第462話 3手に分かれる

イナミン屋敷の厨房にお邪魔している。お世話になってるお礼に料理を作らせて欲しいと言うと快く厨房を貸してくれたのだ。


「このご飯はもち米ですか?」


「いや、うるち米といって、ここの米より粘りけがあるんだよ。ここの米は茹でるだろ? こいつは炊くんだよ」


「ほう、米も種類によって違うんですな」


「好みはあると思うけどね。たくさん炊くからみんなも食べてみて。気に入るようなら種おいていくから」


おかずはトンカツ。烏骨鶏の卵があるからカツ丼にしようと思って土魔法でどんぶりも作っておいた。


出汁は鰹と昆布の和風出汁。ここでは昆布を炊いて食べる事にしか使わないらしい。出汁取った後の昆布は佃煮にしてやろう。圧力鍋持ってくりゃ良かったな。


俺が作るものに興味津々のコック達。カツの作り方とかをついでに教えていく。


さ、完成だ。使用人達が運んでくれるので俺も食堂に行く。トロトロ卵が煮えてしまうから早く行かないと。


「ほう、ゲイル殿の手料理か。しかし変わった器だな」


「蓋を開けて食べてね」


「ディノスレイヤ家では自ら料理をするのかしら?」


今日は奥さんも一緒だ。なんかこうチャイナドレスとか似合う感じの色っぽい奥さんだ。鮮やかな赤い服がよく似合っている。名前はリンダというらしい。


「いや、うちも料理人に作ってもらうよ。自分が食べたい料理を教えてあるからね」


「おっ、蓋を開けたらたまらん匂いだな。卵は生だが・・・」


「それくらいの方が美味しいんだよ。さ、食べよう」


お、烏骨鶏の卵は味が濃いなぁ。甘辛出汁に負けてない風味といい、めちゃくちゃ旨いじゃん。


「あら、美味しいわぁ。この米もいつものと違うわね。もち米かしら?」


「いや、持ってきた米なんだよ。うるち米っていう種類で、ここの米と種類が違う米だね」


「ゲイル殿、これは旨い。豚肉をどうやって調理してあるんだ?」


カツの作り方を説明していく。作り方は調理人に教えてあるからいつでも作れるだろう。


「ダメっ、食べる手がどうにも止まらないわぁ」


スプーンを持って身悶える色っぽい奥さん・・・ 狙い撃ちされそうだ。


「イナミンさんには子供いないの?」


「あぁ、子供はおらん」


「後は誰が継ぐの?」


「ゲイル殿が継ぐか?」


「いや、そんなの無理だよ」


「あーはっはっはっ。それは残念だな。まぁ、甥っ子がいるからそいつが継ぐだろう」


イナミンは第二婦人とか考えてないみたいだ。こんな奥さんがいるならそんな気がおこらないのかもしれない。仲良さそうだしな。


男連中はおかわりが欲しいとのことで、カツの味噌タレと泡盛もどきを出した。


「この酒も旨いっ!」


「これはここのお酒を蒸留したものなんだ。名産になると思うよ」


その他にラム酒とかの説明をしていき、ぶちょー商会がここで酒の生産をしたい話や、ナッツ類の増産と流通なんかの話をしていく。


「ほう、あんな物が金になるのか?」


「まだ全部この領を見て回ったわけじゃないけど、お宝がザクザクだよ。うちが仕入れてバンバン売って見せるよ」


いま王都でやりだしていることを説明していく。


「あら、ゲイル殿は商売上手なのね」


「ここにしかないものがたくさんあるからね。もう楽しみで仕方がないよ」


「何度か商人が王都にここの物を持っていってるはずなんだがな。あまり売れなかったみたいだぞ」


「商人もどうやって食べたら美味しいとか使い方とか説明出来てないんだと思うよ。俺は珍しい物が入荷したらとりあえず全部買ってと言ってあるんだけど、皆何に使うか知らないから買わないんだよね。運び賃が上乗せされるから結構高いし」


