第464話 一心不乱

夜釣りをしようかと思ったが、完徹したので寝る事にした。さすがに2日連続で寝ないのはまずい。


しかし、夜明け前に目が覚める。


まったくポイントがわからない砂浜で何を釣ろうか? 餌は無いからルアー釣り限定で砂浜・・・


なぶらでも出てくれたらいいんだけど海は凪いでてざわざわ感もない。


とりあえず皆が起きて来る前からメタルジグを投げてみるも何も反応なし。離岸流が解ればいいんだけど、暗くて潮目すらわからん。


今日はポイント探しに徹した方がいいかもしれん。勝負は夕暮れから夜だな。


シルバーとクロスがじゃれついてくるのでしばらく戯れているとダンとシルフィードが起きて来た。


軽い朝飯を食いながら今日の予定を確認する。


「日が昇ってしばらくしたら漁村に行こう。で、鰹節を作ってる人を探すのと釣りが出来るポイントを見付けるからね」


「ここじゃダメなのか?」


「何も無い砂浜ってポイント探すの難しいんだよ。餌釣りならキスとか釣れると思うんだけどね」


「キス・・・」


ぽっと顔を赤くするシルフィード。キスは魚の名前だからね


そろそろ村民が朝飯を食い終わっただろう時間を見計らって漁村を訪れる。



「すいませーん」


「なんだいあんたら?」


日に焼けたかっぷくのいいおっかさんがぶっきらぼうに答える。こんな所に来る余所者を怪しむのは当然だ。


「俺達旅をしてるんだけどね、これを作った人を探してるんだよ」


「探してどうするんだい?」


訝しげな顔でじろじろ見るおっかさん。


「これとても珍しい物でね、まだたくさんあるなら売ってほしいんだよ」


「こんな訳のわからない物を欲しがるなんて怪しいね。何か企んでるんじゃないだろうね?」


あー、これ信用されるの難しいな。自己紹介しておくか。


「俺はゲイル、イナミン・リークウ領主の所でお世話になってる貴族なんだ」


王都の身分証明証を見せる。


「馬鹿な事を言うでないよっ!領主様の客人がこんな所まで来る訳ないじゃないっ」


あわわわわっ!薪を持って殴りかかろうとしてくるおっかさん。自己紹介は逆効果だった。


「おかみさん、子供相手にそんなことすんなよ。怪しくねぇって言っても信じてくれねぇなら出て行くからよ」


まったく取り合ってくれないので仕方がなく漁村に入るのを諦めた。



「なんだありゃ?」


「ここは滅多に余所者が来ないんだろうね。それか昔外から来た人が悪さしたかもしれないね」


「ふーん。で、どうすんだ?」


「まぁ、下見だから釣り出来るポイント探すだけでもいいか。次に馬車で来たら信用してくれるかもしれないし、イナミンさんに手紙かなんか書いて貰ってもいいかもしれないね」


「そうするか。で、何を釣るんだ?」


「そうだね、ルアーで釣れる魚だね。いい場所がないか探してみよう」


砂浜でなく岩礁地帯を目指して海岸線沿いを見ていく。海はとてつもなく綺麗だ。勿論ペットボトルなんかのゴミは無くビニール袋とかタバコの吸殻なんて落ちてない。当たり前だけど感動する。生前よく釣りに行ってた防波堤は毎回ゴミだらけだった。そこは珍しく漁協がゴミ箱を設置してあるにも関わらずだ。帰る時に持参したゴミ袋に燃えるゴミ、燃えないゴミを分けて収集してから帰るのが日課だったな。



ようやく砂浜が終わり、地磯があるところに来た。海の色も濃くなってるので水深も有りそうだ。ここで試してみるか。


「ゲイル、こんな所を歩いていくの?危ないよ。なんかぬるぬるしてるし」


満潮時に波をかぶるのだろう。海藻や亀の手や小さな貝がついている。履いてるのは革靴。フエルトスパイクブーツじゃないと危ないな。


「足場を作るよ。そこを歩いて行こう」


土魔法万歳、通り道を作って海の所まで行く。シルバー達も着いてきたいみたいなので馬が歩ける幅で作っていく。


磯の先端部分はそこそこ高さがある。しまったな、タモ作ってないじゃん。これだと大物が掛かっても取り込めないだろう。ちょっと自然の磯の形を変えるのは申し訳ないが釣りやすい足場と取り込み出来る場所を作ろう。


