第459話 南の領地

翌朝はメザシかなんかの干した焼き魚と海藻の塩味スープにゆで卵だ。おしい、だし巻き玉子ならバッチリだったのに。


海苔とかないかな・・・


朝食のデザートはなんとバナナとパイナップルだ。なんて素晴らしい。


バナナはともかくパイナップルは最高に嬉しい。これ持って帰って育てられないかな。頭の葉っぱを植えといたらいいんだっけ?温室で育てないとダメだろうけど。


シルフィードとミグルも嬉しそうだ。しかし、ミグルがバナナ食ってると子猿みたいだな・・・


「ゲイル、この果物美味しいね」


「王都やディノスレイヤ領では育てるの難しいだろうね。温暖な気候で育つ果物だからね。サトウキビと同じだよ」


「おや?ゲイル殿はサトウキビの事を知ってるのか?」


「実はねおやっさんのやってるぶちょー商会は砂糖の生産と販売の許可貰ってるんだよ。試しに育ててみろと言われてサトウキビの株貰ったんだけど無理だったよ」


「おー、殿下の手紙にあった商会がドワン殿の商会だったか。サトウキビじゃない砂糖を作り出すから他の生産物の準備をしろと書いてあったな」


「ディノスレイヤ領と王都の食堂とかにしか販売しないつもりなんだけどね。ここで作られる砂糖は黒砂糖はともかく、精製した白砂糖はとてもじゃないけど庶民の口には入らないからね」


「まぁ、ほぼここで消費するからな。外に出す分はあえて高くしてあるんだ。あまり買われても困るからな。殿下が許可出してるなら別に一般流通させても構わんぞ。別に売れなくなってもこっちは困りはせん」


「そうなの?」


「この領は大昔は別の国でな、ウェストランド王国と同盟を結び、そのうち同じ国になったんだ。だから別にこの領だけで作って消費してるだけで困らんのだ」


へぇ、そうだったんだ。他国みたいと思ったのはそういう理由だったんだ。砂糖の特別区みたいなのもそういう理由からなのか。


爵位は伯爵らしいけど、実質は辺境伯と同クラスくらいらしい。他国に面してないから防衛機能が不要ということで辺境伯とは付いてないだけみたいだ。税も中央に1割と他の領より安い。


