第461話 やっぱりパラダイス

「あ、どうされましたか?」


「いや、作って欲しい物があってね。こんな感じのものなんだけど」


絵に描いてカージンに説明する。


「これは何に使う道具ですか?」


「かき氷ってのを作るんだよ。みんなこの暑さに慣れてないみたいだから冷たいものでも食べようかと」


「おい、ダンバル、こんなものを作れるか?」


「なんじゃい・・・・ あ、 」


「やぁ、おやっさんならすぐにつくれるんだけど、道具が無いからここで作れるかなって。無理なら素材だけ買っていくよ」


「カージン、見せろっ」


絵に描いたかき氷の機械をみるダンバル。


「こいつは鉄でいいのか?」


「うん、ただ刃は切れ味よくしてくれないとダメなんだけどね」


「なめんなっ!待ってろ今作ってやる」


ダンバルはカージンから奪い取ったかき氷の機械の絵を持って中に消えていった。


「すいませんね。ダンバルはお客さん達が帰った後、落ち込んでましてね。せっかく会った同胞に酷いことを言ってしまったとぶつぶつ言ってたんですよ」


「まぁ、うちの親父も同じ事を思っておったからの。アイツがそう思っておっても仕方がないことじゃ。ワシもカーッとなってしまったがの」


「本当に申し訳ございません。ダンバルが機械を作っている間に蒸留器の詳しい説明を聞かせて頂けませんか。領主様がうちを紹介して下さったのなら、ダンバルしか作れない物かもしれませんので」


ということで、俺が絵を描き、ドワンが仕組みを説明していく。


「これで酒精の強い酒が出来るのですか?」


「試しに飲んでみる?」


コップに氷と泡盛もどきをいれてやる。


「た、確かに・・・ これはいつも飲んでる酒より強い。しかもスッキリとした味わいになりますね」


「脂の多い豚肉にも合うと思うんだよね。元はここの酒だから魚にも合うと思うし。酒精も高いから保存もきく。甕とかに入れて地下室とかに置いておくと何年も持つよ」


「本当ですかっ?」


「というか何年か置いておいた方が旨くなると思うよ」


「それはいいですね。是非これをうちでやらせて下さい」


「もう酒蔵には話は付けてある。後はこいつの取り扱いをどうするか領主と決めてくれ」


「わかりました。ちなみにお客さん達はどこからお越しに?」


あ、全く自己紹介してなかったわ。


「俺はゲイル・ディノスレイヤ。ディノスレイヤ領の領主の息子で、今は王都の庶民街の権限と新領を任されてるよ」


「えっ?ということは・・・」


「そう、貴族だよ」


「た、大変失礼を致しました。きやすくお客さんなどとお呼びして申し訳・・・・」


「あ、いいよいいよ、そんなの気にしないから。普通にしてて」


「そうですか。ありがとうございます」


イナミンが貴族らしくないので、店の人もすぐに受け入れた。これは楽でいい。


「ディノスレイヤ領でも似たような酒を作っててね、気候が違うと食べ物も酒も違うから面白いね」


「ちなみにどんな酒を?」


「ブドウ、芋、米、麦、リンゴとかから色々作ってるよ。ここだとサトウキビから作れると思うんだけど、それはやってないの?」


「いや、サトウキビからだと甘くて飲めないんじゃないですか?」


「ハチミツからも作れるけど、そこまで甘くならないよ。甘くすることもできるけど、サトウキビはそこまで甘くならないからね」


「坊主、ハチミツからも酒が作れるのか?」


「作れるけど、原材料が高いからわざわざ作らなくてもいいかなと思って言わなかったんだよ」


「いや、帰ったらジョージに作らせてみるわい。アイツはどれだけ酒の種類が作れるか楽しんでおるからの」


「ディノスレイヤ領ではサトウキビが育てられなかったから、ラム酒はここでしか無理だね」


「ラム酒?」


「サトウキビから作った酒はラム酒って呼ばれるんだよ。お菓子とかにも使えるし、おやっさん達が飲むならウィスキーみたいに樽を焦がしてから寝かしておけばいいし」


「よし、カージン。蒸留器を量産する準備をしとけ。ここでも酒作りをする」


「え?おやっさん、ここで作るの?」


「誰かここへ派遣する。初めはジョージが来て手解きしてやれば良いじゃろ」


「土地とかどうすんの?あと地下室とかも必要だよ」


「ミゲルにやらせればいいじゃろ」


ひでぇ・・・


「お客さん、この酒にこいつも合うんじゃないですかね?」


俺とドワンがラム酒の話をしているとカージンがおつまみを持ってきた。


わっ!ミックスナッツじゃん!


