第458話 南の領主

しばらく待たされた後に盗賊と保護した女性を引き渡した。


衛兵総長と言う人が丁寧に挨拶をしてくれた後に領主の所に来て欲しいといったので行くことに。面倒臭いけど仕方がない。


「こちらでございます。馬と馬車をお預かり致します」


使用人達がわらわら出て来て、執事に案内されて大きな屋敷の応接室に案内された。エイブリック邸ぐらいはあるだろう。


朱赤を基調とした建物で、王都とかの建物と雰囲気がずいぶん違う。他国に来たみたいな感じがする。


ドアを開けてこちらに来たのは領主だろう。浅黒くてなかなかワイルドな感じの人だ。


「初めましてゲイル・ディノスレイヤ殿。私はここの領主をしている。イナミン・リークウと言うものだ」


ダンに向かって手を差し出す領主。


「いや、ゲイルぼっちゃんはこちらだ」


「何っ?それは失礼をした」


苦笑いしながら俺に手を差し出す。俺はその手を握って挨拶をする。


「初めまして、ゲイル・ディノスレイヤです。遊びに来ただけでお邪魔するつもりはなかったんですけど」


「いや、あの盗賊を討伐して頂き助かりました。どこに隠れ家があるかわからず、悩みの種だったのですよ」


領からもギルドからも多額の懸賞金を掛けて探していたらしい。


「リークウ領主、こちらのメンバーを紹介しておきますね。えー、こちらはアルファランメル・ウェストランド。エイブリック王子の息子です」


「何ですとっ?」


サッと膝を付くリークウ。


「私はここに来たのは公務では無い。今は冒険者としてゲイルと同行している身だ。畏まらなくてよい」


「しかし・・・」


「リークウ領主、別に大丈夫ですよ。エイブリックさんからも許可貰ってるし、今回は俺が雇った護衛ということになってるので。こちらは俺の兄、ジョン・ディノスレイヤ、武器屋のドワン、シルフィード、ミグル。皆仲間です。ドワーフの国の帰りに海を見にきました」


「ゲイル・ディノスレイヤ殿、私は領主をしているゲイル・ディノスレイヤ殿としか伺っておりませんが、もしかして、西の辺境伯のご子息では・・・?」


「リークウよ、ゲイルはアーノルド・ディノスレイヤの息子であると共に王家の身分も持っておる。王都の西の街と他にも領地を持っているぞ」


「なんと・・・」


「あ、いやそんなに畏まらないで下さい。たまたまエイブリックさんに仕事を振られただけですから。その俺に畏まらなくていいので、自分も普通にしゃべっていいかな?」


もう敬語を使うのが面倒臭いのだ。


「では、私の事をイナミンとお呼び下さい」


「俺にも敬語いらないよ。それとゲイルでいいよ」


「宜しいのですか?」


「勿論」


「では遠慮なくそうさせてもらおう。実は堅苦しいのが苦手でしてな」


そう言ってあっはっはっはと笑う。


見た感じからしてそうだよね。


「いや、しかし参ったな。王家の方々に討伐報酬をというのも何か違う気が・・・」


「あ、それはいらないから。保護した女性にあげて。元々どこの人達かも聞いてないし、何も持って無いから帰ることも出来ないだろうからね」


「わかりました。そうさせてもらいましょう。では、食事でもしながらお話を聞かせて頂けますかな?」


討伐の話をもっと詳しく聞きたいらしい。



出て来た飯に驚いた。パンじゃなくてご飯だ。ただ長粒種なのでちょっと違う。

ミゲルが米を食ってる所があったと言ってたのはここだったのかもしれないな。


「イナミン殿、ここでは米を食うのか?」


ドワンが尋ねる。


「おぉ、米をご存知でしたか。この辺りはパンより米が主流でしてな、もしお嫌いであればパンもありますぞ」


「いや、米は坊主が作る飯に出てくるから好きじゃが、ちと違うの」


「おやっさん、米にも色々種類があってね、これは粒が長い種類なんだよ。俺が作るのより粘り気が少ないね。炒めて食べたりするのはこっちの方が向いてるかな」


「なるほどのぅ」


「米を炒めるとは?」


「こうして普通に食べる以外に卵と肉とかと一緒に油で炒める料理があるんだよ」


「ほぅ・・・」


「ぼっちゃんは様々な料理を作れるんだ。今回海を見に来たのもあるが、珍しい食材を探しに来たってのもある」


「なるほど、料理までされるのですな。うちの料理はいかがですかな」


魚と野菜の香草みたいなものが入ったスープ。味付けは魚醤かな? 焼き物は豚を大きな葉で包んで蒸し焼きにしたもの。あとこれはゴマ団子だろうか?アンコは入ってないけど甘い。ここにはもち米もあるのかもしれない。


