第463話 いざ漁村へ
「ゲイル、目の下にクマが出来てるよ」
「ちょっと眠れなくてね。でも目はギンギンだから大丈夫」
完徹して釣具を作ってしまった自分に回復魔法をかけてシルフィードに返事をした。
「じゃあ、ワシらはギルドに行くのじゃ。薬草採取を中心に受けるから道具を買いにいかねばならぬ」
ミグル達は領地内で出来る依頼をこなすらしい。
ドワンはお前達だけで楽しむなよと何回も言いながら鍛冶屋に向かった。
俺達は馬で漁村に向かう。馬を飛ばして半日、馬車なら1日はかかるのでそこそこ距離がある。シルバー達はお土産にあげた回復草のお陰か足取りも快調だ。
「ぼっちゃん、走ってる時はいいが、日が昇るにつれて暑ぃな」
木陰で休憩してるがムンムンした空気は容赦なく襲ってくる。シルフィードはダウン気味だし顔が焼けて赤くなってる。
タオルを水で濡らして凍らせてやる。
「はい、これを首に巻いて」
「うっひゃぁぁぁ、こりゃあいい。生き返るぜ」
「冷たくて気持ちいい」
冷しぼならぬ冷タオルで顔を押さえるシルフィード。暑苦しいダンの熊腕もしんなりしてやがる。毛が熊なだけで汗はかくみたいだ。
シルバー達にも水を掛けてやると嬉しそうにしている。
「帽子を買おうか?」
「んなもんかぶったことねぇぞ」
「多分、夏用の帽子が売ってると思うんだよね。次の村に入って聞いてみようか」
王都やディノスレイヤ領では見ない帽子、そう麦わら帽子がここには有るんじゃないかと思ってる。日中に頭が野ざらしだと熱中症になるかもしれないしね。
スポドリを作って水分補給をしてから人里を目指して出発。
サトウキビ畑の所に民家が固まって建っているのでそこに立ち寄った。あそこでタオルを頭に巻いてる人に聞いてみよう。
「すいません、ここって帽子を売ってる店とかあるかな?」
「おー、他所から来た人達かね。ここは店は無いが帽子が欲しいのか?」
「風通しのいいやつとかない?」
「あっちにいる婆さんが作っとるから聞いてみたらいい」
お礼をいってその婆さんを探す。あ、麦わら帽子をかぶってる婆さん発見!
「おばぁちゃーん、俺達その帽子が欲しいんだけど売ってくれないかなぁ?」
「おや、ぼうや達は他所から来たのかね?」
「そう、ここに遊びに来たんだよ。暑いのに慣れてなくてね、帽子が欲しいなぁって」
「じゃあ、家へおいで、好きなのを選んで持ってけ」
ということで婆さんの家におじゃまする。
質素な家だが風通しがよく涼しい。商人に卸すのだろうか?たくさんの帽子が並んでいる。
「ほら、好きなの持ってけ」
「いや、ちゃんとお金払うよ」
「なーに言ってんだ。お前さんみたいなちっこいのから金なんか取れん。いいから持ってけ」
「えぇ、でもなぁ」
「ぼっちゃん、代わりにここで飯食ってこうぜ。お礼にご馳走すればいいじゃねぇか?」
ナイスアイデアだ!
「おばあちゃん、お昼ご飯作るからお礼にご馳走するよ。他に家族はいるの?」
「いや、ワシ一人じゃよ」
「嫌いな食べ物とかある?」
「そんな贅沢には生きておらんぞ」
ということでご飯を作ることになった。烏骨鶏の唐揚げとだし巻き玉子にしよう。
シルフィードはご飯と味噌汁担当。ダンには烏骨鶏をさばいてもらう。
あれよあれよと出来ていくご飯を嬉しそうに見ている婆さん。一人で暮らしてると寂しいのかもしれないな。
「はい、出来たよ」
「なんか見たことがない料理じゃな。異国から来たのか?」
「いや、王都からだよ。今どんどん新しい料理が出来てんだよ。米も持ってきたやつだからここのとは違うけど食べてみて」
婆さんはまずだし巻き玉子からいくようだ。
「おぉ、ふわふわで美味しいよ、ぼうや、こんなの初めて食べたのぅ」
どれも気に入ってたくさん食べる婆さん。食べた後も色々と王都やどんな事をしているのか聞かれて話し込んだ。一人暮らしの年寄りの話を途中でぶったぎる事は出来ずにかなり長い時間滞在してしまった。
「婆ちゃん、俺達そろそろ・・・」
このままでは泊まってけコースだ。申し訳ないが今日中には漁村に着きたい。
「おぉ、すまんかった。ついぼうや達の話が楽しくてのぅ。ほれ、帽子選んでけ」
ありがとうと素直に貰うことにした。俺はカンカン帽みたいなやつ、シルフィードは全体のツバの広いタイプ、ダンはノーマルタイプだ。
お礼を言って外に出る。
あーーーっ!