カシューナッツ、アーモンド、胡桃・・・


「こんなものもあるの?」


「ぼっちゃん、こりゃ豆か?」


「これは木の実の種だよ。こんなのがあるなんて驚きだよ」


カシューナッツを貰って食べる。素焼きの塩味だ。


「カージンさん、これ庶民が食べられるくらい流通してるの?」


「大豆とかに比べたら割高ですけど、普通に買える値段ですよ」


これは仕入れて帰らねば。そのまま食べるのはカシューナッツが一番好きだ。加工するならアーモンド、すりつぶして使うなら胡桃だな。もっと味噌持ってくりゃ良かった。田楽とか出来・・・ あ、ニガリ作らなきゃ。海水があるから作り放題じゃん。


里芋かなんかないかな? そうすりゃ芋や豆腐の田楽が作れる。山椒とか欲しいな。帰りに山に生えてないか探してみよう。


俺がトリップしている間に皆もナッツを食べている。


シルフィードとミグルはアーモンド、ジョンとアルはカシューナッツ、ダンとドワンは胡桃が一番気に入ったみたいだった。


「ゲイル、これ植えられるかな?」


「アーモンドと胡桃はなんとかなるかもしれないけど、カシューナッツは難しいかな。一応種を貰いに行こうか。王都とここがもっと流通しやすければ仕入れたらいいんだけど」


自分で作るより、ここで大量生産して貰って流通する方がいいんだけどな。後でイナミンに相談してみよう。


かき氷の機械まだかなぁと思ってるとダンバルが試作機を持って来てくれた。


「まだ、完成しとらんがこんな感じのものでいいか?」


仕組みは出来てる。シンプルな機械だけど、問題は刃の部分だ。


ドワンが刃をチェックする。


「うむ、いい刃じゃ。お前はなかなか腕があるようじゃの」


「武器ならもっといいものを作るわい」


「ダンバルさんは魔剣作れる?」


「魔剣?」


「こんなのだよ」


一度見せた魔剣をもう一度抜き、炎を纏わせた。


「こ、これは・・・」


「これはおやっさんが作った魔剣。炎以外も纏わせられるんだ。斬れ味も抜群だよ」


「み、見せてくれ」


魔剣を手に取りまじまじと見つめるダンバル。


「わ、ワシにはここまでの物は作れん・・・」


「おやっさんはディノ討伐の英雄パーティーメンバーだし、武器屋としても超一流なんだよ」


「なんじゃとっ! お前らは一体・・・」


「坊主はディノを倒したアーノルド・ディノスレイヤの息子じゃ。それとワシの親父が義理の親族にしおった。種族は人間じゃがドワーフの一員でもあるの。お前も一度国に帰ってみろ。坊主がなんやかんややったから色々と様変わりしとるぞ」


「小僧が・・・」


「今から作って貰う蒸留器で作った酒をお土産に持っていったら?  他のは向こうでも作りだしてるけど、まだこれは無いから」


泡盛もどきをダンバルに渡す。


「う、なんだこの酒は・・・」


「ここの酒を蒸留したものじゃ。お前がこの酒を作る為の施設を作るんじゃよ。理解したらカージンの話を聞いておけ。ワシらはもう帰るからな」


ダンバルは剣作りでも酒の事でも打ちのめされ、愕然としていた。


「試作機といってたけど、今はこれで十分だから貰っていくね。カージンさんいくら払えばいい?」


「か、金はいらん・・・」


「え?作って貰ったやつだからお金は払うよ」


「いや、その代わり明日も来てくれ。蒸留器の打ち合わせをしたいんじゃ・・・」


「おやっさん、どうする?」


「わかった。明日また来てやる。この素材を用意しておいてくれ」


ドワンはなんかの金属を指定していた。


「という事でいいかなカージンさん」


「わ、わかりました。また明日もお待ちしています」


ドワンもダンバルが打った刃を見て腕前を認めたのか一緒に仕事をする気になったようだった。




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