺には実務を兼ねて見て欲しいとセバスに言われた。帳簿はがり版刷りで作るようになってずいぶんと仕事が捗るようになったらしいが、人が増え続けているので作業は常に手一杯みたいだ。


帳簿そのものは西の街のやつと同じだな。とてもシンプルだ。


それぞれが懸命に石板にメモを取りながら計算している。ここにもそろばん導入した方がいいな。万年筆も皆に支給するようにアーノルドに言っておこう。大量発注ということで安くしてやればいいだろう。


俺が実務に入る前に皆の仕事ぶりを確認していく。真面目にやってるが・・・


「なぁ、セバス。これみんなどうやって計算してるんだ? めっちゃ時間掛かってるけど」


桁は多いが単純な足し算とかけ算だ。税は2割だから暗算でも余裕だろうに。


セバスの説明によると金貨・銀貨・銅貨の計算とかけ算に時間が掛かるらしい。俺にはなぜそんなややこしくするのか理解出来ない。


「金貨とか銀貨を毎回計算する必要ないだろ?最後にやれば良いじゃないか。」


「と申されますと?」


「全部銅貨で計算して、最後に金貨銀貨にすれば済む話だろ? それに税は2割なんだから計算する必要すらないじゃないか」


単純に税の元となる金額を倍にして一桁消してやれば済む話だ。端数は切り捨て。


一つの帳簿を俺がやってみるとすぐに終わる。


「な、ここをこういう風に計算すれば単純だろ?分かりにくいようなら、金貨・銀貨・銅貨の換算表を大きく貼っといてやれ。換算なんて最後にやればいい」


皆に今のやり方を説明する。


「本当だ・・・・」


なんでこんな事に気が付かないんだよ・・・ 知恵が足りないにも程があるぞ。


その他の実務を見ていく、書類の整理方法も人それぞれで、必要な時に探すのにめちゃくちゃ時間掛かっている。インデックスを付けて、整理する順番を決めたりとか初歩的な改善をしていく。皆が同じルールを守るようにそれも張り出す。書類を持ち出した時はそこに自分の名前を書いた物を代わりに入れておくようにもした。これで誰が持ち出してるかすぐに分かる。


今日は実務というより、業務内容の改善に費やす。そろばん云々の話ではない。すべてが非効率なのだ。



「ゲイル様、たった1日でこれ程仕事がやり易くなるとは・・・」


「セバス、こうやったらもっと分かりやすいとか捗るとか皆から意見を出させよう。あとはこういうものがあったら便利だなとか。直接言いにくいなら目安箱ってのを置け。そこに書いて入れてもらえばいいんだ。良い意見には報償金とか出してやれ」


「かしこまりました。ぜひそうさせて頂きます」


後から入って来た者達はこうすれば良いのにと思っていても昔ながらのやり方に異を唱えられないものだからな。


後は時間毎に休憩をきちんと取らせること。疲れて来ると同じミスを繰り返すから休まないのは効率が落ちるのだ。


こうしてジョン達が帰ってくるまであれやこれやとアーノルドの職場の改善を続けて行くと俺のすることがどんどん無くなっていく。


「セバス、もう俺居なくても大丈夫だよね?」


「はい。後は私にお任せ頂ければ」


「じゃあ、俺は王都に戻るよ。自分の仕事がおざなりだからね」


「ありがとうございました。皆も仕事が楽になったと喜んでおります」


これでアーノルドも自由に動ける時間が取れるようになるだろう。もっと早く見てやれば良かったな。知恵の足りない世界で冒険者上がりから役所仕事やってたらこんな事になるのか。よく今までやってこれたもんだ。



俺が役所仕事をしている間ずっと暇だったダン。今まで休み無し同然だったので、ずっと休みにしてあったのだ。ちょっと太ったんじゃねーか?


「ダン、鴨の養殖場に行くぞ」


「お、いいねぇ。鴨鍋を久しく食ってなかったからな」


ダンの頭の中は食うものと酒だけになってるのか?


「いや、もうずいぶんと羽が溜まってるはずだから、それを加工してもらうんだよ」


「何すんだ?」


「布団にしてもらうんだよ。後は服とかにもね」


???のダンを連れて鴨の所に。


「ぼっちゃん、お久しぶりでございます。鴨達はトウモロコシの餌で身付きが良くなりました」


おぉー、野性味がなくなってコロコロした感じになってるな。もう羽切らなくても飛べないんじゃないか?


