第465話 釣り釣り釣り
夕マズメまでにダンに亀の手やら小さい貝を採取してもらう。剣でやるのはいやみたいなので、土魔法でヘラみたいなのとカギ爪みたいなものを作る。
「こいつは食えるのか?」
「味噌汁の出汁にするよ。小さな貝は餌だね」
貝で小魚を釣って、それを泳がせておこう。何か釣れるかもしれない。
おっと、固定の竿受けを作ろう。置き竿してたら魚に持ってかれるからな。
「シルフィ、貝の身付けたからこれで釣りしてみ」
小魚釣りをシルフィードにやらせてみる。
「わ、もう掛かった」
釣り上げたのは餌にするには大きくて食べるには小さいサバだ。よし、こいつはミンチにして寄せ餌だな。皮でサビキを作るか。
「餌の付け方教えるから自分でやってみて」
チマチマ餌を付けてはサバを釣るシルフィード。おれはそれをせっせとさばいて皮を干していく。
「これは食べられるの?」
「食べるには少し小さいからあんまり美味しくないんだよ。でもこれを使って他の魚を釣るから大丈夫。どんどん釣って」
それから貝が無くなるまでサバを釣ってもらった。
「手が生臭い・・・」
こんな時にはクリーン魔法だ。素晴らしい。一瞬で綺麗になるシルフィードの手。
サバの身をミンチにして保存魔法を掛けておき、ダンが採って来た亀の手を綺麗に洗い出汁を取っていく。
さて、俺も釣りを始めるか。
まずはエギングだ。
自作エギはちゃんとまっすぐに沈むのを確認してから投げる。
「ジーっとしてていいの?」
「これはこういう釣りなんだよ。沈ましてからこうやってね」
とシャンシャンとしゃくってやる。そして沈める。
「これの繰り返しだね。今狙ってるのは魚じゃなくてイカなんだよ。イナミンさんの所でスルメ食べただろ?あれを釣るんだよ」
「ふーん」
と、その時に沈んでるエギが止まる。
ピシッと合わせるとグイングインと独特の引きをみせる。
「来たよっ!」
やっぱりいるじゃん。季節的に厳しいかと思ったけど、そこそこ大きいから親の生き残りか早生まれのやつだな。
海面まで浮かせるとプシュっと墨を吐くのが見えた。
やった!アオリイカじゃん
目の前まで寄せてくるとキロクラスのイカだ。この世界の生き物は相対的に大きいから親イカか子イカかはわからないけどね。
抜き上げると身切れするかもしれないから階段まで誘導する。最後は魔法で取り込みだ。邪道だけどタモがないから仕方がない。
「わ、気持ち悪いっ」
初めて生のイカを見たシルフィードの感想だ。
「ぼっちゃん、これがスルメになるのか?」
「そうだよ。刺身と天ぷら・・・」
しまった。薄力粉がもう無いじゃん。
「刺身とフライにして食べよう。絶対たくさん食べるって言うだろうからもっと釣るよ」
俺にもやらせてくれと言うダンにエギングタックルを渡して釣り方を説明する。
「力はいらないから軽くやってね」
素人は激しく竿をしゃくるからな。竿も虫の触角だからそんな動きに耐えられないかもしれない。
「お、また来た。ぜんぜんスレてないから簡単に釣れるわ」
「これ、いつまで待てばいいんだ?」
「あ、もうとっくに底に着いてんじゃん。軽くしゃくって・・・」
「こうか?」
グイッと引っ張るダン
あっ・・・
「おっ、なんか釣れてやがる」
「底に引っ掛かったんだよ。岩礁地帯だから底に着いたまま放置すると引っ掛かるんだよ。糸持ってそのまままっすぐに引っ張って。もうエギの回収無理だからそうやって糸を切るしかないよ」
エギを作るのには時間が掛かるので5個しか作ってない。もうロストしてくれるなよ。
魔法で明かりを点けて釣り続行するもダンはエギを3つロストした。
エギングの難しいところはここだ。ラインの動きで着底がわからないからロストしまくる。
「引っ掛かってばかりで面白くねぇな。じーっと待ってるのもかったるいし、釣れもしねぇ」
うん、ダンには向いてない釣りだ。エギも残り2個しかないし、他の釣りを・・・
「ダンさん、頑張って!」
ここでシルフィードの善意の応援。
「ぼっちゃん、エギをくれ」
「これが最後だからね」
仕方がないので最後のエギをダンに渡す。
お、また来た。本当に入れ食いだな。なぜダンが釣れないのか不思議で仕方がない。まったくスレてないイカなら投げて沈ませてるだけで釣れたりするもんなんだけどな。
「あ、またやっちまった」
うそん・・・・もうこれで予備ないじゃん。
ダンが糸を持って引っ張る。
「ん?なんか寄って来るぞ」
「海藻にでも引っ掛かってるんじゃないのか?」
数を数えて底に沈む迄にしゃくれとアドバイスをしてあったのだが、運悪く海藻に引っ掛かったのかもしれん。ダンも最後の1つなのは理解してたからな。
「なんか引いてるみたいだぞ」
海藻引っ掛かるとそんな感じだ。水流で海藻が動いて引いてるような気がするのだ。
「海藻に引っ掛かってるんだよ。ゆっくり引っ張ると運良く外れるかもしれないからそのまま引いて来て」
自分もよそ見していると底に引っかけてしまう可能性があるのでエギを回収する。
ダンの様子を見てると糸を回収し続けている。海藻と違うのか?
