第460話 南の領地でお買い物
いつまでもドワーフの二人が喧嘩しっぱなしなので水をぶっかけた。
「ぶわっ なっ、何しやがんだ小僧っ!」
「おやっさんも店の人もいい加減にしなよ。店がめちゃくちゃになるだろっ。やるなら外に出てやれよ」
「ちっ、こんな逃げた奴の癖になかなかやりやがる」
「お前なんぞハンマー使えばいちころじゃ」
「なんだとっ!」
「次騒いだら水責めにするよっ」
「坊主っ!ワシを水責めにするつもりかっ」
「いつまでもやってるからだよ」
「はっ、この腰抜けやろうが水が怖いとか情けねぇ」
「だそうだ。坊主、水の恐ろしさを教えてやれ」
「ワシは泳げるからの、水なんてなんでもないわっ!」
「じゃ、遠慮なく」
「ゴボゴボゴボっ な、なんじゃこれゴボゴボゴボ や、やめっゴボゴボゴボ」
「早くごめんなさいしないと解除してあげないよ。喧嘩両成敗だけど、今回はあんたが悪い」
俺もドワンが始めに笑われた事に少し頭にきていたのだ。
「や、やめっ ゴボゴボゴボ わ、ワシが ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ 悪かった! ワシが悪かったっ!もう勘弁してくれっ」
「お客さん、それは魔法で? 凄いですね」
「元々は盗賊とかを懲らしめる為にやるんだけどね、もうこの人キリが無いから」
「いやぁ、こいつはダンバルっていう職人なんですがね、腕はいいんだが口は悪いし、手は早いで困ってるんですよ。お客さんみたいな人がここで働いてくれたら上手くいくんですがねぇ」
「ドワーフはみんなこんな感じだよ」
「カージン、てめぇ感心してねぇで何とかしやがれっ!」
店主はカージン、職人はダンバルっていうのか
「お客さん、もう一度やってもらえますか?大人しくなるまで」
「いいよ」
「ゴボゴボゴボ ゴボゴボゴボ や、やめっ ゴボゴボゴボ やめ ・・・」
死にそうな顔になって大人しくなったので解除してやる。
「ありがとうございます。で、ご用件は素材と蒸留器?というものを作るのですか?」
「うん。おやっさん、なんの金属が必要か説明お願い」
ゴッホ ゴッホと咳き込むダンバルを放置して話を進めていく。
「こっちはインゴットがあるんですが、こっちは今鉱石しかないんですよ。ちょっと抽出に手間がかかる奴でしてね」
「坊主、こいつを抽出しろ。で、こいつとこの割合で融合してやればいい」
ということで、鉱石から金属をボタボタっと抽出する。
「こ、小僧っ!今何をしたんじゃっ!」
「え? 抽出。今から融合するから」
ドワンが抽出した金属ともうひとつの金属の重さを量り、俺に手渡すので融合する。
「よし、これでお前が作りたい大きさに形取ればいいじゃろ」
リールも作らないといけないのでまぁまぁの量を作っておいた。
「いやぁ、お客さん本当に凄いですねぇ。お代の代わりに今の抽出ってのをお願い出来ませんか?」
「いいよ」
ということで、今の鉱石を全部持って来たので抽出してインゴットにしてやる。
「お客さん、本当にここで働きませんか? こんな凄い魔法始めてみましたよ」
「店主、坊主を雇ったら破産するぞ。この錬金魔法は錬金釜と同じじゃからな。月に金貨数百枚以上は払わにゃならんぞ」
「は?」
「れ、錬金魔法じゃ・・・と?」
「坊主はワシの錬金釜をコピーしよったんじゃ」
コピーって、また人聞きの悪い・・・
「何っ? お前錬金釜を持っとるのか?」
「ダンバルさん、おやっさんはドワーフの国を逃げ出したんじゃなくて、自分の錬金釜を手に入れる為に国を出たんだよ。それで冒険者をやって稼いで手に入れたんだ。こんな凄い武器も作るし、他のものもなんでも作れる。初めに言った事を謝って」
「坊主、もういいわい。欲しい物を手に入れたんじゃろ。蒸留器の事は領主に設計図を渡すから勝手にやらせろ」
「おやっさんがそう言うならそうしようか」
「蒸留器とはなんじゃ?」
「酒を作る施設なんだけどね、ダンバルさんとおやっさんは馬が合わないみたいだから、イナミンさんに設計図だけ渡すよ」
「お、客さん、お待ち下さい」
「カージンさん、ちゃんとした蒸留器を作るには職人同士で話さないとダメだからね。この二人だと無理でしょ?」
「そ、それは・・・」
