第471話 タゴサの秘密
夜に村長の家でご飯をご馳走になった後に一人でタゴサの小屋に向かう。ダンが付いて来ると言ったが、御告げに関連することだから一人で行くと断った。この村には魔物の気配もないし、村人が俺をどうこう出来るわけないからな。
「おーい、一人で来たよ」
「入ってくれ」
粗末な小屋に入った。
「お前はなんであの鰹の干した奴の事を知っている?」
「んー、それより先になぜ嘘を吐いたか聞いていいかな?」
「・・・何が嘘だと言うのだ?」
「煮て干しただけじゃああならないよね? 燻製にして、削ってカビ付けして削ってを繰り返さないとああならないだろ?」
「そんなことまで知ってるのか・・・?」
テレビで見たことあるからね、とは言えない。
「実は俺、神様の御告げを受けた魔法使いなんだよ。この事はごく一部の人しか知らないんだけどね。だから色々な事を知ってるんだ。お前も御告げ受けてるのか?」
「な、なんもわからんき・・・」
き? 高知弁か?
「どう言うこと?」
「なぜかこいつの作り方だけ知ってたんだ。鰹は不味いと言われてるけど、こいつは旨いはずだという感覚と作り方だけ・・・」
「どんな風に食べたの?」
「煮たり焼いたりだ。秋に捕れる奴はまだ食えるがそれ以外に獲れるやつは旨くはない。なぁ、お前は何か知ってるのか? 俺が何故これの作り方を知ってるのか教えてくれっ」
あー、めぐみの奴、タゴサの魂を持ってきたのは良いけど、中途半端に記憶を消しやがったんだな。
さて、どう説明するかだな。
「神様によると生き物には魂ってのがあってね、死んだら神様の所に魂が戻ってまた生まれ変わるんだよ。だからずっと昔にタゴサはこれを作ってたんじゃないかな。生前の記憶が一部残ってたのかも知れないね」
「そんな事があるのか・・・?」
「ごく稀にあるみたいだよ。こいつを作った人もそうだと思う。会う前に死んじゃったから多分になるけど」
そう言って味噌を見せる。
「これは?」
タゴサに海藻を貰って、鰹節で出汁を取り、タマネギと海藻の味噌汁を作ってやる。
「飲んでみて懐かしい感じがしたら間違いないと思うぞ」
ずずっ・・・
「あっ、この味・・・」
「どうだ?」
「これと似た物を飲んだ事がある気がする。初めて飲んだはずなのに・・・」
ポロポロっと泣き出すタゴサ。
少しずつ過去の事を思い出して来たらしい。記憶がハッキリしないが、色々と変な事を言って村の人達に気味悪がられ、両親が早くに死んでから一人で生きてきたみたいだ。変な事とはどんな事を言ったのか覚えてはいないみたいだ。両親からその話をすると怒られるから言わなくなって記憶が薄れたのだろう。
一通り話を聞いた後、鰹節の使い方も説明していき、作った物は俺が買い取る約束をしていく。
「鰹って年中獲れるの?」
「数は少ないが獲れる」
「なら、明日俺を鰹釣りに連れてってくんない?」
「泳げるのか?」
「まぁ、それなりに。俺は魔法使いって言っただろ?もし落ちてもおぼれないから大丈夫だよ。」
「わかった。暗いうちから出るが起きられるか?」
「大丈夫だよ。それか一度村長の所に戻って、ここに泊まるって言って来ようかな。泊めてくれる?」
「お前、貴族なんだろ?こんな所で寝るつもりか?」
「それは大丈夫」
「なら好きにしてくれ」
ということなので、村長の所に戻り、ダン達に鰹釣りに行くと伝えるとドワンも来ると言い出した。
「タゴサ、ごめん1人増えた」
「おぅ、ワシはドワンじゃ。一緒に連れてけ」
タゴサは初めて見るドワーフに驚いていたが、ドワンが銛の手入れをしてやると感心した。
「おぉ、なんて鋭い銛だ」
「ちゃんとした道具があればもっと良いのを作ってやれるがの。ここだとこれくらいじゃ」
「ありがとうドワン。明日は必ず鰹を釣らしてやるぞ」
ということで少し寝てから出発だ。岩場の影に船着き場があり、4人乗れるくらいの小型舟だ。ぼろっちい帆も付いている。
後ろ漕ぎで岩場を少し離れた所で停まる。
「こんな所で鰹釣れるの?」
「いや、餌を捕る。もう少し明るくなったら鰯がここに群れるはずだ」
空が白んで来ると海面に小魚の群れがたくさんいるのが見える。
すかさずタゴサが投網を投げて回収すると大漁だ。
それを無造作に舟に積んである木箱に入れる。活かしておくわけじゃないのね。
その1投で餌を確保して沖へ。めっちゃ流れが速い。小舟が沈むんじゃ無いかと思うくらい揺れる。ダメだ、気持ち悪い・・・
「大丈夫か?顔が真っ青だぞ」
ドワンは平気そうだが、この揺れはたまらん。自分に回復魔法を掛けると少しマシになるけどリバースする目前だ。
その場で浮いて揺れる舟から離れる。
「なっ、浮いて・・・」
「溺れる心配無いって言っただろ?」
魔法はこんな事も出来ると説明しておく。
流れに舟を任せているとナブラ発見!
