第470話 漁村と砂浜

イナミン達の馬に合わせて休憩が多かったので漁村に着いたのは夕暮れ時。


「明日の朝に漁村へ行こうか。もうみんな晩御飯の支度始める頃だから領主がいきなり行くと驚くよ」


「それもそうだな」


ということでまた砂浜でバーベキュー。今夜は焼き肉だ。


「外で食うのも久しぶりだな」


イナミンもリンダも嬉しそうだ。肉に丁寧に隠し包丁を入れてあるので柔らかいし、特製のタレも旨いのだ。


今夜は月明かりがあるから比較的明るい。一日中馬車を牽いてきたというのにシルバー達は元気いっぱいに砂浜を走っている。


試しに棒を投げてとってこいをやってみる。シルバーとクロスが競争しながら取りにいき、タッチの差でシルバーの勝ち。誇らしげに俺の所に持ってくる。


悔しそうなクロスは他の棒きれを咥えてダンに持ってきた。


「なんだ? こいつをくれるのか?」


イナミン達と酒を飲んでたダンはなんのことか分かっていない。


「ダン、その棒を投げてくれと言ってるんだよ。ほら、こんな感じで」


ポイっと投げるとシルバーがダッシュして棒を取って戻ってくる。


「ぼっちゃんがコボルトにやってたやつか? クロス、お前も投げて欲しいのか?」


ブンブンと頷くクロス。


「ほれっ!」


ダンが遠投するとダッシュして取りに行くクロス。誇らしげに持って帰って来るのをダンが誉めてやる。


「お前達の馬は相当賢いのだな?そんな遊びを教えたのか?」


「いや、王都でコボルトを飼ってるんだけどね、そいつらにこれをやらせてたのを見てたからだと思うよ。シルバー達は甘えただから、なんかかまって欲しいか誉めて欲しいかだと思う」


「ほう、コボルトなんか飼ってるのか? 戦わせるのか?」


「いや、牛とか羊を餌場と小屋に誘導してくれてる。馬は畑を耕してくれたりもするから、人と一緒に働いてるんだよ」


「うん、なんか理解というか想像が出来んな。それはうちの領でも出来るのか?」


「馬や牛に畑を耕させるのは可能だけどコボルトは無理かな。たまたま子コボルトを見付けてテイムした奴だから」


「お前はテイムも出来るのか?」


「普通のやり方とは違うみたいなんだけどね。まぁテイムというより懐くって感じかな。シルバー達と同じだよ」


イナミンと話してる間、俺に顔をすりすりしてるシルバー。


「馬とかの農機具はダンバルに教えておくわい。ここで作れるじゃろ」


「それは助かる。年寄りの農民も多いからな」


あの婆さんも一人暮らしだったからな。サトウキビ畑にどう活用するかわかんないけど。



翌朝、漁村に向かう。


「なんだいっ、またあんた達来たのかっ」


「いや、この前信じて貰えなかったから領主も連れて来たんだよ」


「なんだって?」


「おぅ、領内の見廻りがてらに来たぞ。こいつらを村に入れてやってくれ」


「りょ、領主様・・・・ この子供が言ってたのは本当・・・」


「という事で入っていいかな?」


「も、申し訳ございませんっ。まさか本当の事だとはっ」


その場で土下座するオバサン。


「いや、いいよいいよ、そんなに頭下げないで。普通にしててくれればいいから」


「おや、そうかい?」


うん、ここの人達は切り替えが早い。


「なんだよあんた達っ、領主様の知り合いなら知り合いって初めから言いなよっ!」


そう言いながら俺の背中をバンバンと叩くおばちゃん。いや、言ったよね?


という事で村に入れて貰った。


領主を見てざわつく村人達。この漁村は僻地にあるので外の人も珍しいし、領主が突然来るなんて初めてのことだったらしい。通常は先に知らせが来るそうだ。


村にいるのは女性と子供達、それと年寄りだ。男連中はすでに漁に出ているらしい。


その女性達は干物を作ったり海藻を干したりしている。なんの海藻だろう?


鰹節を作ってるのは村の中でもはずれに住んでる変わり者らしい。そこの場所を教えて貰って訪ねてみる。家というより小屋だな。


「すいませーん」


返事が無い。


「すいませーん。誰かいませんかぁ?」


漁に出てしまっているのだろうか?居ないようだ。



仕方がない夕方出直そう。


何気なく小屋の後ろに回って見ると岩場の海だ。釣りにも良さげなポイントだ。何か魚見えないかな? 下に降りて海を覗き混んでると白波からにょっと顔が出て来た。


「わっ!」


出てきた人は手に銛を持ち、メジナグレみたいな魚を捕って来たようだ。


「なんだお前ら?」


スルスルと岩場を登って上がって来た。凄いな。


「あの、鰹節作ってる人を探しに来たんだけど」


「鰹節って、鰹を干して硬くしたやつのことか?」


「そうそう!」


「なら、俺だな。なんの用だ?」


あれ? 鰹節って名前知らないのか。ということは転生者じゃ無くてたまたまなのかな?