「シルフィ、リール巻いて糸を回収して。ダンはそのまま引っ張って。」
「ぼっちゃん、やっぱりなんか引いてるぞ」
「みたいだね。ダン、リールが巻けそうならシルフィと代わって巻いてみて」
ダンはシルフィードから竿を受け取り巻いてくる。竿は曲がりながらも時折グインと大きくしなる。
お、見えて来た。タコじゃん。しかも大きい。こりゃ根掛かりと間違うわけだ。
「ダン、そのまま緩めずに巻いて来て」
「イカより気持ち悪いのが釣れてる・・・」
下手に手で持つと絡み付かれるので魔法で取り込み足場の所へ。
「なんじゃこりゃ? 」
「タコだよ。ダンお手柄だ。こいつ旨いんだよ」
「こんな化け物も食うのか?」
「当たり前じゃん」
タコはイケスに入れても逃げ出すので、さっさと絞める。手っ取り早いのは頭をひっくり返してやることだ。ダンにやらせようとしたら拒否されたので仕方がなく自分でやる。
「エイっ」
魔法で浮かせた所を手で掴んで一気に頭をひっくり返すと一瞬で白くなるタコ。
「死んだのか?」
「タコは脳ミソが9つ、心臓が3つあるとか言われてるんだよ。一気に止めを刺すにはこれが一番手っ取り早いんだ」
続いてイカをイケスから出していく。イカは目と目の間にピックを刺してやればOK。次々と白くなっていくイカ。
「どっちも気持ち悪ぃな」
「食ったらその意識は変わるって」
イカのさばき方をダンに教えて開いていってもらう。イカリングにしようかと思ったけど、キロクラスのイカは内側も皮剥きしないとダメだからな。
ダンがイカの処理をしている間にタコの塩揉みだ。魔法でくるくる回してやるから楽チンだ。
何度かそれを繰り返してから下茹でする。沸騰させると硬くなるからゆっくりとね。
ダンがさばいたイカの皮を剥いていく。キッチンペーパーが無いからタオルで剥いてはクリーン魔法を掛けながらだ。
隠し包丁を鹿の子に入れて、糸作りとそぎ切りの2種類の刺身を作っていく。
土の器を作って氷の上に乗せておき、次はイカフライだ。タルタルソースほしいけど、マヨくらいしか作れんな。混ぜるのはオニオンスライスだけでいいか。それはダンに任せて揚げていこう。イカ下足とタコは唐揚げだ。タコは半分残しておこう。残りは明日タコ飯にするんだ。
「私が揚げ物しようか?」
「イカとタコは油が跳ねるかもしれないから俺がやるよ。切り込み入れててもパーンってなる時があるから」
晩御飯完成。イカの刺身とフライ、下足の唐揚げとタコの唐揚げ。ちゃんとワサビも持ってきてあるのだ。ここで栽培しても育たないかもしれないから貴重なのだ。俺達が居たら魔法で育てられるから気候は関係ないけどね。
「お、イカの刺身って甘ぇんだな」
「もっと甘いのがいいなら、凍らせるか置いといたらいいんだけど、歯ごたえは柔らかくなるんだよね。俺はこっちの方が好きなんだけど、残りは冷凍したから帰ったら食べ比べたらいいよ」
「あ、あの気持ち悪いタコがこんなに美味しい・・・」
「だろ?」
二人に泡盛もどきのソーダ割を作ってやる。南国ミカンを絞るのはダンの仕事だ。
「ぼっちゃん、このイカのフライも味噌汁も旨ぇわ」
「ゲイルが必死になるのもやっと理解出来た。まったく食べたことない味だもん」
そう、イカタコは淡水では手に入らない旨さなのだ。
しかし、久しぶりのイカの刺身は旨すぎるな。キリッと冷えた日本酒が欲しいところだ。フライも唐揚げも旨いけど今は刺身を堪能しよう。
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