「羽は置いてあるよね?」


「はい、言い付け通り全部置いてありますよ」


フワフワの羽にクリーン魔法を掛けて貰っていく。かなりたくさんあるから布団もダウンジャケットもできそうだな。


その足で洋服屋に行って作り方を指示する。


「鳥の羽を綿の代わりに使うとは驚きです」


「じゃあ宜しくね」


あまりぎゅうぎゅうに詰めないように言って制作を依頼。これで寒い日も安心だ。羽布団・・・ あぁ、寝るのが楽しみだな。



「ぼっちゃん、これが出来たら王都に戻るのか?」


「もうすぐコンテナ用の馬車が出来るからそれからだね。王都でそれに魔道具付けて貰って紋章書いてもらったらまた南の領地に行くよ」


「リークウ領主への土産はどうすんだ?」


「醤油、味噌、酒、薄力粉だね。後は種を各種かな。トウモロコシとか米とか薄力粉とかの」


「リッキーの作った刀とか喜ぶんじゃねーか?」


「おっ、そうだね。じゃあそれとリンダさん向けにアクセサリーも作って貰おうか」



王都に戻ってもすぐに出発するわけではないので、今のうちに発注を掛けておく。リッキーにはダンがイナミンの体格とかを伝えて刀を打ってもらい、ミサには俺がリンダのイメージを伝えてアクセサリーを作ってもらう。


「ねぇゲイル君。お願いがあるんだけど」


装飾職人のミサが俺に何かをねだってくる。


「なんか欲しいの?」


「王都に店作ってくれない?」


「ここどうすんだ?」


「従業員も育って来てるから大丈夫。武具への装飾はもう任せられるんだけど、ここじゃアクセサリーがあまり売れないんだよね」


「王都っていっても庶民街しか無理だぞ?」


「大丈夫、大丈夫。庶民向けのを売るから。あとこんなの作ってるんだ」


「何これ?」


ミサが出して来たのは小瓶が数種類。


「へっへーん。化粧品だよ。リンスを作ってくれたでしょ。もっと色々欲しいなぁと思ってね」


なるほど、ミサは仮装でもしてんのかと思ったら化粧したのか。トーテムポールに付いてる顔みたいになってんぞ。


「これ鉛とか入ってないよな?」


「入ってないよ。鉱石を粉にしたのは入ってる奴もあるけど。後は植物と虫とかから色出してる」


なら大丈夫か。


「お前、化粧するのはいいけど、今してるのは変だぞ」


「やっぱり?」


子供顔だから余計に変だ。


「シルフィード、ちょっとモデルになってみてくれ。俺がやって見せるよ」


美容に詳しいわけじゃないけど、ミサのよりはマシだ。


シルフィードに薄い化粧をしていく。透き通るような肌にちょいちょいっと。やり過ぎは逆効果だからこれくらいでいいな。うん、まさに生きたフィギュアだ。飾っておきたい。


「わぁ、ゲイル君上手!私にもやってみてっ!」


ミサの肌は褐色だ。この少しキラキラした奴を使おう。目元に黒でちょいちょいっと。口は赤でと。


「うわっ、すごいっ!私じゃないみたい」


サキュバスの子供みたいになってしまったがトーテムポールよりいいだろう。


「うちにもやってぇな」


ミケとミーシャも一緒に来てたのでやってやる。ミケはよりネコ目を強調したメイク、ミーシャは素っぴん風メイクだ。


「うわっ、これカッコええやん」


「おぅ、ミケ似合ってんぞ」


ダンは初めて褒めた。他の人には何も言わなかったのに。


「そうかな・・・ えへへ」


ポリポリと耳の後ろを掻くミケ。


「ぼっちゃま、どうですか?」


「ミーシャもより可愛くなったよ」


「えへへ」



良い世界だ。日本ならおっさんがするメイクなんてダッサとかキモっとか言われておしまいだろうが、ここでは最先端だ。素直に喜んでくれるのが嬉しかった。


庶民街にアクセサリーと化粧品の店か。これは流行るかもしれないな。一等地に出店させよう。それに劇団の化粧も必要だしな。ミサのアイデアはグッドだ。ついでに美容液とかにこっそりと治癒魔法水を混ぜよう。めちゃくちゃ評判になること間違いなしだな。そうだ、いっその事、美容ブランドを立ち上げるか。バッグとか服とか売れそうだしな。西の街は飯、お菓子、風呂、レジャーにオシャレが加わる街だ。そのうち街の名前も変えようかな。


またやることが増えた事には気付かないゲイルであった。



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