「ふむ、商売人の力量が足らんのだな?」


「うちが懇意にしている商売人がいるからここに仕入れに来さそうか? 大型の馬がいるから一度に運べる量も多く出来るし。こっちに入荷したらうちで売るからロスでないよ」


「ならうちはそいつに売るだけでいいのだな?」


「こっちで売れそうな物を運ばせるからそこの商会の店も作っていいかな?」


「何を売るんだ?」


「醤油とかだね。おやっさんの所でいま大量生産して貰ってるからそれをここで売りたいなと」


「醤油?」


「ここで作ってる魚から作った魚醤ってのがあるでしょ。おやっさんの所ではそれを大豆で作ってるんだよ。このカツ丼の味付けも醤油を使ってるよ」


「ほう、大豆からも作れるのか・・・」


「とある所が生産に成功してね、それを今作り出してるところ。お菓子にも使えるしね」


「菓子にしょっぱいものを?」


「昨日出してくれたダンゴがあるでしょ。あれとかに使えるよ。今日のデザートは違うものだけど」


「あら、新しいデザートがあるの?」


「かき氷って、氷を削ったものだけどね。ちょっと作ってくるよ」



ダンを連れて厨房に戻る。ダンにかき氷を作ってもらい、俺は作っておいた練乳とマンゴーソース、切ったマンゴーを乗せていく。



「お待ちどうさま。かき氷だよ。上にかけるソースは何でもいいんだけど、今回は練乳とマンゴーソースにしてみたよ」


「うわっ、本当にこれが氷?」


「ゲイル、これ雪みたいだね。冷たくて甘くて美味しい」


暑さにやられていたシルフィードもニコニコだ。


揚げ物の後にかき氷とかお腹痛くなるかな?


「氷を薄く薄く削るとこんな食感になるんだよ。あわてて食べると頭が・・・」


ジョンとアルはすでに頭を押さえていた。俺は昔から頭が痛くなった事はない。胸は痛くはなるのだけど。


皆にぬるま湯を出してあげる。


シルフィードやミグル、ドワンは何ともないらしい。人間種だけなる現象なのだろうか?


「マンゴーってこんな食べ方があるのね」


「パイナップルとかも色々とお菓子に加工出来るよ。ケーキとかクレープとか」


「ケーキ? クレープ?」


残念ながら薄力粉のストックがもう無い。強力粉はあるんだけど。


「持ってきた材料がもう無いから作れないんだけど、今度醤油と共に持ってこさせるよ」


小豆とかも持ってきたらいいな。ダンゴを食う地域だからアンコも受け入れられるだろう。


「ここと王都の道がもっと良くなれば流通も楽になるんだけどね」


「おぉそうだ。ゲイル殿が討伐してくれた盗賊どもだがな、賞金が掛かってた奴が一網打尽だ。頭の奴も大人しく今までの悪事を洗いざらい吐いてな。水でずっと上を向いているのはいつ解除される?」


あ、忘れてた。


「俺が解除しないとずっとあのままだよ。解除しにいこうか?」


「いや、あのままでいい。他のやつらは鉱山で働かせるが、頭のやつは見せしめで峠の入り口にさらしておく」


俺がやったやり方と同じだな。


「やつは死罪だ。被害にあったやつらもあの姿を見て溜飲が下がるだろう」


一応飯と水は食わせるみたいだが治療もせずに死ぬまでああしておくとのこと。


「で、明日からはどうするんだ?」


「海に行ってくるよ」


「坊主、蒸留器の説明があるじゃろ?」


「任せておいていい?」


「なんじゃとっ?」


「俺は海の下見に行ってくるよ。蒸留器の制作に一週間は必要でしょ? ジョン達はギルドに行ってなんか依頼受けて来たら?」


「そうだな。ミグル、俺達は冒険者活動をしてみよう」


「坊主、自分等だけで楽しんで来るなよ」


キッと俺をにらみ付けながら怖い顔をするドワン。蒸留器作成に俺は必要ないからね。


「やだなぁ、下見だよ下見。おやっさんも早く終わらせてね。一週間したら戻って来るよ」


嘘だ。海で釣り三昧するのだ。皆がいると世話ばっかりさせられて自分が楽しめないからね。


ということで一週間の自由行動の時間を得たのでウキウキだ。


まだ酒飲む連中は泡盛もどきで一杯やるみたいなので俺は部屋に戻ってリールやらメタルジグなんかの釣具の作成に取りかかった。もう楽しみで仕方がない。


興奮して眠れそうにないので、延々と釣具を作り続けたのであった。




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