「で、ゲイル殿は海で何をしたいのだ?まさか泳ぎに来た訳でもあるまい」


「魚を食べたいのと、これを作った人に会いたくてね」


「なんだこれは?」


「鰹節っていって、鰹を加工した物なんだよ。これを定期的に売ってくれないかなと思ってさ」


「鰹?あんな魚旨くはないだろう?」


「どうやって食べるの?」


「焼いても旨くはないし、煮てもいまいちだ。ここには無いが鯛とかアジの方が旨いだろ?」


おお、鯛やアジもいるのか。最高だ。


「いや、食べ方が間違ってるんだよ。それか釣った後の処理が悪いかだね。鰹はめちゃくちゃ旨いよ」


「本当か?」


「鰹捕れる場所教えてくれる?」


「あぁ、それならずっと南に下った東側だ。漁村があるからそこで聞いてみると良い」


他に酒蔵や鍛冶屋を紹介してもらい街に見学に出掛けた。


「しかし、ここは暑いな。蒸し蒸ししやがる」


「山越えただけで全然違うよね」


いくら遠いといっても馬車で移動する距離なんてしれてる。ここまで気候が変わるのはこの世界の不思議なのか暖流のせいなのかはわからんな。


さっそく釣具を作るために鍛冶屋に行こうとしたらドワンに酒が先じゃと言われてしまった。



「ここじゃな。米の酒を作っとるのは」


結構大きな酒蔵だな。いくつかある酒蔵のうちでイナミンが気に入っているのがここらしい。酒屋と酒蔵が一緒になってるんだな。


「いらっしゃい」


「リークウ領主から紹介されて来たものなんですけど。ここの責任者の人っているかな?」


「領主様の紹介? あんたらは・・・?」


「王都近くで領主をしているものだよ。遊びに来たらここを紹介されたんだよ」


「えっ?それは失礼を致しました。さっそく呼んで参ります」


ここは貴族にそんなにへりくだるような所ではいみたいだな。イナミンも貴族貴族してなかったし。


「ようこそおいで下さいました。どのようなご用件でございましょうか?」


「お酒を売ってもらいたいんだけど、それをここで蒸留してもらえないかなと思って。蒸留って言うのは酒精を強くすることなんだけど」


「はぁ・・・」


まぁ、意味がわからんよね。


2樽酒を購入して蒸留をして森の小屋で作った土の蒸留器をここでも作る。


なんだこいつは・・・という目にはもうなれた。


さて蒸留開始っと。



人が作業している間にドワンは酒屋の主人と酒談義を交わしながら飲んでやがる。


「坊主、スルメにつ付けるタレをくれ」


魔道バッグからマヨを出して一味と醤油を掛けて渡す。


酒屋の主人が従業員達を呼び寄せ、おーーっとかいいながら食って盛り上がってる。南の人達は気さくだね。



しばらくするとポタポタと蒸留器から出だしたのでダンに飲ませてみる。


「お、なかなか旨いな」


「何年か寝かせた方がいいとは思うけど、すぐにも飲めそうだね」


ドワンや酒屋の人達にも試飲してもらう。


「こんなに酒精が強く・・・」


「もっと強くすることも出来るんだけど、風味を残しつつ飲むにはこれくらいがいいかなと思うんだ。作ったお酒は半分以下になっちゃうけどね」


「この技術を我々に教えて下さるのですか?」


「おやっさん、その辺の話は任せた」


「わかった。坊主はそのまま酒を作れ。ワシは話をしておく」



別に無料でもいいんだけど、一応ぶちょー商会の製造レシピになるから任せておこう。



1樽分の酒が出来た所でドワンの話も終わったみたいだ。


「どうなったの?」


「売上の1割をもらうことになったぞ。その代わり、蒸留器の設計と指導をせにゃならん。次に行く鍛冶屋がやれるかもしれんと言っておったから行くぞ」



昼飯を適当な飯屋で食べてみる。


長粒種の米の上に豚バラを乗せたどんぶりみたいなやつだ。塩ベースだけど、これ醤油と砂糖で味付けした豚バラならもっと旨いだろうな。


「なかなか旨かったのじゃ」


そう言う腹ぽこたんのミグル。


「そうだね。ゲイルが作るご飯とどことなく似ているのはお米を使ってるからかな?」


「そうかもしれないね。あの豚肉は醤油と砂糖で味付けするともっと合うと思うよ。この領に醤油が流通しだしたら、俺が作るのと似たようなのがたくさん出来てくるんじゃないかな」


「しかし、ここの米はなんというか、いまいちじゃの」


「今度ここの米で違うの作ってみるよ。炊いた白飯ならうちの方がいいのは同感だけど、違う食べ方ならおやっさんも気に入るから」


こんな話をしている間に鍛冶屋に着いた。武器とか色々作ってるみたいだな。


「いらっしゃい!」


ここでも酒屋と似たような話をする。


すると奥から職人が出てきた。ドワーフだ。


「ここにドワーフが来るのは久しぶりじゃな。お前も国から出て来たのか?」


「ワシはディノスレイヤ領に住んでおる。国に顔を出した帰りにここへ来たんじゃ」


「名前は?」


「ドワンじゃ」


「ドワン・・・?  ドワン・・・ お前、もしかして長の息子のドワンじゃねーだろうな?」


「バンデスはワシの親父じゃ」


「あー、何も作れず逃げ出したバカ息子のドワンとはこんな面だったのか」


がーはっはっはっ


どうやらこの職人はドワンの事を知っていたようだ。面識はないようだけど。


「誰が何も作れんバカ息子じゃっ!」


「お前が逃げ出したのは皆知ってるからな。こんな有名人とここで会うとは傑作じゃわい」


がーはっはっはっ


「てめぇっ!」


あーあー、また始まったよ。


暴れ出した二人をしばらく放置。


その間に店の人に釣具に使える金属を分けて貰えるか店の人に聞く。


「無加工のままですか?」


「作れるなら作ってもらってもいいんだけど、どの金属を使ってるかよく知らないんだよね。あと蒸留器っていう酒を作る施設の大掛かりな仕事もあるんだけどあの二人が落ち着くまで話は無理だね」


「そうですね。待ちましょうか」


この人もドワーフに慣れているようで、暴れる二人を静かにみていたのだった。



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