ドワーフはお互いを認めないと話が進まない。損得より腕とプライドが優先されるからな。
「ということで、イナミンさんからここに発注くるかどうかわからないけど、来たら宜しくね。じゃ」
「こ、小僧・・・ ドワン・・・」
「なんじゃ?」
「す、すまんかった・・・」
「何がじゃ?」
「わ、ワシがお前に言った事じゃ。噂だけを信じて馬鹿にした事を謝る」
「そうか。ならいいわい」
謝ってくれたので一応和解。しかし、ドワンはもうダンバルと仕事をする気は無さそうだ。頭を下げる店主に見送られ、少し後味の悪いまま鍛冶屋を出た。
「どっかで飯でも食おうか」
という事で飯屋に入った。
皆は肉料理を頼んだが、俺は煮付け定食だ。
魚醤と砂糖で煮た魚、長粒種のご飯、塩味のスープ。いやぁ、おしい。旨いんだけど俺の食べたい物から少しずれてるのだ。
魚は干してから戻してあるのだろうな。不味くはないけどなんか違うのだ。
「ぼっちゃん、ここの豚肉旨いな」
そう、ここの豚肉は旨い。脂が甘いのだ。品種が違うのだろうか?後で肉屋にも行こう。
「坊主、この豚肉を味噌漬けにしたら旨そうじゃの」
「うん、カツにして味噌ベースのソースが合うと思うよ。塩胡椒だけでもいいけど」
「ゲイルよ、今日もあの領主の所に泊まるのか?」
「そうだね、あと1泊だけさせてもらって海に行こうよ。釣りしたいし」
みな賛成とのことだったので、昼からも観光がてら買い物をしていった。
驚いたのはビッグスパイダーの糸だ。漁にも使うらしく、1000m単位の物が売っていた。それが銀貨10枚。ディノスレイヤよりかなり安い。10本購入した。
虫が多い南の領では手に入りやすいのと、需要が多いので職人が多いらしい。
肉屋の仕入れも興味深い。豚はやはり種類が違って黒豚だ。生きた豚を仕入れようかと思ったが寒さには弱いらしい。残念だ。王都の豚と掛け合わせたらいけるかな? 次は鶏だ。少し小さめの真っ黒な鶏の肉・・・
「おっちゃん、この黒い鶏は美味しいの?」
「あっさりした肉が好きならおすすめだぞ」
「卵は売ってる?」
「あるが割高だぞ。普通のやつと較べてあまり卵を産まないんだ」
鑑定では黒鶏と出たけど、おそらく烏骨鶏だろう。卵は旨いはずだけど肉はどうなんだろうか? 唐揚げで食った事あるけどあまり違いが分からなかった気がする。
とりあえず肉と卵を仕入れる。卵はあるだけ貰った。普通のより3倍くらい高かったけど。
「ゲイル、その黒い鶏は旨いのか?」
アルが聞いてくる。
「どうだろうね? 卵は旨いと思うんだけど、肉はよく知らないんだよ。」
「しかし、ディノスレイヤ領と売ってる物が違うんだな」
ジョンも黒い肉をまじまじと見ている。
「気候が違うと面白いよね。野菜も見に行こうか」
次に八百屋だ。
野菜は普通だったけど、果物が面白い。パイナップル、バナナ、マンゴーまである。あと星形をしたリンゴとか、砂糖キビがそのままとか。ここでは果物をたくさん買っていく。米も置いてあったので店の人に聞くともち米もある。それを買って生産している場所も聞いておいた。南の領地はもうパラダイスだ。
少し怪しげな店にも入ってみるとそこは薬草の店だった。ミグルが説明してくれる。回復草とか魔法草とか色々あり、ポーションの原料になるみたいだ。自分で作れるから全く気にしなかったが、冒険者の採取仕事はこういう物を採ってくるらしい。
それとここにカカオ豆が置いてあった。薬の材料として扱われている。
バナナもあるからここで発酵させてやればチョコ作れるな。一度は断念したチョコレート作りを再開しなければ。
覗くだけではなんなので、回復草を買っておいた。シルバー達のお土産にしよう。
欲しい物が次々と手に入り、超ご機嫌な俺。
「ゲイル、すごくご機嫌ね。私はこの暑さがダメ・・・」
寒さに強いシルフィードも暑さには弱いようで、心なしかぐったりしている。平気そうなのは俺とドワン、他の皆も嫌みたいだ。
帰ったらかき氷でも作ってやろうかな?
氷を削る機械が必要なので、帰りがてらさっきの鍛冶屋に寄る事に。なんか気まずいけど仕方がない・・・
「カージンさん、また来たよ」
ゲイルは何事も無かったように店に入ったのであった。
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