タゴサは急いで櫓を漕ぐがじれったいので、風魔法で舟を進める。
「それも魔法か?おまえ便利だな」
便利言うな。
ナブラの近くまで来ると鰯を撒き、タゴサも竿を入れる。木の竿と太い糸、針には鳥の毛を巻いてある。
ごごっと竿が少ししなると一気に釣り上げた。デカい鰹だ。
そのままボンっと木の箱に入れるとビチビチビチビチッと暴れまくる。
せっかくの鰹が台無しじゃないか・・・
ドワンも釣ると言うので、メタルジグをセットして渡す。
俺は血抜き用の入れ物と海水氷の箱を準備してあったのを魔道バッグから出す。
ドワンが早速釣り上げるので、エラと尾の付け根を切り血抜き用の海水へ。タゴサはビチビチと舟の中に投げ込んで行く。俺も釣りたいけど魚の処理の方が重要だ。
ドワンが釣った奴は処理して海水氷へ。二人合わせて10匹ほど釣った所でナブラが消える。
「まだ必要か?」
「いや、今日はこれだけあれば十分。帰ろう」
「もう帰るのか?ワシは4匹しか釣っておらんぞっ!」
「今日は釣りじゃなくて漁だからね。釣りは俺が作った場所でゆっくり楽しめばいいから」
釣り足りないドワンはぶつぶつ言うが今回は鰹を美味しく食べる検証なのだ。
風魔法でピューッと岩場まで帰る。
「戻るのもあっという間だな。これは楽チンだ」
ぼろっちい帆と手漕ぎであの潮流の中を戻るのは大変だろうからな。
小屋に戻って鰹の下処理だけ済ます。
「タゴサ、今から村長の所でこれを調理するから一緒に来なよ。これからの話もしたいから聞いて欲しいんだ」
「しかし・・・」
「この村で鰹を獲るのが一番上手いんだろ? 鰹はここの名産になるから一緒に話を聞いてくれ。」
変わり者と言われて一人で暮らしてた変人タゴサは渋ったがいいから来いと連れていった。
「お帰りゲイル、早かったね。釣れたの?」
「俺は釣りしてないよ。あ、この人がタゴサ。鰹漁の名人だよ」
皆に紹介する。イナミンは鰹漁の名人と言われてもあんな魚を・・ といった感じだな。今からその意識を一変させてやるからな。
タゴサの釣った鰹は3枚におろした後に骨を取り除き塩を振りかける。
ドワンが釣った奴は皮付きだ。
塩を振った身から汁が出てくるのを拭き取り、潰したニンニクとオリーブオイルと普通の油をブレンドして煮る。火が通ったらそのまま放置。皮付きのはワラで一気に表面を焼いていく。
ニンニク醤油のもの、塩とスライスニンニク、生姜汁・ネギ・大葉を乗せたもの。この鰹は脂が無いのでポン酢と油醤油を掛けてやる。
その間にシルフィードにご飯を炊いておいてもらった。
「さ、出来たよ。鰹のタタキとツナのオイル煮。タタキは3種類の味付けをしたから好きなのどうぞ」
「鰹って肉みたいな色してんだな」
青物全般赤身に分類されるけど、見た目に赤いのはマグロと鰹くらいだからな。
「ゲイル、この鰹はまだ生じゃないか」
「大丈夫だよ。タゴサはニンニクの奴から食ってみろよ。鰹が旨いという感覚が間違ってなかったのが分かると思うぞ」
「こ、この味・・・」
タゴサは思い出したようだ。
「旨いぜよっ!」
やはり高知出身だったか。この漁村をぜひ洗濯してくれ。
「旨いっ! 旨いっ! 旨いっ!」
一口食べる毎に旨いというイナミン。
お前は炎の人か・・・
「鰹がこんなに旨いとは信じられん」
村長は領主夫妻がいるので漁に出ずに家に居たのだ。
「この油で煮たのも旨いよな」
ジョンとアルはツナのオイル煮を食べている。後でマヨかけてやろう。きっと好きなはずだ。
「な、鰹は旨いんだよ。タゴサ、鰹漁を皆にも教えてここの名物にしていってくれ」
「ゲイル様、この村の名物とおっしゃられてもここまで足を運ぶ者はほとんどおりません」
村長の危惧はもっともだ。
「俺がここに冷蔵・冷凍施設を作るよ。獲ってくれた魚を冷凍しておいてくれたら、取引している商人に買い付けに来させるから」
「は?」
話が大きくなりすぎてイメージが湧かない村長達はポカンとしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます