第456話 今回は本気のやつ その1

「は、早く行こう!」


御者台に座ってシルバー達に身体強化して飛ばしてやる。


ガコンガコンガコン


いくらサスペンション付きといっても山道で飛ばすと客車が跳ねて暴れる。


「あわあわあわわわ」


ミグル達が客車の中でもみくちゃになってしまった。


「停めろ坊主、ワシのこと言えんじゃろが。ジョンとアルがダウンしとるぞ」


馬車を停めるとアルとジョンが真っ青な顔になって客車から飛び出してきた。


オロロロロロロロっ


「な、なんなのだこれは・・・ 魔力切れみたいだ・・・」


「それは乗り物酔いだ。海が見えてすっかりテンションが上がってしまったよ、ごめん」


二人がダウンしてしまったので仕方がなく休憩にする。馬車を飛ばした意味がまったく無くなってしまった。


「ダン、この間に狩りでもしておこうか?」


「そうだな。おやっさんとミグルで二人を見といてやってくれ」


という事でシルフィードを連れて3人で狩りに行く。


「この辺、結構枯れてる木が多いね」


この世界でも酸性雨とか降るのだろうか?


「こりゃ、オオキクイムシの仕業だな」


「オオキクイムシ?」


「ぼっちゃんが使ってる釣竿の材料になる奴だ。覚えてねーか?」


「あぁ、触角の長い虫か。それ狩ろう。海があるから釣竿の材料はたくさんあった方がいいからね。グローナさんたちに2セットあげちゃったしちょうどいいや」


「気を付けろよ。ぼっちゃんとシルフィードなら首ちょんぱされんぞ」


オオキクイムシは俺と大きさが変わらんらしい。恐ろしい・・・。何気に虫がデカいと恐怖を感じるよな。


枯れた木とまだ枯れてない木のあたりを探していく。


「いたぞ。あの上だ」


俺は根元にいるものばかりだと思ってたが上の方にいるらしい。下に降りてくるのは卵を産み付ける時みたいだ。


「弓で落とす?」


「あいつらには刺さらんからな。木に登って落としてから斬るか、下にいる奴を狙うんだが・・・」


「じゃあ水で窒息させるよ」


水魔法でオオキクイムシの体を包む。


「頭は出たままだぞ」


「こういうタイプの虫は腹に息するところがあるんだよ。しばらくしたら落ちて来るから」


と言っている間にドサッと落ちてきた。


きっしょ・・・


やはりデカい虫は気持ちが悪い。俺達に向けて牙をカチカチして威嚇するがそのまま息絶えた。


ダンが解体していく。触角、羽、牙、足が素材になるみたいだ。触角以外は売ってもいいし、ドワンが何かに使うかもしれないとのこと。


それからもオオキクイムシを見付けては同じ事を繰り返していった。その間にシルフィードがウサギとキジみたいな鳥を狩っていてくれた。


「たくさん捕れたよね」


「おう、こんなに多いのは珍しいな。南は虫が多いのかもしれんぞ」


合計20匹くらい捕った。こいつらは害虫だからたくさん捕っても問題ないだろう。


しかし、ここの気温は季節のせいかと思ってたけど、山を越えてからぐっと気温と湿度が上がったな。山を降りたらもっと蒸し暑いかもしれん。



「おやっさん、見て見て、大漁だよ」


「オオキクイムシがこんなにおったのか?」


「こっちは虫が多いのかもしれないね。これでしばらく釣竿に困る事ないよ」


「そうじゃな。あの南の街にも鍛冶屋があるじゃろうから材料を分けてもらえばここでも作れるぞ」


やった。


ジョンとアルはまだ顔が青いが飯食って先に進もう。


飛ばすのを諦めてゆっくり目に進んで行く。


「暗くなっちゃったね。ライトを点けて宿場町まで行く?」


「宿場町がどこにあるかわからんからな。山道じゃし、無理せず進まんでいいじゃろ」


途中休憩が長かったのと、ジョンとアルの為にゆっくり進んだので変な所で日が暮れてしまった。飛ばさない方が早かったな。急がば回れとはこの事か。まぁ、オオキクイムシの触角が手に入ったから良しとしよう。ここは宿場町と宿場町の間の休憩ポイントなのだろう。少し広くなっている。