取りあえず小屋へ入れと言われたが大人数なのと領主がいることに驚く。


鰹節を作ってる男、名前はタゴサという。


「鰹節をどうして作ろうと思ったの?」


「たくさん獲れるがあまり売れんからな。取りあえず干しただけだ。生で干したらすぐに腐るから、茹でて干してたらああなったんだ」


嘘だな。煮て干しただけでは鰹節にはならない。なんか隠してるのか?


「そうなんだ。たまたま王都に売りに来てたのを手に入れてね。美味しかったから誰が作ってるのか興味があって来たんだよ。まだ在庫あるなら買って帰りたいんだけど」


「あんなもん誰も買わんからな。好きなだけ売ってやる。おまえ食べ方知ってるのか?」


「もちろん。じゃないと買わないよ。後でゆっくり話がしたいんだけど時間あるかな?」


「・・・・・」


「夜に俺一人で来るよ」


「・・・・わかった」


その後で村長の所に訪問して奥さんに挨拶してから砂浜に戻った。


今日は海水浴をしなくてはいけないのだ。


女性達は馬車で着替えて出てきた。俺達はパンツだ。


おぉーセクシー・・・・・ とはいかないこの世界の水着。


イナミンの奥さんのリンダは赤、シルフィードは山吹色、ミグルは紺だ。


肌の露出は少なく半袖のシャツみたいなのと短いモンペみたいなものだ。


ミグルは疎開してきた小学生みたいだな。


俺は皆の水着姿を褒める事ができなかったが、ジョンとアルには刺激が強かったようだ。


ビーチパラソルなんてものは無いので、土魔法で屋根を作る。ミグル達は波打ち際で水の掛け合いをし、イナミン夫妻は二人の世界に入っている。護衛無しでこうして出掛けることなんてなかったそうだ。今回は俺達がいるから護衛はいらないと押しきったのだ。



俺とシルフィード、ダン、ドワンは屋根の下で見学。おっさん二人は泡盛もどきのソーダ割を飲んでいる。


「み、水着どうかな?」


照れ臭そうに聞いてくるシルフィード。正直にダサイとは言えない雰囲気だ。


「よく似合ってると思うよ」


嘘も時には必要だ。


そういうと嬉しそうな顔をするシルフィード。



冷てっ! ビチャビチャっと海水を撒き散らしながらミグル達がやってくる。


「お前らは泳がんのか?」


「こう暑いと体力削られるからね。お前ら元気だな?」


「当たり前じゃ。海なんて初めてじゃからな。知っておるか?水がしょっぱいのじゃぞ」


知ってるわ。


「ゲイル、泳ぐ以外に何をすればいいんだ?」


いや、アル。君たち泳いでないよね?


「砂掘って誰か埋めてみたら楽しいぞ」


「よし、ジョン、埋めてやるからあっちでやろうぜっ」


また3人で遊びに行った。こうしてると子供達を連れて海水浴に来た時を思い出すな。しかし、この前昔の夢を視たからか、海がそうさせるのか、やたら思い出すな。これまで思い出すこと少なかったのに・・・



おせんちな気分はこれまでにして、そろそろ昼飯の準備をするか。


「ちょっと野菜作って来るわ」


砂浜から普通の土の所に移動してトウモロコシ、トマト、キュウリを作る。昼飯の準備だ。


またバーベキューだけどいいだろう。


トマトは氷水に浸けて、キュウリは少し皮を剥いて出汁に漬けておく。


冷凍のイカを解凍して長めの短冊にしてから串に刺してと。肉はそのままでいいな。


バーベキューコンロを屋根の下に作る。


ダンにパイナップルを絞って貰ってジュースにしてもらおう。少し南国ミカンも加えるか。ダンが居ればジューサー要らずだ。


ストローが欲しいから土魔法で作ろう。


酒飲み達の為に泡盛もどきをもう一度蒸留してアルコール度数を高めて風味を減らしたやつをジュースに混ぜてやろう。



「おーい、昼飯にするぞー」


ジョンとアルが戻って来るがミグルが居ない


「ミグルは?」


二人はニヤニヤ笑いながら指をさす。


「出せー! 出さぬかー!」


なんちゅう埋め方してるんだ。普通寝そべった所に砂かけるもんだ。それでも重くてしんどいのに縦に埋めてやがる。ミグルが生首みたいになってんじゃねーか。死ぬぞ。


慌ててミグルの元に行って救出。


「死ぬかと思ったのじゃ。これの何が楽しいんじゃっ!」


そんな埋まり方するのはフグ毒に当たった時だけだ。初めて見たけど。


「ジョンとアルは楽しそうだったぞ」


「ワシは楽しくないわっ!」


「昼飯にトウモロコシ焼くぞ」


「ほんとかっ!」


トウモロコシ好きなミグルはコロッと機嫌が直り、はしゃぎながら屋根の下に小躍りしながら走っていった。扱いが楽で宜しい。


バーベキューに舌鼓を打った後、しばらく食休みをしてからぬるま湯で皆を洗う。


「ゲイル殿は便利だな」


便利とか言うな・・・・


そして夕暮れ前に村長宅へ向かうのであった。







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