第474話 遊びから仕事モード
今度来るときは少人数で来よう・・・
俺は釣りというより魚屋だ。延々と魚の処理をさせられ、釣りをしてる時間はほとんど無かった。
タゴサにタックルや釣糸、エギ、ルアー、ヤエンなどほとんどあげて帰ることになった。
イナミンの屋敷でサフランがないのでパエリアもどきやシーフードのアヒージョ等をごちそうしながら今後の事を打ち合わせる。ディノスレイヤ領と西の庶民街と全面的に取引を行い共に発展することを約束した。
「ここの領地にゲイルの屋敷を作ってやろうか?」
「いや、釣り公園があるからいらない。ここに来たらあそこに入り浸る事になるからね」
「あっはっはっ。そうか。お前は欲があるのかないのかわからんな」
「欲まみれだよ。あんな色々な物が釣れる一級ポイントを独り占め出来るんだから。そうそう、帰ったらこんな感じの輸送システムを作ってくるね」
作るのは冷蔵・冷凍コンテナだ。大型の遠距離用は俺の紋章とぶちょー商会、ロドリゲス商会の紋章を入れ、小型のはリークウ領内の紋章を入れ、領内に新鮮な魚介類を流通させるようにした。イナミンには料理のレシピをたくさん買い取ってもらい、領内の食事処に販売してもらう。手数料は取られるがほとんどぶちょー商会の利益になる。
今回、突然来たにも関わらず、とても良くしてくれた事にお礼を言って南の領地を後にした。
門の外に出ると盗賊の親玉はすでに首だけになって晒されており、帰り道の至るところに盗賊どもの首がさらされている。
気になるのはそこにある看板だ。
《盗賊は容赦なく全員討伐する。ゲイル・ディノスレイヤ/イナミン・リークウ》
俺の紋章と共にこう記されていた。
こうしてこの街道界隈の盗賊達にとって俺の紋章は恐怖の対象となったのであった。
盗賊団を一掃したのもあるが、帰り道は一度も盗賊に襲われる事なく王都に戻って来れた。
「お帰りなさーい!」
ミーシャの熱烈な感激を受けて久しぶりの屋敷で皆で飯を食いながら今回の旅の話をした。
「明日は父上の所に行くのか?」
「そうだね、帰って来た報告とドワーフの国と南の領地の事を報告しておいた方がいいから。その後、ディノスレイヤ領に行くよ」
「では俺も一緒に行こう。父上に色々と報告をせねばならんからな」
ー翌日ー
「ほう、リークウとそんな事になったか。あの気難しい男をよく手懐けたもんだな」
「気難しい?」
「あいつは変わり者でな。王都には滅多に来んし、他の貴族とも馴れ合わん」
「あー、なんとなく分かるわ。豪快な感じがする人だからね」
「好き嫌いがハッキリ顔に出る奴でな、王都に来るといつも苦虫を噛み潰したような顔をしている。奥さん綺麗だったろ?」
「うん」
「一度、他の奴が奥さんを褒めまくって色目使った奴がいるんだ」
「斬られたの?」
「いや、さすがにそこまではやらんかったが社交会の場で殴り飛ばしやがった。それからイナミンは社交会には顔を出さなくなったけどな」
奥さんを軽く褒められるのはいいが、度を過ぎると気分が良いものではないだろう。それに色目を使ったのなら殴られた奴が悪い。
「ちなみに殴られたのは誰?」
「本当に色目を使ったかどうかは分からんが、殴られたのは庶民街を統括してる伯爵のイバーク・ゴーリキー。お前も知ってるだろ?」
「いや、知らない」
「ん? 庶民街の管轄任せた時に顔合わせとかしてないのか?」
あー、そう言えば執事のカンリムが挨拶がどうたらとか言ってたな。
「面倒だったし、特にメリットもないから挨拶すらしてないや」
「はっ、お前らしいな。まぁ、そこそこ政治力というか金回りの良いやつだからな、上手く付き合っておけ」
「やだよ面倒臭い。俺は政治力とかいらないからスルーでいいよ」
「そうか、なら好きにしろ。あと、海の魚料理をシュミレに教えておいてくれ」
「ヨルドさんじゃなしに?」
「ヨルドは王家料理人の副コック長になった。ここにはおらん」
「へ?」
「コック長だったウィスパー・フランネルは解任だ。やつの家の事もあるから、フランネル家からは名ばかりのコック長を出させた。それでヨルドをコック長には出来んかったが実質はコック長だ。来年の社交会の新メニュー頼んだぞ」
は?