明日には南の街に着くだろうから、手持ちの食材で晩飯を作る。


「街に着いたらまず酒の買い出しじゃな」


いや、食料だよ。


ようやく復活したジョンとアルはもりもり晩飯を食っている。ケロケロした上に昼飯食ってないからな。


小屋を作って灯りを消して寝ようとしたら盗賊の気配だ。


「結構な数じゃな。アル、ジョン。起きろ。ワシらの仕事の時間じゃ」


ジョンとアルは腹一杯になって先に寝てしまっていた所をミグルに起こされる。


「ダン、これ本気の盗賊だね。嫌な感じがするやつらが結構いるわ」


「そうだな。ぼっちゃん、俺達も加勢するぞ。ミグル、こいつら追い払うんじゃなしに討伐対象だ。ジョン、アル、ヤバいと思ったら迷わず斬れ」


斬れと言われた二人はごくっと唾を飲む。人を斬るのは勇気というか覚悟が必要だ。


「おやっさん、ミグル、シルバー達をお願いするね」


「おぅ、任しておけ」


今までと違ってぞろぞろと俺達の前に盗賊どもが現れた。


「いい馬車に乗ってやがんな。馬車と女を置いていけ。そうすれば男は見逃してやる。その護衛の数じゃ敵わないのはわかるだろ?」


20人はいるだろうか?規模の大きい盗賊というか盗賊団ってやつかな?ちゃんと統率されてるようだ。


「気にすんな。お前らなんぞ何人いても同じだ。貴族の馬車を襲った罪で討伐するから覚悟しろ」


ダンがニヤッと笑って剣を抜いた。


「やっぱり貴族の馬車か。ならお前らも見逃す訳にはいかんな。お前の俺達を舐めた態度は勇気か蛮勇か確かめてやるよ。やれっ!」


一斉に襲い掛かってくる盗賊団。


土魔法で撃ち抜いてもいいんだけど、ジョンとアルにやらせてみよう。俺とシルフィードはサポートに入り、ダンはジョンとアルを指導するように盗賊達と対峙していく。


うん、二人の対人戦は安心して見てられる。エイプの特訓も生きているようで盗賊の動きなんかスローモーションを見ているようだろう。


「な、なんだこいつらの強さは・・・。引けっ、お前ら全員引けっ」


リーダーらしき奴がそう合図すると一斉に逃げ出した。が、そうはさせない。


リーダーらしきやつと手下2人くらいを残して土魔法で足を串刺しにする。


「うぎゃぁぁぁぁっ」


串刺しにされた盗賊は叫び声を上げるが盗賊団のリーダーらしき奴は手下を見捨てて逃げた。


「ジョン、こいつら見てて、あの逃げた奴を追うから」


「なぜわざと見逃したのだ?」


「まだいるだろうから、アジトを根絶やしにしてくる」


「俺達も行くぞっ」


「アル達は気配を消せないからダメ。途中で気付かれたらアジトに逃げこまないだろ? だからコイツらの見張りをしてて。まぁ逃げられないと思うけど」


そういうと二人は悔しそうな顔をするけど事実だから仕方がない。帰ったらアーノルドに気配の特訓してもらうから安心しろ。


ダンとシルフィードも気配を消して逃げた盗賊を尾行していった。



「ハァ ハァ ハァ、なんだあいつらの強さは・・・」


「仲間がやられちまいましたぜ」


「仕方がねぇだろ。帰ってお頭に報告だ。全員で掛かればなんとかなるだろ。急げっ」


(慌てて逃げてるから尾行にまったく気付いてないね)

(しゃべんな。このまま追跡して始末するぞ)


気配を消して離れた場所から追跡してるからまず気付かれないと思うけどね・・・


逃げた盗賊は洞窟の中に入って行った。


あの中にアジトがあるのだろう。3人で身体強化をして洞窟の中に入る事にしたのだった。





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