磯周りのポイントで良さげな所があちこちにある。俺は調子に乗って磯から伸びる防波堤みたいなものを作ってしまった。しかも竿が振れるほどの高さがある屋根付きだ。夏の海で日陰が無いと死んでしまう。


何が自然の磯の形を変えるのは申し訳ないだ。おもいっきり釣り公園みたいなものを作ってるじゃないか。自分にそう突っ込みながら満足の行く釣り施設作ってしまった。もうここに住みたいくらいだ。


そう思い出すと止まらない。休憩出来る小屋、階段を作り、屋根の上に露天風呂完備。ここは朝陽も夕陽も見えそうな感じがする。


小屋の隣にはバーベキュー施設。釣りたての魚をここで食べよう。


魔法水を飲みながら一心不乱に施設を作り終えて満足気な俺を見て呆れるダン。


「ぼっちゃん、言っておくけどここは他領だぞ。勝手にこんなもの作っていいのか?」


「誰もいないしバレ無いって」


「そりゃそうかもしれんけどよ」


不味いならイナミンに後で許可もらえばいいのだ。なんならここの権利を買い取ってもいい。こんな釣りに適した場所で誰もいないなんて日本じゃ考えられないのだ。道具を置いて場所取りもいらない、その道具を盗まれる心配もないのだ。


あ、この足場に階段作っちゃお。そこにイケス作っておけばバッチリだ。さらに施設に改善を続けていく。


「ぼっちゃん、飯どうすんだ?」


「材料出しておくから勝手に食べて」


適当に材料を渡して任せる。俺は飯より釣りなのだ。夕マズメのゴールデンタイムに向けて完璧な状態にしていかねば。


階段の下に複数のイケスを作っていると、小魚の群れが入って来たのが見える。なんだろ?偏光サングラス欲しいな。裸眼だとよく見えん。


しかし、小魚が群れで入って来るのは非常に良い。絶対にフィッシュイーターの大型魚もいるはずだ。アオリイカはいないかな?


裸眼だとどうしても海の中でまで見えない。秋ならコイカが浮いてたりして分かるんだけど・・・


次は海底の状況確認だな。


自分で作らないといけないルアーは貴重だ。まずオモリだけ付けて投げて海底の様子を探る。


手前は岩礁地帯、沖は砂地に岩だな。これはいい。理想のポイントだ。あらゆる魚種が狙えるかもしれない。


「ゲイル、はいこれ」


熱中している俺にシルフィードがおにぎりを持ってきてくれた。具は焼き鳥だ。


「ありがとう。もう二人とも食べたの?」


もらったおにぎりを食べながら聞く。


「ずっとこっちに来ないから食べちゃったよ。そんなに面白いの?」


「今から面白くなるんだよ。その為の準備なんだから楽しくないわけがないだろ?」


「ずっと笑ってるから気味が悪くて」


俺はニヤケながらこの施設を作りオモリを投げていたらしい。


「いや、何が釣れるかと思ったら楽しみで仕方がなくてね」


「マス釣りと何が違うの?」


そして俺はやってしまった。シルフィードに延々と海釣りの楽しさを語ったのだ。さほど釣りに興味が無い人にとってこんな嫌な時間はないだろう。ふと気が付くとシルフィードは苦笑いのまま固まっていた。



≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「何度言ったらわかるのじゃ。それは魔法草じゃないっ!ギザギザの数が違うじゃろうがっ」


「同じ数だろ?」


「ここから数えて行くのじゃと言うたじゃろうが。お前は数も数えられんのかっ!」


「ミグル、これ・・・・」


「もう、お前は草刈りクエストを受注してこいっ」



≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「まだ作るのか?」


「他に作りたいものがあるのか?」


「いや・・・・」


「売れんかったらワシが買い取るから黙って作れ。坊主が作る物は必ずや売れるからの」


「ここにこんな物を買いに来る奴がいるのか?初めて見る道具をどうやって売るんじゃ?」


「そんなもん坊主にやらせるわい。いいから黙って作れ」


カージンの店ではまだ受注見込みの無いかき氷機がどんどん出来ていっていた。


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