何てこった・・・。シルバー達がサトウキビ食ってやがる。
「ばぁちゃんごめん・・・」
「構わん、構わん。馬や牛はサトウキビが好きじゃからな」
と言ってもこれは商品だ。食べかけのサトウキビを刈り取り、魔法で生やし直す。
「ぼうや、それは魔法か?」
「そう、俺とシルフィードは植物魔法を使えるんだよ。ついでにキュウリとかトマトとか生やしておこうか?」
婆さんの家の前にキュウリとトマトを生やしておいた。これでしばらく毎日食べられるだろう。
「ぼうや、ありがとうね。かえって世話になってしまったのぅ」
「ばぁちゃんも親切にしてくれてありがとうね」
「うんうん、また機会があれば遊びに来ておくれ」
「今から漁村に行くから帰りにまた寄るよ。魚釣って来るから楽しみにしててね」
「そうか、そうか。気を付けて行っておいで」
こうして村を出る頃には日が傾いてしまった。とりあえず、夜になるまでには到着したいが馬を飛ばすと帽子が飛んでいってしまうジレンマと戦いながら漁村に向かう。
「ぼっちゃん、あれが漁村だがどうする?」
ちょうど日が暮れてしまったタイミングで到着。皆が夕食の支度を始めているだろう。そんな時に訪ねて行くのは申し訳ないし、その後に行くのも怪しげだ。
「どこかで夜営しようか」
ということで砂浜で夜営することにした。ダンもシルフィードも間近で海を見るのが初めてらしく。打ち寄せる波におぉーとか言っていた。シルバーとクロスも砂浜が嬉しいのかダッシュしてはターン、ダッシュしてはターンと遊んでいる。
やっぱり海はいいな。波の音を聞きながらの焼き肉は最高だ。ダンの飲むキンキンに冷やしたエールが実に旨そうだ。俺も飲みたい。シルフィードには泡盛もどきの炭酸割に緑の柑橘を絞って入れたものを出しておく。なんの柑橘かわからないけど爽やかな匂いがするのだ。カボスかシークヮーサーかなんかだろう。鑑定では南国ミカンと出たから詳細は不明だ。この鑑定魔法で見える名前は実にいい加減だな。
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「じゃから、それはただの草じゃと言っておるじゃろうがっ」
「ミグルが採取したのと同じものだろ?」
「これは回復草でお前のはただの草じゃ、葉脈の数が違うじゃろが」
「なんだよ葉脈って?」
「葉にこうやって筋みたいなのがあるじゃろ。この数が違うんじゃ。ワシのは10本、お前のは8本。アルが持ってきたのはニセ回復草じゃ。新人が間違えて大量に採ってくる典型的パターンじゃ」
「そんなの気付かねーよ!」
「だからギルドに依頼を出すんじゃろが。誰でもすぐに分かるようなら自分で取りに行くわっ」
「そうだぞアル、これは仕事だからな。きちんと採取出来なければ無意味だ。ミグル、これでいいか?」
・・・
・・・・
・・・・・
「貴様の持ってきたのはニセ回復草ですらないわっ!こんなに大量に雑草を持ってきおってっ。おまえは草刈りのクエストでも受注しとるのかっ!」
ジョンとアルには地道な薬草採取は向いていないようだった。
暑さとまともに薬草を採取出来ない二人にぶち切れたミグルの怒鳴り声が森の中で響いていた
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「何っ!素材が足らんじゃと?」
「いや、言われた分は用意してあるが、どうやって融合するんじゃ?」
「あっ・・・」
ここには錬金釜はない。それにゲイルもいない。素材が無ければ蒸留器の制作には入れないのだ。
「大工を呼べっ!先に土台を作らせておけ」
「ワシらは何をするんじゃ?」
「かき氷の機械を作るしかないじゃろうが。ここで量産しろ。これは絶対に売れるからの。売上の一部は坊主の取り分として設計図を登録しておけ」
ということで、ダンバルとドワンは他の職人を指導してゲイルが帰ってくるまでかき氷機を作るしかなかったのだった。
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