「もういいんじゃなかったの?」
「今年は大失態だったからな。2年続けて失態というのは不味いだろ? お前責任取れ」
「なんの責任だよ?」
「ウィスパーを失脚させたのはお前だろ? ヨルドが仕切るようになって失態になったら可哀想だとは思わんのか?」
失脚させたのはあんただろうが・・・ まぁ、ヨルドが仕切るなら手伝ってもいいけど。海の幸メニューがあるからなんとかなるしな。
「新メニューっていっても、庶民街とディノスレイヤ領でも出すよ」
「構わんぞ。貴族街では出さんのだろ?」
「店持ってないからね」
「なら、問題ない。貴族連中が庶民街で飯を食うことはないからな」
新メニューは前にエイブリックが言ってたように制限はしなくて良いみたいだ。
「じゃあ、それまでに南の領地と上手く流通出来るようにしておくよ。あとお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「冷凍する魔道具で一番強力な奴が必要なんだけど、王家の所のやつ、エイブリックさんの物よりいい奴だよね?」
「そうだな。あれが欲しいのか?」
俺は冷凍コンテナの説明をする。コンテナを運んで、漁村にもコンテナを置いておく。中身を積み替えるのではなく、コンテナごと入れ換えて来るのだ。これだと魔石の消費も抑えられるし楽だからな。中にどれだけ何が入ってるのかは記録しておいてもらって金額を払えばいい。誤魔化すような事はしないだろうし。
「では複数必要なのだな?」
「コンテナはこっちで作るから、それに取り付けて欲しいんだよね」
「わかった。手配しておこう」
これで流通はなんとかなりそうだな。冷凍・冷蔵の魔道具代金は今までの褒美としてエイブリックからの寄付という事になった。アルの面倒も見ているから遠慮する必要もない。
その後、ロドリゲス商会に行って今回の流通の説明をしていく。ザックには難しいかもしれないので大番頭と話を詰める。
「わかりました。やりましょう。そのコンテナ方式は革命的ですね」
「だろ?」
「南の領地にうちの支店を出す事は可能ですか?」
「可能だよ。すでに話は付けてあるから」
「わかりました。さっそく現地の調査に取りかかります。これでますます揉め事が大きくなりそうですなぁ」
そう言ってはっはっはと笑う大番頭。
「なんかあったの?」
「いえいえ、商売には付き物の揉め事ですからご心配なく」
話を聞くとやはり、西の街の仕入れに関して一悶着あったようだ。ソドムやフンボルトではなく、直接ロドリゲス商会へ乗り込んで来たらしい。
「ぼっちゃんの命令だと名前を使わせて頂きましたので大丈夫でございます」
「色々とありがとうね。また揉めるようなら言ってきて」
「はい。その時はまた宜しくお願い致します」
翌日にディノスレイヤ領に移動。屋敷に到着するとアイナにむぎゅーっとされる。
アーノルド達に今回の話をして、イナミン・リークウが会いたいと言っていた事を伝える。
「そうか、南の領主とはそんな奴か。あそこには行った事がないし、海釣りは楽しそうだな」
「これからも仕入れとか指導とかで行くことになるから父さんと母さんも一緒に行く?」
「おぉー、いいなぁ。しかし、ここを長い間離れるのはなぁ・・・」
まだ人に任せられる体制出来て無いのかよ・・・
「あとお願いもあるんだけどね」
「なんだ?」
「ジョンとアルに気配を消す訓練をしてあげて欲しいんだよね。ミグルも含めて」
「あの訓練をやらすのか?」
「そう。もう戦闘的には問題ないんだけど、気配の訓練って将来的にも必要だと思うんだよね」
「そうだな。冒険者を続けなくともジョン達にも必要だな。よし、わかった」
「ゲイルがやった訓練を俺達にも?」
「そうだぞ。どれくらいの期間で習得出来るかはお前達次第だ。ミグルはどうする?」
「わ、ワシもパーティーなんじゃから行かねばならんのだろ?」
「いい心掛けだ。では数日後に出発しよう。ゲイル、その間、俺の代わり頼んだぞ」
は?
「どういう事?」
「そういうことだ。何をするかはセバスと相談してくれ」
「いや、俺は他にもやることたくさんあるんだけど・・・」
「もう色々と任せられる体制取ってるんだろ? こいつらがさっさと習得出来ることを祈っておけ」
エイブリックといいアーノルドといい、あんたら子供にばっかり何やらせんだよ?
仕方がない、アーノルド達が修行に行く迄の間にここでやることを片付けなければ・・・
もう遊んでる時間がまったくない。
翌日からはせっせとコンテナ作りだ。ぶちょー商会で軽くて丈夫な金属を貰って6面真空パネルのコンテナ作りだ。ドワンもこんな急ぎの仕事をさせよってと怒りながらコンテナ用の荷車作り。コンテナを置く土台にも工夫が必要だ。
作り初めていた醤油はもうすぐ商品になりそうで、さらなる増産を依頼。後は紙がほとんど完成していた。これに書きやすく表面をツルツルにする加工が必要だな。
夜は久しぶりに森の小屋で宴会だ。ドワンがいなくてもドワーフ達が管理してくれているみたいで綺麗に保たれている。スライムも元気で俺達の帰りを喜んでくれているように見える。魔法水を一滴あげたらプルプルと震えて大きくなる。かわいい奴だ。
ブリックとチュールも手伝いというか海の幸料理に興味津々でやって来たので準備しますか。
次に南の領地に行く時にブリックかチュールが一緒に来てくれないだろうか?そうすれば釣りだけ楽しめるのに・・・
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