「王都では食べたことがない料理です。美味しいですよ」


「気に入って頂いたようで何よりですな。まだ酒を飲む年齢ではないのが残念ですな。他の方はこの地方で作られてる酒を飲まれますかな?」


出されていた酒はエールと赤ワインだ。エールはぬるく、赤ワインと魚醤は合わないだろう。あのドワンが酒に手を伸ばすのをやめていた。


出で来たのはどぶろくだろうか?白く濁った酒だ。


「これは米の酒か?」


「そうです。今食べてる米から作った酒ですな。魚料理にはこいつの方が向いてますぞ」


「いや、うちでも米の酒を作り出してるんじゃが、米が違うとずいぶんと風味が変わるもんじゃの」


なるほど、長粒種で作った酒か。これ蒸留したら泡盛みたいになるかもしれん。


「おやっさん、多分その酒を蒸留したらおやっさん好みになると思うよ」


「どれくらい蒸留するんじゃ?」


「半分くらい。2樽で1樽作るイメージかな」


「ゲイル殿、蒸留とはなんのことですかな?」


「酒精を強くするんだよ。今の倍くらい強くしたら風味も残るし、酒精も強くなるよ」


「そんな事が可能なのですか?」


「蒸留酒がまだ残ってるから飲んでみる?おやっさん、いいよね?」


構わんぞということなので、蒸留酒の瓶を出してついであげる。


「喉が焼けるみたいな感じになるから、少し舐めて試してから飲んでね」


グッ こ、これは・・・ かーーーーっ!


「旨いっ!」


いい飲みっぷりだ。


イナミンの飲みっぷりと旨そうな顔を見てドワンがニヤッと笑う。


「坊主、炭酸割を作ってやれ、キンキンに冷やしたやつじゃぞ」


コップに強炭酸と氷を入れて蒸留酒を注ぐ、ドワンとダンも欲しいと言い出し、ミグルもだと?ついでにシルフィードは薄めの甘めをリクエストだ。


「素晴らしい魔法ですな。しかも無詠唱とは・・・ おぉー、これも旨いぞっ」


魔法より酒が気になるようだ。


「じゃろ?坊主に言えば何でも出来るぞっ」


すっかり上機嫌のドワンとイナミンは意気投合し、在庫の蒸留酒を飲み干してしまった。


飯後の話でイナミンはディノを討伐して貴族になったアーノルドに会ってみたかったらしい。ドワンとミグルがそのパーティーメンバーと知り大いに喜んだ。領主というより冒険者の方が似合うイナミン・リークウ。きっとアーノルドとも気が合うだろう。



イナミンがポンポンと手を叩くと、追加のどぶろくと酒の肴が出てきた。小魚を干して焼いた物とスルメ・・・


しかも幅が広い。これアオリイカじゃ無いのか?


「なんじゃこれは?」


「鰯の丸干しとイカの干した奴だ。酒の肴につまんでみてくれ」


すっかり普通の口調になってるイナミン。


「おぉ、なんか臭いが・・むぐむぐ・・こいつはなかなか」


ドワンがむぐむぐとスルメを噛んで味が出てくると酒を煽った。


「旨いのぅ。坊主の作る骨酒と似た旨さがあるぞ」


ダンもどれどれと食べ始める。


「本当だな。なんかぼっちゃんが作るような旨さだ。こりゃいける」


「イナミンさん、卵と酢と油貰える?」


「構わんが何に使うのだ?」


「ぼっちゃん、マヨ作るのか?」


「そのスルメに合うソースを作ってやるよ」


貰った材料でダンにマヨを作ってもらう。マヨは魔法で混ぜてもいいけど、ダンの担当だからな。


出来たマヨに唐辛子と醤油を垂らして


「これ付けて食べてみて。お好みでレモン絞ってもいいよ」


言われた通りにスルメをマヨ七味醤油で食べるイナミン。


「こいつは旨いっ!」


イナミン大喜び。


他の皆もどはまりした。



そのまま酒飲み達は宴会するみたいなので、先に寝かせてもらうことにした。


そうか、アオリイカがいるのか。これはエギを作らないとダメだな。夏場だからダメかもしれないけど居たらウハウハだろうな。


俺はベッドに入りながらもワクワクしてなかなか寝付けなかったのであった。



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